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魔族大戦
第百七十三話 救世主の輪
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民兵の入隊が完了して、さあこれから彼らの本番の訓練が始まる。訓練と聞けば平和な日本人はうえっ、と思うかもしれないけど、戦いは体を動かさないといけない。
いざ戦闘でいきなり本番で戦ってくださいって、フィクションではよくあるけど、そんなことされたら才能のある英雄でも、実際刃物や銃を面と向けられて、勝手に体が動くなんてことはまずない。逆に動けなくなる。
スポーツをやってればわかるけど、本番で全力を出せるのはその時間の何千倍何万倍の練習を積んで初めて、指導されてたまたはイメージ通りのアクションをとれるようになる。
天才は努力の天才とか誰が言ったか知らないけど、才能ある人はそれだけのことをやっているから本番でも強いのだ。
今回の訓練はレミィとミリシアが上長官として訓練を行うことにした。まだ士官学校上がりや昇級士官はあまりこちらに来ていない。そのまえに時間の許す限り実戦さながらの訓練を施したいと彼女たちの意向だ。
兵たちは銃をもち実際の射撃訓練を行ったり、銃剣の替わりに木剣を付けた銃で、白兵戦用格闘訓練を行う。特に厳しかったのがミリシアに任せていた部隊の戦闘訓練だ。
ミリシアは刃がついていない双刀を巧みに扱い、大の男相手に、筋力で負けずに華麗に舞うように、かかってくる新兵をいとも簡単にいなし、斬撃、打撃を加えていく。
踊っているように二刀をつかうミリシアは兵たちに大声を出して罵倒していく。
「貴様ら、それでも軍人か! そんなへっぴり腰では戦場に死にに行くようなものだぞ! 生きて故郷に帰りたければ、死ぬ気でかかってこい!」
「マム、イエス、マム!」
「貴様の力はそんなものか! こんなものでは、アリ一匹も殺せんぞ! 私が女であろうと、戦場では差別などない! 強いものが生き残り、弱きものは死ぬ! それだけだ!!
貴様らのようなちんけな木剣では刺してもわからん! 女を何だと思っている!! もっと腰を使え! 女を悦ばせたければ、体全身で動くのだ!
そんなこともわからん下手くそども! 精神的イ〇ポ! 女の前でパンツも脱げない童貞へたれ野郎どもめ!!!」
「マム、イエス、マム!」
「貴様らの短い木剣を振り回しても、女一人殺せん! どうやって私を悦ばせたらいいか考えろ! 頭も腰も全然! まるでナマコのようだ! こんなんなら、犬とヤった方がましだぞ!
ほら、相手の動きをよく見ろ! 相手の心をはかれ! イケメンでもない貴様らのようなへなちんどもでは、娼婦でもお断りだ。ママとでもヤっているつもりなのか、このくそマラ短小ども!!!」
「マム、イエス、マム!」
「声がお前の木剣並みに小さい! 心にイキりたった、ごりっぱな銃剣をつけろ! 貴様らそれで女を殺せるのか!!! この童貞チ〇ポどもめがあっ!!!」
「はいいぃぃ──!!!」
なんでこんなにボコボコに殴られ、叩かれ、踏まれて喜んでんだろう、この男どもは。っていうかミリシア……、流石ヴェルドーの妹だわ、いろんな意味で……。
訓練も一通り終わり、ミリシアは兵たちに威勢よく慰めていく。
「よし! お前らへたれでもしごけば使える! これを実戦でやって見せろ! 女が喜ぶぞ! 童貞卒業だ! わかったら精神的イ〇ポを直せ! これで晴れて役立たずからイントゥアンドフィニッシュだ。わかったかこの早漏どもが、良かったな!!!」
「マム、イエス、マム!!」
「そんなプロ童貞野郎に朗報だ、貴様らにサービスしてやる!」
「えっ、なんです!?」
「見ろ、我らが名だたるメイド戦隊どもだ。貴様ら、メイドどものカレーライスをたらふく味わえ!!!」
「えっ、今日は全員カレーライス食べてもいいんですか!」
「ああ……しっかり食え。おかわりもいいぞ!」
「うめ、うめ、うめ……」
とメイドたちが持ってきたカレーライスをお皿に入れて、兵たちが食べていると、メイドたちが大声をあげて声をかける。
「ただ今より、メイドサービスを開始しまーす!」
「えっ」
「せーの、おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えビーム!!!」
「うおお、あったけぇ……。ママあぁ……!!!」
とまあこんな感じで、兵たちはカレーライスをおいしく腹いっぱい食った。ミリシアのセンスっていったい……。
訓練を見守った後、私は統一宰相として、現在状況の確認と戦争方針の閣僚会議を行う。会議ばっかりやっているけど、何せ大陸全土をつかさどる政府だ、あれこれ利権問題や、各国諸事情の調整を行わなければならない。
現場の人間は現場で忙しいけど、上の人間は上の人間で忙しい。規模が大きいとこうなる。私は各国政治の状態を国務卿バーナードに尋ねた。
「現状東部諸国の政治状況はどう? その他諸国での戦争の影響は?」
「かなり煽りを食らっています。戦場から遠い地方でも、魔将軍ヴェルドーの悪名は轟いており、当国の政府が対応に追われています」
「そう、協力できる支援、経済物資問題や、治安問題で助けが必要ならこちらも対応すると伝えておいて、各国が連携しないとこの問題は解決できないから」
「はっ!」
「軍務卿、現在の戦況は?」
今度は私は軍務長官ジェラードに現状報告をさせた。
「まず西部戦線では、現状変わりありません。ウェイストヘイム西部にて魔王軍が軍事訓練を行ったぐらいで、依然魔王は軍を動かす気配すらありません」
「そう、やはり魔王エターリアはこちらとの全面戦争を望んでないようね。西部戦線での軍隊再編、とくに現役兵から新兵への交代はどうなってるの?」
「魔王が動かないことで、安心して兵を少しずつ現役兵から新兵に変えて、その引き抜いた現役兵を統一王陛下率いる東部戦線第二軍への編入をスムーズに行っております。一か月もすれば、第二軍編成も完了するとのことです」
「どうやら、編成後の訓練も含めて一か月半後ぐらいには第二軍を東部戦線に差し向けられそうね、当の東部戦線はどうなっているの?」
「初戦ではヴェルドーの率いる12万の軍を中心に各地方で侵攻が相続いておりました、ですが我が第一軍の必死の抵抗で、徐々に戦線が膠着しております。
これは宰相閣下の先を見通した要塞線構築命令の成果が出ているとの現場からの声が上がっております」
ジェラードの報告に閣僚たちは「おおっ!」との声を上げ、バーナードは「ここまでお見通しだったとは、まさに我らの救世主だ……」と満足した笑みを浮かべている。
つづいて私はこれから行う戦争方針の次の一手を述べた。
「どうやらエターリアは本気でこちらと構えるつもりはない。なら、私たちは魔王軍に圧力をかけつつ、東部での補給を断つ必要がある。
そこでなんだけど、最新鋭の船で編成された艦隊を東部での敵の船の撃破に向かうよう指示して。海からの補給線を断つのよ」
私の言葉にジェラードは少し言いにくそうに告げた。
「……恐れながら閣下、魔族軍の艦隊は依然強力で、我が統一国の初戦で押し込まれたのも、相手に制海権をとられてしまったことに要因があります。
いくら最新鋭の艦とは言え、正面から魔族艦隊と戦うには時期尚早かと」
「それについては外交的に解決する。前に報告した通り、エターリアにはエジンバラ以南へ軍を送らないと約束させた。
彼女にとって我が国との貿易は統治する上での生命線になっている。いまでもたぶん、小規模な海の補給を彼女が握っている魔族艦が行っているとは思うけど、大規模に編成された艦隊を差し向けたら流石にこちらにばれるわ。
もしそうなったら、外交方針を変えることになるけど、おそらくエターリアは政治家だから、戦争に拘泥したりしない。これ以上占領地を増やしても統治するだけの人材が魔族側にそろっていないもの。
彼女にとって望まぬ戦争だから、わざわざ危険を冒してまで我が海軍に艦隊を差し向けると思わないわ。私たちは政治と軍事が一体となってこの戦争に勝つ」
「なるほど」
「同感です」
「やはり救世主閣下だ……」
とみんなが納得してジェラードも安心したのか、
「ならばこちらも少し冒険に出ましょう、徐々に我が艦隊が大陸東部での制海権を得るために、海軍に船での襲撃を命じておきましょう」
と言ったので、私は、「ええ、そうして」と答えた。我が統一府は一丸となっている。これなら戦争に勝てる。このあと、戦争が生じたことで起こった諸問題を話し合い、閣僚会議も終え、私は一息つくことになった。
私はリーガン領に再び戻り、サロンでマーガレット夫人と話をした。
「どうですか、マーガレット夫人。貴族の方々の戦争に対する考えは」
「せっかく平和になって経済が回復し、発展もこれからという地方が多い中、領主である地方貴族の方々は戦争を不安に感じているようです」
「そうですか。やはりですか。ここは、貴族の方々にも戦争に協力してもらうために、一つちょっとした劇が必要ですね」
「劇、ですか……?」
「ええ、私は女優よ」
「はあ、そうですか……」
マーガレット夫人はなんだか腑に落ちない顔をしていたが、私にも考えがあった。ある貴族を呼び寄せたのだ。それはウェストヘイムの亡命貴族だ。
私は西部で縁があった貴族を呼び寄せた。彼はウェストヘイムが魔族に占領され、領地が盗られてネーザンに避難していた。
劇は多くの上級貴族たちが集まる日にちを選んだ。私は椅子に座って、政治の事や科学の事、文学のことをみんなとあれこれ言っていると、突然そのウェストヘイムの亡命貴族がこのサロンに現れた。
しかしサロンを見るなり彼はいきなり号泣し始めた。何事かと思い、皆がざわめき立つ。私が「どうかしましたか?」とその貴族に尋ねると、彼は涙ながらにウェストヘイムの惨状を皆に訴えかけた。
「ここに集まる貴族の方々はウェストヘイムの惨劇をご存じない! だからこうやって、魔族が、ヴェルドーがこちらに迫ってきているのに、平然と自分の領地の事ばかり話ができるのです!」
皆が静まり返り、私は冷静に皆に、彼に言った。
「こちらはウェストヘイムでの伯爵であられた方です。伯爵様、どうかウェストヘイムも我ら統一軍が奪還いたしますゆえ、ご心配なきよう」
「しかし、ここいる方々は戦場を知らない、無惨にも魔族に殺されたウェストヘイム国王夫妻のことを知らない!
あのにっくきヴェルドーは、お優しく、慈悲深い、前ウェストヘイム国王陛下を我らの目の前で、おぞましくも剣で真っ二つにし、さらにその血塗られた野心と欲望にかられ、前王妃をまるで豚のように扱い、皆の前で嘲笑い、そのうえ王妃殿下をその手にかけたのです!
これほど罪深き、恐ろしい魔族が迫ってきておるのに、まるで他人事のようにネーザン貴族はふるまっておられる。これを嘆かずにいられましょうか!
ヴェルドーがこのネーザンに入ってくれば、ネーザン国王陛下を必ずあざけながら殺し、高貴で若く美しい、誇りあるメアリー姫殿下をまるで豚のように扱い、罵り、犯し、欲望の限りを尽くすでしょう!
さらに野蛮な魔族たちはあなたがた貴族を殺し、女は犯され、子どもは奴隷として魔族に鎖をつながれるのです! これが敗者の末路! もう、この世界は、ヴェスペリアは終わりだ……」
ウェストヘイムの亡命貴族は皆を絶句させて、ご令嬢がたはがたがたと震え始めた。そんななか、私は静かにほほ笑みながら皆に告げた。
「皆様、現在統一軍は大陸東部アバディーンにて奮戦しております。ヴェルドーとの激戦を重ね一進一退、この大事な時、皆、手を取り合って、魔族に当たらなければなりません!
我々は死力を尽くして、ヴェルドーのあさましき野望を食い止めます! しかし我らだけでは強力な魔族と戦うことはできません! ぜひわたくし、統一宰相リーガン女伯ミサと戦っていただけないでしょうか! ネーザンのため、ヴェスペリアのために!!!」
「おお! そうだ、われらは何度窮地に陥ろうとも、救世主女伯様が救ってくださった。今度はこちらの番だ!」
「我らも協力致します!」
「私は貴族の縁をたどって、東部貴族の結束を高めたく存じますわ」
「我らの希望、ウェリントン陛下、ミサ女伯様と共に魔族と戦いましょう!」
「おおおお!!!」
と拍手喝さいが起こり、私はウェストヘイム亡命貴族の手を取りながら、大声で叫んだ。
「ヴェスペリア統一国に勝利を!! ネーザンに栄光を!! 誇り高き騎士の戦いの果てに!!!」
「勝利を! 栄光を!! 誇りを、我らに!!!」
とネーザン貴族と一致団結して、彼らの縁で様々な上流階層の協力を得て、戦争資金や物資を短期間にかき集めることが出来た。
戦争は一人で戦うのではない、すべての人々と手を取り合って初めて勝利を得ることが出来るのだ。私はその実感を確認し、戦争を次のステージに進めることにした。
いざ戦闘でいきなり本番で戦ってくださいって、フィクションではよくあるけど、そんなことされたら才能のある英雄でも、実際刃物や銃を面と向けられて、勝手に体が動くなんてことはまずない。逆に動けなくなる。
スポーツをやってればわかるけど、本番で全力を出せるのはその時間の何千倍何万倍の練習を積んで初めて、指導されてたまたはイメージ通りのアクションをとれるようになる。
天才は努力の天才とか誰が言ったか知らないけど、才能ある人はそれだけのことをやっているから本番でも強いのだ。
今回の訓練はレミィとミリシアが上長官として訓練を行うことにした。まだ士官学校上がりや昇級士官はあまりこちらに来ていない。そのまえに時間の許す限り実戦さながらの訓練を施したいと彼女たちの意向だ。
兵たちは銃をもち実際の射撃訓練を行ったり、銃剣の替わりに木剣を付けた銃で、白兵戦用格闘訓練を行う。特に厳しかったのがミリシアに任せていた部隊の戦闘訓練だ。
ミリシアは刃がついていない双刀を巧みに扱い、大の男相手に、筋力で負けずに華麗に舞うように、かかってくる新兵をいとも簡単にいなし、斬撃、打撃を加えていく。
踊っているように二刀をつかうミリシアは兵たちに大声を出して罵倒していく。
「貴様ら、それでも軍人か! そんなへっぴり腰では戦場に死にに行くようなものだぞ! 生きて故郷に帰りたければ、死ぬ気でかかってこい!」
「マム、イエス、マム!」
「貴様の力はそんなものか! こんなものでは、アリ一匹も殺せんぞ! 私が女であろうと、戦場では差別などない! 強いものが生き残り、弱きものは死ぬ! それだけだ!!
貴様らのようなちんけな木剣では刺してもわからん! 女を何だと思っている!! もっと腰を使え! 女を悦ばせたければ、体全身で動くのだ!
そんなこともわからん下手くそども! 精神的イ〇ポ! 女の前でパンツも脱げない童貞へたれ野郎どもめ!!!」
「マム、イエス、マム!」
「貴様らの短い木剣を振り回しても、女一人殺せん! どうやって私を悦ばせたらいいか考えろ! 頭も腰も全然! まるでナマコのようだ! こんなんなら、犬とヤった方がましだぞ!
ほら、相手の動きをよく見ろ! 相手の心をはかれ! イケメンでもない貴様らのようなへなちんどもでは、娼婦でもお断りだ。ママとでもヤっているつもりなのか、このくそマラ短小ども!!!」
「マム、イエス、マム!」
「声がお前の木剣並みに小さい! 心にイキりたった、ごりっぱな銃剣をつけろ! 貴様らそれで女を殺せるのか!!! この童貞チ〇ポどもめがあっ!!!」
「はいいぃぃ──!!!」
なんでこんなにボコボコに殴られ、叩かれ、踏まれて喜んでんだろう、この男どもは。っていうかミリシア……、流石ヴェルドーの妹だわ、いろんな意味で……。
訓練も一通り終わり、ミリシアは兵たちに威勢よく慰めていく。
「よし! お前らへたれでもしごけば使える! これを実戦でやって見せろ! 女が喜ぶぞ! 童貞卒業だ! わかったら精神的イ〇ポを直せ! これで晴れて役立たずからイントゥアンドフィニッシュだ。わかったかこの早漏どもが、良かったな!!!」
「マム、イエス、マム!!」
「そんなプロ童貞野郎に朗報だ、貴様らにサービスしてやる!」
「えっ、なんです!?」
「見ろ、我らが名だたるメイド戦隊どもだ。貴様ら、メイドどものカレーライスをたらふく味わえ!!!」
「えっ、今日は全員カレーライス食べてもいいんですか!」
「ああ……しっかり食え。おかわりもいいぞ!」
「うめ、うめ、うめ……」
とメイドたちが持ってきたカレーライスをお皿に入れて、兵たちが食べていると、メイドたちが大声をあげて声をかける。
「ただ今より、メイドサービスを開始しまーす!」
「えっ」
「せーの、おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えビーム!!!」
「うおお、あったけぇ……。ママあぁ……!!!」
とまあこんな感じで、兵たちはカレーライスをおいしく腹いっぱい食った。ミリシアのセンスっていったい……。
訓練を見守った後、私は統一宰相として、現在状況の確認と戦争方針の閣僚会議を行う。会議ばっかりやっているけど、何せ大陸全土をつかさどる政府だ、あれこれ利権問題や、各国諸事情の調整を行わなければならない。
現場の人間は現場で忙しいけど、上の人間は上の人間で忙しい。規模が大きいとこうなる。私は各国政治の状態を国務卿バーナードに尋ねた。
「現状東部諸国の政治状況はどう? その他諸国での戦争の影響は?」
「かなり煽りを食らっています。戦場から遠い地方でも、魔将軍ヴェルドーの悪名は轟いており、当国の政府が対応に追われています」
「そう、協力できる支援、経済物資問題や、治安問題で助けが必要ならこちらも対応すると伝えておいて、各国が連携しないとこの問題は解決できないから」
「はっ!」
「軍務卿、現在の戦況は?」
今度は私は軍務長官ジェラードに現状報告をさせた。
「まず西部戦線では、現状変わりありません。ウェイストヘイム西部にて魔王軍が軍事訓練を行ったぐらいで、依然魔王は軍を動かす気配すらありません」
「そう、やはり魔王エターリアはこちらとの全面戦争を望んでないようね。西部戦線での軍隊再編、とくに現役兵から新兵への交代はどうなってるの?」
「魔王が動かないことで、安心して兵を少しずつ現役兵から新兵に変えて、その引き抜いた現役兵を統一王陛下率いる東部戦線第二軍への編入をスムーズに行っております。一か月もすれば、第二軍編成も完了するとのことです」
「どうやら、編成後の訓練も含めて一か月半後ぐらいには第二軍を東部戦線に差し向けられそうね、当の東部戦線はどうなっているの?」
「初戦ではヴェルドーの率いる12万の軍を中心に各地方で侵攻が相続いておりました、ですが我が第一軍の必死の抵抗で、徐々に戦線が膠着しております。
これは宰相閣下の先を見通した要塞線構築命令の成果が出ているとの現場からの声が上がっております」
ジェラードの報告に閣僚たちは「おおっ!」との声を上げ、バーナードは「ここまでお見通しだったとは、まさに我らの救世主だ……」と満足した笑みを浮かべている。
つづいて私はこれから行う戦争方針の次の一手を述べた。
「どうやらエターリアは本気でこちらと構えるつもりはない。なら、私たちは魔王軍に圧力をかけつつ、東部での補給を断つ必要がある。
そこでなんだけど、最新鋭の船で編成された艦隊を東部での敵の船の撃破に向かうよう指示して。海からの補給線を断つのよ」
私の言葉にジェラードは少し言いにくそうに告げた。
「……恐れながら閣下、魔族軍の艦隊は依然強力で、我が統一国の初戦で押し込まれたのも、相手に制海権をとられてしまったことに要因があります。
いくら最新鋭の艦とは言え、正面から魔族艦隊と戦うには時期尚早かと」
「それについては外交的に解決する。前に報告した通り、エターリアにはエジンバラ以南へ軍を送らないと約束させた。
彼女にとって我が国との貿易は統治する上での生命線になっている。いまでもたぶん、小規模な海の補給を彼女が握っている魔族艦が行っているとは思うけど、大規模に編成された艦隊を差し向けたら流石にこちらにばれるわ。
もしそうなったら、外交方針を変えることになるけど、おそらくエターリアは政治家だから、戦争に拘泥したりしない。これ以上占領地を増やしても統治するだけの人材が魔族側にそろっていないもの。
彼女にとって望まぬ戦争だから、わざわざ危険を冒してまで我が海軍に艦隊を差し向けると思わないわ。私たちは政治と軍事が一体となってこの戦争に勝つ」
「なるほど」
「同感です」
「やはり救世主閣下だ……」
とみんなが納得してジェラードも安心したのか、
「ならばこちらも少し冒険に出ましょう、徐々に我が艦隊が大陸東部での制海権を得るために、海軍に船での襲撃を命じておきましょう」
と言ったので、私は、「ええ、そうして」と答えた。我が統一府は一丸となっている。これなら戦争に勝てる。このあと、戦争が生じたことで起こった諸問題を話し合い、閣僚会議も終え、私は一息つくことになった。
私はリーガン領に再び戻り、サロンでマーガレット夫人と話をした。
「どうですか、マーガレット夫人。貴族の方々の戦争に対する考えは」
「せっかく平和になって経済が回復し、発展もこれからという地方が多い中、領主である地方貴族の方々は戦争を不安に感じているようです」
「そうですか。やはりですか。ここは、貴族の方々にも戦争に協力してもらうために、一つちょっとした劇が必要ですね」
「劇、ですか……?」
「ええ、私は女優よ」
「はあ、そうですか……」
マーガレット夫人はなんだか腑に落ちない顔をしていたが、私にも考えがあった。ある貴族を呼び寄せたのだ。それはウェストヘイムの亡命貴族だ。
私は西部で縁があった貴族を呼び寄せた。彼はウェストヘイムが魔族に占領され、領地が盗られてネーザンに避難していた。
劇は多くの上級貴族たちが集まる日にちを選んだ。私は椅子に座って、政治の事や科学の事、文学のことをみんなとあれこれ言っていると、突然そのウェストヘイムの亡命貴族がこのサロンに現れた。
しかしサロンを見るなり彼はいきなり号泣し始めた。何事かと思い、皆がざわめき立つ。私が「どうかしましたか?」とその貴族に尋ねると、彼は涙ながらにウェストヘイムの惨状を皆に訴えかけた。
「ここに集まる貴族の方々はウェストヘイムの惨劇をご存じない! だからこうやって、魔族が、ヴェルドーがこちらに迫ってきているのに、平然と自分の領地の事ばかり話ができるのです!」
皆が静まり返り、私は冷静に皆に、彼に言った。
「こちらはウェストヘイムでの伯爵であられた方です。伯爵様、どうかウェストヘイムも我ら統一軍が奪還いたしますゆえ、ご心配なきよう」
「しかし、ここいる方々は戦場を知らない、無惨にも魔族に殺されたウェストヘイム国王夫妻のことを知らない!
あのにっくきヴェルドーは、お優しく、慈悲深い、前ウェストヘイム国王陛下を我らの目の前で、おぞましくも剣で真っ二つにし、さらにその血塗られた野心と欲望にかられ、前王妃をまるで豚のように扱い、皆の前で嘲笑い、そのうえ王妃殿下をその手にかけたのです!
これほど罪深き、恐ろしい魔族が迫ってきておるのに、まるで他人事のようにネーザン貴族はふるまっておられる。これを嘆かずにいられましょうか!
ヴェルドーがこのネーザンに入ってくれば、ネーザン国王陛下を必ずあざけながら殺し、高貴で若く美しい、誇りあるメアリー姫殿下をまるで豚のように扱い、罵り、犯し、欲望の限りを尽くすでしょう!
さらに野蛮な魔族たちはあなたがた貴族を殺し、女は犯され、子どもは奴隷として魔族に鎖をつながれるのです! これが敗者の末路! もう、この世界は、ヴェスペリアは終わりだ……」
ウェストヘイムの亡命貴族は皆を絶句させて、ご令嬢がたはがたがたと震え始めた。そんななか、私は静かにほほ笑みながら皆に告げた。
「皆様、現在統一軍は大陸東部アバディーンにて奮戦しております。ヴェルドーとの激戦を重ね一進一退、この大事な時、皆、手を取り合って、魔族に当たらなければなりません!
我々は死力を尽くして、ヴェルドーのあさましき野望を食い止めます! しかし我らだけでは強力な魔族と戦うことはできません! ぜひわたくし、統一宰相リーガン女伯ミサと戦っていただけないでしょうか! ネーザンのため、ヴェスペリアのために!!!」
「おお! そうだ、われらは何度窮地に陥ろうとも、救世主女伯様が救ってくださった。今度はこちらの番だ!」
「我らも協力致します!」
「私は貴族の縁をたどって、東部貴族の結束を高めたく存じますわ」
「我らの希望、ウェリントン陛下、ミサ女伯様と共に魔族と戦いましょう!」
「おおおお!!!」
と拍手喝さいが起こり、私はウェストヘイム亡命貴族の手を取りながら、大声で叫んだ。
「ヴェスペリア統一国に勝利を!! ネーザンに栄光を!! 誇り高き騎士の戦いの果てに!!!」
「勝利を! 栄光を!! 誇りを、我らに!!!」
とネーザン貴族と一致団結して、彼らの縁で様々な上流階層の協力を得て、戦争資金や物資を短期間にかき集めることが出来た。
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そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
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表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
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