召喚獣と敬愛の契りを

たとい

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グリフォン

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「契約に従い、我が声に応えよ。」




黄昏時の森の中。

フードを被った人影が一人、杖をかざして呪文を唱える。




「召喚、グリフォン!」




魔法によって現れた独特の模様の魔方陣から喚びだされたのは一匹の雄々しいグリフォンであった。




グリフォンはこの世界において伝説にも語られる生物であるが数はそれなりにおり、そのたくましさゆえに一般的によく契約される召喚獣の一匹である。

上半身が鷹の頭と前足と翼を持ち、下半身はライオンの姿をしている。




地に舞い降りるなり、己の存在を主張するかのごとくグリフォンは一声鳴いた。




「元気そうだね、グリフォン。悪いんだけど、ちょっと遠くまで乗せていって欲しいんだ。いいかな?」




グリフォンを喚んだ召喚士はフードを脱ぎ、敬意をはらうように優しく語りかけた。

フードを脱いだその人物は、まだ若い少女のようであった。







ああ、愛しいサテラ。もちろんだとも!

あなたのためなら、どんな命令にも従おう。







グリフォンは嬉しそうに彼女と戯れた。

ここまで人になつくグリフォンも珍しいのだが、召喚士サテラはそのことを知らない。

慣れた動作でグリフォンに乗り、空を駆けたのだった。










そして、日も沈んで夜へと変わろうとしていた頃。

深い森を一人の幼い少年が走っていた。

しかし、その少年を囲うように物騒な男たちが彼を追う。

そしてとうとう少年を追い詰めた。




「まだちっこい坊主が、こんな時間にこの森に入ってくるなんてな。悪いがここは俺達のテリトリーだ、持ってるもの全部もらおうか。」

「そ、そんな、、、。僕、特に渡せるものなんて。」

「安心しな。ガキに期待なんかしちゃぁいねぇよ。ちょっとした小遣い稼ぎさ。最悪、奴隷として売ってやってもいいしな。」

「っ!だ、誰かぁ!」




こんな深い森、それも地面の荒れている場所に通りかかる人などいるはずもない。

しかし少年は涙を浮かべながら救いを求めて必死の思いで叫んだ。

その少年を嘲笑いながら、男たちの手が伸びる。

その前に。




バサァッ!




一匹のグリフォンが立ちふさがった。




「なっなんだぁ!?」







貴様ら!この童子に何をするつもりだ!

悪事を働くと言うのなら容赦はせぬぞ!







男たちに怒声を浴びせるグリフォンに驚く少年。

だが、その上に人が乗っていることに気付き、慌てて助けを求めた。




「た、助けてください!」

「あ、やっぱり誰か襲われてたんだ。君、大丈夫?もう平気だからね。」




大空を飛んでいる途中、グリフォンが鋭い目で彼らのことを発見したのだった。

少年の危機を知り、主に鳴いて知らせたグリフォンが、許可を得て飛び込んだのである。

グリフォンは、あっという間に男たちを蹴散らしていく。

一人が苦し紛れに召喚士に直攻撃を仕掛けたが、返り討ちに合う。




「召喚士、なめないでよね。」




グリフォンによって男たちたちは逃げていった。

こんな森に隠れていたぐらいだ、しばらく大人しくしているだろう。

さっさと森を出なくてはと、少年に再び声をかけたサテラだったが、少年がいまだに浮かない顔をしていることに気がついた。




「どうかしたの?もう夜も更けたし、家まで送っていくよ?君、どこの村から来たの?」

「、、、カナ村。」

「カナ村!?ここからすっごく遠い所じゃない!どうしてそんなとこから。」

「母さんが、病気で。薬が何処にもなくて、ここまで。でも、もう駄目だ。日も暮れちゃったし、お医者様の言ってた期限までは、もう。」

「そっか。それでこんな道にいたんだね。」




カナ村は、寂れていて人のあまり来ない村だ。もちろん物流も少ない。

その周辺の村はまだましな方だが、その辺りに薬の元となる薬草は生えてなかったのだろう。

やっと薬を見つけたのは良いが、時間がなくてわざわざ険しい森の中を通ろうとしたのだ。




「わかった、まかせて。すぐにカナ村まで連れていってあげる。」

「え、でも、グリフォンでも今からじゃとても、、、。」

「いいから。私のグリフォンを信じて?だけど約束。私が送ったことは内緒。あと、乗ってる時に絶対に目を開けちゃ駄目だよ。慣れてないとクラクラしちゃうから。」




その話を不思議に思いながらも、少年は頷いた。




「どうか、お願いします。」

「グリフォン。悪いけど、この子も乗せてあげてね。」







仰せのままに。







誇り高きグリフォンだが、彼は忠実に愛しい召喚士に従う。

少年が目を閉じたことを確認すると、翼を大きく広げた。

すると、たちまちその頭身が金色へと変わっていく。




それが、彼の真の姿であった。

彼こそが伝説で語り継がれた、金色のグリフォンである。




主のため、気合いを入れて空をかける。

隠されていた実力を発揮させ、目にもとまらぬスピードでカナ村へとひとっとびであった。

その地についてからは色を戻し、少年を家に返す。

薬はどうやら間に合ったようで、お礼を言われたのに対して静かにお辞儀をし、また主を乗せ空へと舞い上がった。

一仕事を終えてすっかり気を良くしたグリフォンは、陽気に鳴いて空を泳ぐ。







「もう、調子にのっちゃって。そこがグリフォンの悪い癖だよ?でも、ありがとう。あとで好物買ってあげる。そしたらゆっくり休ませてあげるからね。」







おお、それは楽しみだ!







グリフォンはまた嬉しそうに羽をばたつかせたのだった。







後に、伝説の金のグリフォンがカナ村へ飛んでいったという噂がたった。

伝説によれば、グリフォンは黄金を守っているのだという。

それからは、金のグリフォンの噂を聞き付けた人々がカナ村へと訪れるようになり、周辺も含めて村は賑やかになったのだとか、、、。
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