幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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魔族大戦

第百五十七話 宴の舞

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 やっぱり、ミリシアはヴェルドーの妹なんだ。城壁の回廊で私はミリシアから、古いアレクサンダーの歴史の因縁を聞かされている。彼女はさみしそうに話を続けた。

「ヴェルドー兄さんは正義感の強く、優しい人だった。いつも私のことを想ってくれていて、面倒見が良くて、周りのみんな、彼のことをほめたたえて、私の自慢だった。

 そんなある日、私たちと母親が違うアレクサンダー家の長兄デクスターが兵を挙げたと聞いて、私たちはいてもたってもいられず、ヴェルドー兄さんと共に一族を連れて、プロポリウス・デクスター・アレクサンダーの軍のもとに行った。

 当時デクスターは計略で魔王を刺したことを、人々は賞賛というよりも、戦争の元をつくった忌むべき人間と思われていた。自然彼のもとには兵がわずかしか集まらず、魔族軍に敗北を重ねていた。

 そんなところに私たち血を分けた兄妹が彼のもとにやってきたから、デクスターは大層喜び、涙を流しながら言った。お前たちが来てくれて安心した、私はお前たちを誇りに思うと。

 私たちは感動し、嬉しくなって彼の兵を借りて、魔族軍と戦うことになった。彼の涙を信じて」

 血の絆か……、困ったとき頼りになるのは親兄弟だったりするから、デクスターも嬉しかったんだろう。私はミリシアが語るのを真剣になって黙って聞いていた。

「ヴェルドー兄さんは戦さの天才だった、デクスターから親人間派の魔族からもらった魔族の武器を持たされ、私たちは魔族と戦い、勝利を重ねた。どんなに敵に兵が多くとも、身体的に劣っていても、不利な状況をヴェルドー兄さんは、策や優れた指揮で連戦連勝を重ねる。

 人々にヴェルドーとアレクサンダー一族の名が響き渡り、私たちには徐々に優れた人間たちが集まった。彼らの中から戦さに長け、人格に優れたものを、私たちの頼りになる十二聖騎士とした。

 その中にある一人の女性がいた。レーテという黒髪の女性で髪が長く美しく、華麗に敵と戦い、また、人柄に優れ、優しく、誠実で、まっすぐな人だった。私は彼女を尊敬し、ヴェルドー兄さんも彼女に徐々に惹かれていき、いつしか恋人同士になっていった。

 私たちはなんとか魔族たちをこの大陸から追い払い、人間たちの国を作り、デクスター兄さんは統一王となった。そのころだった、デクスターに子供ができたのも」

 そう、みんなから聞いた、魔族との戦争の歴史は本当だったのね。当事者の魔王エターリアが言ってたのとほぼ同じだし、ナターシャが言っていた魔族大戦史と一致する。ということは……。

 急にミリシアは悲しそうな眼差しになり、少し声を震わせながら言う。

「デクスターは自分の子どもを偏愛していった。彼が統一王になったころからどんどん私たちの関係はおかしくなっていった。彼は自分の子を統一王にして、権力を受け継がせることに必死だった。その気持ちのあまり、私たちアレクサンダー一族の人間を危険視し始めた。

 彼は持ち合わせていた執念深さと、計算高い性格を使って、一族の者をどんどん粛清していった。私は気が気ではなかった、このままではきっと私たちも同じ目に合う。特にヴェルドー兄さんは戦争の立役者として、デクスターより人々に崇められている。

 だから私は何度もヴェルドー兄さんを説得した。兵を挙げて、デクスターを倒さないとこっちがやられるって。でも兄さんはデクスターを信じているとかたくなに聞かなかった。

 そのころだった、ヴェルドー兄さんにある幸福がやってきたのは。恋人のレーテさんとに子供ができたの」

 それはまずいタイミング。政治を預かる者として私にはわかる、対抗勢力に世継ぎが産まれたと聞いたら、デクスターはきっと強硬手段にでる。ミリシアは怒り交じりに話しを続けた。

「ヴェルドー兄さんは愛するレーテさんと本当の意味で一つになり、子どもを授かったことで、そのことに全部気持ちが持っていかれた。

 この知らせを聞いたデクスターは激しく怒り、ヴェルドーに反逆の意思ありというでたらめをこじつけて、大軍を持って私たちを討伐しようとする。

 私は驚いたのもあったし、やはりこうなったのかという気持ちもあった。あのデクスターの瞳は冷たかった。心底人を信頼していない男の目だった。

 とまどうヴェルドー兄さんに私はデクスターと戦うか、それとも魔族と同じようにこの大陸を離れるか決めて欲しいと迫った。

 ヴェルドー兄さんは、尊敬する実の兄に剣を向けることはできない、なら、いっそ何もかも忘れてレーテと共に静かに暮らすと告げた。

 私たちは急いでこの大陸から離れようとしたが、ヴェルドー兄さんを慕う人も多く、兄さんも放ってはおけないと多くの人を連れることになり、逃げるのがどんどん遅れていった。

 それでも何とか大陸北部にたどりいた私に、先に私が女子供を連れて大陸から離れてくれとヴェルドー兄さんは告げた。というのも、兄さんにはすぐにこの大陸を離れられないわけがあった。レーテさんとの子どもが産まれそうだったの。だから私が先に旅立つことになった」

 だんだん口調が険しくなり、哀しそうにまた悔しそうにミリシアは衝撃の事実を告げた。

「これから後は私がきいた話だけど、私が旅立った後、デクスターはこの大陸を出るならヴェルドー兄さんの罪を許すと告げたという。ヴェルドー兄さんは本当に喜んだらしい。やっとデクスター兄さんにわかってもらえたと。

 そして討伐軍とされた将軍たちとヴェルドー兄さんは壮行会を挙げることとなった。新たなる旅立ちに乾杯とお互いに酒を飲んだ、これがデクスターが仕組んだ罠だとは知らずに……。

 ほどほどに皆酔いつぶれたころ、突然、テントに兵たちが剣を持ってきて兄さんたちを襲った。不意を突かれヴェルドー兄さんが動けなくなったところ、兵はある女性を連れてきた。これから赤ちゃんを産もうとしていたレーテさんだった。

 彼女は出産でそれどころではなく、意識がもうろうとしていた。ヴェルドー兄さんは、自分の命の替わりに彼女を助けてくれと懇願した。

 でも兵たちはそれを嘲りながら、レーテさんの大きい腹をナイフで割き、赤ん坊を取り出し、地面にたたきつけ、踏みつけながらこう言った。

『貴様ら反逆者どもに生きる価値などない、貴様らの血の一滴もこの世界に残すつもりはない』と。兵たちの笑い声にヴェルドー兄さんはついに激怒し、身を捨てて討伐軍と戦った。

 死力を尽くした戦いは三日三晩続き、12の聖騎士が一人また一人と倒れていき、気が付けばヴェルドー兄さんは一人となっていた。

 彼は血塗られた死体の山に立ち、嘆き悲しみ、こう呪詛を唱えた。

『この大陸に呪いあれ! 神に呪いあれ! 何十年、何百年、何千年かかるとも、アレクサンダーの血をすべてこの手で滅ぼす!! 統一王に呪いあれ!!!』と……」

「そんな過去が……」

 悲惨すぎてわずかしか私は言葉が出なかった。目の前で愛する恋人の腹を割かれ、我が子を殺されたヴェルドーにとって、アレクサンダーの血を受け継ぐ王族、貴族は許せなかっただろう。

 もうすぐ一人の父親となるはずだった男にとって。瞬時、ほろほろと涙を流していくミリシアに私はそっと背中に手を添えた。

「私はただ、魔族と共にすごしていた大陸で、一人ぼろぼろになったヴェルドー兄さんを慰めることしかできなかった。彼はすべてを失った。なら他の大陸でアレクサンダーの名が消えた新しい人生を私は兄さんと共に過ごしたかった。

 でも兄さんは違った。いや、彼は変わってしまったのよ、復讐の悪魔として。彼はヴェスペリア大陸の人間たちに復讐するため、魔族の血をもらって、ここにたびたびやってきて人間たちを襲うようになった。

 兄さんはアレクサンダーの呪いに取りつかれたのよ!! ひたすら血を求め、復讐に生き、優しさも労わりもない、悪魔のようになってしまった。

 私はエターリアに頼んで、魔族の血を分けてもらい、長い年月をかけ、何度も兄さんを慰め説得した。

 優しかったあの時の兄さんを取り戻してくれる! 幸せだった子供のころを思い出してくれる! と。でもダメだった。何百年何千年かかっても受けた恨みは子孫たちに返すと彼は言い続けた。

 私の自慢だった兄さんはもうこの世にはいないのよ!! いるのは復讐に取りつかれた悪魔! でも、その悪魔が好きだった兄さんの姿をしているから、なおさら余計に見ていられないの!!

 だから私は人間たちに組みして、統一軍の一人となり、ヴェルドー兄さん……いえヴェルドーを何としても止めるの! これ以上彼に罪のない人を血で染めるのはやめてほしい。

 たとえ、……それが、この手でヴェルドーを殺すことになったとしても……!」

 私は彼女の嗚咽おえつにそっと側にいることしかできなかった。多分ミリシアもヴェルドーにこうしてきたのだろう、何十年、何百年、そして千五百年以上も。だから私は……。

「……話してくれてありがとう。私が力になれることなら何でもするわ」
「ありがとう……。やさしいね。でも、ミサ、これだけは覚えていて。ヴェルドーは復讐を一時も忘れない。この停戦はいずれ破られる。ヴェルドーの手によってね……!」

 彼女の予言が当たることになるとはその時はまだ確信していなかった。しかし、時の歯車はどんどん回り続ける。

 停戦条約が成立し、東部戦線はまだ戦争の後片付けがあるから、先に西部戦線の敵味方同士で親交パーティを開くこととなった。

 ロリータ服から、またもや、ドレス姿になったロリータ伯爵が、可愛いシャイなウサギさんロリータのナターシャになっていた。

「み、ミサ! ひとが、い、い、いいっぱい! 人間も、魔族も!」
「大丈夫よ、みんな付いててあげるから」

「ほ、ほんとに!? うれしい……!」

 私とミリシアは彼女の両隣に立ち、彼女が口ごもってしまってもフォローしていく。そんなところにレクスとレミィが正装してやってきた。

「あーレクス、レミィこっち!」

「ん? ああそうか」
「ねえお兄ちゃん、この服、なんか派手じゃない? やらしい。じろじろ見られてる」

 レミィは黒いドレスを着て、透けてしまっているところを気にしている。普段は大胆な服着ているのに、こういう場で、セクシーな服を着ると恥ずかしくなってしまうのか。可愛いったらありゃしない。

「ねえ、レミィ、どう、飲んでる?」
「服がスース―して気持ち悪い。ていうかなんで私たちもこのパーティに参加してるの。私たちミサの捕虜なのに」

「まあ、まあ、そこらへんは気にせずに、停戦祝いのパーティだから、深く考えずにパーっとやろう、パーッと」
「そうよ、レミィ、可愛くなった貴女をみんな興味あるのよ。小さいこと気にしない気にしない」

「ミリシア様がそこまで言うのなら……」

 とミリシアに笑顔で諭されて、レミィは顔を赤らめながら、ただうなずいた。あらー、レミィの頭なでなでしたい。ふふふ。

 といった会話をしていると、会場は一気にざわつき始めた。魔王、エターリアが乳首だけを少ない生地で隠すセクシードレスでやってきたのだ。わお、めっちゃ似合う! おっぱいプルンプルン!!!

「ふ、どうやら、今だ人間どもは発情期を抑えられないと見える」
「そりゃ、エターリア、貴女がそんな服着たら、男なら前かがみになるって!」

「なんだミサ、そういえば、お前のドレスも似合っているな。ナターシャも、レミィも」

「は、はい!」

 ナターシャ、レミィは二人とも声をそろえて、エターリアの胸をガン見しながら、顔を赤くして言った。また、レミィはとくに顔を合わせづらいのか、

「あの、私やっぱり席を外しますね……」
「構わんさ、お前たちは魔族のみんなの命を救うために人間に降伏した。それを私は許さなかった。ただそれだけだ。別にお前のことを悪くは思っていない。

 お互い事情がかみ合わなかっただけだ」
「お、お言葉痛み入ります、魔王様!」

「この場は敬礼はよせ」
「も、申し訳ございません!」

 と、慌てて恥じ入るレミィがきゃわいくて、微笑ましかった。ナターシャは近くでエターリアのスタイルを見て、おろおろしてる。

 そんな中、音楽が鳴り始めたので、ジェラードが私を探していた。

「ミサ、一緒に踊るぞ! この場で人間たちの文化を魔族たちに知らしめてやろう!」
「ええ、もちろんよ! 前みたいに遊ばれたりしないんだから!」

「ほう、軍事だけでなくダンスも得意になったか」
「惚れるなよー!」

 といって、私とジェラードは華麗にパーティの場で舞って見せた。みんなから注目を浴び、一気に私たちは主役になる。だから私は興奮して言った。

「ねえ、このまま、踊っていられたらいいね!」
「一夜限りじゃなくか、その挑戦、確かに受け取った!」

 そう言ってお互い笑顔になって、宴の中を舞い続ける。こうしてつかぬ間の停戦の日々が始まった。
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