しあわせな遥海くん

菊音花帆

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第十話

しあわせな遥海くん【第十話・不安】

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【しあわせな遥海くん・第十話・不安】


お金で買えないモノ。それは意外と沢山あって、例えば友情や愛情。


お金を持っていたら持っていたで、近寄って来るのは金目当ての胡散臭い人間だ。
持ってなければ相手にされない事はあるが、持たない同志の絆は生まれたりする。

バランスがいいのは、実は富を持たない者なのかもしれない。


有り余る富を手にしている遥海に、初めて出来た友人や仲間。
それが、キラキラネーム被害者の皆だった。


あの日から木村宇宙は仕事の合間にパソコーンで、神様のクローバーの情報収集をし、その内容を騎士に伝えたりなど、テント内はピリっとした空気になる事が多かった。

やはり、四灯病の話を打ち明けてからは、前のようにはいかなかった。


魔法少女さんは積極的に遥海に話しかけていたが、どこか浮かない表情。

清水さんがクッキーを焼いてくる日も、格段に増えた。


「なあこれ、まだ一昨日のが残ってるんだ。家で飼ってる鳥にやってもいいか?」

「鳥がいるんですね!こんなものでよければ、あげてみてください!」


砕いたクッキーをベランダの鳥へ。


一番最初に来ていたつがいのオスは、頭の上に黒いホクロのような模様があったのだが、最近子孫が産まれたのか、同じ模様の小鳥を見かけるようになった。


そんな小鳥談義をする、ほっこりとした時間。
新しい月になり、もうすぐまた四葉クローバー教のパレードの時期を迎える。



騎士はまだ、動けずにいた。

宇宙から聞く話によると、双葉クローバー教は人体実験にまで手を染めているらしい。
グレイスを生きたまま捕獲と書いてあったのは、何か関係してそうだった。

金を払えば神様のクローバーを手に入れられるのだろうか。
そうだとしたら、いったい幾らかかるのだろう。
そもそも植物の独占など、していいものなのだろうか。

考えをめぐらせるほど、怒りがこみ上げてくる。


「ちょっとナイトくん。アンタ顔が怖いのだわよ」

そう魔法少女さんに言われ、ハっとする騎士。

「すんません…ちょっと考え事を…」

「気持ちはわかるのだわ。でもね、いつも通りにしていなさいな」


目元しか見えないが、ニコっと微笑んでいるのがわかる。



此処で静かに余生を過ごしたい。

それが皆も知る遥海の願いだった。

それでいいのかよ。

お前の願いはそんな事で終わるのかと。


海を見た事はあるのか?山で星空を見たことがあるのか?
お前の景色はもっと広がっていいんだ。


ここではそんな想いをぶつける事は出来ない。
そう思った騎士は、すっと遥海に近付き、泳ぐ目で誘い文句を言い放つ。

「その…。変な模様の鳥!…お前まだ見てないよな?見に来るか?」


我ながら妙な事を口走ってしまったと、少し恥ずかしくなる。


「見たい!あと名前つけてあげたい」

「じゃあほら、行くぞ」

ハンガーにかけられたコートを遥海に手渡す。


せっかくだからと、何か食べ物を少し持ち帰ろうと話す遥海。
ちょうど二人分のパンやお菓子、煮凝りのような物を鞄に詰め込む。


その後ろ姿を見た時に、違和感に気付く。
遥海の髪の毛の黒い部分が、前見た時より増えていた。


それは病気が進行しているからなのだろうか。
不安な気持ちがずっとあの日から消えないままの騎士。


またね、と被害者の会のテントを後にし、騎士と並んで遥海は歩く。
どうにも平然を装っているようにしか見えない、その表情。

騎士は今まで見てきた遥海の笑顔の裏を考える。

本当の笑顔はあったのだろうか。
屈託のない笑顔は、太陽に隠れた月のように暗く、本当の気持ちを隠していたのでは、と。


疑いだしたらキリがないが、今日家に誘ったのはそれを確かめたかったのだ。

遥海の本当の気持ちを、本音を知りたかった。


特に会話もないまま、騎士の住むオンボロアパートへ向かう二人。
遥海はなんとなく、騎士の様子がいつもと違う事に気付いていた。


それでも向き合わなければいけない。大切な友人兼、護衛として。

四灯病の事は隠していたのだ。きちんと話さなければと遥海は思っていた。


アパートに着くなり、小鳥が数羽、玄関で待機していた。


「わ!可愛い!お出迎えかな?」

「お前ら寒いんだからちゃんと冬眠してろよ~」

チュンチュン言いながら人間とは一定の距離を保ち、付かず離れずな小鳥。


「僕にも懐いてくれないかな~」

「いいから早く中に入れ」


玄関先でごたごたしてしまった。

不審者がいないか確認し、もたつく遥海の背中を押す。
騎士も靴を脱いで部屋の中へ。


「変な模様の鳥、どの子か早く見たい!」

「その前に、だ。まあ…少し話さないか?」

「…僕のことだよね」

「今はそれ意外ねーだろ」


そう言ったのち、部屋の中が静まり返る。

まだ時間も早いし、ゆっくり話せばいい。
きっと心を開いてくれるはずだ。


「髪の毛。少し黒い所が目立ってきてんな」

「やっぱり目立つよね、これ…」


頭を隠すように触りながら、不安そうな顔をする。
どうして黒くなってしまうのかを聞かれるのだろうか。

それならもう自分から話した方がいいと踏んだ遥海が、口を開く。

「これね、薬の影響。神様のクローバーの成分が入ってるんだって」


そう言って鞄の中をゴソゴソと漁り、小瓶に入った赤い錠剤を見せる。


「四葉の医療チームが開発したの」

「お前んち本当にすげぇな…医療にまで…」

「有り難いお布施のおかげです」

「それは言うな」


えへへ~っと、誤魔化すように笑う遥海だったが、今日はそうはいかないと騎士は心に決めていた。

聞きたかった、遥海の本心を確認したかった。


「お前、本当はどう思ってんだ?あと数年で死んじまうことを」

「だからその…被害者の会で、のんびり余生を…」

「違うんだろ?本当は生きていたいんじゃないのか?」

「本、当…?」


ぱんぱんに膨らんだ水風船が、鋭い矢で射抜かれる寸前。


やめて。溢れてしまったら戻れなくなる。


もう笑えなくなってしまう。


水が溢れてしまったら、この手じゃ全部すくえない。


「本当の気持ちを話せよ!まだ死にたくないんだろ?」


その一言で心につっかえていた糸が切れた。
震える肩を自分で抱きしめる遥海


「そんなの…叶わないもん」


「神様のクローバーがありゃ治るんだろ?まだ生きられる可能性、あるじゃねぇか!」

「だって…だってそれは、分けてくださいって言ったらさ、四葉は潰れちゃう」


「みんな不安になっちゃう。そして迷ってしまう。四葉を信じる人たちを裏切れないよ」


「お前の幸せはどうなんだよ!」


真剣な目でそう告げる騎士と、いよいよ泣き出しそうな遥海。


「いいから泣けよ」


「やだ…やめてよ…僕がどれだけ、我慢…!」


その瞬間、せきを切ったように涙があふれ出し、とめどなく頬を伝う。
嗚咽もまだ我慢しているようだったが、次第に大声で泣き始めた。


「ほら、やっぱ我慢ばっかしてんじゃねぇか」


そう震える声で告げる騎士の瞳も真っ赤になっていた。


「今まで一緒に泣いてくれた友達なんか、いなかったんだよな?」

「いなかった…」

「で?お前は本当は…どうしたいんだ?」


「まだ死にたくない!!」

いっそう大声で叫ぶように泣く遥海。


「もっと…もっと早く、自分の幸せも、願えばよかった!」


「そうだぞ、お前。人の幸せばっか願ってないで、もっとお前らしくワガママでいろ!」


「死にたくないよぉ…!」

「俺だって!…お前が死ぬのは御免だ!」


頬を濡らしながら本音をぶつけ合う二人。

そうだ、遥海の本当の気持ちも、騎士自身の気持ちも、言葉にしてようやく真の意味で理解できた。


徐々に泣き止む二人。騎士は鼻をすすり、ずいっと遥海にティッシュの箱を差し出す。


「ほら、俺の布団で拭くなよ。これ使え」

「うん。ありがと」


泣きそうな顔の時の遥海も、こんな風に声を出して泣くのを我慢していたのだろう。
涙を見せ合う男の友情は、本物なのだ。


「クローバー、絶対に持って帰ってきてやる」

「双葉に行くの?…危ないよ」

「護衛、暫く休みをくれないか?とりあえず、俺なりにやらせてくれ」

「うん…」


宗教施設に喧嘩を売りに行った経験などないが、騎士は真向勝負の話し合いでどうにかしようと考えていた。

気持ちはもう、お互い切り替わったはずだ。


「そうだ、ホクロの鳥見るか?」

「そうだった…その子見に来たのに」


鳥を見に来たのに騎士の策略にハマり、ギャン泣きしてしまった自分がちょっと恥ずかしくなる遥海。


「もう僕の事泣かせないでよね!」

「いや、それは約束できないな」


「神様のクローバーを持ち帰ったらまたお前、泣くだろ?嬉しくて」

「もう!ああ、でも泣く…かも」

「悲しい涙は今日ので終わりだ」


そう言いながら巣箱をひとつ、ベランダから大事そうに抱えた騎士が、ゆっくり部屋の中央のテーブルへ置く。


「このつがいが、最初にウチに来たんだ」


その巣箱には「ボス」と手書きのマーカーで書いてある。


遥海が巣箱の穴の中を覗き込むと、そこには寄り添って眠る二羽の小鳥がいた。
右の小鳥の額には、確かにぽつんとほくろのような黒い毛が生えていた。


「これって僕と同じ、生まれつきかな?」

「ああ、きっとそうだ」


嬉しそうな笑顔になる遥海。
しばらく小鳥を眺めていた。


遥海がなかなか帰る様子がないので、なにか食べないかと食事を促した。
気付けばもう外は暗くなっていた。


大泣きした後で食欲はあまりなかったが、マキノが一生懸命作った食事だ。
有り難くいただかなくては。


一旦護衛の仕事を抜ける事も、きっと今頃どこか近くでもう聞いているのだろう。


騎士の部屋、隣の空室。その屋根裏でマキノは人知れず涙していた。


慕っているプリンス様の本当のお気持ちを聞いたのだ。無理もない。
このように心を痛めていらしたのだと、涙が止まらなかった。


その日は皆、目を腫らしてアパートで眠った。
マキノも屋根裏で静かに目を閉じる。


風呂にも入らず、ボロいけれど暖かいその空間で。


それはまるで、嵐の前の静けさのようであった。




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