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10.特別な存在
しおりを挟む鷹宮の体調不良を知り、お見舞いに行こうか……いや押しかけたら迷惑かもと純太が悩んでいると、まるで見ていたかのようなタイミングでルイから連絡が入る。
「純太ぁーー、俺仕事あるから外出するんだけど、社長がちゃんと休むよう見張りに来れたりする?」
「絶対行く! 任せて!!」
「ふはっ……めっちゃ元気じゃん、仕事は?」
「あ……すぐ確認して折り返します」
「了解」
行きたすぎて即答したものの確かに今は仕事中である。まずは先輩に許可がもらえるか事情を話してみた純太は、先輩が意味深に微笑んだのを見て(ダメかぁ)と肩を落とす。
「仕方ないなぁ。うちの会社、鷹宮さんにはお世話になってるし、上司には上手く伝えといてあげよう」
「……せんぱい、ありがとうございます!」
会社からのお見舞いも兼ねてということにしてもらい、笑顔で送り出してもらうと純太は急いで鷹宮宅へ向かった。
2週間お世話になった際、教えてもらっていたセキュリティコードも指紋認証も消去されておらず、純太はスムーズに鷹宮の部屋前まで辿り着く。
中に入ると誰もいないかのように静かで、鷹宮は寝ているだろうと思った純太は、音を立てないよう細心の注意を払って動いた。
「おじゃまします」
真面目なので小さな声で一応挨拶はして、真っ先に汚れひとつないキッチンに立つと、持って来たリンゴの皮を剥き始める。修行の時に、どこに何があるか教えてもらっていたので、純太は手際良くリンゴを剥き終えることができた。
(教えてもらって出来るようになったことが、役立つのってこんなに嬉しいんだなぁ……)
ジーンとしつつ、いざ鷹宮が寝ていると思われる主寝室へ純太は歩みを進める。
小さくドアをノックするも、返事はない。寝ている間に部屋に入るのは失礼かも? と思ったがルイから同じ部屋にいるよう言われたのを思い出し、純太はそーっと扉を開けた。
必要最低限のものしかない部屋の真ん中に広々としたベッド。純太がはじめてこの家に来た日に寝ていた場所である。
(なんだか、ついこないだのことなのに懐かしい)
そして今そこには、寝相よく寝ている鷹宮の姿がある。
「寝てる……? のかな。熱は無いってルイが言ってたけど」
サイドテーブルにリンゴをのせた皿を置くと身を乗り出して鷹宮の顔を覗き込む。整った顔が静かな寝息を立てている。
じーっと見つめて、この美形が自分の頬にキスをしたんだと思い出し、無意識に唇へと視線が集中してしまう。秒で赤面した純太は、パタパタと手で顔を扇いだ。
「ドキドキして、僕が熱でそう……」
寝ているのを起こすのはよくないと、その場を離れようとした。その時、急に腕をガシッと掴まれて純太は心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「もう、帰っちゃうの?」
鷹宮がゆっくりと目を開き、まっすぐ自分を見てくる。純太は自分がさっき言った一言を思い出し青ざめた。
「ねぇ、ドキドキしてくれてるの?」
「え、あの……その、」
「僕のこと見て、ドキドキする?」
これは誤魔化せない、そんな急にちょうどいい言い訳も見つからない純太は、腹を括るしかないと決意する。
「すいません! 勝手に意識してドキドキしてました……!! こ、こんなの担当失格ですよね」
「藤白くん……僕も、ごめんね」
あー……やっぱりそうかと純太は思う。鷹宮が謝るイコール、あれは海外でよくあるオヤスミのキスだったんだと。
「すいません、勘違いして……こんな」
「え?? かんちがい?」
「よくある、オヤスミのキスでドキドキなんてして」
「??」
どうやら自分たちの話に行き違いが生じていると気づいた鷹宮は、慌てて起き上がり勘違いしている純太の頬を両手で包みこむ。
「待って、藤白くん。僕は誰にでもキスなんてしないよ?」
「え……」
「今謝ったのは、同意もなくキスしたことに対する謝罪なんだ」
ワタワタと自分のしたことを説明する鷹宮の様子は、いつもと違って少し幼く見える。
「あのキスは君の寝顔が可愛くて……思わずしてしまったんだ」
(可愛くて? え、可愛くて?)
その言葉は純太の脳内で何度も何度もリピートされる。
「恥ずかしいんだけど、寝顔を見たら体が勝手に動いてしまったというか……」
「そ、そうだったんですか……」
さっき自分も見惚れていたのを思い出し、お互い赤くなりながら向かい合って少し俯く。
「藤白くん」
「は、はい」
「僕は君が好きだよ」
「!!」
「君のことが、好きなんだ。ずっと一緒にいたいから、僕の特別になってくれる、かな?」
人生ではじめてされた告白に、純太のキャパはオーバーしていたが、目の前で同じように耳まで真っ赤になって伝えてくれた鷹宮に色々な感情が溢れて、泣きながらその服の裾を弱々しく握る。
「僕もです、鷹宮さんが好きです。ずっと一緒にいたいです」
必死に言葉を返す純太。鷹宮はその言葉を聞くやいなや、純太を強く抱きしめる。
「大好きだよ」
鷹宮はそう囁いた後、少しだけ体を離し、純太を見つめた。お互いの顔がだんだんと近づき、純太は自然と目を閉じた。
「ん……」
頬ではない、唇同士のキスに戸惑いながらも必死に受け入れる純太。そんな彼が可愛くて、暴走しそうになるも鷹宮はグッと耐える。
「た、たかみやさ……ん」
「クリスでいいよ、純太くん」
顔からずっと火が出そうなのに、名前呼びなんてハードルが高すぎると首を横に振る純太に、鷹宮はションボリと落ち込んだ様子を見せる。
「ルイとは名前で呼び合うのに?」
「ぅぐ…………そ、それは……」
「ダメかなぁ?」
「だっ……めじゃないです。クリスさん……」
「うん、いいね。ありがとう純太くん」
初めての名前呼びにキャパオーバーするも、呼ばれて満足気に笑う鷹宮の顔が少年のように可愛らしくて、純太はキュンとしてしまう。
こうして、ついに両想いになった2人はリンゴを食べながら他愛もない話をして、仲良く幸せな時間を過ごした。
「あ、僕もうそろそろ戻らないと」
「仕事の合間に来てくれたんだよね、ありがとう」
「いえ、とても心配だったので!」
純太らしい返事に、笑いつつも意地悪したくなった鷹宮は「帰したくないなぁ」とポツリと呟き、恋人つなぎで手を握る。
赤い顔をしながらも、引き留めようとする鷹宮の手を純太はギュッと握り返した。
「ま、また来ますっ!」
「ふふふ、うん。待ってるね」
マンションから出た後も、しばらく顔の赤みが引かず、なるべくゆっくりと会社に戻り、先輩にお礼を言ってから残りの仕事をこなす。
(次は、いつ会えるかなぁ……)
少し浮かれた気持ちで純太は仕事に励んだ。
一方その頃鷹宮宅では、寝込んでいたはずの鷹宮がウキウキとリビングで仕事を再開しているのを見て、ルイが溜め息をついていた。
「上手くいったみたいでよかったね」
「わかるのか?」
「そりゃ、その様子を見たら誰でもわかる」
(俺が純太にキスしたの見た日と大違いだもん)
あの日帰って、すぐに鷹宮から「藤白くんのことが好きなの?」と真剣な顔で言われたルイは、ピンと来ていた。見られたんだろうと。
なので、正直に鷹宮がキスした時に純太が起きていたこと、そのことで純太が悩んでいたということを教えたのだ。
「そんなっ……お、起きてた?」
「そう、それで困ってた」
「こ、困ってた?! だから素っ気ない態度だったの?!」
「たぶん?」
さすがのルイも純太がドキドキしていることまでは教えなかった。純太本人が伝えるべきだし、目の前で悪い方に考えてへこんでいく鷹宮が面白かったというのもある。まさか寝込むとは思わなかったが。
(罪滅ぼしで、純太召喚して成功だな)
「次会うの楽しみだなぁ」
「へぇ、まぁ2人が幸せならいいけど。ていうか、純太泣かせたら社長でも許さないからな」
「……泣かすわけないだろ」
「顔怖っ!」
さっきまでニコニコしていた鷹宮から放たれた本気の圧に、恐れをなしたルイはそそくさと自室に逃げていくのだった。
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