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1.まさかの出会いと、恋の始まり
しおりを挟む「あ、佐谷先輩だ……」
大学の図書館へ続く道を歩いていた九住は、向こうからやってくる人だかりを見つけて、その中心にいるであろう人物の名前をポツリと呟いた。
この大学で佐谷 呂雨を知らない者はいない。
近隣の大学にも名が知れ渡るほどの人物で、もちろん入学した日から彼の噂を九住も耳にしていたし、本人をこうして見かけることもあった。
いつも周りは女の子で溢れており、構内で人だかりが出来ていると、イコールそこには佐谷がいるというのが、大学での常識だ。
彼が人気の理由は、とてつもなく容姿がいいことにある。だが、それ以外にも老若男女誰に対しても笑顔で優しく、イケメンなのに感じがよくて親しみやすいのも大きな要因だろう。なので、佐谷のファンは女子だけでなく男子も多い。
実のところ九住も隠れファンの1人である。
というのも、たまたま同じ授業を履修していた際、ディスカッションのため班作りをすることになったのだが、ボサボサ頭&瓶底メガネの典型的陰キャな見た目の九住は誰からも声をかけてもらえなかったことがあった。
(わかってたけど、友達がいない授業辛すぎるっ)
名前がわかるように付けられた名札をギュッと握りしめて隅の方で立ち尽くしている九住にいち早く気づいた佐谷は、女の子の静止を振り切って優しく話しかけたのだ。
「九住 真くん? 今ちょうど1人探してたから一緒の班になろうよ! よろしくね」
遠い存在だった先輩の笑顔がキラキラと自分に向けられて、あまりの眩しさに目をシパシパさせながらも、取り巻きの女子たちの圧にビビり散らかした九住は
「あ、ハイ! よろしくお願いします…ぅ」
と返事をしたのだが、残念なことに声は裏返ってしまっていた。
(ほんの数分だったけど、一緒の班で会話できただけでファンになっちゃったもんなーー)
あの日のことを思い出してジーンと天を仰ぎ、物思いにふける。ファンだからと自分からアピールする勇気も九住にはない。
現在4年の佐谷とはゼミも違うし、唯一同じだった授業は前期で終わってしまい後期の今じゃ、こうして構内ですれ違うくらいしか彼との接点はない。
(きっとあれが最初で最後の会話だったんだよ。あーーせめて普通に喋りたかった。先輩は僕のことなんて覚えてないだろうけど)
そんなことを考えながら目の前の人だかりが去っていくのを見送り、ハッと当初の目的を思い出した九住は、構内にある図書館へと向き直り歩きはじめる。
5分ほど歩いて着いたのは、この大学で一番立派な建物と言っても過言ではない3階建ての図書館。
ゼミで提出するレポートを作成するためによく利用するようになった九住は、先日この図書館にある隠れ家的な場所を見つけることに成功した。
見つけたのは本当に偶然で、たまたま奥の方に目当てのものがあった九住が稼働本棚を動かすと、そこに隠れていた中2階へと続く短い階段が現れたのだ。
おそるおそる登った先の狭い空間には4台の本棚と、壁に向かってカウンター状に置かれた机がギュウギュウに敷き詰められている。一見閉鎖的な場所に思えるが、実は席に座ると目線の高さに小さな窓が二つ。そこからは中庭の景色がちょうど見えて九住はそれがとても気に入ってしまい、図書館に来るたび、辿り着くのが少し面倒なこの部屋で調べ物をするようになった。
そんな隠し部屋を見つけて1か月。いまだに他の人と、ここで鉢合わせたことはない。
いや今日までは、なかった。
鼻歌を口づさみながら階段を登ると、いつもはしない人の気配がして、ヒュッと息をのむ。
そして、ぐったりと体調が悪そうに座っている人物の後ろ姿を見ただけで、さらに驚いた九住は一歩後ずさった。
「さ、……佐谷先輩?」
「……う、?ーーん……?」
名前を呼ばれて、突っ伏していた佐谷が体を起こす。チラリと見えた顔色はかなり悪く、今は喋りかけるべきじゃないと九住の本能がカンカンカンと警告音を鳴らす。
(けど、体調の悪そうな先輩を見て見ぬふり? 隠れファンだとしても僕にもできることはあるはず……)
少し考えて床を見つめていた九住が、なにかを思いついたのだろう。踵を返して、その場から足早に立ち去った。
「あれ、……今誰かに呼ばれた気がしたけど。気のせい……?」
九住がいなくなったタイミングで階段の方へと視線をやった佐谷は、頭に?を浮かべた。
(ついに幻聴が聞こえるようになったのか……さっきまで常に気を遣ってたから。ったく、大学に来るのもあと少しとはいえ、毎回毎回あーやって囲まれるのにはうんざりだな)
小さくため息をつくと、また机に体を預けて目を瞑る。佐谷にとっても、この場所は疲れた精神を休める安息の地らしい。
(俺の顔がいいだとか、そんなやつばっかり。今までもこれからも、薄っぺらい笑顔貼り付けて当たり障りなく生きていくんだろうな……俺は)
冒頭で先述した優しい性格の先輩とは別人のような思考を見せる佐谷。
こうなってしまったのは本人にしかわからないが、人気者ゆえの辛さ、そして他人へ諦めが原因なのかもしれない。
(いつか、俺の顔目当てじゃない人間に出会えたら、きっと大切にするのに……)
そんな複雑な気持ちを胸にひめながら、再度眠りへと佐谷は落ちていった。
コトリと近くに物が置かれる音がして、浅い眠りから覚めた佐谷はしっかりと目を開き、すぐ側にいる人物を確認する。寝ていると思っていた彼がいきなり起きたことにびっくりした九住は、条件反射的で猫のように後ろへと後ずさる。
「す、すいません、起こしてしまいました」
「いや……大丈夫だよ」
「顔色が悪そうだったので、お節介とは思ったんですが」
机に置かれているのはスポーツ飲料。どうやら近くの自販機で買ってきたらしく、かなり急いだのか九住はいつもよりボサボサになった頭を揺らしながら、上がった息を深呼吸で必死に誤魔化そうとしている。
その様子を見て、いつも通り笑ってありがとうと言わなければと佐谷が立ち上がろうとした瞬間、九住はさらに5歩ほど離れた。
「あ、自分、あっち行きますから。ゆっくりしてください。ここ人あまりこないので」
「あ……そう?」
「あの辺にいるんで、もしなんか手伝うことあれば言ってください。では……」
この部屋を出て1番近い1人掛けの席を指さしてそう告げると、軽く会釈をして九住は去った。世話をして恩を売るタイプか……と安直に佐谷は思ったが、それ以降、本当に近づいてくる気配がない。
だいぶ体調が回復したのでチラリと様子を見に行くと、彼のことなど忘れたようにレポート作成に没頭している背中が見えた。
「……信じられない」
自分に対して、こんなにも無頓着な人間がいるという事実を知り、思わず心の声が漏れる。
「あ、先輩体調よくなりました? もう帰りますか?」
「あ、あぁ。ありがとう。そうだね。そろそろ帰るよ(そうか、一緒に帰るって言うつもりなんだな)」
「わかりました、ではお気をつけて」
「!?」
そう言って一瞬こちらを見ただけで、九住はまたレポートを書き始める。
(あぁ、こういうことか……!!)
そっけない九住の態度で、佐谷の中に初めての感情が誕生する。今まで向けられていた他人からの好意、そんなもの自分には一生沸かないと思っていたのに、目の前にいる九住を見ていると熱くドロドロとした感情が溢れ出て止まらない。
『絶対に九住を手に入れたい』
そう決めた途端に、嬉しくて楽しみで無意識に顔がニヤけはじめてしまい、悟られないよう口元を隠すように手で覆った。そんな気持ちを沸かせてくれた九住の顔をマジマジと見つめて、佐谷は数ヶ月前のことを思い出す。
「前に話したことあったよね?」
「え、っ!? はい、前期で同じ授業受けてた3年の九住です」
「そうだ、九住くん……今日は本当にありがとう、助かったよ。色々と……じゃあね、また明日」
「ハイ、お気をつけて」
簡単にお礼だけを告げて、その場を離れるも佐谷の気持ちは、まだふわふわとしていた。
(これが恋? こんなに人を独占したいと思うなんて、生まれて初めてだ)
ボサボサ頭のパッとしない彼が、佐谷の脳内から離れない。なんなら今すぐ家に連れて帰って閉じ込めてしまいたい。
(ダメダメ焦らず確実に、まずは彼の1番にならないと……ね)
その頃、佐谷が去った図書館では
「っ……、はぁ。ビックリした」
気にしていないフリをしつつ、かなり意識していた隠れファンの九住は、佐谷が近くにいないのをキョロキョロと確認したあと机に突っ伏して悶えた。
(佐谷先輩と、まさかここで会うとは!)
「同じ大学に通ってるくらいしか共通点ないと思ってたのに!」
そして自分とは全く違う人種の佐谷と、また話せた奇跡を噛み締める。
「しかも、僕のこと覚えてくれてた? ありえない」
思ってもいないことが次々起きて、これは夢か? なんて気持ちを浮つかせるも、調べ物の本の下敷きになっていた白紙のレポートを見つけて、九住は現実に引き戻された。
「ヤバい。緊張して1ミリも進まなかった」
本は、ずっと同じところを読んでも読んでも頭に入らず、気が付けば外は暗くなり始めている。仕方ないので今日はもう諦めて帰ろうと片付けをはじめるも、なんだかまだ話した余韻が残っていて、無意識にルンルンしてしまう。そんなご機嫌な九住は、まだ佐谷の意味深な言葉に気づいていなかった。
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