召喚獣と敬愛の契りを

たとい

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ゴブリン

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「ほら。杖、強化終わったぞ。」

「いつもありがと、ゴブリン。」




サテラは、仕上げた杖を受け取った。

この杖は昔からゴブリンであるオイラが重ねに重ねて何度も強くしている。

だから元々は召喚用としてでしか使いようのなかった、この杖の今の威力には結構自信がある。




「最近そっちの様子はどうなの?」

「珍しい植物の種が手に入って、最近はそれをどれだけ上手に育てるかがブームになってるな。食い物だし。」

「へぇー。私も食べてみたいなぁ。」

「いつでも戻ってくれば、オイラが作った特製のを食べさせてやるよ。」

「わぁい。楽しみ。」




にへら、と笑うサテラは相変わらず幼なびていて愛らしい。

昔はこうして人間と交流するだなんてこと、とてもじゃないがありえなかった。

こいつは、昔っからこんなだったけど。







オイラ達ゴブリンは背が低くて鼻と耳が長く、土や石をうまく扱うことができる。

ゆえにドワーフと呼ばれる小人と、地の妖精ノームとの子孫ではないかという説が多い。

しかし特徴がつかめないうえに特殊な姿だったから人間からは醜く気味の悪い生き物だと避けられ、オイラ達も性根の悪いのが多かったから人間と仲良くやろうなんて思う奴はいなかった。

だから、当時の人間とゴブリンの仲は最悪だった。

ゴブリンは人間の作り出した物を奪い、人間はゴブリンを捕えると無理やり働かせる。そういう関係だった。




そんな時代にオイラがサテラに初めて出会ったのは、花畑だった。

畑から食い物を盗むのに失敗して怪我を負って逃げてきたら、そこで出会った彼女が治療をしようとしてくれたのだ。




ビックリした。だからすぐ逃げた。でもなんか気になって、また花畑に行った。

そしたら彼女がいた。彼女も、同じことを考えていた。今度は、警戒しながらも治療を受けた。

そして話をした。




「なんで食べ物盗んだの?」

「なんでって、オイラ達は森に無ぇもんは人間から奪うのが普通なんだよ。それに人間の作ったやつって、なんか旨いし。」

「でもゴブリンって土のことには詳しくて扱うのも得意なんでしょ?その気になれば、私達よりも上手に植物育てられそうだけど。」

「は?なんで土に詳しいと植物が上手に育つんだ?」

「だって、土から栄養もらってるし。良い土だと育ちがよくなるんだよ、植物って。他にも日光とか水とか必要だけど。」

「そんな手間のかかることやってられないよ。盗む方が簡単でいい。」

「でも、やってみると楽しいかもよ?」




そう言って、サテラは花畑の冠に持ってきた自分の育てた花を添えて、俺にかぶせた。




「これ、さっきから作ってたやつだよな?何だよこれ。」

「お花の冠、のつもり。あんまり上手じゃないけど。」

「これが冠?ぐちゃぐちゃじゃん。しょーがねぇな、ちょっと作ってやるからよく見てろ。」

「え、作れるの?」

「お前のやり方見てたらなんとなくはな。何度も同じこと繰り返すだけだし。」




あまりの下手っぷりに職人魂の火でもついたのか、俺は真似して花の冠を作ってやった。

初めてだったが簡単に綺麗なのが出来上がって、かぶせてやる。




「ほらよ。こんなもん、オイラなんかよりお前の方が似合う。」

「うわぁ、ありがとう!すごいね、本当に初めて?やっぱり、ゴブリンって器用なんだね。」

「比較的そうだな。特に、土に関しては。」

「じゃあ、やっぱり上手く作れると思うよ?植物。」

「え?ないない。たしかにこれ作るのは案外楽しかったけど、あんな奴らの世話を焼くのは、ちょっと。」

「そんなことないって。きっと、楽しく作れるよ。この花冠みたいに。」




その出来事が、全てのキッカケだった。

サテラに苗をもらって、教えてもらいながら作ってみたら見事にはまってしまったのだ。

それを見た他のゴブリンもだんだん真似するようになった。

時が経つうちに各地域のゴブリンと人間もしだいに交流するようになって。

今となってはすっかり馴染んで、ゴブリンが人間と町で暮らしながら鍛冶工房なんかで働くというのが当たり前になっている。

植物を育てているゴブリンは、オイラ達の一族ぐらいだが。







「そうだ。久しぶりに花冠、作ってみたんだ。どう?前よりは上手に作れたでしょ。」




すっかり成長したサテラが、そう言って持っていた花冠をかぶせてきた。

正直、腕はまったく成長していなかった。




「まったく。醜いゴブリンに花冠をあげる奴なんてお前ぐらいだな。」




だけど嬉しかったから、ただ素直にその冠を受け取ったのだった。
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