神様と悪魔さま

相馬正

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第一話 悪魔さま誕生(1/4)

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 ここは町はずれにある静かな森に囲まれた小さな小さな教会。


 ― ここが私の家 ―


「こらトロン! 顔を洗いなさい!」

 いたずらっ子のトロンがまた神父様に叱られてる。しかも神父様にがんじがらめにされて、顔まで真っ赤だ。ジタバタしてみっともなーい。
 そのトロンがこっちを見て私を指差した。

「エ、エンティーだって洗ってないよ!」

 な!! このクソガキ!

「トロン! アンタ何言ってんのよ!」

 ゆっくりとこちらを向く神父様。まさかのお鉢が回ってきた。

「今のは本当かい、エンティー?」

 低く渋い声が私を問いただす。この教会で唯一大人の神父様は、大人ってことを差し引いても、凄く背が高くて体格もいい。その姿で詰め寄る様はまさに鬼神のようだった。当然これまで誰も逆らったことはない。
 神父様の言うことはいつも正しいし、ここは教会だし、そもそも嘘をつくこと自体が許されない。
 だからロザリオに手をかけ、発する言葉には嘘偽りがないことを明言する。

「は……はい」

 いいの? このまま屈服して顔を洗うの? 本当にそれでいいの《エンティー・ティ》!
 洗面台ではトロンが観念して顔を洗っている。なんて惨めな姿なの。いやよっ、いや! あり得ない! 今二月よ!

 顔を洗い終わった他の子達はとっくに食堂に移動していた。楽しい朝食を前に、私達のことなど気にする子は一人もいない。

「さあ、次はエンティーの番だよ」

 神父様がニッコリと私に微笑みかける。長身でイケメンという容姿に不釣り合いな“あごヒゲ”の両脇が上がる。既におじい様の域に入ろうかというのに、このスマイルがミサにくる淑女達を癒してるのはズルくないの?
 くっ、カッコいい神父なんて反則だ。負けちゃ駄目エンティー、「いやだ」って言うのよ!

「さあ」

「う……るっさい!!」

 瞬間、場が凍りついた。頭の中は発した言葉がグルグルこだましていく。あの神父様に歯向かってしまった……
 トロンの顔が驚きのあまりとんでもなく不細工になっている。イケメンの神父様でさえ、呆気にとられ口が半開きになっていた。

「エ、エンティー、顔を洗いなさい!」

「い、いやだ! お水冷たーい」

 嘘。本当は顔を洗うことくらいなんでもない。トロンのやつが“ちくった”のは許せないけど、それでも神父様に逆らうなんて、いつもの私だったら絶対にしない。
 そうだ、この小さな反抗は……ほんのキッカケにすぎないのかもしれない。

「じゃ、じゃあ神父様のおヒゲはー? 伸ばしちゃって不潔ー」

 私は思ってもいないことを口にした。本当はそのおヒゲもカッコいいと思っているのに。

「毎日洗っている」

ればいいじゃん」

「刃物は使えないのだよ」

「どうしてー?」

「私は神に仕える身だからだよ」

「……」

 なんでこんなバカげた抵抗をしたのか、それがこの誘導尋問の為だと分かった。
 
 トロンがハラハラした顔で私達を交互に見つめる。そうそう、コイツへの仕返しも考えておかないとね。お楽しみは後に取っておくとして……それより今は、これから言わんとすることを頭の中で整理しておかないと。この機会を逃したら、きっと二度と言えない気がする。

 ただ、それを口にするのはとてもためらわれ、自然と口が重くなる。

 本当なら素直に顔を洗えばいい、反抗したことも謝ればいい、それがいつもの自分だ。だけど今は、その全てを呑み込んだ……


 ― 決意を胸に口を開く、それは禁じられた言葉 ―


「ねえ神父様、《神様》って……本当にいるの?」
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