佐谷先輩は九住くんを溺愛しています

monteri

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2.気がつけば隣にいる理由

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翌る日あくるひ、自分が佐谷の恋愛スイッチを入れたとは露も知らない九住が、いつも通り大学へ向かうと、構内にチラホラとリクルートスーツの学生が増え始めたことに気がつく。
自分もそろそろ就活かと、おもだるい気持ちを胸に、2限の空きコマをつかって、昨日進まなかったレポートを少しでもやろうと、例の部屋を訪れた。

「あ……」
「こんにちは、九住くん」

何故か昨日会った佐谷が、今日もまたいる。
さすがに夢だと自分の目を疑った九住は、とりあえず引き返そうと華麗にターンしたが、光の速さで腕を掴まれて止められてしまう。

「いやいや、待って待って」
「さ、佐谷先輩、ほ、本物?」
「本物? うん、本物だよ。ちょっと図書室に用があってねーー、もしかしたら九住くんに会えるかもとは期待してたけど、会えて嬉しいな。昨日はありがとう」
「いえ、僕は特に何も」
「……なにも、ね? うんうん、いいねぇ。そういうとこが……」
「え?」

佐谷がボソリと小さく呟いたので、語尾が聞き取れなかった九住は、恥ずかしそうに俯いていた顔を上げて聞き直すも、まるで何も言ってませんという顔で笑って誤魔化されてしまう。

「もし今空きなら、一緒にカフェテリアでも行かない?」

憧れの人からの誘いに九住が断る理由はなさそうにみえるが、実際のところ誘われた喜びよりも不安な要素が優ってしまう。
まずは、人の目があるところで2人でいることによる好奇や嫉妬の視線に耐えられるわけがないこと。
次に自分自身が普通の精神でいられる気がしないこと。
他にも理由は出て来そうだが、それを直接言葉で伝える実力がない九住は、ふるふると首を横に振った。

「じゃあ、ココの方がいいかな?」

佐谷が指さしたのは、いつものカウンター席で、まぁここなら大丈夫かも? と油断した九住は、コクコク頷く。そして2人並んで席についた。

「ココいいよね。ちょうど人がこなくて静かで」
「……そ、うですね」
「絶対誰とも被らない場所だからさ、俺も休憩するならココって決めてるんだよね」

すぐ横に座っている佐谷が、肘をつきながらラフに話しているのにもかかわらず、九住は凍ってしまったかのようにカチンコチンで緊張しながら、精一杯会話の腰を折らないように、声が裏返らないように、ひたすら相槌をうつことに徹していた。

「九住くんは、いつココ見つけたの?」
「っ!!」

必死に力を込めて頷いていたので、目をぎゅっと瞑った瞬間、佐谷が顔の距離を縮めてきていたことに気づかず、目を開けたタイミングで美しい御尊顔を目の当たりにしてしまい、驚きのあまり声が出ずあたふたする九住。

(俺の顔に興味がないわけではないんだ……)

それは好都合かもと、思えば思うほど悪い顔をして笑いそうになり、自らを戒めるようにムギュッと頬をつねる。

「ど、どうしたんですか?!」
「きにひないで、癖なんだ」

自分の頬を抓るのが癖とは? 普通なら疑問に思うところだが、相手は佐谷だ。美しさの秘訣なのかもしれないと、変に納得した九住は、自分も真似して頬をつねった。

「かっ……!!」
「か?」

可愛すぎだろう! という言葉をどうにか飲み込み、さらに両頬を抓り、ニヤついてくる口角を必死に誤魔化す。

「い、痛くないですか?」
「大丈夫、九住くんは真似しないでね」

そんな戯れをしていたら、時間はあっという間に過ぎていき、授業の終わりを告げるチャイムが図書館内に響き渡った。

「じゃあ、僕はこれで」
「うん、またね」

ヒラヒラと手を振り見送られ、九住はギクシャクと会釈をすると、その場を足早に立ち去る。

「なんで? 先輩が? いや、たまたまだよね。用があったって言ってたし」

次の教室に向かう道中、こんなの偶然に違いない、まさか自分に会うために待っていたわけがない。思い上がるなと、九住は自分をキツく戒めた。




「なーーんだ。全然脈がないと思ったら、そんなこともないのか……」

佐谷は、自分を見る九住の視線から好意を感じ取り、少し顎に手を当てて考え込む。

(昨日の無頓着さは、九住なりの遠慮、もしくは配慮だったってことか……)

果たして今まで自分の周りに、そんな謙虚な人はいただろうか。答えは簡単だった。

「そういうのも、はじめてなんだよねぇ」

良くも悪くも佐谷の周りには、好きを隠さない、押し付けてくる人ばかりだった。なぜなら彼のオーラに当てられて、皆んなが等しくそうなってしまうから。

けれど九住は違う。

新しい気づきに、ゾクゾクと身震いがして、不敵な笑みが込み上げてくる。今度は我慢しなくていいので、思う存分ニヤニヤすると、佐谷は次の作戦を考え始めた。

「あーー九住……、本当にかわいいなぁ」








もちろん、そんな風に思われてると知らない九住は、昨日2人で話せたからと言って調子に乗っちゃいけない。一般ピーポー陰キャ代表として、今日こそ大学の片隅で、ちまちま過ごそうと、誓いを胸に立てていた。

しかし本日も、佐谷は現れる。

今度は成績優秀な佐谷が、4年の今頃に履修しているはずのない必修大型講義に出現したのだ。まぁ女子が、そんなチャンス見逃すわけもなく。
席に着くやいなや、早々に取り囲まれていたので接触こそなかったが、かなり席が近かったため、どことなく佐谷からの視線を感じまくった九住は、自惚れることなく、どんどん不安になっていく。

「なんで? どうして? 僕なんかやらかした?」

さすがの九住も3日目にして、佐谷が現れる理由を考え始める。その理由が、自分への恋だとは思いもよらないだろう。
意図せず何か気を悪くさせたに違いないと九住は考え、4日目も図書館で待ち構えていた佐谷を見て、さらにそれを確信し、席について話しかける頃合いを見計らうと意を決して謝罪し始めた。

「す、すいませんでした!」
「……え? どうしたの? なになに?」

4日目にもなると佐谷の方は、すっかりリラックスしており、九住の肩に背を預けるように座っていたのだが、突然思い詰めた様子で謝りだしたので、慌てて体をクルリと九住の方へ向けると、俯いているその顔を覗き込む。

「ぼ、僕なにか気に触ることをしたんですよね?」
「は?」

こんなにリラックスして体を預けられているのにも関わらず、お気に入りとしての自覚が全くない九住は、どちらかというと何か怒らせるようなことをした結果、抗議のため会いに来られていると思い至ったようだ。

佐谷には持ち得ない考えに、もちろん理解は追いつかず、九住が何故自分に怯えているのかもわからないので、ただただ困惑するしかない。

「もうここも使わないので許してください」
「え? なんで? なんでそうなる?」
「佐谷先輩のお気に入りの場所取ってしまったから、怒ってるんですよね」
「え? は? え??」
「え?」

2人は向かい合って、お互いにハテナを頭に浮かべた、

「はぁ、九住くん。もしかして俺がここに来たり、会いに行ったりするの、縄張りを守る威嚇かなんかだと思ってたの?」
「ち、……違うんですか」
「はぁ……まじか」

焦らずじっくり仲良くなろうとしたのが裏目に出るとは、思わずため息をつく。

「すいません」

ため息イコール怒っている。そう感じると小さく謝り、縮み込む九住。そんなつもりはなかった佐谷は、失敗した口元を手で抑えてペチペチと自ら軽く罰する。

「違う、そうじゃない。謝ることなんて一個もない」
「え?」
「俺は、九住くんが好きで待ってたんだから」

『好きで?』

まさかのセリフに、メガネの奥に小さく見える九住の目が、さらに小さくなって点になる。
そんなの信じられませんという顔だ。

(鳥頭の瓶ぞこメガネの自分に? 佐谷先輩が?)

「僕の耳、おかしくなったのかな……?」
「正常、大丈夫だから」
「えぇ?」
「ココで会った日から、九住くんと仲良くなりたくて」
「佐谷先輩が、ぼ、僕と?!」

あまりの衝撃にポカーンとあいた口は塞がらず、そんな可愛い表情に、佐谷の胸がムズムズとざわつく。

(あぁ、その口を早く俺の口で塞いでやりたい)

でも今それをすればきっと彼は、手に入らなくなる。なんとなくそこは本能的に理解していたので、さすがの佐谷も襲いかかったりはしない。

「というか、俺はもう友達だと思ってたんだけど」
「そんな、恐れ多いです」
「えーー、なってくれないの?」

子犬のような瞳に見つめられて、断れるはずもなく。あれよあれよと佐谷のペースに乗せられて、ついに連絡先を交換する2人。

「これからも、よろしくね。九住」
「あ、ぅ……はぃ、よろしくお願いしまする……」

顔を赤くして変な語尾を発した九住を見て、もう少し押してみてもいいかもな。と決意した佐谷は、相手に見えないようペロリと舌舐めずりをしてニヤリと口角を上げた。

その後、佐谷の作戦通りなのか、2人の間でポツポツと連絡が増えて、たまに昼食を一緒に摂るようになると、大学で噂にならないわけもなく、女の子の取り巻きから一度だけ九住は攻撃を受けたのだが、何故か一度きりでなくなったらしい。

九住はそのことが不思議でしかたなく、カフェテリアでランチを食べながら、周りに人がいないタイミングを見計らって、小声で佐谷に話し始める。

「もっといろんな方面から敵対されると思ってたんですけど」
「九住の可愛さに、相手も戦意喪失したんじゃない?」
「それはありえないですよ」

取り巻きから攻撃を受けたことを知ってすぐ、佐谷が相手をどうにかしたのだが……。世の中、その先を知らない方が、いいこともあるとだけお伝えしておこう。

(本当のこと知ったら、九住泣いちゃうだろうな)

笑顔でとんでもないことを考えている佐谷をよそに、だんだんとこの環境に順応して来た九住はニコニコ笑顔で、目の前のランチを頬張りはじめる。

「僕、思いの外、先輩といるの慣れて来た気がします」
「そっかそっか、じゃあ、そろそろ付き合おうか」
「へ?」

ポロリと落ちた箸をナイスキャッチした佐谷が、渡すのにかこつけてギュッと手を握ると、どんどん真っ赤に染まっていく九住の顔。

「俺たち、付き合ってるんじゃないかって噂になってるらしいし」
「お、恐れ多いです! 誤解は早く解かないと!」
「えーー、誤解じゃなくそうよ」
「な、な、なにを言って」
「前も言ったけど、俺は九住が好きだよ」

周りに聞こえないよう耳元でこっそりと囁かれ、きっと効果音が出るとすれば『ボンっ!』と言う音が九住の頭からしたに違いない。
キャパオーバーな話すぎてショートしてしまった九住は、赤い顔のまま口をパクパクさせて、まるで壊れたおもちゃのようだ。

「九住ーー、かえってこーーい」
「ッは! 夢?」
「現実です」

再度フリーズする前に、九住の頬を両手で包み込み、佐谷はニコリと笑う。

「今すぐじゃなくていいから、俺の卒業までに返事してくれたら嬉しいな」
「っひゃ、、ひゃい」

笑顔の約束が、こんなにも怖いなんて九住は初めて知ったことだろう。
佐谷の卒業まで残り3ヶ月。
九住の苦悩は続く。

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