記憶がないっ!

相馬正

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第2話 恋がしたいっ!

恋がしたいっ!④

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 日曜にアイと会う約束をした。それもアイの方から誘ってくれたっていう。
 しかもあの高架下で、二人でだよな? 話したいって何の話だ? 元から知り合いだったみたいだし、もしかして……もしかするのか?

 ブブブ ブブブブッ

「わっ」
 浮かれていた俺の元に、また非通知の電話がかかってきた。
 このの悪さ、まさかまた監視されてんのか? いや、今は学校だ、それはないはず。けどもし、非通知の女がこの学校の奴だったら?
 くそっ、とにかく今は出るしかない。

「……もしもし」
『ハロー、久しぶりー。なかなか出ないから着拒ちゃっきょされてるのかと思っちゃったー』
「何の用だ!」
『やだ怒んないでよ。このあいだの続きよぅ』
 相変わらず人をバカにしたような口調だ。声も変声機へんせいきを通した例の高いトーンだから尚更なおさらイラっとくる。

「お前、何を知ってるんだ?」
『何って……もしかして秘密のことかなー?』
「!」
 コイツ! やっぱりあれは夢じゃなかったのか。じゃあ俺が秘密を交わした相手も……!? いや待て、まだ確証がある訳じゃない。こうやって話を引き出そうって魂胆こんたんだろ。そうはいくか。

「何のことだ、秘密って?」
『あはははー、無理すんなって。アンタの記憶のことだよ』
「なっ! お前は、いったい何者だ!?」
 コイツは、秘密だけじゃなく俺の記憶のことまで知ってるのか!?

『日曜2時に、駅前にある《サンライズ》ってパン屋の前で待ってて。そこでアンタの秘密を教えてあげる。あと、メロンパン10個もよろしくね』
「えっ、日曜は……」
『プツッ ツーツーツー……』
「くっそ! 切りやがった!」
 日曜の2時だと!? アイの約束とダダかぶりじゃねーか!
 どうする? あの感じ、非通知の女は……俺の秘密を確実に知ってると考えるべきだよな。俺の目的はなんだった?

― 秘密に辿たどり着いて、記憶を取り戻すこと ―
 だよな。ならまようことはないはずだ。
 けどそれは、信用できる相手を見つけて、一緒に協力しながら進めるつもりだった。だから最近は積極的に会話するようにしてたんだろ。

 非通知の女は少しも信用できない。当日だって素直すなおに姿を現す保証なんてない。いつも陰から人を監視して、あの人をからかうような口調……もしかすると俺を見て遊んでいるだけかもしれない。
 いや、遊んでるにせよ、俺に秘密を教えるにしろ、それが奴にとって何のメリットがあるってんだ? そういや「メロンパン10個」って言ってたな。それが奴の目的か? いやいや、そんな訳ないだろ。
わかんねぇ……」

 ブブブ ブブブブッ

 着信?
「やろっ、りずにまた!」
 ディスプレイの文字は《ユウ》と表示されていた。
 ユウから!? 今朝一緒に登校したばかりなのに、ワザワザ電話って、なんだ?

「どした?」
『あ、ごめんねキリオ、今だいじょぶかな?』
「あ、ああ、ヘーキだけど」
 心なしか、ユウの声は緊張きんちょうしているようだった。

『今度の日曜日……とかさ、時間、あったりする?』
「え、日曜!?」
 しまった、おどろいてつい声が高くなっちまった。つーか、いくらなんでも立て続け過ぎだろ!?

『あ、ごめん。な、なんか用事入ってた?』
「日曜は、ちょっとな……」
『そ、そっか、ごめん。別に大した用じゃなかったから気にしないで』
「ワリ……」
『ううん、それじゃねっ』
「おう」

 電話を切ってすぐにうしろめたさが俺をおそった。
 ユウの誘いをことわったのは……秘密を知りたいって気持ちからか、それともアイに会いたいって気持ちからか。いずれにしても、ユウに対する態度がハッキリしないと言っておきながら、今のはユウが最優先ではないことを示していた。
「くっ、なんでこうも全部重なんだよ」
 いや……タイミングが重なってなきゃ良かったのか? そしたら順番に顔出せたってのか? 違うだろ!
「くそっ、何やってんだ、俺。もっとちゃんと考えろ」

― 昔の俺と今の俺、どっちか気持ちをハッキリさせる必要があるんじゃないか? ―
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