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第一章
初恋
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ラプソンに戻り、帰って来た事を伝える手紙をフィルに送ると、早速返事が来て明日遊びに来るという。
翌日、フィルは夏の間に作ったらしい大量のドレスと共に我が家へ来た。
「はい、これお土産だよ」
あたしは今年の夏の最高傑作、ピンクと白のマーブル模様の泥団子をフィルに渡す。
するとフィルは、ぱっと花が咲いた様な笑顔で掌に乗せた団子を見つめた。
「なにこれ、凄く綺麗!」
「これ泥で作ったんだよ」
「ええ!? キャロルが作ったの!?」
「うん」
「すごいね~」
実はお爺様にあげたのはフィル用に作った物で選考に漏れたやつだ。ちょっとフィル好みじゃなさそうだっただけで別に失敗ではない。決して。
「僕もドレス作ったから見て!」
「うん。着て見せて」
フィルの手土産のマカロンを齧って待つ。
甘い。
「終わりました」
アメリーの声がして振り向くと、フィルは淡黄色のドレスを着ていた。ウエストと袖にはサテンの黄色いリボンが巻かれていて、淡黄色と濃淡様々なピンクの布で作られた花が、肩からウエストまで斜めに連なり、スカートにも散りばめられている。
「可愛いー!!」
フィルははにかむように笑う。
それがまた可愛い。
「かつらも付けてみよう!」
「うん」
白い肌に淡黄色のドレスとプラチナブロンドのロングヘアってぼけっとした印象になりそうなものだけど、とても幻想的な仕上がりになっている。まるで妖精みたい!
「すっごく良い! ね、せっかくだからメイクもしようよ」
「ええ?」
「いいからいいから。座って」
フィルの唇に淡いピンク色の口紅を塗って、スプーンを使ってまつ毛を少し上向かせてみた。
「どひゃー。かーわーいー! ね! アメリー!」
アメリーは笑顔で頷いた。
「はい。とっても可愛らしいですね」
これはどう頑張っても女の子にしか見えない。
フィルに手鏡を渡すと、かなりお気に召した様でずっと見ている。
あたしとアメリーしか見られないなんてもったいないわぁ。
……そうだ! ユーゴにも見せてあげよう。
「ね、フィル、ユーゴも呼んでいい?」
「ええ!? ユーゴって誰……?」
「私の護衛なんだけどね……」
そこから先はアメリーに聞こえない様に、フィルの耳に両手を当ててこっそり話す。
「ユーゴもメイクをするのが好きなの。だから誰にも言わないよ」
「……うん。分かった」
フィルは一瞬悩んだものの了承した。
さて、今の時間ユーゴはどこにいるっけ。
窓の外に視線を移すと、庭にユーゴがいるのが見えた。
おお、ナイスタイミング!
「ベランダに出よう」
フィルを連れてベランダに出て、手すりまで寄る。
「ユーゴ~。見て~」
庭を見下ろすと、ユーゴの横には……アルマンがいた。
へ? なんで?
はっ! まずい、フィルを隠さなきゃ!
隣のフィルを見ると驚き過ぎて固まっている。
あたしは慌ててフィルの手を掴み、急いで部屋の中に戻した。
そして再び1人でベランダに出て庭を見下ろす。
するとアルマンはぽかんと口を開けて固まっていて、視線はフィルの居た場所に釘付けだ。
あ……人が恋に落ちる瞬間を見てしまった。
しかし何でこの子がうちにいるのだ。
「ユーゴ、何があったの?」
「剣を振るのを見て欲しいと言われまして……」
「そう……見てあげて」
もうそれどころじゃなさそうだけど。
部屋に戻ると、フィルは青ざめていた。
「どうしよう、見られちゃった」
「大丈夫だよ。フィルだとは気付いてなかったよ」
「本当に?」
「うん」
動揺するフィルの背中を撫でて宥めながらソファに座らせ、マカロンをつまんで口の前に持って行く。
「はい」
あたしの言葉に促されたフィルは素直に口を開け、あたしはマカロンを放り込んだ。
甘い物を食べて、フィルの気分は幾分落ち着いた様だ。
夕食の時にお母様から聞いた話だと、闖入者は領地のお土産を持って来てくれたシャルトエリューズ伯爵夫人について来たらしい。それでたまたまユーゴを見かけたという事だった。
本当にたまたまだったのかは疑わしいところだ。
後日、遊びに来たフィルがドレスを着た後、アメリーを外に出しユーゴを部屋に招いた。
「フィル可愛いでしょ!」
「はい。すごく」
部屋に招き入れる前に事情は説明してあったので、ユーゴはすんなりとフィルの姿を受け入れている。
「よし、じゃみんなでメイクでもしようか」
「私もですか?」
ユーゴは戸惑っている。
その為に呼んだ様なものなのに何を言っているんだ。
「前にあげた口紅は使ってる?」
「あ、はい」
「今度はこっちのピンクを使ってみたら?」
「ピンクは買ってみたけど似合いませんでした」
「あらそうなの? じゃあオレンジにしようか」
フィルはあたし達の会話に呆気に取られている。
「どうしたのフィル。座ったら?」
「……うん。そうだ! この前の子、何か言ってた?」
フィルはアルマンの事を思い出したらしく、ユーゴに訊ねた。
「あの子はどこの令嬢だと聞かれました」
ユーゴがそう答えると、フィルはほっとした様だ。
「恋をしてしまったみたいですね」
やっぱりねぇ。
「ええ!?」
ユーゴの言葉に、フィルは意味が分からないといった様子で驚いている。
それを受けて、ユーゴはあたしに小声で尋ねた。
「お嬢様、殿下の恋愛対象は女性なんですね?」
「たぶんね」
キスどきゅでヒロインと結ばれていたという事はそうなんだろう。
でもそっか、一応婚約者だからユーゴは心配してくれたのね。
「まぁどっちでもいいけどね」
「どっちでもって?」
フィルに尋ねられ、少し悩む。
「ん~フィルが将来、男性を好きになっても女性を好きになってもどっちでも大丈夫って事」
「男性は女性を好きになるんじゃないの?」
「そうとは限らないよ。フィルが男性の服より女性のドレスが好きな様に、ユーゴも女性より男性の方が好きなんだよ」
「むしろ女性は無理です」
ぼかしてあげたのにハッキリ言った!
「そうなんだ。僕たち似てるね」
「そうだよ~」
「ユーゴはドレスは着ないの?」
フィルに聞かれてユーゴはキリッと即答した。
「似合いませんからね」
フィルは納得した様だ。
翌日、フィルは夏の間に作ったらしい大量のドレスと共に我が家へ来た。
「はい、これお土産だよ」
あたしは今年の夏の最高傑作、ピンクと白のマーブル模様の泥団子をフィルに渡す。
するとフィルは、ぱっと花が咲いた様な笑顔で掌に乗せた団子を見つめた。
「なにこれ、凄く綺麗!」
「これ泥で作ったんだよ」
「ええ!? キャロルが作ったの!?」
「うん」
「すごいね~」
実はお爺様にあげたのはフィル用に作った物で選考に漏れたやつだ。ちょっとフィル好みじゃなさそうだっただけで別に失敗ではない。決して。
「僕もドレス作ったから見て!」
「うん。着て見せて」
フィルの手土産のマカロンを齧って待つ。
甘い。
「終わりました」
アメリーの声がして振り向くと、フィルは淡黄色のドレスを着ていた。ウエストと袖にはサテンの黄色いリボンが巻かれていて、淡黄色と濃淡様々なピンクの布で作られた花が、肩からウエストまで斜めに連なり、スカートにも散りばめられている。
「可愛いー!!」
フィルははにかむように笑う。
それがまた可愛い。
「かつらも付けてみよう!」
「うん」
白い肌に淡黄色のドレスとプラチナブロンドのロングヘアってぼけっとした印象になりそうなものだけど、とても幻想的な仕上がりになっている。まるで妖精みたい!
「すっごく良い! ね、せっかくだからメイクもしようよ」
「ええ?」
「いいからいいから。座って」
フィルの唇に淡いピンク色の口紅を塗って、スプーンを使ってまつ毛を少し上向かせてみた。
「どひゃー。かーわーいー! ね! アメリー!」
アメリーは笑顔で頷いた。
「はい。とっても可愛らしいですね」
これはどう頑張っても女の子にしか見えない。
フィルに手鏡を渡すと、かなりお気に召した様でずっと見ている。
あたしとアメリーしか見られないなんてもったいないわぁ。
……そうだ! ユーゴにも見せてあげよう。
「ね、フィル、ユーゴも呼んでいい?」
「ええ!? ユーゴって誰……?」
「私の護衛なんだけどね……」
そこから先はアメリーに聞こえない様に、フィルの耳に両手を当ててこっそり話す。
「ユーゴもメイクをするのが好きなの。だから誰にも言わないよ」
「……うん。分かった」
フィルは一瞬悩んだものの了承した。
さて、今の時間ユーゴはどこにいるっけ。
窓の外に視線を移すと、庭にユーゴがいるのが見えた。
おお、ナイスタイミング!
「ベランダに出よう」
フィルを連れてベランダに出て、手すりまで寄る。
「ユーゴ~。見て~」
庭を見下ろすと、ユーゴの横には……アルマンがいた。
へ? なんで?
はっ! まずい、フィルを隠さなきゃ!
隣のフィルを見ると驚き過ぎて固まっている。
あたしは慌ててフィルの手を掴み、急いで部屋の中に戻した。
そして再び1人でベランダに出て庭を見下ろす。
するとアルマンはぽかんと口を開けて固まっていて、視線はフィルの居た場所に釘付けだ。
あ……人が恋に落ちる瞬間を見てしまった。
しかし何でこの子がうちにいるのだ。
「ユーゴ、何があったの?」
「剣を振るのを見て欲しいと言われまして……」
「そう……見てあげて」
もうそれどころじゃなさそうだけど。
部屋に戻ると、フィルは青ざめていた。
「どうしよう、見られちゃった」
「大丈夫だよ。フィルだとは気付いてなかったよ」
「本当に?」
「うん」
動揺するフィルの背中を撫でて宥めながらソファに座らせ、マカロンをつまんで口の前に持って行く。
「はい」
あたしの言葉に促されたフィルは素直に口を開け、あたしはマカロンを放り込んだ。
甘い物を食べて、フィルの気分は幾分落ち着いた様だ。
夕食の時にお母様から聞いた話だと、闖入者は領地のお土産を持って来てくれたシャルトエリューズ伯爵夫人について来たらしい。それでたまたまユーゴを見かけたという事だった。
本当にたまたまだったのかは疑わしいところだ。
後日、遊びに来たフィルがドレスを着た後、アメリーを外に出しユーゴを部屋に招いた。
「フィル可愛いでしょ!」
「はい。すごく」
部屋に招き入れる前に事情は説明してあったので、ユーゴはすんなりとフィルの姿を受け入れている。
「よし、じゃみんなでメイクでもしようか」
「私もですか?」
ユーゴは戸惑っている。
その為に呼んだ様なものなのに何を言っているんだ。
「前にあげた口紅は使ってる?」
「あ、はい」
「今度はこっちのピンクを使ってみたら?」
「ピンクは買ってみたけど似合いませんでした」
「あらそうなの? じゃあオレンジにしようか」
フィルはあたし達の会話に呆気に取られている。
「どうしたのフィル。座ったら?」
「……うん。そうだ! この前の子、何か言ってた?」
フィルはアルマンの事を思い出したらしく、ユーゴに訊ねた。
「あの子はどこの令嬢だと聞かれました」
ユーゴがそう答えると、フィルはほっとした様だ。
「恋をしてしまったみたいですね」
やっぱりねぇ。
「ええ!?」
ユーゴの言葉に、フィルは意味が分からないといった様子で驚いている。
それを受けて、ユーゴはあたしに小声で尋ねた。
「お嬢様、殿下の恋愛対象は女性なんですね?」
「たぶんね」
キスどきゅでヒロインと結ばれていたという事はそうなんだろう。
でもそっか、一応婚約者だからユーゴは心配してくれたのね。
「まぁどっちでもいいけどね」
「どっちでもって?」
フィルに尋ねられ、少し悩む。
「ん~フィルが将来、男性を好きになっても女性を好きになってもどっちでも大丈夫って事」
「男性は女性を好きになるんじゃないの?」
「そうとは限らないよ。フィルが男性の服より女性のドレスが好きな様に、ユーゴも女性より男性の方が好きなんだよ」
「むしろ女性は無理です」
ぼかしてあげたのにハッキリ言った!
「そうなんだ。僕たち似てるね」
「そうだよ~」
「ユーゴはドレスは着ないの?」
フィルに聞かれてユーゴはキリッと即答した。
「似合いませんからね」
フィルは納得した様だ。
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