はるかかなた

相馬正

文字の大きさ
1 / 33
一章 ラストワン

1-01 春の嵐

しおりを挟む
 いつもと変わらぬ教室の風景。
 この席は真ん中の列の前よりは後ろに近い位置にある。ここから眺める人の流れや耳に入る会話、築かれる人間関係を静かに観察している。かといってクラスで一番に登校するまでの意気込みはない。ある程度人が集まってからの雰囲気がいいと思う。
 次々と生徒が入ってきては賑やかになってきた。今朝もクラスの女子達は仲の良い者同士でまとまってワイワイはしゃいでいる。

「見て見てー、これ昨日原宿で買ったのー」

「きゃー、かっわいいー」

「でしょでしょー」

 すぐ横の一角でひときわ盛り上がったグループは、いつも4、5人でつるんでいる。高校生になると女子はそれなりに色気づいて、しかもみんなそれなりに可愛い。中でも彼女達のグループは一段と可愛い子が揃っていて、会話もおしゃれに関連したことや恋愛話が多い。
 そのうちの一人、《小金沢サキ》が俺に話し掛けてきた。

「ねえねえ田中君、これどうかな?」

 彼女の長い茶髪のストレートには、スワロフスキーをあしらったヘアピンがピンクの光りをキラキラと放っていた。

「へえ、可愛いねそれ」

「うっそー、やだー、ありがとー」

 喜んでもらえて何よりだが、いったい何が嘘で、何が嫌で、どうお礼に結び付いたのか全く意味不明だ。けれど、そうは思っても口には出さない。

「田中君、サキに惚れちゃ駄目よー」

 さらにもう一人の女子がわけの分からないことを言い出したので、適当に愛想笑いしておいた。褒めたのはヘアピンなのだが、それを言うとややこしくなりそうだ。付け加えると、決して小金沢が可愛くないわけではない。どっちかというと奇麗が過ぎるぐらいだ。

「おーっす、小金沢ー!」

「おっはよー三門君」

 クラスのそこそこの男どもはみな、小金沢に構いたがる。あのパッチリした目に潤いのあるピンクの小口、ポイントごとに目立つパーツを揃えてなお全体的に整った顔立ち。誰が見たってクラス一と答えるだろう。
 でも俺は、いくら可愛くてもいくら綺麗でも、化粧を盛った顔には惹かれないし、良さが判らない。当然、小金沢サキのことを意識することもなかった。それは変でも何でもなく、他に気になる子がいたからだと思う。

「見て見てー、これ昨日ギャップフロントで買ったのー」

「きゃー、かっわいいー」

「でしょでしょー」

 きた。
 教室の前の扉から二人の女子が入ってくる。その一人の《宮原ハヤミ》、俺は彼女のことが気になって仕方がない。色気もなにもない彼女は、今日も長い黒髪を無造作にくくり、赤い太ぶちの眼鏡をかけ、手にはポータブルゲーム機を持っている。いわゆる《オタ女》だった。

 窓際の一番前、俺の席からは少し遠い位置に座る彼女の声に耳を澄ませる。

「そうそう、私そろそろジョブチェンジしようと思って」

「えーなんで? ハヤのドロッ……おっとゴメン、ナイトは今じゃちょっとしたヒーローじゃない。勿体ないよ」

 彼女達の会話は半分以上が解読不能だ。さすがはオタ女。ちなみにもう一人の《白銀ミニ》も眼鏡だ。しかも銀ぶち眼鏡で短髪。この子も可愛いと思うんだが、いつから俺は眼鏡フェチになったのだろう? いや、断じてそれはない。二人とも眼鏡をはずしても可愛いと思う。それは確かだ。

「別にヒーローでいたいわけじゃないし、それに今度は魔法も使ってみたいなーって」

「待ってよー、ナイトいないと厳しいんだってば。せめて《エリサールの月》は落としておきたいの」

「りょーかい。じゃあ今夜にでも行きますか? シーフ殿」

「わーっ、ダメ、今の私のレベルじゃまだ無理っ」

「あっははは」

 ……さっぱり分からない。ナイトとかシーフとか、あとはエリサールの月だっけ? やっぱり何かのゲームの話だよな。

「うっわやだ、あっこでまたキモい話してない?」

 若干大きめの声でそう言ったのは隣の小金沢サキだ。彼女はあそこの二人を毛嫌いしている。その態度はクラスの他の女子や男子にまで影響していた。
 でも俺には、そんな周りの意見は気にならなかった。宮原ハヤミが後ろを向いて白銀と話す時に見せる笑顔――彼女のすっぴんで自然な笑顔は、化粧をしたクラスのどの女子のものより俺には破壊力があった。

 そんな、まだ恋かどうかも判らない二年の春が始まったばかりの今日、嵐は突然訪れた。

「ねえ、ハヤの好きなタイプってどんな?」

 それは白銀ミニが発した突拍子もない質問。俺は思わずドキっとした。と同時にクラス中が一瞬静まりかえっていた。
 教室から廊下に出ようとしたある男子は立ち止まり、数人の男どもは立ち上がり、座ったままの奴等も驚きの顔を彼女に向け、他の冷静を装った風の男どもも視線は彼女、宮原ハヤミに注目していた。

 シーンとなった教室。さすがにどんなバカでも、どんな鈍い奴でも判る。ほぼ全員の男子が宮原ハヤミを意識しているのだと。次の瞬間、クラスの女子から一斉に笑顔が消えた。とんでもなく悪いムードだ。
 けれど宮原ハヤミはそんな周りの空気など全く気にすることなく質問に答えた。

「もち、キング・カスケード」

「えー、それバーチャルじゃん」

「でも、実在する誰かではあるでしょ」

 キングなんたら? 何のことだいったい?
 静まった教室中に響いた今の会話をキッカケに、元の騒がしさが戻ってくる。まるで魔法で止まった時が動き出したようだ。そんなほんの短い緊迫が解けた後、俺の横で悪意を持った小さな一言が聞こえた。

「まじウゼェ」

 小金沢サキだった。周りの女子達も同調するように頷いていた。
 女子コエェ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

処理中です...