ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
12 / 211
紅い月のもとで

第十二話 紅い月のもとで②

しおりを挟む
 あやしくただよう紅い月の光、闇に沈む暗がりの町で、僕は血まみれの老婆と対峙たいじする。僕が銃の引き金を絞ろうとした瞬間、老婆はひっそりとつぶやいた。

「坊や影が少し見えているよ」

 ──瞬時、僕の心臓が鷲掴わしづかみになった。だが、僕はかまわず一心不乱に老婆にバースト射撃を行う。

 激しい音が夜の静寂を破り、つらなる弾丸が放たれて、その反動で手がしびれてしまった。視界に入る石造りの外壁を粉々にしていく、揺らめき動く老婆の影、よしこれで……。なっ!?

 だげ、よく見るとそこには無傷の老婆がいた。──しまった、老婆のつぶやきに動揺したのか!? 僕の射撃は外れていたのか?

 くそっ! 僕はその場から逃げようとした、が、空を見上げると月を背にしてしまっていた、しまった! それで、僕の影が見えたのか!

 老婆は恐ろしいスピードで追いかけてくる、速い! 老婆がショートソードを振り上げ光の刃がおそって来た。

 僕が逃げに徹したのが幸いし、なんとか刃をかわす、そして、僕は度々振り返りながら老婆と距離を取ろうとする、だが、老婆の足は僕と同じぐらいのスピードで追ってくる。何故だ、何故こんなにも早く動ける!?

 くそ、どうやって距離を取る……? とりあえず、僕は命からがら町を駆け巡った、そうこう考えているうちに、あたりが騒がしくなっていた。戦いの音でに人々の注目を浴びたのか?

 ──いや、違う、祭りだ。夜の中、松明たいまつ明々あかあかと灯し、人々が集まり、あるいは踊り、歌っていたり、僕はみたことのない形状の、おそらく楽器だろうもので演奏していた。

 この世界にも音楽を楽しむ文化があったのか? 少し感心しながら、ふとあることを思いつく。

 この人混みに紛れてしまえば僕は見つからないのではないのか――? 昼間は明るい、外人がいれば人混みの中でも目につきやすい。

 だが今は夜だ。顔かたちなどわからない、今、僕はこの世界の人々が着ている服と同じ服を着ており、フード付きのコートを羽織っている、考えた結果祭りの人々の中に紛れ込んで距離を取ることにした。これで老婆も追ってこないだろう。

 あたりがざわめく、血まみれの老婆が僕に向かって直線的に向かってくるからだ。あれでは逆に目立つ、策が功を奏したようだ、だがしかし、まっすぐこちらに向かってくる、なぜ僕の居場所がわかる!?

 僕は逃げ出した、殺されるわけにはいかない。僕が死ねば、メリッサもともに死んでしまう。ふと、メリッサのことを想った。老婆があんなに返り血を浴びていたということは、相当刺されたということだ、途端に胸が締め付けられる。

 ヴァルキュリアとはいえ痛覚はそのままだ、痛みはこらえようもないだろう、あの少女が痛みに苦しむ姿を思い浮かべると胸がはち切れそうになった。

 メリッサ……すまない……。

 心の中で懺悔ざんげすると同時に決意を新たにする、絶対にあの老婆を倒す。メリッサがうけた痛みは、千倍にして返す、呼吸を整え、心の臓を落ち着かせる。僕は冷静に、周りを見渡した、何か使えるものはないか。

 よく探すと空き家があった。ドアや窓は取り外されており、硬い石造りの小さな家で、部屋は狭い、中は真っ暗だ、これは待ち伏せにもってこいだ、入り口は限られているし、奇襲される恐れもない。

 中に入ってみると、外側はぼんやり月明かりで照らされており、外に置いてある木箱やらの影がはっきり見える。しめた! ここは使えるぞ、部屋の中の暗がりに入れば相手の視界に入らないだろう、また、中から外を見れば明るさの差で、敵の姿がはっきり見えるはず、僕はここをポイントとし待ち伏せることにした。

 静寂しじまの中しばらくすると、黒い影が伸びてくるのがわかった、ゆっくりと足を忍ばせてこの部屋の横をすごそうとしている。奴だな。姿がゆっくりと見え、胸あたりに照準が合ったとき、バースト射撃を行う!

 放たれた銃弾に呼応して影がうごめき、わずかながら老婆の体が跳ね飛ばされるのがわかった。当たった!

 しかし、老婆はうめき声一つあげずに体を隠す、仕留め損なったか? 近づいて確認してみるか? いや、まてよ、これはやつの手だ。その手には乗ってはならない。

 僕はじっと入り口に銃口を向けて待ち構えた、しばらく沈黙の時間が流れる、あたりは静かだ、そうやって時が流れていくと、しんとした緊張の中に奇妙な音が伝わってきた。

 ズッ、ズッ、ズッ……

 何か引きずる音が聞こえる、うっすらと闇の中から茶色い四角い物が見えてくる、そして入り口に大きな木箱が現れた。これを盾にして近づくつもりか!

 僕はセミオートで木箱を撃ちつくす。木箱がバラバラになったが、老婆は……いない? ひょいと影が伸びるのがみえて、それだと思って銃を放った。

 音が鳴り、銃がうなるが途中で音がしなくなる、トリガーを引いてもまん中で固く止まり動かない。射撃が途中で終わってしまった!?  弾倉マガジンが軽い、ロックがかかった、しまった、弾切れだ!

 絶望の中、辺りを見渡し僕は他の武器を探す、だが、残念ながら火かき棒らしき物しかなかった。僕はMP7A1を捨てて火かき棒に持ち換えようとする、──それが運の尽きだった、MP7A1を地面に落とした音がしたとき、老婆が一気に襲いかかってきた。

 そうだ……! どうせ相手はこの武器の弾の数なんてわからないんだ、僕の世界の人間じゃないから弾切れなんて知識はない、このまま銃を構えて外に出れば老婆は警戒して攻撃しなかっただろう。

 何故僕は、相手も同じ常識を持っていると思ったのだろうか。しまったことになった。火かき棒で殴ろうとするもあっさり木の部分を切られ、前のように切れ端を刺そうとするもたやすくかわされる。

 僕は簡単に老婆に組み伏せられて、ショートソードの刃を顔の方を向けられた。対して僕はそれを手をつかんで、なんとか攻撃を防ぐが、腕力は僕の方が上だろうになにせ体勢が悪い、体重をかけて光の刃が僕の顔に近づいてくる!

 機転を利かし、僕は相手の気を散らそうと話しかけた。

「何故僕をまっすぐ追跡できた? 何故そんなスピードで動ける?」

 僕の問いに対し嬉しそうに老婆は答えた。

「教えて欲しいかい?」

 老婆は自分のスカートをまくり上げる、そこには若い少女のような白い美しい足がついていた……!

「ヴァルキュリアと目と足を交換したのさ、ヴァルキュリアの目があれば、たとえ人混みに紛れてもエインヘリャルはわかるし、ヴァルキュリアの足があれば普通の男以上の脚力が持てるのさ。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 何だと――!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...