ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
35 / 211
僕とメリッサの戦い

第三十五話 日差しそして

しおりを挟む
 天から降り注ぐ太陽の光の中、黒のヴァルキュリアは空を仰ぐ、雲の隙間から温かい日差しが彼女に差し込んできた。そして彼女は静かに笑った。

「そうか私は負けたのか……」

 体は光に包まれている、ゆっくりとした時間が流れていき、最後の光をきらめかせる、彼女がもっていた残りの命の光りだ。

「最後の敵としては最高の敵だった。悔いはない……」

 黒いヴァルキュリアが目を閉じるとすっと姿は消え去り、ただ石造りの塀が残すのみだった。辺りは静かで、まるで何事もなかったのように街ゆく人々の声が聴こえてくる。勝った……! あの大男に僕は勝ったんだ……。

「おい、佑月! 私たちは勝ったんだな!」

 メリッサが喜んで抱きついてくる。僕はそっと彼女の髪の毛をでた。

「ああ、そうだよ。僕も信じられないくらいだ」

 メリッサの笑顔に勝利を改めて実感する、僕はあの大男に勝ったんだ、しかも完勝、ストレスから解放され、ふつふつと喜びがわいてくる。

「作戦を聞かされたときは、半信半疑だった。相手をフラフラになるまで追い込むことが主な目的で、むかしは装甲車をぶち抜くように作られた対物狙撃銃アンチマテリアルライフルで打ち抜くなんて」

 メリッサは可愛らしく小さい体を飛び上がらせてぴょんぴょん跳ねた。

「僕の腕じゃ、動いてる敵は狙撃できないだろうからね、距離も近くないといけない、奴をだいぶ弱らせる必要があった。

 やはりあいつもバレットM99のマグナム弾相手では貫通力を殺せなかったようだ。もし、あれでもはじかれたら僕の世界の文明の終焉を感じただろうね」

「一撃でも食らったら致命傷という中でよくやったな佑月! お前を選んで正解だった流石だぞ! 完璧だった、やったな!」

「メリッサのサポートがあってこそだよ、黒のヴァルキュリア相手によく上手く立ち回り僕に武器を与えてくれた、君の活躍がなければ僕はあっさり死んでいた。ありがとうメリッサ」
「ふふふ……」

 喜びのあまりメリッサは首に手を回しキスをしようとする、でも身長が届かず、ぴょんぴょん跳ねているだけだったので、僕は膝を折り熱いキスのプレゼントを受け取った。

「ん……ん……ん…………」

 とろけるような情熱のキス、僕は勝利の喜びを感じ絶頂の気分だった、舌を絡めつけ唾液の糸を引く。これが大人の快感というものなのか。

「佑月お前は最高のパートナーだ、私はここまで成長してくれて嬉しい。もっともっと私を喜ばせてくれ、お前といると楽しくてたまらない」
「僕もだよ、メリッサ」

 もう一度口づけをかわす、こうしていると僕とメリッサがつながってる気分になる、かつてない幸福感を味わっていた。だがその束の間……!

 ――突然武装した人々が僕たちを囲んできた。

「この騒ぎを起こしたのはお前たちか!」

 武装した兵士がよくわからない言葉で叫んでいた。

「どういうことだ。メリッサ」
「警護の兵士に見つかった。これだけ騒ぎを起こせば当然だな」

 冷静メリッサに対して兵士が怒鳴るように叫びはじめた。

「お前たちこちらに来てもらう、抵抗すると命はないぞ!」

 そう言って兵士は僕の手を引っ張った。

「何をする! 離せ!」

 僕が叫ぶが何せ現地人と言葉が通じないからどうしようもない。

「佑月! 抵抗するな! おとなしく相手のなすがままに任せろ」

 ここじゃあ勝手がわからない、仕方ない彼女の言う通りにすることにする。しかし、僕とメリッサは兵士たちに引き離されたのだ。

「メリッサ!」

 何があったのか、わからない。結局、僕は何が何だかわからないまま兵士たちに連れられ牢屋に入れられてしまったのだ。

――――――――――――――――――――――――――――

 暗い暗い石造りの牢屋。窓は縦横15cmほどで光がほとんど入らない。勝利に酔いしれる間もない間、暗澹あんたんとした気持ちになる。

 何もすることがない、時折よこからうめき声が聞こえる。何故このような場所に入れられなければならないのか、僕には理解できない。騒いだのが原因か? 彼らにとって奇妙な武器を持っているからか? 

 はたまた外人だからなのか? 考えめぐらせるが泥沼、鬱になるだけだ。やめよう。

 メリッサはどうしているだろう。ひどい目に遭わされていないだろうか。まさか彼女の体を狙って……! ――理不尽な目にあわされて、ふつふつと怒りが沸き起こる。

「おい! ここから出せ! メリッサに会わせろ!」

 思いっきり僕は叫んだ。

「うるせえぞ! 黙れ! 訳のわからない言葉でわめくな!」

 怒鳴り声が聞こえるが僕は気にしない。

「出せ! 出せ!」

 僕が叫び続けると兵士たちが集まり牢を開けた、やつらは野蛮にもガントレットをはめたままで僕を殴った、そうやって、僕が言葉を出し続ける限り殴られ続けてしまった。……くそっ、何でこんな目に……!

 僕が押し黙ると、兵士は牢の鍵を閉めて立ち去っていく。ああ、もう! なんなんだ一体! 武器さえあればこんな奴ら……、口から流れる血を拭い歯ぎしりをし始めた。

 メリッサは何故、抵抗するなと行ったのだろうか? こんな野蛮人ども銃で全部……。自分考えてそして思い浮かんだ発想でぞっとする。自分がずいぶんと野蛮化したことにきづいた、環境に慣れるとは恐ろしいものだ、今の僕は平気で人を殺すだろう。

 少し自分が嫌になる、過酷なラグナロクの戦いの中、メリッサさえいれば自分が保たれてきた。しかし、孤独は人をおかしくする、僕はメリッサに救われているのだと改めて気づく。──メリッサ……無事にいてくれ……。

 食事は一日一回。粗末で硬いパンとまずいかゆのスープが運ばれてきた。最初は食べるのをためらっていたが、腹が空いてきたため仕方なく食べる。くそまずい、どうやったらこんなにまずい飯を人に食わせられるのか、この世界の舌のおかしさに僕は絶望する。

 メリッサの料理はうまかった、ああメリッサの食事が食べたいな。彼女がいればいいのにな──。

――二日目――

 なにもない、ぴとぴとと水滴の音がする、石の上では眠れない。壁にもたれかかって数時間寝て起きる、それをずっと続けていた。

――三日目――

 なにもない、水の音がうるさい。うめき声がうるさい、やめろやめろ。こいつら外に出たらこの牢ごと爆破してやる、楽しみだ。

――四日目――

 何もかもがめんどくさい目を開けるのもめんどくさい、手を動かすのもめんどくさい、足なんて動かさなくていい。

 投げやりになっていると、男の足音が聞こえてくる。何だ、飯の時間がはやいじゃないか。僕の牢が開けられ、手首にロープを結ばれたまま、兵士たちに連れて行かれる。館をめぐっていき、大きな扉の目の前で止まった。

 ここに入れというのか。兵士たちが扉を開けた。そこで目にしたものは――。そう、彼女、メリッサだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...