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一章 ラストワン
1-03 オタクギルド崩壊
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俺が所属してる……わけではなく、勝手に入れられたリアルギルド《おしゃれグループ》の活動は、日に日に活発になっていた。
「ねえ田中君、お昼一緒に食べよーよ」
小金沢サキとその取り巻き女子達が視線を送ってくる。まずい、ただでさえ休憩の度にわけの解らない会話に巻き込まれてるのに、昼休みまで拘束されたら堪らない。
なんとか回避しようと頭をフル回転させたが、いくら考えても“単独での脱退は不可能”という答えしか出なかった。もはや誰かを巻き込むしかない。
横目でちらっと教室にいる男子を確認する。とりあえず三門あたりがいいかもしれない。奴なら女子との溝もまだ浅い。
「みんなは弁当?」
「うんっ」
「そーだよ」
よしよし、おーけー、予想通りの回答だ。この均衡を破る重要な第一歩を三門、お前に預けよう。
「おーい三門、お前弁当だよな?」
「おう、それがどした?」
「みんなで一緒に食おうぜ」
ここでいう「みんなで」とは小金沢サキのいるおしゃれグループのことだ。一瞬、彼女達の表情に戸惑いが見えた。
いいのか? 三門を入れないならコイツを誘った俺だって入らないことになる。単純な交渉だけに要求はストレートで判り易いはずだ。
「それいいわね。三門君も一緒に食べましょ」
小金沢が笑顔で言った。どう見ても本心ではない。“上等じゃない”って雰囲気ありありだ。
「お、おう……」
三門もそれを察してか、返事をしつつも目は泳ぎまくってる。ゆるせ、お前にとっても小金沢達にとっても溝はない方がいいに決まってるんだ。
そんなわけで、小金沢のいる女子五人グループに俺と三門が加わって、一緒にお昼をとることになった。
一方、ここ数日のオタクグループは休みが目立ち始めていた。
お昼時の今、窓際の一番前の席では、宮原ハヤミが机を反対に向けて白銀ミニの机とくっつけていた。あそこはいつも二人だけで食べている。
周りのオタク男子どもは、せっかく二人と話す機会も増えたはずなのに、お昼は一緒に食べていない。というより、そこは敷居が高いのだろう。根性なしめ。
まあそういう俺も、この間、自販機前で宮原に声を掛けられたっきり、それ以降まったく話せていない。ただ、こうして後ろを向いている彼女とはたまに目が合うことがある。今がまさにそうだ。
彼女は今日も髪を雑にくくり、太い赤ぶち眼鏡をかけている。その奥にはライン取りされていない自然な目がパッチリ開き、一直線にこちらを捉えていた。一瞬、周りを意識しそうになったが、高揚した気持ちの方が上回った。
しばらく目を逸らさずにいると、彼女の口元がゆっくりと動いた。声に出さずに短く四語……何て言った? そのまま彼女は視線を逸らしてしまった。
まあいいか、どうしても気になるなら、これを口実に話し掛ければいい。と、この時の俺は軽く考えていた。
次の日、宮原ハヤミは消えた。“消えた”というのは、その日以降学校に来なくなったからだ。彼女を取り巻いていた連中から「都市伝説」だの「ログアウト不能」だの話しているのが聞こえた。さすがはオタク。
だけど、万に一つも不思議なことなどない。何らかの要因で学校に来れなくなったか、自らの意思で来なくなったか、そのどちらかでしかない。
宮原が来なくなってからもオタク連合は欠席者を増やし、今や灯が消えたように大人しい。学校に来てる奴も各々のゲームをしているだけで会話すらない。それと、三門のように“にわかゲーマー”してた男子どもは、俺を仲介にして小金沢達との関係を修復していった。
かくして残された白銀ミニは一人になった。休み時間もお昼もずっと。事実上オタクギルドは崩壊した。それは一時代栄えた王朝が王の没年とともに滅ぶ様にも似ていた。
クラスの覇権争いは小金沢に軍配か、なーんてな。そもそも宮原が来なくなる前から休んでる連中はいたわけで、クラス内の派閥とは関係ないだろう。
実際、他のクラスでも登校拒否者は出ているらしく、学校側も問題視し始めていた。ただ、中でもうちのクラスは33人中9人が欠席と、頭一つ抜けた状況がどうにも引っ掛かる。
始めこそ宮原ハヤミを気に掛けていたが、今の関心はこの集団登校拒否に変わりつつあった。ここ数日のつまらないおしゃれトークのせいで、別の話題に餓えてたのもあったかもしれない。それと昔から、決まって見る映画も読む本も刑事ものとか探偵ものばかりだった。ついこの間までクラスの雰囲気や人間関係ばかり観察していた俺だからこそ言える、「これは事件だ」と。
けど、そうは言っても現実の俺は刑事でも探偵でもないわけで、もうひとつ行動を起こすにはキッカケが足りなかった。
なんかこう、ないかな? グンとやる気が出るような取っ掛かり。自販機の件といい、妙に見つめられていた件といい、例えば宮原は俺のことを……
瞬間、「ねえ、前にどこかで会ったことない?」と言った彼女の言葉が浮かんだ。あれは……そうか、そうじゃないんだ!
宮原は俺のことを意識していたわけじゃない。本当にどこかで会ったことがあるんだ。彼女は俺が誰だったか思い出そうとしていた。だからこっちを見ていた。そしてあの時に思い出したんだ!
彼女が俺に向かって言った言葉、彼女の口元を思い出しながら短く四語、自分の口で形を作ってみる。
「タ・ス・ケ・テ」
気付いた時には立ち上がっていた。
あの瞬間から俺は当事者だったんだ。なに探偵気分で状況分析なんかしてたんだ。
宮原は消えた。何日経った? 行動を起こすキッカケなんてとっくに過ぎていた。
「ねえ田中君、お昼一緒に食べよーよ」
小金沢サキとその取り巻き女子達が視線を送ってくる。まずい、ただでさえ休憩の度にわけの解らない会話に巻き込まれてるのに、昼休みまで拘束されたら堪らない。
なんとか回避しようと頭をフル回転させたが、いくら考えても“単独での脱退は不可能”という答えしか出なかった。もはや誰かを巻き込むしかない。
横目でちらっと教室にいる男子を確認する。とりあえず三門あたりがいいかもしれない。奴なら女子との溝もまだ浅い。
「みんなは弁当?」
「うんっ」
「そーだよ」
よしよし、おーけー、予想通りの回答だ。この均衡を破る重要な第一歩を三門、お前に預けよう。
「おーい三門、お前弁当だよな?」
「おう、それがどした?」
「みんなで一緒に食おうぜ」
ここでいう「みんなで」とは小金沢サキのいるおしゃれグループのことだ。一瞬、彼女達の表情に戸惑いが見えた。
いいのか? 三門を入れないならコイツを誘った俺だって入らないことになる。単純な交渉だけに要求はストレートで判り易いはずだ。
「それいいわね。三門君も一緒に食べましょ」
小金沢が笑顔で言った。どう見ても本心ではない。“上等じゃない”って雰囲気ありありだ。
「お、おう……」
三門もそれを察してか、返事をしつつも目は泳ぎまくってる。ゆるせ、お前にとっても小金沢達にとっても溝はない方がいいに決まってるんだ。
そんなわけで、小金沢のいる女子五人グループに俺と三門が加わって、一緒にお昼をとることになった。
一方、ここ数日のオタクグループは休みが目立ち始めていた。
お昼時の今、窓際の一番前の席では、宮原ハヤミが机を反対に向けて白銀ミニの机とくっつけていた。あそこはいつも二人だけで食べている。
周りのオタク男子どもは、せっかく二人と話す機会も増えたはずなのに、お昼は一緒に食べていない。というより、そこは敷居が高いのだろう。根性なしめ。
まあそういう俺も、この間、自販機前で宮原に声を掛けられたっきり、それ以降まったく話せていない。ただ、こうして後ろを向いている彼女とはたまに目が合うことがある。今がまさにそうだ。
彼女は今日も髪を雑にくくり、太い赤ぶち眼鏡をかけている。その奥にはライン取りされていない自然な目がパッチリ開き、一直線にこちらを捉えていた。一瞬、周りを意識しそうになったが、高揚した気持ちの方が上回った。
しばらく目を逸らさずにいると、彼女の口元がゆっくりと動いた。声に出さずに短く四語……何て言った? そのまま彼女は視線を逸らしてしまった。
まあいいか、どうしても気になるなら、これを口実に話し掛ければいい。と、この時の俺は軽く考えていた。
次の日、宮原ハヤミは消えた。“消えた”というのは、その日以降学校に来なくなったからだ。彼女を取り巻いていた連中から「都市伝説」だの「ログアウト不能」だの話しているのが聞こえた。さすがはオタク。
だけど、万に一つも不思議なことなどない。何らかの要因で学校に来れなくなったか、自らの意思で来なくなったか、そのどちらかでしかない。
宮原が来なくなってからもオタク連合は欠席者を増やし、今や灯が消えたように大人しい。学校に来てる奴も各々のゲームをしているだけで会話すらない。それと、三門のように“にわかゲーマー”してた男子どもは、俺を仲介にして小金沢達との関係を修復していった。
かくして残された白銀ミニは一人になった。休み時間もお昼もずっと。事実上オタクギルドは崩壊した。それは一時代栄えた王朝が王の没年とともに滅ぶ様にも似ていた。
クラスの覇権争いは小金沢に軍配か、なーんてな。そもそも宮原が来なくなる前から休んでる連中はいたわけで、クラス内の派閥とは関係ないだろう。
実際、他のクラスでも登校拒否者は出ているらしく、学校側も問題視し始めていた。ただ、中でもうちのクラスは33人中9人が欠席と、頭一つ抜けた状況がどうにも引っ掛かる。
始めこそ宮原ハヤミを気に掛けていたが、今の関心はこの集団登校拒否に変わりつつあった。ここ数日のつまらないおしゃれトークのせいで、別の話題に餓えてたのもあったかもしれない。それと昔から、決まって見る映画も読む本も刑事ものとか探偵ものばかりだった。ついこの間までクラスの雰囲気や人間関係ばかり観察していた俺だからこそ言える、「これは事件だ」と。
けど、そうは言っても現実の俺は刑事でも探偵でもないわけで、もうひとつ行動を起こすにはキッカケが足りなかった。
なんかこう、ないかな? グンとやる気が出るような取っ掛かり。自販機の件といい、妙に見つめられていた件といい、例えば宮原は俺のことを……
瞬間、「ねえ、前にどこかで会ったことない?」と言った彼女の言葉が浮かんだ。あれは……そうか、そうじゃないんだ!
宮原は俺のことを意識していたわけじゃない。本当にどこかで会ったことがあるんだ。彼女は俺が誰だったか思い出そうとしていた。だからこっちを見ていた。そしてあの時に思い出したんだ!
彼女が俺に向かって言った言葉、彼女の口元を思い出しながら短く四語、自分の口で形を作ってみる。
「タ・ス・ケ・テ」
気付いた時には立ち上がっていた。
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