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のんきな兎はもやもやする
しおりを挟むロイは二日、休みを貰ったらしいけれど、僕は仕事のため朝早く起床。そんな僕に合わせてロイも起きると、仕事場まで送ってくれる。
何故かそのまま訓練場に行っちゃったけれど、休みなんだよね?僕は首を傾げながら、自分の仕事を行う。そして、そろそろ終わりだという頃、ロイが迎えに来た。そのまま一緒に帰るが、前を通った訓練場から呻き声が聞こえてきて、ぴゃっと飛び上がる。誰かが倒れているかもしれないと行こうとすると、ロイに止められて大丈夫だと言われたので、ロイが言うならと、チラチラ振り向きながらも足を進める。そして、二人で帰ろうと出た時、
「あっ、ロイ隊長さん!あの、これ、良かったらどうぞ……!」
猫獣人の女の子が、顔を上げるとハッとしたように駆け寄ってくる。そして、顔を赤くしながら持っていた可愛らしい小さい紙袋を差し出してきた。
「なんだ?……あぁ、あの時の。」
ロイはこの子を知っているようで、差し出されたそれを受け取る。
「あの時は、本当にありがとうございました!あの、それで、今日の夜時間があれば、ご飯でもご馳走したいなって……。」
猫耳をピルッと動かし、下から伺うように見るその子は、僕から見ても可愛らしくて、心がざわざわする。
「気にしなくていい。でも、俺らが通ったから良かったものの、外に行く時は気を付けろよ。」
心なしか、ロイの口調が優しい気がして、それにも僕はもやもや。
「で、でも、せめて何か……!」
食い下がるその子に、ロイは宥めるように返して、二人だけで共有しているような話し方に居たたまれなくなる僕。
「もう日も暮れる。遅くなる前に帰れ。」
そう言うロイに、渋々と頷き、僕をチラッと少し伺うように見るその子と目が合ってしまい、視線を逸らす。そして、キュッとロイの服を掴んだ。そんな僕を、チラッと視線だけでロイが見下ろしてくる。でも、僕はロイの顔を見れなくて、そろそろとロイに近付いてピットリくっつく。
「何だ?いきなりどうした。」
そんな僕を見下ろして、ロイが不思議そうに聞いてくるが、僕は遠ざかっていく猫獣人のあの子の後ろ姿を見ながら、口を尖らせる。
「あの子、誰?あの時ってどの時?……ロイ、優しかった。」
「あぁ?討伐に向かった時に魔物に襲われそうになってたんだよ。それを助けただけだ。…優しいって、俺はいつも優しいだろーが。」
「僕には怒るもん。ガァって怒るもん……。」
「ガァって……。そんなに怒ってねぇだろ最近は。」
「昨日も怒った……!」
「あれはお前が式典用の服を汚してたからだろーが!」
「うぅ、やっぱり僕には怒るんだ……。怒られるの怖い、優しくして欲しい……。」
「自ら怒られにきてるくせに何言ってんだ。……こっちは過保護だの甘やかしてるだの、散々揶揄われてんだぞ。」
ロイは、ぴっとりとくっつく僕の垂れている兎耳を掬い上げるようにして撫でると、呆れたようにそう言った。口調とは逆に優しく撫でられて僕も少し機嫌が直る。でも、もやもやは晴れないまま、引き摺られるようにして家へと帰った。
僕は、家に帰ってもなくならないもやもやに首を傾げながら、ご飯を食べる。また膝に乗って食べさせて欲しかったけど、駄目だって言われてしょんぼりモードの僕。その代わり、くっつくのは許してくれたから、ロイの大きい背中にぺったり張り付く。そうして思う存分くっつくことが出来たにも関わらず、なかなかもやもやは晴れてくれず、夜が更けていった。
「……はぁ。」
溜め息をつく僕に、討伐時に負傷し訓練を休ませられている騎士のロドニーが顔を向けてくる。
「何だ?退屈か?俺は退屈だ。早く動き回りたい。」
「足の怪我が治るまでは駄目だよ。ロイにも安静にしてろって怒られたでしょ。」
「だってよ~、俺、身体動かす方が好きなんだよ~。」
そう言い、包帯をグルグル巻いては積み上げていくロドニー。僕は薬草の補充をしている。ロドニーは、足を負傷しているにも関わらず、訓練に参加しようとしてロイに叩き出されたらしい。帰らせるとどうせトレーニングするだろうからと、僕と一緒にお仕事だ。ロドニーは動かないとストレスが溜まるタイプらしい。
「で、何なんだよ。」
項垂れながらそう聞かれて、
「あのね……。ここのところ、毎日ロイを待ってる子がいるんだ。僕、何だかもやもやするの。」
「……おう。え?あー、何?隊長の追っかけ?……あぁ!確かにいたわ、魔物に襲われそうになってた子。あ~、なるほどなるほど。でも関係ねぇだろ。ウルルは隊長の番なんだから。」
猫獣人の子のことを話すと、ロドニーも心当たりがあったようですぐに思い出したようにそう言ってくる。しかし、僕は兎耳を垂らして下を向き、薬草を分けていく。
「番じゃないもん……。」
「は……?いやいや、いいって、そんな嘘…え?マジで言ってる?隊長、あんだけ囲ってて?」
笑い飛ばすように言ったロドニーだが、僕のしょんぼりを見て驚愕したように目を見開く。
「ロイ、その子からいつもプレゼント貰うの…。」
しょぼしょぼする僕に、
「あーっと、ウルル、それちゃんと隊長と話した方がいいぞ。な?もやもやするんだったら、ちゃんと話せよ?」
そう言い、それからも何度もロドニーは僕にそう言い聞かせてきた。僕は、この気持ちをどうやってロイに伝えたらいいのか分からなくて、甘やかしてもらうのだが、その時はそれで満足なのだ。でも、またもやもやが湧き出て来る。
今日はロイが迎えに来るのが遅い。たまには僕の方から迎えに行こうと、仕事場を離れる。だが、訓練場にも食堂にも、騎士団長部屋にもいない。僕は、一体どこに行ったんだろうと、ふらふら彷徨っていると、
「本当ですか!?ありがとうございます!」
あの子の一際大きく嬉しそうな声が聞こえ、兎耳がピンと立った。きょろきょろと見渡しながら、その声の方へと近付いて行く。すると、
「あぁ、じゃあ3日後でいいか?」
ロイの肯定する言葉と共に、約束らしきやり取り。僕は、血が下へ流れていくのを感じて、立っていられなくなる。その場に座り込んで、端っこに寄った。外で話しているらしい二人からは、中にいて窓の下に座り込んでいる僕には気付かない。耳に残っているのは、あの子の嬉しそうな声。ピンと立っていた耳は、しおしおと萎れて垂れてきた。
……二人でお出掛け?
何だかすごく悲しくなってきた僕は、視界がうるんできて涙が流れてくる。座り込みながら、ぐすぐす泣いてしまった。
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