バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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51話 今でも残る忠誠

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51話 今だに残る忠誠



王宮の使いの者が来るとは聞いていたが、団長室に入って来たのは、あのアルディータ・フルーレだったとは。

苦手なんだよな….

父親のである総騎士団長プレスト・フルーレと顔がそっくりで。
鍛錬でしごかれた日々がチラついて、今でも気が張る。

「久しぶりだなリソルート」

ほら…声まで似ている。

「お前がここに来るとは珍しいな。要件は?」

「急かすなよ。共に国法試験に打ち勝った昵懇の仲だろ?」

「国法試験っていつの話だよ。『アンブルメン』に行きたいんだ」

「アンブルメン?何だそれ?」

知らなかったか。僕の勝ちだ。

「リソルート。お見事だったよ。こちらは何も手立てがないが、王家も必死でね。悪あがきをしにきた」

「お前、暇なんだな。慰謝料か?」

「あぁ。ヴィヴァーチェ王女殿下との婚約における慰労報奨金を請求する」

面白いな。軽く遊んでやろうか。

「…いいだろう。それで?金額は?」

アルディータが持っていた書類を僕に示すと、昨年、王家の私的支出に匹敵する金額だった。

「この金額はどの国法と慣例に基づいて、算出された?」

僕は書類の金額をあえて指でコンコンを音を立てた。

「国王と王女殿下の頭の中にある」

あの二人の頭の中には何もない。
ただキリのいい数字を言っただけだ。

「ならば聞くが——
王女殿下が私に“慰労金”を請求できるほど、婚約者としての相応しいふるまい、義務や役割は果たされたのだろうか?
それを証明できる客観的事実を、証拠として提出できるのか?」

「ない。あるわけないだろ」

「だったらお前は何をしにきたんだ!」

「ただのパフォーマンスだよ。本題は別にある」

タキトスもアルディータもなぜ、すぐに本題に入らない。暇なのか。

「間も無くヴィヴァーチェ王女殿下の婚約が発表される。相手はまぁ…周知の事実だが、フェルヴィド・ペルデント侯爵子息だ。この侯爵家とはシレージオ王国ときな臭い話がある」

シレージオ王国が出てくるとは面倒ごとにならなければいいが…

「王女殿下の生誕祭あたりからシレージオ王国からペルデント家に接触している。多分お前と婚約解消したことが公になり動き出したのだろう」

皮肉にも僕が盾となっていたか。

「今、侯爵家のボンクラワインはシレージオ王国で飛ぶように売れている。そのおかげもあって今回の王女殿下の生誕祭の費用は王家と侯爵家で折半することになった」

ならば良かったのでは…とはならないな。
「話は分かった。こちらも探っておく。話はそれだけか?」

「あともう一点。『アンブルメン』の営業時間は十七時までだ。ちなみに明日は休業日。残念だったな」

そう言って十七時を示した懐中時計を、僕に見せた。

詰めが甘いな。

「今日は店舗と周辺の状況確認、移動時間の計算だ。そして私のターゲットは…明後日の木曜日限定の“芳醇ラズベリーマカロン”だ!」

軽くアルディータを睨むと、「さて、あの2人に何て言い訳しようか」と話を逸らした。

マルツイのおかげで僕の連勝だ。

アルディータは僕の胸元にある、王族の血筋だけが許される紋章にそっと触れて、
「リソルート。父も、俺も準備はできているぞ。早く俺たちを臣下にさせろよ」と僕を睨み返す。

アルディータは僕に対する忠誠心を捨てきれない。
そしてそれはアルディータだけではない。
父上が玉座に座ったとしても僕は座ることはないと再三言っている。

「バケモノでは玉座に座れない。何度も言わせるな」

「それでも俺が膝をつくのはお前だけだ」

お前の忠誠は痛いほど分かっているつもりだ。
だが、僕は王座には座らない。

アルディータは手を胸に当て、王族に対する礼をとり静かに出ていった。
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