ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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序章

第一話 プロローグ

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 すべてにおいて、始まりがあれば終わりがある。この世界が神によって造られたというのなら、その神によって終焉しゅうえんを告げられても何の不思議もない。何故なら生きとし生けるものには滅びがある。これは世界の終わりへとむかう物語。この僕という人生の物語さえも。

 僕、池田祐月いけだゆづきは無為に人生を送っていた。思い返せば、小学生の頃からゲームとアニメにはまって家の中でごろごろしていて何も努力してこなかった。

 だが、中学生の頃だっただろうか、僕はついに初恋というものを経験した。名は日向直子ひゅうがなおこ。彼女は中学生にしては大人びた雰囲気があり、初めて僕は女性というものを意識したのだった。クラス委員長で真面目で可愛らしく、男子にとても人気があった。

 そんな彼女はみんなの憧れの的だ。僕なんかが手が届くはずもなく、結局、当然ともいえるが、想いを告げることなくそのまま片思いで終わった。こんな情けない片思いが僕の青春のたった一つの1ページだった。

 高校生の頃、何も勉強などせず気の向くままスマートフォンでゲームをし、ネットで遊んでいた。娯楽に溺れる日々、堕落に堕落を重ねどんどん落ちぶれていく。

 そんな僕が大学に行けるはずもなく卒業後、就職活動にはげむが、もちろん不採用だった。地方に住んでいた僕みたいな男には、まともなバイト先もない。生活費を稼ぐため、近くの都会でみみっちいアルバイトの日々。

 だが、都会の雰囲気にはなじめず、気の合う同僚もいなく、仲間はずれの僕はいやな仕事ばかりを押しつけられていた。結局、同僚たちに仕事ができないと陰口をたたかれ、上司からパワーハラスメントを受けて、そのバイトは半年で辞めた。

 次のバイトでも同じ。同僚からハブにされ、上司からパワハラ、客からのクレーム。すぐにバイトをやめ、アルバイトを転々とする。履歴書に埋められた自主退職という言葉。僕にはもう行き場所がなかった。

 そんな僕にでも一つの趣味があった。ある日ネットで見かけた銃器の魅力にはまっていた。引き金をひくと耳の中に鳴り響く轟音、機能美にあふれたフォルム。

 興味のままFPSにはまってしまいネットの動画を見ながら、どこか外国へ移民したいと夢見ていた。夢だけを見て何もしないでダラダラ過ごしているともう30歳。

 ついにはアルバイトさえも見つけにくくなり、コンビニのバイト、清掃員、工場のきついバイトしか僕には用意されていなかった。もちろん貯金はなく、健康保険料もはらえず、病院など行ったことなどない。

 実家に帰ってどうにかならないかと親と相談する羽目になったけれども、母からはウチは貧乏だ、一人で生きて行けと突き放された。事実上勘当宣言だ。

 その時だった、一通のハガキが僕宛に来ていた。その宛先を見ると知らない名字だった。裏面を見るとこう書かれていたのであった。

 ――わたくし、日向ひゅうが直子は結婚をし、皆川直子になります――

 ひどく胸がきつくしめられた。初恋の人だった彼女の幸せそうな写真を見ると、今まで僕は何をやっていたんだろうかと、涙がわき出てきた。ああ、僕も幸せが欲しい、僕もこの人生をもっと充実したい。なのに僕はもう取り返しがつかないのか……? 

 いっそ、腹を決めてある決心をする。

 ──そうだ、お金を貯めて外国に行こう。そして第二の人生を歩もう──

 僕は夢見がちな大人になれない、よくいる大きな子どもだった。しかし、心に火が付けば走りは早くなる。都会に戻り自らきつい工場のバイトに勤めたのだ。理由は給料がいいからだ。朝7時に出勤、夜7時終業。雑務を終わらせて帰宅する頃には10時ぐらいになっていた。

 近所のスーパーは開いておらず、コンビニでカップラーメンを買って食費を節約する。それでもいい、いつか外国に行って自分の人生は変えられるはずだ。そう思って無理のある生活を数年続けるともう35歳、身体にガタが出てきた。ときどき心臓が痛くなる。

 だが、健康保険料は滞納している。病院に行くには貯金を切り崩して医療費を払うしかない。なら、どうせほっといてもなんとかなるさ。

 ──そう若い頃の精神のままでいたのが致命傷だった。スクーターで通勤途中、胸が苦しくなる。ヘルメットの中で僕は呼吸困難になり、運転がままならなくなっていき、どんどんとスクーターが狂い始める。

 ──最後に見たものは赤信号と大型トラックが横切ろうとする姿、それだけ。すっと目の前が真っ暗になると、キーンとした轟音が頭の中に響いてくる。結局、僕がどうなったのかわからない。

 ただ予感した――

 ――僕は死んだのだと――

 ──────────────────────────────

 大地から魂が離れ、意識がもどってくる。だが身体が動かない、何かに縛り付けられてる気分だ。刹那せつな、僕は時が止まったのかと思った。

 ……目の前に見たことのない美しい少女がいたからだ。

 彼女を眺めてみると、長い銀色の髪が柔らかく頭部を包み、まつげは長く、目はあおい。端正たんせいで幼げな顔立ちをしており、この世で見たことのないほどの美貌びぼうを持っていた。次に、顔から視線を下ろすと西洋風鎧を着ており、下には長い白いスカートをなびいている。

 魂が抜ける感覚がした。ああ、そうだ、僕は死んだんだ。じゃないとこんな幻想的な光景に出会えるはずがない。

 そう……か、死んだのか、僕は──!

 実感を得ると、突然胸の奥から感情を吐きそうなくらいこみ上げてくる。

 ――虚しい人生だった!
 ――何もない人生だった!!
 ――こんな終わり方があるかよ!!!

 だが、もうすでに、僕は死んでいる。でも。もう少しでいい、頼むから僕に時間をくれ! もっと人生を堪能したかった! 楽しい思い出を作りたかった! 素敵な女性と共に時間を過ごしたかった!

 もっと、……生きたい……。高まる感情から涙がこぼれていく。涙、泣いているのか、僕は。情けない自分へとコツコツと誰かが近くに歩いてくるのを感じた。くだんの銀髪の少女、浮かべる穏やかな微笑。そっと彼女は手を刺し伸ばし、白い指先が僕の顔に触れる。

 神聖な時間だった。僕の予想に反して、彼女はゆっくりとこう言葉を投げかけてきた。

「……そうか、生きたいか。なら、生かしてやる。私と契約しろ。そして人を殺せ。人を殺してまで生きていたいというならこのラグナロクに加えてやる――」

 彼女の矮躯わいくに似つかわしくなく、残酷な言葉が僕に投げかけられたのだった。

 人を殺す? ラグナロク? いったいどういうことだ……。彼女は、いったい──
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