バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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111話 十一年後に報われる英断

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111話 十一年後に報われる英断

レアソル家とレガート家による正式な婚約契約は、年末の感謝の日に執り行うことができた。
今日、この日を迎えることができて、僕は浮き足立っていた。

だが、その前にやるべきことがある。

あの者たちの事情をレガート家に話すのは、ミスティアの負担を避けるため、暖かく可愛らしい花が咲く温室なら、多少の癒しにはなるのではないかと母の提案であった。

レガート家の馬車が到着し、レガート伯爵夫妻が馬車から降り、長兄、次兄と降りてきた。
次はミスティアかと待ち焦がれていたが、僕だけではなく、レアソル家の出迎えた使用人たちの目が次兄に釘付けになった。

次兄のアルダーテが背中に何かを背負っている。
…なんだろうか?
ミスティアに会えた大きな喜びが、次兄のせいで少し逸れてしまった…

温室までミスティアをエスコートしながら
「試験合格おめでとう。よく頑張ったね。僕も自分のことのように嬉しいよ」
小さな声で伝えた。
「ありがとうございます。リソルート様のおかげです」

「いや、ミスティアの努力の賜物だ。ところで…」
僕が次兄の背負っているものを、聞いても良いのだろうか…
簡単に手出ししてはならない、聖域にさえ感じるんだが…

みかねた執事長がアルダーテ氏に
「ようこそおいでくださいました。よろしければお預かりいたしますが」声をかけた。

しかしアルダーテ氏は、至極真っ当な表情で、

「お気遣いありがとうございます。
しかし私は荷物を背負っているのではなく“責任“を背負っております。
この”責任“を人任せにするわけにはいきませんので」

そう言われてしまっては、あの執事長ですらどうしようもない。
レアソル家の使用人たちに軽い敗北感が漂った。

温室では父と母、そして事情を知る者が待っていた。
当然、アルダーテ氏の様子に父が『どういうことだ?』と僕に視線を送る。
「問題ありません…」とだけ軽く返答しておいた。

「レガートご家族の皆様、ようこそ。
ミスティア嬢、試験合格おめでとう。

あの試験は非常に難易度の高い試験と聞く。
君の努力の積み重ねの結果だ。
実に、素晴らしい」

「レアソル大公閣下。本日はご招待いただきありがとうございます。
ミスティアへの祝辞ありがとうございます」

レガート伯爵当主が、ミスティアに目配せをする。

「身に余るお言葉、誠にありがとうございます。
温かいお言葉に、心より嬉しく思います」

「本日はリソルートとレガート伯爵令嬢との正式な婚約契約となる運びですが、その前にお話しておきたいことがございます。
…まずは会ってやってほしい者たちがいます」

侍従に連れられ、三人が温室に入って来る。

三人は表情が硬く、下を向いたままだ。
ミスティアが怯えたら、レガート伯爵が三人に詰め寄ったら…

レガート家の皆は、忘れないでいてくれたようだ。
穏やかな表情が一変し、驚きに声が出ない。
レガート伯爵当主は導かれるように一歩ずつ前に出る。

「もしかして、あなたたちは…あの時のヴィヴァーチェ王女殿下の…」

三人は顔を見合わせ、護衛騎士だった、下男のマイクが「…はい。十一年前、王女殿下をお止めすることができず…」と話し始めるが、自責の念と嗚咽で言葉が続かない。

「私たちは、ずっと君たちにお礼が言いたかった。
あんなに血を流したミスティアの命が助かったのは…君たちのおかげだ。
…深く、感謝する」

ミスティアもエイミーに駆け寄り、手を握る。

「あの時の侍女の方?私、あの時の侍女の方に感謝の言葉をお伝えしたいと…

ご自分の服で私の右肩を押さえ、呼びかけてくれました。そのお声に励まされました。

この十一年間、そのことが気がかりでした。
ありがとう…ありがとうございます」

僕はミスティアが感謝の気持ちで、駆け寄るとは思いもしなかった。
恐怖に怯えるのではないかと、その心配ばかりしていた。

「レアソル大公閣下。このような機会を賜り、どのように感謝の気持ちをお伝えすれば良いのか…
今の私には、言葉で表現しきれません…」

ミスティアは声を潤ませ、懸命にお礼を伝えようと言葉を探す。

父の表情が次第にほぐれ、彼女の気持ちを受け止めるように声をかけた。

「大丈夫だ。ミスティア嬢。
君の思いは十分すぎるくらい彼らにも、私たちにも伝わっている。ありがとう」

「レガートご家族の皆様、事情をお話させていただいてもよろしいかな」

「えぇ。ぜひお願いします」

レガート伯爵当主の目は真相を知りたがっていた。

父上は十一年前の出来事を話し始めた。

三人はあの事件のあと王領直轄の孤島送りとなった。
だが、理不尽な刑罰に憤りを感じ、あらゆる手を尽くし、騎士と王城の者たち数名で救い出した。

ここに来た当初、三人は衰弱しきっており、生死の境にいた。
レアソル家の医術師たちによる懸命な治療で、次第に回復していった。

そして——

御者は庭師のウイリーに、
侍女は下女のエイミーに、
護衛騎士は下男のマイクという、名でこの城に仕えていること。

そして僕に仕えている侍女エイミーとタキトスの婚姻について。

話を聞き終えたレガート家族は「レアソル大公閣下のご英断、我々は深く賛同します」と頭を下げた。

ミスティアはこれまでの時間を埋めるかのように、彼らとの会話が弾んでいる。

「ミスティア、研修や試験のことも教えてやってくれないか?」

「えぇ、私の話でよければ」

そう言ってミスティアは、第一騎士団での研修の日々、マルカトと勉強に励んだこと、薬術師試験のこと。尽きることなく、楽しそうに話す。
今だけは君の口から他の男性を呼ぶことを許してあげよう。

ミスティアの口から聞く息子の近況に、ウイリーは目を細めて、何度も頷き聞いている。

今日は誰もが心静かに過ごす感謝の日。

寒空の雲の隙間から覗かせた太陽が、それぞれの十一年の思いに、祝福の光を届けてくれた。
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