記憶がないっ!

相馬正

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第2話 恋がしたいっ!

恋がしたいっ!⑤

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 日曜日、なやんだ末に俺が向かったのは高架下だった。
 アイにしても非通知の女にしても、俺はどちらの連絡先も知らない。ということは、どちらかの約束はすっぽかすことになる。だから俺はアイを選んだ。
 別に秘密のことがどうでもよくなった訳じゃない。だけど、それより気になったのは、アイが俺を知ってたってことだ。
 お互いに知り合いだったのか? それとも、アイだけが俺を知ってたんだろうか。

 2時ちょうどに高架下に着くと、そこには既にアイがいた。あの時と同じ、河原かわらを背に猫とじゃれている。
 前はただ立ちくして見ていただけだったけど、今日は違う。約束もしてるし、既に知り合いの可能性だってあるんだ。
 アイに引き込まれるように足を進める。すぐそばまで寄ると、猫が俺に気付いて逃げてしまった。
「あ、ゴメン」
 続いてアイも俺に気付く。
「や。いいよ、あの子は君の変わりだから」
「?」
 変わりって、俺が来るまでのつなぎってことか? いや、特に深い意味はないか。

 アイは立ち上がり、俺と向かい合わせになった。今日はあわい水色のワンピースを着ていて、長い黒髪と相まって、めちゃくちゃ似合ってる。
 それにしても……日曜の真っ昼間まっぴるまとはいえ、人気ひとけの少ない河原に二人なんだよな。なのにアイは全くといっていいほど警戒がない。
 それってつまり、ほぼ確実にお互い顔見知りってことだ。

「来てくれてありがとう。お礼にいいこと教えてあげる」
 これまでのさびし気な感じと違い、明るい口調で話し出したアイはどこか嬉しそうだった。
「いいこと?」
 コクリ、とアイは小さくうなずいた。
「私とアナタ、実は付き合ってるんだよ。知ってた?」
 ええっ! それって昔話? それとも進行系なのか?
「あ、えと、付き合って……た? る?」

 アイの顔が少し赤くなったのが分かった。
「……る」
 うはっ! ちょっとどうなってんだよ俺! まさかの展開じゃないか!
 どうりで妙にアイのことが気になった訳だ。

 待てよ、まだ喜ぶのは早い。最近の俺ときたら……やたらユウと仲良くしてなかったか? でも、アイはそのことをなじったりしてこなかった。なんでだ?
 それに、この間だってアイは、学校の廊下ろうかで俺を無視して素通りしようとしていた。
 それってつまり……もしかして?

「えっと、あの、まさか俺の記憶のこと……」
「……知ってる」
 げ!
 でも、そりゃそうか、付き合ってたんなら気付いてて当然だよな。

「だって……付き合った次の日なのに、ここには来なくなるし、すれ違っても無視よ。普通あり得ないでしょ?」
「うわ、ご、ゴメンなさい!」
 うひゃー、なんか色々つじつまが合ってきた。

「でも、いいのよ。また、一から始めれば」
 ゆっくり丁寧ていねいに発せられた言葉は、ここまでの遠回りを知った後だけに、とても想いがこもって聞こえた。

「ただね、ウチの家ってすごく厳しくって。表立おもてだって付き合うとかNGだし、しかも歳下、さらに記憶喪失なんてね。ふふふ」
「あっ、はははは……そうやって聞くと何か凄えな」
「だからね、このことは絶対に秘密よ。約束だからね」
「ああ、わかった」
 あれ……このシーンどこかで?

 俺の様子がおかしかったせいか、アイが心配そうに覗き込んでいた。
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