ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
1 / 211
序章

第一話 プロローグ

しおりを挟む
 すべてにおいて、始まりがあれば終わりがある。この世界が神によって造られたというのなら、その神によって終焉しゅうえんを告げられても何の不思議もない。何故なら生きとし生けるものには滅びがある。これは世界の終わりへとむかう物語。この僕という人生の物語さえも。

 僕、池田祐月いけだゆづきは無為に人生を送っていた。思い返せば、小学生の頃からゲームとアニメにはまって家の中でごろごろしていて何も努力してこなかった。

 だが、中学生の頃だっただろうか、僕はついに初恋というものを経験した。名は日向直子ひゅうがなおこ。彼女は中学生にしては大人びた雰囲気があり、初めて僕は女性というものを意識したのだった。クラス委員長で真面目で可愛らしく、男子にとても人気があった。

 そんな彼女はみんなの憧れの的だ。僕なんかが手が届くはずもなく、結局、当然ともいえるが、想いを告げることなくそのまま片思いで終わった。こんな情けない片思いが僕の青春のたった一つの1ページだった。

 高校生の頃、何も勉強などせず気の向くままスマートフォンでゲームをし、ネットで遊んでいた。娯楽に溺れる日々、堕落に堕落を重ねどんどん落ちぶれていく。

 そんな僕が大学に行けるはずもなく卒業後、就職活動にはげむが、もちろん不採用だった。地方に住んでいた僕みたいな男には、まともなバイト先もない。生活費を稼ぐため、近くの都会でみみっちいアルバイトの日々。

 だが、都会の雰囲気にはなじめず、気の合う同僚もいなく、仲間はずれの僕はいやな仕事ばかりを押しつけられていた。結局、同僚たちに仕事ができないと陰口をたたかれ、上司からパワーハラスメントを受けて、そのバイトは半年で辞めた。

 次のバイトでも同じ。同僚からハブにされ、上司からパワハラ、客からのクレーム。すぐにバイトをやめ、アルバイトを転々とする。履歴書に埋められた自主退職という言葉。僕にはもう行き場所がなかった。

 そんな僕にでも一つの趣味があった。ある日ネットで見かけた銃器の魅力にはまっていた。引き金をひくと耳の中に鳴り響く轟音、機能美にあふれたフォルム。

 興味のままFPSにはまってしまいネットの動画を見ながら、どこか外国へ移民したいと夢見ていた。夢だけを見て何もしないでダラダラ過ごしているともう30歳。

 ついにはアルバイトさえも見つけにくくなり、コンビニのバイト、清掃員、工場のきついバイトしか僕には用意されていなかった。もちろん貯金はなく、健康保険料もはらえず、病院など行ったことなどない。

 実家に帰ってどうにかならないかと親と相談する羽目になったけれども、母からはウチは貧乏だ、一人で生きて行けと突き放された。事実上勘当宣言だ。

 その時だった、一通のハガキが僕宛に来ていた。その宛先を見ると知らない名字だった。裏面を見るとこう書かれていたのであった。

 ――わたくし、日向ひゅうが直子は結婚をし、皆川直子になります――

 ひどく胸がきつくしめられた。初恋の人だった彼女の幸せそうな写真を見ると、今まで僕は何をやっていたんだろうかと、涙がわき出てきた。ああ、僕も幸せが欲しい、僕もこの人生をもっと充実したい。なのに僕はもう取り返しがつかないのか……? 

 いっそ、腹を決めてある決心をする。

 ──そうだ、お金を貯めて外国に行こう。そして第二の人生を歩もう──

 僕は夢見がちな大人になれない、よくいる大きな子どもだった。しかし、心に火が付けば走りは早くなる。都会に戻り自らきつい工場のバイトに勤めたのだ。理由は給料がいいからだ。朝7時に出勤、夜7時終業。雑務を終わらせて帰宅する頃には10時ぐらいになっていた。

 近所のスーパーは開いておらず、コンビニでカップラーメンを買って食費を節約する。それでもいい、いつか外国に行って自分の人生は変えられるはずだ。そう思って無理のある生活を数年続けるともう35歳、身体にガタが出てきた。ときどき心臓が痛くなる。

 だが、健康保険料は滞納している。病院に行くには貯金を切り崩して医療費を払うしかない。なら、どうせほっといてもなんとかなるさ。

 ──そう若い頃の精神のままでいたのが致命傷だった。スクーターで通勤途中、胸が苦しくなる。ヘルメットの中で僕は呼吸困難になり、運転がままならなくなっていき、どんどんとスクーターが狂い始める。

 ──最後に見たものは赤信号と大型トラックが横切ろうとする姿、それだけ。すっと目の前が真っ暗になると、キーンとした轟音が頭の中に響いてくる。結局、僕がどうなったのかわからない。

 ただ予感した――

 ――僕は死んだのだと――

 ──────────────────────────────

 大地から魂が離れ、意識がもどってくる。だが身体が動かない、何かに縛り付けられてる気分だ。刹那せつな、僕は時が止まったのかと思った。

 ……目の前に見たことのない美しい少女がいたからだ。

 彼女を眺めてみると、長い銀色の髪が柔らかく頭部を包み、まつげは長く、目はあおい。端正たんせいで幼げな顔立ちをしており、この世で見たことのないほどの美貌びぼうを持っていた。次に、顔から視線を下ろすと西洋風鎧を着ており、下には長い白いスカートをなびいている。

 魂が抜ける感覚がした。ああ、そうだ、僕は死んだんだ。じゃないとこんな幻想的な光景に出会えるはずがない。

 そう……か、死んだのか、僕は──!

 実感を得ると、突然胸の奥から感情を吐きそうなくらいこみ上げてくる。

 ――虚しい人生だった!
 ――何もない人生だった!!
 ――こんな終わり方があるかよ!!!

 だが、もうすでに、僕は死んでいる。でも。もう少しでいい、頼むから僕に時間をくれ! もっと人生を堪能したかった! 楽しい思い出を作りたかった! 素敵な女性と共に時間を過ごしたかった!

 もっと、……生きたい……。高まる感情から涙がこぼれていく。涙、泣いているのか、僕は。情けない自分へとコツコツと誰かが近くに歩いてくるのを感じた。くだんの銀髪の少女、浮かべる穏やかな微笑。そっと彼女は手を刺し伸ばし、白い指先が僕の顔に触れる。

 神聖な時間だった。僕の予想に反して、彼女はゆっくりとこう言葉を投げかけてきた。

「……そうか、生きたいか。なら、生かしてやる。私と契約しろ。そして人を殺せ。人を殺してまで生きていたいというならこのラグナロクに加えてやる――」

 彼女の矮躯わいくに似つかわしくなく、残酷な言葉が僕に投げかけられたのだった。

 人を殺す? ラグナロク? いったいどういうことだ……。彼女は、いったい──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...