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74話 料理人の矜持
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74話 料理人の矜持
レアソル城 料理長視点
リソルート様専属の侍従から
『安息のブレッド・ベリーの涙コンポート』という名の料理を朝食にご所望だと伝えられた。
どちらかでお召し上がりになられたかと聞くと、リソルート様はただならぬ雰囲気で、色々思案している様子だったと教えてくれた。
どのような料理をご所望なのかと、こちらも思案するが、
『その名の料理でリソルート様のお心が平安になる』
いつも飄々とした侍従に、赤く潤んだ目で言われると、レアソル城の料理人たちも目の色を変えて、案を出し合った。
安息・ブレッド・ベリー・涙・コンポート
キーワードごとにリソルート様が求めているものを検討し始めた。
一番難解だったのは“安息”と“涙”であった。
常に品行方正、完璧、優秀を求められ、リソルート様がそれに応え続けてきたことは、裏で働いている我々料理人も知っている。
そしてあの痛ましい事件のことも…
当時、料理人たちは皆、自分たちの料理でリソルート様のお心に寄り添いたいと様々な料理を考えた。
顔の怪我でお口元が動きにくいと知ると、食べやすい料理を考えた。
お好きなとうもろこしのスープをうまく飲み込めなかったと聞くと、別の調理法を考えたが、「好きなスープが飲めなくなると更に落ち込むからそのままで良い」と奥様が仰った。
それからは今までのお料理のまま、でもお召し上がりやすいようにと心がけた。
最近は長かった抑圧から解放され、仮面越しからも表情が良くなったようだと使用人たちが話していた。
ようやくリソルート様に”安息“の日が訪れたのか…
そうすれば”涙“は何を意味する?
我々は“笑い泣き“であってほしいと願ってしまう。
よし、決まった。
安息のブレッドは、生地にクリームチーズを加え、焼き上がったら厚めに切る。
軽く卵液に潜らせ、両面をカリッと焼き上げたら皿に盛り、ラズベリーとブルーベリーをコンポートしたもの添える。
ベリーのソースには新鮮なイチゴが欲しいところだが、あいにく今は時期外れだ。
乾燥させていたイチゴをベースにラズベリー、ブルーベリー、それに甘みのハチミツを少々加え、アクセントにオレンジピールを刻んで入れる。
そしてリソルート様の前で上からゆっくりそっと垂らす。
時々、落ちてくるオレンジピールは笑い泣きの大粒の涙。
さぁ!早起きのリソルート様の朝食まで時間がないぞ!
厨房の者たちが一斉に動き出す。
夜明けには甘く香ばしいパンが、ふっくらと焼き上がった。
ベリーのソースも完璧だ。
リソルート様がテーブルに着かれたと連絡が入り、目覚めのお茶を召し上がっている間にパンを仕上げる。
よし、いい焼き加減だ。
庭師たちが丹精込めて育てたラズベリーとブルーベリーのコンポートを添えて、最後の仕上げはリソルート様の前でお披露目だ。
リソルート様の前に安息のブレッドを並べる。
あとは私がベリーのソースをかけて……
「いただこう」と言ってナイフとフォークに手が向かうが、
「リソルート様。もし宜しければベリーのソースをご自身でかけてみませんか。
…時々落ちてくるオレンジピールが目を楽しませてくださいますよ」
使用人の弁えを超えていると激怒されるだろうか…
しかし心配は杞憂だった。
ご自身でソースをかけるそのお姿は、リソルート様が幼き頃、まだ仕込み中のとうもろこしのスープを、つまみ食いした時のようにキラキラとした目をされていた。
——あぁ、懐かしい
…お坊ちゃまと呼ばれていた時を思い出した。
ベリーのソースを焼き上げたパンにたっぷり絡め、ゆっくり一口召し上がると「僕の顔はこんなにも美味しいのか。あの御仁にも召し上がっていただきたい」と言い、
またご自身で残りのソースを全部かけて、あっという間に完食された。
“あの御仁”が誰か分からないが、リソルート様にとって大事なお方だろう。
側で控えていた我々は、そっと目尻を拭いた。
「とても美味しかった。ありがとう」と料理人たちへのお言葉をいただいた。
我々は僅かながら”安息“をお届けすることができただろうか。
颯爽と騎士団に向かわれるリソルート様のお背中に、今までにない逞しさを見た。
レアソル城 料理長視点
リソルート様専属の侍従から
『安息のブレッド・ベリーの涙コンポート』という名の料理を朝食にご所望だと伝えられた。
どちらかでお召し上がりになられたかと聞くと、リソルート様はただならぬ雰囲気で、色々思案している様子だったと教えてくれた。
どのような料理をご所望なのかと、こちらも思案するが、
『その名の料理でリソルート様のお心が平安になる』
いつも飄々とした侍従に、赤く潤んだ目で言われると、レアソル城の料理人たちも目の色を変えて、案を出し合った。
安息・ブレッド・ベリー・涙・コンポート
キーワードごとにリソルート様が求めているものを検討し始めた。
一番難解だったのは“安息”と“涙”であった。
常に品行方正、完璧、優秀を求められ、リソルート様がそれに応え続けてきたことは、裏で働いている我々料理人も知っている。
そしてあの痛ましい事件のことも…
当時、料理人たちは皆、自分たちの料理でリソルート様のお心に寄り添いたいと様々な料理を考えた。
顔の怪我でお口元が動きにくいと知ると、食べやすい料理を考えた。
お好きなとうもろこしのスープをうまく飲み込めなかったと聞くと、別の調理法を考えたが、「好きなスープが飲めなくなると更に落ち込むからそのままで良い」と奥様が仰った。
それからは今までのお料理のまま、でもお召し上がりやすいようにと心がけた。
最近は長かった抑圧から解放され、仮面越しからも表情が良くなったようだと使用人たちが話していた。
ようやくリソルート様に”安息“の日が訪れたのか…
そうすれば”涙“は何を意味する?
我々は“笑い泣き“であってほしいと願ってしまう。
よし、決まった。
安息のブレッドは、生地にクリームチーズを加え、焼き上がったら厚めに切る。
軽く卵液に潜らせ、両面をカリッと焼き上げたら皿に盛り、ラズベリーとブルーベリーをコンポートしたもの添える。
ベリーのソースには新鮮なイチゴが欲しいところだが、あいにく今は時期外れだ。
乾燥させていたイチゴをベースにラズベリー、ブルーベリー、それに甘みのハチミツを少々加え、アクセントにオレンジピールを刻んで入れる。
そしてリソルート様の前で上からゆっくりそっと垂らす。
時々、落ちてくるオレンジピールは笑い泣きの大粒の涙。
さぁ!早起きのリソルート様の朝食まで時間がないぞ!
厨房の者たちが一斉に動き出す。
夜明けには甘く香ばしいパンが、ふっくらと焼き上がった。
ベリーのソースも完璧だ。
リソルート様がテーブルに着かれたと連絡が入り、目覚めのお茶を召し上がっている間にパンを仕上げる。
よし、いい焼き加減だ。
庭師たちが丹精込めて育てたラズベリーとブルーベリーのコンポートを添えて、最後の仕上げはリソルート様の前でお披露目だ。
リソルート様の前に安息のブレッドを並べる。
あとは私がベリーのソースをかけて……
「いただこう」と言ってナイフとフォークに手が向かうが、
「リソルート様。もし宜しければベリーのソースをご自身でかけてみませんか。
…時々落ちてくるオレンジピールが目を楽しませてくださいますよ」
使用人の弁えを超えていると激怒されるだろうか…
しかし心配は杞憂だった。
ご自身でソースをかけるそのお姿は、リソルート様が幼き頃、まだ仕込み中のとうもろこしのスープを、つまみ食いした時のようにキラキラとした目をされていた。
——あぁ、懐かしい
…お坊ちゃまと呼ばれていた時を思い出した。
ベリーのソースを焼き上げたパンにたっぷり絡め、ゆっくり一口召し上がると「僕の顔はこんなにも美味しいのか。あの御仁にも召し上がっていただきたい」と言い、
またご自身で残りのソースを全部かけて、あっという間に完食された。
“あの御仁”が誰か分からないが、リソルート様にとって大事なお方だろう。
側で控えていた我々は、そっと目尻を拭いた。
「とても美味しかった。ありがとう」と料理人たちへのお言葉をいただいた。
我々は僅かながら”安息“をお届けすることができただろうか。
颯爽と騎士団に向かわれるリソルート様のお背中に、今までにない逞しさを見た。
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