記憶がないっ!

相馬正

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第4話 真実がわからないっ!

真実がわからないっ!⑨

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 カオルは部活中のユウを急に呼び出したらしい。そして留学の話を切り出した。
 《留学》って何だよ!?
 俺は全くの初耳だったが、ユウは前々から聞いていたらしい。ただ、ユウが取り乱していたのは、その予定が突然今日に早まったからだった。
 しかも、今から飛行機に乗るから見送りはいらないとか、スマホも海外用のじゃないから使えなくなると、一方的にカオルは言ってってしまったらしい。
 グラウンドのフェンス越しに、立ち寄りがてら伝えた姿が容易に想像できた。ものの一分とない別れだったろう。ユウはカオルを追いかけることもできず、どうしたらいいかも判らず、だから俺に電話をかけてきた。それが今だ。

「ねえ、どうして!? キリオ、カオルどうしちゃったんだろ?」
「さっぱり分かんねぇ、急過ぎるだろ。しかもなんで今日なんだ? 昼間会った時だって、全然いつもと変わらなかったじゃないか……」
 それはユウにとっても同じか、ショックだったに違いない。二人は親友だったのだから。

 今もユウは泣き続けている。気付けば部活に出てた格好のままだ。まだ秋になったばかりとはいえ夕方は冷える。
「ユウ、とりあえず着替えてきな」
「……うん」

 さっきはカオルの消えた理由が分からないってごまかしたが、どう考えてもここ数日の出来事が絡んでるとしか思えない。想像以上に俺とアイは触れてはいけないところまで踏み込んでたってことか?
 だとしたら余計……ユウを巻き込んじゃいけない。さいわいまだ付き合って日も浅い。ユウが戻ってきたら伝えないと。こういう話は先延さきのばしにしてもいいことなんて何もないからな。

「いや……今日は駄目だろ」
 タイミング考えろ、親友と恋人を同時に失うなんてあまりにこくだ。

 俺は言葉をグッと押し込み、戻ってきたユウをなぐさめながら帰った。

(五話に続く)
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