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世界統一編
第七十八話 統一王選挙③
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私は統一王選挙が行われる、シェフィールド大聖堂に急いだ。肝心の宰相が選挙に間に合わないとは大変だ。何とかギリギリのところで、選挙日に間に合った。うー馬車揺れまくって疲れたし、何度も吐いた。急いで走らせたため馬もつぶれたし、最悪の旅だった。
でもそんな気持ちも、シェフィールド大聖堂に行くと吹っ飛んだ。美しいロマネスク建築の巨大な教会。ゴシック建築もいいけど、ロマネスク様式は丸っこくて、異国情緒があふれてて好きなんだよね。
会場に入ると、ステンドグラスの美しい教会美術で包まれていた。綺麗―。どうやら中で、ジャスミンが待っており、こちらに駆け寄った。
「宰相閣下、お指図の通り、先を急いで、馬を走らせて、到着しておりました」
「どお、各国の要人の様子は、選挙の様子は?」
「ええ、長い間閣下が地固めしていたおかげで、ネーザンの支持の声が大きく、また、ワックスリバーもサウザック擁立をあきらめたため、候補者はネーザン一本に絞れそうなのですが、ただ……」
「ただ?」
「どうやら、急にワックスリバーがネーザン支持を表明したため、かなりサウザック側が驚いているようです。それと漏れ聞くところによると、サウザック王が、自ら立候補することに固執しているようです」
「統一王選挙で候補になるには自薦、他薦の決まりはないから、伝統では過去にあった話だけど、支持する各王がいるの?」
「かなり難しいでしょうが、もしかすると、我が国への反感で、票がそちらに回る可能性があります」
「恐れていた、分裂選挙になるかもしれないわね。何としても、サウザック王の立候補を止めなければならない、ジャスミン、サウザック宰相と、会談させて頂戴」
「かしこまりました」
私は客室で、サウザック宰相レックスと対談することとなった。相手はいささか面食らった様子で、私の登場に目を丸くしていた。そして私とレックスは握手を交わし、交渉を始めることとなった。まず私から事の詳細を尋ねる。
「サウザック宰相殿、あなた方の陛下が、選挙に立候補したいとうかがったけど事実かしら」
「陛下は、伝統を重んじる方です。ネーザンの国が一気に変わる様子を見て、何か拒否感を感じたのでしょうな」
「別に我が国体を押し付けるつもりはないわ、例え、我々の陛下が統一王になられても」
「それは安心しました。我が王もお喜びになるでしょう」
「立候補は止められませんか?」
「やはり、その話ですか」
「ええ、選挙情勢は完全にネーザン側に傾いているわ、サウザック国王陛下が、立ち上がっても、選挙結果は目に見えています。それでも、立候補なさるおつもりですか?」
「正直なところ、私は陛下には反対を申し上げました。あなた方ネーザン国との関係をまずくするのは得策ではないと。しかし……」
「本人がやる気なのですね」
「ええ、そうですね、わたくしも困りましてね、陛下はネーザンに負けてはならぬと。勝ち目がない戦いだと再三申しておりますのに、陛下は聞く耳を持たず……」
「本当に困りましたね、魔族戦線にサウザックが欠けるとなると」
「はっ……? 今何と」
「申しあげたとおりです、推薦されて立候補するのはともかく、推薦もなく、あくまで我が王と対立なさると申し上げるのなら、我が国として、それに対応せざるを得ません」
「しかし、大陸同盟憲章に反することではありませんか、それは」
「ヴェスペリアが統一国となる以上、同じ共同体として、心を共にして戦わなければなりません。その輪を乱される以上、新たに諸国と、条約を結ぶ用意があります。当然でしょう、北方諸国は大陸同盟に調印できませんでしたから、あなた方の横やりで」
「それは筋が違うかと。あくまで、敗戦国が同盟に参加するのはわが国として認められなかっただけであって」
「あなた方がすでに魔族に対して統一戦線に反する行いを重ねてきたのですよ、統一王はヴェスペリアを背負う使命があります、守る使命があります。その中に北方諸国が入るのは当然の事。筋違いとはいささか、言葉が過ぎますね。撤回していただきたいものです」
「……失礼しました。言葉が過ぎました。ネーザン国王陛下も同意しておられることですか?」
「実は私……、政府単独なのです、この意見は」
「は……?」
「ええ、お分かりにならないでしょうか、我が陛下が統一王になる以上、ヴェスペリアを守るとお誓いになります。サウザックが含まないとは言えないでしょう。──ただし、我々ネーザン政府はサウザックの立候補について認めません。宰相殿ならこの意味がお分かりのはず」
「まさか、貿易制裁されたり軍事協力が得られないと……? それは流石に、ひどい申し出ではありませんか!」
「我々はこの世界の平和を望んでいるのです、これを乱される以上、断固とした態度をネーザン国は取らなければなりません」
「……。詳細を陛下にお伝えいたします、それで本当によろしいのですか、失礼ながら、我が国王がお怒りになる可能性が……」
「どうぞご自由に解釈してください、私たちは自由を掲げる国、その旗を振る以上、あなた方に強制することはいたしません。しかし、自由というのは責任を伴うもの。その意味を斟酌していただけることを我々は望みます」
「……わかりました。そういたしましょう」
サウザック宰相は首を振りため息をついた、別にこの人に恨みがあるわけじゃないけど、宰相である以上責任があるから仕方ない。サウザック側が部屋から出て行ったあと、ジャスミンら官僚が私に駆け寄った。
「閣下、これは、あまりにも……」
「賭けよ、サウザック王が自分のプライドをとるか、世界をとるか、私たちは現実的にそれに対処しなければならない。それだけよ」
「……わかりました、あとで各省に伝えておきます」
「何も起こらなければそれで良いわ、もしものときは、覚悟しておいてね」
「はっ……」
私たちは不安を抱えながら、この場を後にした。ウェリントンのところに言ってあいさつしたけど、彼は晴れやかに笑っていた。名誉ある瞬間が彼に訪れようとしているのだ。ウェリントンが統一王になることは間違いない、残りの雑事は私たち政府がやる。それが私の使命だ。
聖堂の聖グリフィス会場で統一選挙が始まる。会場には、12人の盟約の王と法王の計13人が円卓に並んで座る。アレクサンダーもこうやって、法王から、ここで統一王に選ばれた。法王は演説を始めた。
「今集いし盟約の王たちよ、聖なる統一王を決める時が来た。現在、魔族との戦いが始まっている地域もある。今こそ、アレクサンダー統一聖王の末裔として、12人の神聖な、王家がこのヴェスペリアを守らねばならぬ。
この大陸で、あい争っている場合ではない。ヴェスペリアの民の皆が一致し、魔族と戦う日が来た。この御旗をふるうは、まさに統一王に他ならない。
さあ、王たちよ、ここに統一王にふさわしい、アレクサンダーの末裔はいるか、神の前で明かしたまえ」
私は円卓から離れた、壁にもたれかかって、腕を組んで立っている。円卓に近づけるのは統一王の末裔か、法王のみだ。各国の要人たちも皆この選挙を見守っている。そのなかリッチフォード国王が、ゆっくり立ち上がって宣言する。
「我はここに、アレクサンダーの末裔として、ネーザン王ウェリントンを統一王に推薦す。彼の者は、先の大陸同盟戦争で、歴史に記されたアレクサンダーの戦いがごとく、ヴェスペリアのために立ち上がってくれた。
この場に統一王にふさわしいのはただ一人、ウェリントンであると、リッチフォード王ヘンリー四世が告げる!」
会場で、円卓の周りから拍手が起こる。つづいてウェストヘイム国王が立ち上がった。
「我が、ウェストヘイム王リチャード2世も告げる。ネーザン国は、歴史を塗り替える改革により、大陸一の強国となった。各国もその恩恵と援助を受けている。統一王にふさわしき力をネーザン王ウェリントンは持っているのだ。
この場で一番、統一王にふさわしきは、ウェリントンである!」
そして湧き上がる拍手。法王はウェリントンの方向に向いて言った。
「ネーザン王ウェリントンよ、そなたを推す声が上がっておる。如何に?」
静かな質問に、ウェリントンは立ち上がった。
「我がネーザンは来たるべき伝説の魔族との戦いのため、万全の準備を行った。我、ウェリントン・オブ・ウェストミンスターは誇るべき声たちによって、今、統一王に立候補す。すべては我ら、ヴェスペリアの民たちのために!」
おお! といった声と、大拍手が沸き上がる。神聖なやり取りにこっちも緊張してきて、さて、どうなるか。法王は周りを見渡しながら、各王に尋ねる。
「今、ウェリントンが統一王になるため立ち上がった。他にふさわしき王を推す者はおるか?」
その瞬間、一気に会場は冷え込む。私はワックスリバー王を見た。じっと目をつぶって黙っている。そして少し時間が流れて、エディンバラ王は言った。
「ほかに統一王にふさわしき者はおらぬ!」
会場に拍手が起こる。ここまでは下準備通りだ。さあ、次だ。法王は静かに言った。
「推薦する者はおらぬか。ならば、自ら統一王になりたいものはおらぬか! 神の前で誓いを捧げよ!」
私はサウザック宰相を横目でにらんだ。わかっているでしょうね、自分から立ち上がるなら、私は容赦しない。手を汚すのも慣れたわ。その重い空気の中、サウザック王が立ち上がった!
「我……」
皆があっと驚く。動揺する会場、わかっているのこの空気、およびじゃないのよ貴方たちは。統一王はウェリントン、それ以外にいてはならない。候補すらも。サウザック王が自分の宰相の方をちらりと見た。サウザック宰相は首を振っている。そしてしきりに、私の方に顔を向ける。
視線の先にいた私とサウザック王と目と目が合った。私は激しくにらみつけた。私は、あなた方を尊重してきたつもりだわ。それでもやり合うって言うならこちらでも考えがある。別に12か国のうち一つぐらい共和国でも構わない。わかるかしら、サウザック王?
サウザック王はまごついて、周りを見渡す。皆が彼をにらんでいる。完全にアウェーだ。これも下準備のおかげだ。
「我は……」
誓いを上げようとするが、周りがざわめくばかり、私は彼をにらみ続ける。サウザック王は私を見て大量の汗を流し始めた。ええ、そのつもりなら、我がネーザンはサウザック市民に声をかけるわ。神聖なる選挙を汚した王で良いのかと。
なぜか、うちにいる共和派が駆け付けて、市民を煽るでしょうね、彼らの思想を実現させるために。そして市民はなぜか禁止されている、我が国の最新式銃をもって、貴方がた王家、貴族を襲う。だって、経済制裁を諸国から受けるものね。
貧しい民は立ち上がる、そのとき王家がどうなるか、サウザック王、貴方にわかるかしら。たとえ、王族であっても、市民は容赦しない。怒りのあまり、処刑を叫ぶでしょうね。でも各国はそれを見守る。我が統一王が動かないから。
その意味がお分かりかしら。ならどうぞ、容赦はしない。いかなる手段も問わない。これが国益だから。さあ、どうする!?
サウザック王は唇が震えだして、やっと言えた言葉は以下の通りだ。
「我らはヴェスペリアのために団結しないと……」
そう言ってサウザック王は座って黙った。みんなが胸をなでおろす。それでいい、元から器じゃなかった。貴方は賢い。戦術的撤退は評価に値するわ。それならいい。私たちも仲良くしましょう、同じ、統一国だから。ウェリントンのもとでね。
法王は声が上がらぬのを見て、宣言した。
「おらぬようだな。では、アレクサンダーの子孫、ウェリントンの統一王への信任投票とする。各王は神から与えられし剣を今授ける。ウェリントンが真にふさわしい統一王なら、ネーザン王家の紋章を印すといい!」
各王に投票券である投票剣が渡される。これから始まる選定の儀式。いったん各王は剣を各々の部屋に持ち帰り、賛成なら、剣の先の刃の部分にネーザン王家の印章を印す。もちろん私たちがその印章を準備済みだ。そして蝋によって王印が封じられた剣を結果がわからぬように鞘に納めて再び選挙会場に持ってくる。
次に、法王に渡し、聖なる剣の箱に収め、誰が印したか、わからないようにする。次に剣を箱から引き出し、剣を鞘から抜く、それを皆に見せる。私は息を呑んだ。賛成票がどこまで伸びるかで、のちの統一国の安定力が計られる。
法王は一本目の剣の刃を鞘から抜いて告げる。
「印なし」
辺りがざわめき立つ。しまった、私がやりすぎたか……? 反感を買ったのかもしれない、このままだと、ヴェスペリアの未来が……!
次に法王は剣を抜いてさらす。
「ネーザン王ウェリントン!」
会場に拍手が起こった。良かった、さっきのは偶然か……?
次の剣の印が告げられる。
「ネーザン王ウェリントン──」
すべての結果を知って驚いた。賛成10票。白票2票。これはアレクサンダーの時よりも賛成票が多い! やった! これで世界は救われる!
法王は厳かな宣言を告げる!
「神聖なる選定の儀式により、ネーザン王ウェリントンを統一王とする! ヴェスペリアに神のご加護あれ!」
会場から湧き上がる大拍手にウェリントンが立ち上がって静かに手を上げて応える。神のお告げは来た! 統一王はウェリントン! 我が王、ウェリントン!
私は今までの苦労の積み重ねがふとよぎって涙を流す。会場がアレキザンダーの斉唱に包まれる中、ウェリントンは私を抱いて、片手で肩に私を座らせて言った。
「すべてはお前のおかげだ、よくやったミサ! 私が統一王だぞ! ははは……」
「ぐすっ……おめでとうございます、陛下……、いえ、マイ・アレキザンダー……」
「そうか! お前も喜んでくれるか、ははは!」
会場が活気に満ちあふれ、私たちを祝福してくれた。嬉しい、やっとここまでこれたよ……。ウェリントン……好きだよ……。こうして、ウェリントンは統一王となった。あとは戴冠式だ。こんな神聖な歴史の大舞台に私が舞い込めるなんて幸せだ……。ぐすん……。
でもそんな気持ちも、シェフィールド大聖堂に行くと吹っ飛んだ。美しいロマネスク建築の巨大な教会。ゴシック建築もいいけど、ロマネスク様式は丸っこくて、異国情緒があふれてて好きなんだよね。
会場に入ると、ステンドグラスの美しい教会美術で包まれていた。綺麗―。どうやら中で、ジャスミンが待っており、こちらに駆け寄った。
「宰相閣下、お指図の通り、先を急いで、馬を走らせて、到着しておりました」
「どお、各国の要人の様子は、選挙の様子は?」
「ええ、長い間閣下が地固めしていたおかげで、ネーザンの支持の声が大きく、また、ワックスリバーもサウザック擁立をあきらめたため、候補者はネーザン一本に絞れそうなのですが、ただ……」
「ただ?」
「どうやら、急にワックスリバーがネーザン支持を表明したため、かなりサウザック側が驚いているようです。それと漏れ聞くところによると、サウザック王が、自ら立候補することに固執しているようです」
「統一王選挙で候補になるには自薦、他薦の決まりはないから、伝統では過去にあった話だけど、支持する各王がいるの?」
「かなり難しいでしょうが、もしかすると、我が国への反感で、票がそちらに回る可能性があります」
「恐れていた、分裂選挙になるかもしれないわね。何としても、サウザック王の立候補を止めなければならない、ジャスミン、サウザック宰相と、会談させて頂戴」
「かしこまりました」
私は客室で、サウザック宰相レックスと対談することとなった。相手はいささか面食らった様子で、私の登場に目を丸くしていた。そして私とレックスは握手を交わし、交渉を始めることとなった。まず私から事の詳細を尋ねる。
「サウザック宰相殿、あなた方の陛下が、選挙に立候補したいとうかがったけど事実かしら」
「陛下は、伝統を重んじる方です。ネーザンの国が一気に変わる様子を見て、何か拒否感を感じたのでしょうな」
「別に我が国体を押し付けるつもりはないわ、例え、我々の陛下が統一王になられても」
「それは安心しました。我が王もお喜びになるでしょう」
「立候補は止められませんか?」
「やはり、その話ですか」
「ええ、選挙情勢は完全にネーザン側に傾いているわ、サウザック国王陛下が、立ち上がっても、選挙結果は目に見えています。それでも、立候補なさるおつもりですか?」
「正直なところ、私は陛下には反対を申し上げました。あなた方ネーザン国との関係をまずくするのは得策ではないと。しかし……」
「本人がやる気なのですね」
「ええ、そうですね、わたくしも困りましてね、陛下はネーザンに負けてはならぬと。勝ち目がない戦いだと再三申しておりますのに、陛下は聞く耳を持たず……」
「本当に困りましたね、魔族戦線にサウザックが欠けるとなると」
「はっ……? 今何と」
「申しあげたとおりです、推薦されて立候補するのはともかく、推薦もなく、あくまで我が王と対立なさると申し上げるのなら、我が国として、それに対応せざるを得ません」
「しかし、大陸同盟憲章に反することではありませんか、それは」
「ヴェスペリアが統一国となる以上、同じ共同体として、心を共にして戦わなければなりません。その輪を乱される以上、新たに諸国と、条約を結ぶ用意があります。当然でしょう、北方諸国は大陸同盟に調印できませんでしたから、あなた方の横やりで」
「それは筋が違うかと。あくまで、敗戦国が同盟に参加するのはわが国として認められなかっただけであって」
「あなた方がすでに魔族に対して統一戦線に反する行いを重ねてきたのですよ、統一王はヴェスペリアを背負う使命があります、守る使命があります。その中に北方諸国が入るのは当然の事。筋違いとはいささか、言葉が過ぎますね。撤回していただきたいものです」
「……失礼しました。言葉が過ぎました。ネーザン国王陛下も同意しておられることですか?」
「実は私……、政府単独なのです、この意見は」
「は……?」
「ええ、お分かりにならないでしょうか、我が陛下が統一王になる以上、ヴェスペリアを守るとお誓いになります。サウザックが含まないとは言えないでしょう。──ただし、我々ネーザン政府はサウザックの立候補について認めません。宰相殿ならこの意味がお分かりのはず」
「まさか、貿易制裁されたり軍事協力が得られないと……? それは流石に、ひどい申し出ではありませんか!」
「我々はこの世界の平和を望んでいるのです、これを乱される以上、断固とした態度をネーザン国は取らなければなりません」
「……。詳細を陛下にお伝えいたします、それで本当によろしいのですか、失礼ながら、我が国王がお怒りになる可能性が……」
「どうぞご自由に解釈してください、私たちは自由を掲げる国、その旗を振る以上、あなた方に強制することはいたしません。しかし、自由というのは責任を伴うもの。その意味を斟酌していただけることを我々は望みます」
「……わかりました。そういたしましょう」
サウザック宰相は首を振りため息をついた、別にこの人に恨みがあるわけじゃないけど、宰相である以上責任があるから仕方ない。サウザック側が部屋から出て行ったあと、ジャスミンら官僚が私に駆け寄った。
「閣下、これは、あまりにも……」
「賭けよ、サウザック王が自分のプライドをとるか、世界をとるか、私たちは現実的にそれに対処しなければならない。それだけよ」
「……わかりました、あとで各省に伝えておきます」
「何も起こらなければそれで良いわ、もしものときは、覚悟しておいてね」
「はっ……」
私たちは不安を抱えながら、この場を後にした。ウェリントンのところに言ってあいさつしたけど、彼は晴れやかに笑っていた。名誉ある瞬間が彼に訪れようとしているのだ。ウェリントンが統一王になることは間違いない、残りの雑事は私たち政府がやる。それが私の使命だ。
聖堂の聖グリフィス会場で統一選挙が始まる。会場には、12人の盟約の王と法王の計13人が円卓に並んで座る。アレクサンダーもこうやって、法王から、ここで統一王に選ばれた。法王は演説を始めた。
「今集いし盟約の王たちよ、聖なる統一王を決める時が来た。現在、魔族との戦いが始まっている地域もある。今こそ、アレクサンダー統一聖王の末裔として、12人の神聖な、王家がこのヴェスペリアを守らねばならぬ。
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さあ、王たちよ、ここに統一王にふさわしい、アレクサンダーの末裔はいるか、神の前で明かしたまえ」
私は円卓から離れた、壁にもたれかかって、腕を組んで立っている。円卓に近づけるのは統一王の末裔か、法王のみだ。各国の要人たちも皆この選挙を見守っている。そのなかリッチフォード国王が、ゆっくり立ち上がって宣言する。
「我はここに、アレクサンダーの末裔として、ネーザン王ウェリントンを統一王に推薦す。彼の者は、先の大陸同盟戦争で、歴史に記されたアレクサンダーの戦いがごとく、ヴェスペリアのために立ち上がってくれた。
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会場で、円卓の周りから拍手が起こる。つづいてウェストヘイム国王が立ち上がった。
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そして湧き上がる拍手。法王はウェリントンの方向に向いて言った。
「ネーザン王ウェリントンよ、そなたを推す声が上がっておる。如何に?」
静かな質問に、ウェリントンは立ち上がった。
「我がネーザンは来たるべき伝説の魔族との戦いのため、万全の準備を行った。我、ウェリントン・オブ・ウェストミンスターは誇るべき声たちによって、今、統一王に立候補す。すべては我ら、ヴェスペリアの民たちのために!」
おお! といった声と、大拍手が沸き上がる。神聖なやり取りにこっちも緊張してきて、さて、どうなるか。法王は周りを見渡しながら、各王に尋ねる。
「今、ウェリントンが統一王になるため立ち上がった。他にふさわしき王を推す者はおるか?」
その瞬間、一気に会場は冷え込む。私はワックスリバー王を見た。じっと目をつぶって黙っている。そして少し時間が流れて、エディンバラ王は言った。
「ほかに統一王にふさわしき者はおらぬ!」
会場に拍手が起こる。ここまでは下準備通りだ。さあ、次だ。法王は静かに言った。
「推薦する者はおらぬか。ならば、自ら統一王になりたいものはおらぬか! 神の前で誓いを捧げよ!」
私はサウザック宰相を横目でにらんだ。わかっているでしょうね、自分から立ち上がるなら、私は容赦しない。手を汚すのも慣れたわ。その重い空気の中、サウザック王が立ち上がった!
「我……」
皆があっと驚く。動揺する会場、わかっているのこの空気、およびじゃないのよ貴方たちは。統一王はウェリントン、それ以外にいてはならない。候補すらも。サウザック王が自分の宰相の方をちらりと見た。サウザック宰相は首を振っている。そしてしきりに、私の方に顔を向ける。
視線の先にいた私とサウザック王と目と目が合った。私は激しくにらみつけた。私は、あなた方を尊重してきたつもりだわ。それでもやり合うって言うならこちらでも考えがある。別に12か国のうち一つぐらい共和国でも構わない。わかるかしら、サウザック王?
サウザック王はまごついて、周りを見渡す。皆が彼をにらんでいる。完全にアウェーだ。これも下準備のおかげだ。
「我は……」
誓いを上げようとするが、周りがざわめくばかり、私は彼をにらみ続ける。サウザック王は私を見て大量の汗を流し始めた。ええ、そのつもりなら、我がネーザンはサウザック市民に声をかけるわ。神聖なる選挙を汚した王で良いのかと。
なぜか、うちにいる共和派が駆け付けて、市民を煽るでしょうね、彼らの思想を実現させるために。そして市民はなぜか禁止されている、我が国の最新式銃をもって、貴方がた王家、貴族を襲う。だって、経済制裁を諸国から受けるものね。
貧しい民は立ち上がる、そのとき王家がどうなるか、サウザック王、貴方にわかるかしら。たとえ、王族であっても、市民は容赦しない。怒りのあまり、処刑を叫ぶでしょうね。でも各国はそれを見守る。我が統一王が動かないから。
その意味がお分かりかしら。ならどうぞ、容赦はしない。いかなる手段も問わない。これが国益だから。さあ、どうする!?
サウザック王は唇が震えだして、やっと言えた言葉は以下の通りだ。
「我らはヴェスペリアのために団結しないと……」
そう言ってサウザック王は座って黙った。みんなが胸をなでおろす。それでいい、元から器じゃなかった。貴方は賢い。戦術的撤退は評価に値するわ。それならいい。私たちも仲良くしましょう、同じ、統一国だから。ウェリントンのもとでね。
法王は声が上がらぬのを見て、宣言した。
「おらぬようだな。では、アレクサンダーの子孫、ウェリントンの統一王への信任投票とする。各王は神から与えられし剣を今授ける。ウェリントンが真にふさわしい統一王なら、ネーザン王家の紋章を印すといい!」
各王に投票券である投票剣が渡される。これから始まる選定の儀式。いったん各王は剣を各々の部屋に持ち帰り、賛成なら、剣の先の刃の部分にネーザン王家の印章を印す。もちろん私たちがその印章を準備済みだ。そして蝋によって王印が封じられた剣を結果がわからぬように鞘に納めて再び選挙会場に持ってくる。
次に、法王に渡し、聖なる剣の箱に収め、誰が印したか、わからないようにする。次に剣を箱から引き出し、剣を鞘から抜く、それを皆に見せる。私は息を呑んだ。賛成票がどこまで伸びるかで、のちの統一国の安定力が計られる。
法王は一本目の剣の刃を鞘から抜いて告げる。
「印なし」
辺りがざわめき立つ。しまった、私がやりすぎたか……? 反感を買ったのかもしれない、このままだと、ヴェスペリアの未来が……!
次に法王は剣を抜いてさらす。
「ネーザン王ウェリントン!」
会場に拍手が起こった。良かった、さっきのは偶然か……?
次の剣の印が告げられる。
「ネーザン王ウェリントン──」
すべての結果を知って驚いた。賛成10票。白票2票。これはアレクサンダーの時よりも賛成票が多い! やった! これで世界は救われる!
法王は厳かな宣言を告げる!
「神聖なる選定の儀式により、ネーザン王ウェリントンを統一王とする! ヴェスペリアに神のご加護あれ!」
会場から湧き上がる大拍手にウェリントンが立ち上がって静かに手を上げて応える。神のお告げは来た! 統一王はウェリントン! 我が王、ウェリントン!
私は今までの苦労の積み重ねがふとよぎって涙を流す。会場がアレキザンダーの斉唱に包まれる中、ウェリントンは私を抱いて、片手で肩に私を座らせて言った。
「すべてはお前のおかげだ、よくやったミサ! 私が統一王だぞ! ははは……」
「ぐすっ……おめでとうございます、陛下……、いえ、マイ・アレキザンダー……」
「そうか! お前も喜んでくれるか、ははは!」
会場が活気に満ちあふれ、私たちを祝福してくれた。嬉しい、やっとここまでこれたよ……。ウェリントン……好きだよ……。こうして、ウェリントンは統一王となった。あとは戴冠式だ。こんな神聖な歴史の大舞台に私が舞い込めるなんて幸せだ……。ぐすん……。
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ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
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「え! ぼく、死ぬの!?」
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お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
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17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
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田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
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「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
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