幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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世界統一編

第五十七話 三部会選挙

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 三部会招集となり、各身分での選挙が行われている。とくに平民など久しぶりの三部会招集となって街中、大騒ぎである。このレスター市街でも、ところどころ演説や叫び声が聞こえてくる。

 私は選挙期間中、休暇をとることとなった。王宮内府自体は開いているが、重要案件は三部会の行方を見ないと決定できないので、私は暇になったのだ。

 今のうちに私も選挙運動に裏方として、大人物と会っている。今も平民議員候補が私に挨拶しに来たのだ。レオが客間のドアを閉めると、彼は私に疲れた様子で言った。

「忙しいですね、選挙って」
「候補の本人の方が忙しいわよ、有力者に支援を得られるようにあいさつ回りしたり、街で辻演説したり、特にこの時代、選挙法も整っていないから、カチコミとかあるし」

「うわあ……、でも平民は大喜びでしょうね、自分たちの代表に選挙を通じて意見を言えるなんて」
「そうでもないのよ」

「えっ!?」
「この三部会選挙は各身分の有力者の選挙人がまず選ばれる。そしてその選挙人が議員候補を投票して選ぶって形」

「そうなんですか、直接選ぶと思ってました」
「ちなみに選挙人を選ぶ奴は各地方の有力者なの。つまりこのシステム上、よほどの金持ちや、知名度がないと、議員になれない。

 それこそ、弁護士や、裁判員、富豪、各ギルド組合などの有力者ぐらいしか議員になれないよう仕組まれている。

 体制側に有利にできた選挙よ、でも民衆は必死でしょうね。なんせ税制改革で、負担税が減るのだから」
「そうでしょうね、国王領はすでに封建制を半ば撤廃しているようなものですけど、地方はもうてんやわんやでしょう」

「まあ、私の見る限り、民衆の考えは半々と言ったところね。地方民は領主への従属を強いられているから、支配されるのが当然と考えが主流だからね。

 今更新しいことを始めても不安が大きいし、領主の取り締まりが多いから──」

 私はノックが鳴ったので話を途中で止めた、レオがドアを開けると、執事がカーディフ侯爵がいらっしゃったと言うので私は玄関で迎えることにした。

「これはこれは、カーディフ侯爵殿、わざわざこのような狭い屋敷にご足労いただいて、ありがとうございます」
「いやはや、驚きましたぞ、宰相閣下。屋敷の小ささを見て。今の宰相閣下なら、宮殿一つ二つに住むことも可能でしょうに」

「あいにく、とんと金銭に興味がなく、でしてね、この度の選挙も私から資金を都合できず申し訳ございません」
「いやいや、閣下への商人の信頼の声の大きさは、それはもう天に届く山のよう。自然と税制改革を賛成と申せば貧乏貴族でも、商人から金を投げられて支持をもらっております」

「くれぐれもお知り合いの議員候補へは選挙法に反することはしないようにと、侯爵殿から言っておいてくださりませ」
「無論でしょう、足元をすくわれるわけには行きませんからな。最近は新聞などできて、記者が政治ネタを欲しくてうろついておりますからな、彼奴等はハイエナのごとく群れつるんでかかってきますからなあ」

「そうでしょう、それが彼らの商売ですから、ところで、選挙の状況はいかがですか?」
「結果から考えて地方貴族たちは半々に分かれました。改革派と、保守派。特権というものは一度味わってしまえば、手放すのは難しいもの、いやはや、あの頑固さ、岩よりも固いですな」

「なるほど、今の状況では、三部会選挙で決着つくような状況ではありませんか、できれば貴族議会は勝ちたかったのですが」
「三部会は聖職者、貴族、平民それぞれの議決が必要。聖職者はもともと、変えることを嫌がるものですから、閣下の考えに反対でしょう。

 できれば、貴族、平民議会の二部会で税制法を議決して、改革を行いたかったのですが、これではなかなか……」

「貴族議会が敵に回っては、聖職者と貴族の二部会が反対して、頓挫しますからね、私もじっとしてはいられませんか……」
「私からも閣下に聖職者の有力者から支持を得るよう、お願いしたいと思って今回参りました。私も地方領の聖職者に話を通しておりますが、何せ教会法という壁がございますから」

「わかりました、私も屋敷にこもるのも飽きてまいりました、少し選挙運運動の旅に出ましょう」
「よろしくお願いいたします、宰相閣下。得意の弁で、お頼み申しますぞ」

「微力を尽くしましょう、それではカーディフ侯爵、ささやかではありますが、昼食を用意いたしました。お口に合えばよろしいのですが……」
「ぜひ、よろしくお願いしますぞ。閣下と同じものを食べて、閣下の御力を授かりたいものですな、はっはは……」

 そうして、カーディフ侯爵と私は昼食をとりながら、政治について語り合った。どうやら侯爵の口に合ったらしく大喜びだった。レオが差配して、豪商たちが私に進物したものだから、料理技術と素材がいいはずだ、よかった。

 私はレオを連れてレスター近くの大きな教会、サウスウィンツ大聖堂に向かった。そこは、信心深い獅子王ケインが教会に捧げた大きな荘園があって、聖マリシアの聖遺物があるとかなんとか。

 ここの宗教はよくわかんないけどね、私クリスチャンじゃないし。

 私とレオは馬車に揺れながら、かなり安全な旅ができた。インフラ整備の成果だ、道が整って馬車が通りやすいし、護衛の民兵が治安維持をこなしている。私は改革の成果を実感しながら、旅路を続ける。

 サウスウィンツがある荘園についたころだ、大聖堂への道がどこかわからず、難儀しているところ、ガタイのいい大男が上半身裸で畑を耕していた。気を利かせて、レオが大声でその人に道を聞いた。

「すみませーん、サウスウィンツ大聖堂はどこの道を行けばいいですかー?」

 その男は角刈りの頭の汗を拭きながらこっちに向かって返事をする。

「この道をまっすぐ行ったあと、右の方を曲がれ、そこまで行けば、教会が見えるはずだー!」
「ありがとうございまーす!」

 レオが礼を言うとその男は農作業を続けた。随分がっちりしたカラダだな、遠くからだけど、体格が良いのがよく分かった。

 男の言う通りに行くと、大きいサウスウィンツ大聖堂へとついた。私は、レオを待たせて、私と使いの者だけで教会内に入った。敷地内に馬を入れてはならない。徒歩で行かないといけないし、用のないものは神聖な教会においそれと入ってはならない。

 厳格な掟のなか、私は教会内を見て回りながら、ステンドガラスの美しい教会美術に酔いしれて、礼拝堂へ向かった。

 そこにはここの教会の管理人アージス大司教がいた。傍にいた神父に厳しい口調で言われた。

「まずは神に膝をつき、祈り、己の罪を懺悔なさい」
「わ、わかりました……」

 私は調子を崩しながら、言うとおりにする。名を告げ、おのれの素性、罪の告白を済ませた後、大司教は聖書を読み、手を洗い、濡れた手で、私の両肩と頭に手を置いた。冷た!

 そうしてもったいぶって、アージス大司教は言った。

「神は汝、ミサ・エチゴの罪をお許しになるだろう──。この者に神のご加護を……」
「ありがとうございます。大司教様」

「先ほど使者が参りました、どうやら、三部会の話で宰相殿が参ったとか」
「はいそうです。ぜひ私が行っている、改革の内容を神の名のもとに──」

「宰相殿は教会法をご存じか?」
「存じております。ですからそれをいい方向に変えようと──」

「なんと、おぞましきことを! 教会法は神の声、神が定めたもの。それを変えるなど、悪魔に等しい行為です! なんと罪深きことか!」
「ちょっとまってください! 話を聞いてください!」

「神にこの者をお許しになるよう、私は祈りましょう……」

 そして横の神父に不愛想に言われた。

「話は終わりです、宰相殿。どうぞお帰りを……」
「ちょ、ちょっと、まっ……」

 私が立ち上がろうとした瞬間、坊主どもに抱えられて、外に出されてしまった。何よ、この扱い! 話すら聞いてくれないなんて! まだエジンバラ王の方が聞き上手だったわよ! クソ神父どもー! 覚えてろよー!

 私がレオのもとに変えると、私の様子を見て、察したようだ。

「ミサ様……」
「とりあえず何か考えましょう、宿をとらないと……」

 そう言って鬱々と帰り道を通る途中、あの半裸の大男がこちらに話しかけてきた。

「坊主―いるかー」

 どうしたんだろう、とりあえずレオに返事するよう言った。

「はーい、なんでしょうかー」

 その半裸の男は、こちらに大きなかごをもってこちらに寄ってくる。ちょ、服、着なさいよ! レディよ、私!

 その角刈りの男は小さなかごに土のついた作物を入れた。そしてレオに呼びかける。

「おい、坊主、これ持っていけ、土産だ」
「カブですか……」

 私は農民が気を利かせたのだろうと思って、レオに言った。

「もらっときなさい、折角だから」
「あ、はい」

 そうして、レオがカブを受け取りに行こうと馬車から外に出たとき、大男は私のいる方角に向かって言った。

「どうだい、宰相! 辛気臭い坊主のジジイどもの顔を拝んだ感想は!」

 その瞬間、全員身構えた。なんで、この馬車に私が乗っていると知っているの、レスター市民ならともかく、農民なんかに私のことが知られるはずがないのに。

 私は馬車から降りて、その男に立ち会った。

「どうして、私が乗っているとわかったの?」
「その馬車、王宮のものだ。それを乗り回す奴なんか、よっぽどの勘違い王宮貴族でもない限り、珍しいものなんだよ。聞くところによると宰相は今、領土を持っていないんだろ。

 良い馬車を買う金にも困ってるんじゃないか? あれ金かかるからな。それでもって、三部会選挙の中、わざわざこのサウスウィンツに来る王宮貴族──

 ……俺の知っている限り、ミサ宰相以外知らねえなあ」

「王宮の事にも詳しいなんて、貴方、農民じゃないわね」
「おいおい、こう見えても俺は神父だぜ、グリースっていうんだ」

「……私はミサ・エチゴ・オブ・リーガンよ、宰相やってるわ」

 そうして、土がついた手と握手しようとすると、レオがそれを制止した。

「気を付けてください! どんな事されるか、わかりませんよ!」

 だが、グリース神父は笑いながら言った。

「おいおい、坊主、俺はそこまで危険な男じゃないぜ、特に女にはな。なんてったって、俺は女には興味ないからな」
「えっ……」

 私はちょっと引いたあと、とりあえず敵意はなさそうなのでグリースと握手を交わした後、彼は言った。

「立ち話もなんだ、俺の家は近くなんだ、ついてきてくれ」

 グリース神父、この人いったい……!? 謎に包まれた半裸の男に案内されてホイホイ私たちはついていってしまった。
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