1 / 7
第一話 悪魔さま誕生(1/4)
しおりを挟む
ここは町はずれにある静かな森に囲まれた小さな小さな教会。
― ここが私の家 ―
「こらトロン! 顔を洗いなさい!」
いたずらっ子のトロンがまた神父様に叱られてる。しかも神父様にがんじがらめにされて、顔まで真っ赤だ。ジタバタしてみっともなーい。
そのトロンがこっちを見て私を指差した。
「エ、エンティーだって洗ってないよ!」
な!! このクソガキ!
「トロン! アンタ何言ってんのよ!」
ゆっくりとこちらを向く神父様。まさかのお鉢が回ってきた。
「今のは本当かい、エンティー?」
低く渋い声が私を問いただす。この教会で唯一大人の神父様は、大人ってことを差し引いても、凄く背が高くて体格もいい。その姿で詰め寄る様はまさに鬼神のようだった。当然これまで誰も逆らったことはない。
神父様の言うことはいつも正しいし、ここは教会だし、そもそも嘘をつくこと自体が許されない。
だからロザリオに手をかけ、発する言葉には嘘偽りがないことを明言する。
「は……はい」
いいの? このまま屈服して顔を洗うの? 本当にそれでいいの《エンティ・ティー》!
洗面台ではトロンが観念して顔を洗っている。なんて惨めな姿なの。いやよっ、いや! あり得ない! 今二月よ!
顔を洗い終わった他の子達はとっくに食堂に移動していた。楽しい朝食を前に、私達のことなど気にする子は一人もいない。
「さあ、次はエンティーの番だよ」
神父様がニッコリと私に微笑みかける。長身でイケメンという容姿に不釣り合いな“あごヒゲ”の両脇が上がる。既におじい様の域に入ろうかというのに、このスマイルがミサにくる淑女達を癒してるのはズルくないの?
くっ、カッコいい神父なんて反則だ。負けちゃ駄目エンティー、「いやだ」って言うのよ!
「さあ」
「う……るっさい!!」
瞬間、場が凍りついた。頭の中は発した言葉がグルグルこだましていく。あの神父様に歯向かってしまった……
トロンの顔が驚きのあまりとんでもなく不細工になっている。イケメンの神父様でさえ、呆気にとられ口が半開きになっていた。
「エ、エンティー、顔を洗いなさい!」
「い、いやだ! お水冷たーい」
嘘。本当は顔を洗うことくらいなんでもない。トロンのやつが“ちくった”のは許せないけど、それでも神父様に逆らうなんて、いつもの私だったら絶対にしない。
そうだ、この小さな反抗は……ほんのキッカケにすぎないのかもしれない。
「じゃ、じゃあ神父様のおヒゲはー? 伸ばしちゃって不潔ー」
私は思ってもいないことを口にした。本当はそのおヒゲもカッコいいと思っているのに。
「毎日洗っている」
「剃ればいいじゃん」
「刃物は使えないのだよ」
「どうしてー?」
「私は神に仕える身だからだよ」
「……」
なんでこんなバカげた抵抗をしたのか、それがこの誘導尋問の為だと分かった。
トロンがハラハラした顔で私達を交互に見つめる。そうそう、コイツへの仕返しも考えておかないとね。お楽しみは後に取っておくとして……それより今は、これから言わんとすることを頭の中で整理しておかないと。この機会を逃したら、きっと二度と言えない気がする。
ただ、それを口にするのはとてもためらわれ、自然と口が重くなる。
本当なら素直に顔を洗えばいい、反抗したことも謝ればいい、それがいつもの自分だ。だけど今は、その全てを呑み込んだ……
― 決意を胸に口を開く、それは禁じられた言葉 ―
「ねえ神父様、《神様》って……本当にいるの?」
― ここが私の家 ―
「こらトロン! 顔を洗いなさい!」
いたずらっ子のトロンがまた神父様に叱られてる。しかも神父様にがんじがらめにされて、顔まで真っ赤だ。ジタバタしてみっともなーい。
そのトロンがこっちを見て私を指差した。
「エ、エンティーだって洗ってないよ!」
な!! このクソガキ!
「トロン! アンタ何言ってんのよ!」
ゆっくりとこちらを向く神父様。まさかのお鉢が回ってきた。
「今のは本当かい、エンティー?」
低く渋い声が私を問いただす。この教会で唯一大人の神父様は、大人ってことを差し引いても、凄く背が高くて体格もいい。その姿で詰め寄る様はまさに鬼神のようだった。当然これまで誰も逆らったことはない。
神父様の言うことはいつも正しいし、ここは教会だし、そもそも嘘をつくこと自体が許されない。
だからロザリオに手をかけ、発する言葉には嘘偽りがないことを明言する。
「は……はい」
いいの? このまま屈服して顔を洗うの? 本当にそれでいいの《エンティ・ティー》!
洗面台ではトロンが観念して顔を洗っている。なんて惨めな姿なの。いやよっ、いや! あり得ない! 今二月よ!
顔を洗い終わった他の子達はとっくに食堂に移動していた。楽しい朝食を前に、私達のことなど気にする子は一人もいない。
「さあ、次はエンティーの番だよ」
神父様がニッコリと私に微笑みかける。長身でイケメンという容姿に不釣り合いな“あごヒゲ”の両脇が上がる。既におじい様の域に入ろうかというのに、このスマイルがミサにくる淑女達を癒してるのはズルくないの?
くっ、カッコいい神父なんて反則だ。負けちゃ駄目エンティー、「いやだ」って言うのよ!
「さあ」
「う……るっさい!!」
瞬間、場が凍りついた。頭の中は発した言葉がグルグルこだましていく。あの神父様に歯向かってしまった……
トロンの顔が驚きのあまりとんでもなく不細工になっている。イケメンの神父様でさえ、呆気にとられ口が半開きになっていた。
「エ、エンティー、顔を洗いなさい!」
「い、いやだ! お水冷たーい」
嘘。本当は顔を洗うことくらいなんでもない。トロンのやつが“ちくった”のは許せないけど、それでも神父様に逆らうなんて、いつもの私だったら絶対にしない。
そうだ、この小さな反抗は……ほんのキッカケにすぎないのかもしれない。
「じゃ、じゃあ神父様のおヒゲはー? 伸ばしちゃって不潔ー」
私は思ってもいないことを口にした。本当はそのおヒゲもカッコいいと思っているのに。
「毎日洗っている」
「剃ればいいじゃん」
「刃物は使えないのだよ」
「どうしてー?」
「私は神に仕える身だからだよ」
「……」
なんでこんなバカげた抵抗をしたのか、それがこの誘導尋問の為だと分かった。
トロンがハラハラした顔で私達を交互に見つめる。そうそう、コイツへの仕返しも考えておかないとね。お楽しみは後に取っておくとして……それより今は、これから言わんとすることを頭の中で整理しておかないと。この機会を逃したら、きっと二度と言えない気がする。
ただ、それを口にするのはとてもためらわれ、自然と口が重くなる。
本当なら素直に顔を洗えばいい、反抗したことも謝ればいい、それがいつもの自分だ。だけど今は、その全てを呑み込んだ……
― 決意を胸に口を開く、それは禁じられた言葉 ―
「ねえ神父様、《神様》って……本当にいるの?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる