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第2話 恋がしたいっ!
恋がしたいっ!⑥
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「どうしたの?」
「いや、今、アイが言ったこと……俺、前にも、この場所で同じ台詞を……」
「覚えてるの!?」
夢で見たのも河原だった。同じシーンで、全く同じ台詞……その後に俺は記憶をなくした。
って、待て、待て! なんだこの漠然とした不安は……まさか!?
非通知の女が頭をよぎる。気持ちとは裏腹に、思考は悪い方に向かっていた。
「アイ……」
「何?」
「俺に電話したことある?」
「電話? したことないけど。それが、どうかしたの?」
自分の周りの空気が濁ったように不穏になる。開こうとする口が重い。
「俺、記憶をなくす前に……誰かと電話で話してるんだ」
「!? それが私って?」
「いやゴメン! 分からないんだ、覚えてなくて。でも、付き合ったその日なら電話くらいするんじゃないかと思って……」
アイを疑うような発言に後ろめたさを感じたが、当の本人は何やら考え込んでいた。
「確かにそうね。でも、本当に私からは電話してないわ。ウチは厳しくて、了解がないと家の電話は使わせてもらえないし、私、携帯型の電話も持たされてないから」
「そ、そーだよな。それに、かけるなら俺からだろうし……」
「ううん。家の番号だって伝えてないから、キリオからウチに電話することもあり得ないわ」
「そっか、そうだよな。はは、良かった……」
そうだよ、アイが非通知の女の訳がない。今だってほら、記憶はちゃんと残ってる。
「良くない!!」
「え!?」
アイの声とは思えないほどの声量だった。
「早く言いなさいよ、そういうことは!」
「え?」
「記憶がなくなる直前に誰かと電話で話してたんでしょ!?」
「あ、ああ」
「それって記憶喪失と関係あるかもしれないじゃない! 誰と話してたの!?」
えらい剣幕だ。そりゃそうか、誰かのせいでこうなったのだとしたら、アイだって被害者だ。
「いや、だから判らないんだってば! 電話は非通知だったし、けどそいつは俺の記憶のことを知ってたんだ」
「ねえ……それって本当に記憶喪失なの?」
「なんだそれ、どういうこと?」
アイは神妙な面持ちで思いがけないことを言った。
「もしも、もしもよ……その電話の相手が、キリオの記憶を消したとしたら……」
「は? ええ?」
そんな可能性、考えもしなかった。単純に記憶喪失だと疑いもしなかった。別に知らない病気じゃないし、誰だってなる可能性がある訳で。それがたまたま自分だったんだろうと、だから仕方がないと思っていたのに。
「そんなバカなこと……」
あり得ない。
「分かってる。でも、記憶がなくなる前に電話があって、記憶をなくした後もそうして連絡がある。さっき言ったことは考え過ぎかもしれないけど、怪しい人物ってことは確かよ」
アイは腕組みをし、右手をあごの下に持っていった。きっと、あらゆる可能性を考えてくれているのだろう。
「やっぱり良かった」
「だから何が……」
「記憶をなくす前も今も、アイを好きになって良かった」
すっと出た言葉に俺自身驚いた。
アイもびっくりした顔でしばらく固まっていたが、コクリと小さく頷くと俺に寄りかかってきた。
「淋しかったんだからね」
「ゴメン」
「キリオは謝ってばっかり」
「はは、ホントだ」
「ニャーゴ」
鳴き声のした方へ振り向くと、さっき逃げた猫が戻ってきていた。
「キリオ!」
は?
「今なんて?」
アイは《しまった》といった感じで顔を赤くした。
「だから淋しかったって言ったでしょ!」
あ……俺の名前を猫に? そうか、来た時にアイの言った「君の変わり」って、そういう意味だったのか。
俺が記録をなくしてもずっと待っててくれたんだ。
《秘密》も《過去の記憶》もまだ何も分かってない。だけど、それ以外の大切なことを気付かせてくれた。
今日ここに来て、アイと話せて本当に良かった。
「そろそろ帰らないと」
急にアイがそう言い出したが、まだ日も暮れてすらない。
「え、もう?」
「門限っ」
おおっ、マジもんのお嬢様かよ。
「ホントにあるんだそういうの」
「まあね。さっきは話切られちゃったけど……」
「ん?」
「今後、非通知の電話は一切出ないこと!! いーい?」
「わ、わかった」
しっかりアイに念押しされ、お互い河原をあとにした。
「いや、今、アイが言ったこと……俺、前にも、この場所で同じ台詞を……」
「覚えてるの!?」
夢で見たのも河原だった。同じシーンで、全く同じ台詞……その後に俺は記憶をなくした。
って、待て、待て! なんだこの漠然とした不安は……まさか!?
非通知の女が頭をよぎる。気持ちとは裏腹に、思考は悪い方に向かっていた。
「アイ……」
「何?」
「俺に電話したことある?」
「電話? したことないけど。それが、どうかしたの?」
自分の周りの空気が濁ったように不穏になる。開こうとする口が重い。
「俺、記憶をなくす前に……誰かと電話で話してるんだ」
「!? それが私って?」
「いやゴメン! 分からないんだ、覚えてなくて。でも、付き合ったその日なら電話くらいするんじゃないかと思って……」
アイを疑うような発言に後ろめたさを感じたが、当の本人は何やら考え込んでいた。
「確かにそうね。でも、本当に私からは電話してないわ。ウチは厳しくて、了解がないと家の電話は使わせてもらえないし、私、携帯型の電話も持たされてないから」
「そ、そーだよな。それに、かけるなら俺からだろうし……」
「ううん。家の番号だって伝えてないから、キリオからウチに電話することもあり得ないわ」
「そっか、そうだよな。はは、良かった……」
そうだよ、アイが非通知の女の訳がない。今だってほら、記憶はちゃんと残ってる。
「良くない!!」
「え!?」
アイの声とは思えないほどの声量だった。
「早く言いなさいよ、そういうことは!」
「え?」
「記憶がなくなる直前に誰かと電話で話してたんでしょ!?」
「あ、ああ」
「それって記憶喪失と関係あるかもしれないじゃない! 誰と話してたの!?」
えらい剣幕だ。そりゃそうか、誰かのせいでこうなったのだとしたら、アイだって被害者だ。
「いや、だから判らないんだってば! 電話は非通知だったし、けどそいつは俺の記憶のことを知ってたんだ」
「ねえ……それって本当に記憶喪失なの?」
「なんだそれ、どういうこと?」
アイは神妙な面持ちで思いがけないことを言った。
「もしも、もしもよ……その電話の相手が、キリオの記憶を消したとしたら……」
「は? ええ?」
そんな可能性、考えもしなかった。単純に記憶喪失だと疑いもしなかった。別に知らない病気じゃないし、誰だってなる可能性がある訳で。それがたまたま自分だったんだろうと、だから仕方がないと思っていたのに。
「そんなバカなこと……」
あり得ない。
「分かってる。でも、記憶がなくなる前に電話があって、記憶をなくした後もそうして連絡がある。さっき言ったことは考え過ぎかもしれないけど、怪しい人物ってことは確かよ」
アイは腕組みをし、右手をあごの下に持っていった。きっと、あらゆる可能性を考えてくれているのだろう。
「やっぱり良かった」
「だから何が……」
「記憶をなくす前も今も、アイを好きになって良かった」
すっと出た言葉に俺自身驚いた。
アイもびっくりした顔でしばらく固まっていたが、コクリと小さく頷くと俺に寄りかかってきた。
「淋しかったんだからね」
「ゴメン」
「キリオは謝ってばっかり」
「はは、ホントだ」
「ニャーゴ」
鳴き声のした方へ振り向くと、さっき逃げた猫が戻ってきていた。
「キリオ!」
は?
「今なんて?」
アイは《しまった》といった感じで顔を赤くした。
「だから淋しかったって言ったでしょ!」
あ……俺の名前を猫に? そうか、来た時にアイの言った「君の変わり」って、そういう意味だったのか。
俺が記録をなくしてもずっと待っててくれたんだ。
《秘密》も《過去の記憶》もまだ何も分かってない。だけど、それ以外の大切なことを気付かせてくれた。
今日ここに来て、アイと話せて本当に良かった。
「そろそろ帰らないと」
急にアイがそう言い出したが、まだ日も暮れてすらない。
「え、もう?」
「門限っ」
おおっ、マジもんのお嬢様かよ。
「ホントにあるんだそういうの」
「まあね。さっきは話切られちゃったけど……」
「ん?」
「今後、非通知の電話は一切出ないこと!! いーい?」
「わ、わかった」
しっかりアイに念押しされ、お互い河原をあとにした。
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