ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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砂城の愛

第四十七話 幸せの意味②

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 宿に泊まるとメリッサは疲れたといってすぐ寝てしまった。旅の疲れもあったのだろうベッドに入るとすぐに寝てしまったようだ、僕たちは一つの狭いベッドで寝ていた。……そういえばお休みのキスしかしてない。

 可愛い彼女の顔見ているとつい興奮してしまうが、まあ、でも、抱き心地が非常にいいので、かまわずメリッサをギュウッと抱きしめて寝た。──彼女の口からは寝息がすうすうもれている。ほんとうに疲れてたんだな。ああ、可愛い。

 朝起きるとメリッサはとっくに起きていた。元気な様子でひどく興奮しているようだ。

「お寝坊さんだぞ、佑月!」

 メリッサに頬を突っつかれた。

「おはようのキス、ほら~早く~。早くしないと朝ご飯抜きだぞ」

 お前そういうキャラだっけ? また、メリッサが考える十代ぐらいの彼女ごっこしているのだろう。笑いそうになるのをこらえるが、そうしておねだり上手なお姫様にキスをして、出かける支度をし、また教会に向かった。

「昨日何してたんだ?」

 メリッサが尋ねた。隠しても仕方ないから正直に言おうかと思ったがやめた、何故だかは解らないが嫌な予感がした。

「教会の奥に孤児院があってね、それをずっと眺めてた」
「子ども好きか?」

 上目づかいで僕を見つめてきた、あまりにも、うるんだ瞳で見つめられるとドキドキしてくる。照れ隠しに僕は笑った。

「ああ好きだよ」

 そう言うとメリッサは、少しモジモジしながら嬉しそうな顔で、

「いつかつくろうな!」

 そう言って恥ずかしそうにしながら教会の中に入っていった。あまりの突然の言葉に顔が真っ赤になり卒倒しそうだった。子ども……メリッサと子ども……、いや、いかん。僕は大人の男だ、大人らしく振る舞わないと。

 ──それでもって卒倒したのはミリアだった。

「ネット……世界中とつながってる……すごすぎ」
「十歳でもネットしているよ」

 僕がそう言うと、
「恐ろしい! なんて恐ろしい世界なの? 世界中とお話しできるなんて。しかも子どもまで! ふああ――」

 と、何かブツブツ呟きながらその金髪の髪の毛をもじゃもじゃとかきむしる。僕は孤児院に行ってまたミリアと話していた、メリッサみたいな少女染みた女の子と話すのもいいが、大人の女性と話せるのはとても楽しい。

 ずっとメリッサ以外と会話のない僕にとって新鮮な甘い果実だった、しかし、彼女には刺激が強すぎたか、でもためしに次の機会にスマホを教えてみよう。なんだかリアクションが面白い。

「なんてことなのこれが文明の差? 世界中とおしゃべりできたら、私、ずっとおしゃべりしているわ」

「中には部屋に引きこもってずっとネットしているやつもいるけど」
「食事はどうするの! どこから果実を取ってくるの? 動物がいなきゃ肉食べられないじゃない!」

 僕は微笑みながらすこし息をついて、教えてあげた。

「ネットで頼めばいい」
「ふああ――――――――――――――――!!!」

 髪の毛をもじゃもじゃにかきむしって、美しい姿が台無しになる、……この人おもしろいなあ。

「そんな姿を婚約者に見せられるのかい?」
「ネットというものを教えたらたぶん彼もこうなるわ」

「この世界の住人だっけ? 確かこの町の城の城主の息子」
「ここの領主の息子でメイフェスって言う人よ、赤毛で背は貴方ぐらい」

「彼のどこが好きなんだい」
「うーんそうね、優しいところかな。言葉通じない私を気遣っていろいろ世話してくれるし、親に結婚を反対されている様子だったけど、私を守ってくれた。それにとっても可愛いの!」

 自分で話を振っておきながら他人の男なんて興味がなかった、男ってそういうもんだなって反省している。でも女性がこういう話をしているとき、会話に参加して女性の気持ちがわかったふりをしないと不機嫌になってしまう。……これで、昔痛い目を見た経験がある。

 と言うわけでのろけ話を聴くのも、これは男の役割だ。

「それでね、それでね私がマントをってあげると涙ぐみながらキスしてくれて──」

 火がついたように止まらない。気持ちが抑えきれないのだろうな、エインヘリャルは他人に気持ちを打ち明けられないからね。彼女の気持ちもよくわかる。

 彼女が楽しげに話していると、また昨日の黒髪の男の子が花を摘んでミリアに渡してきた。

「あら、またお花摘んできてくれたのねキレイね」

 黒髪の男の子の頭をなでると、座っているミリアは膝枕をさせて子どもが寝っころぶ。ミリアは優しそうに頭をなでていた。

 すると、ふと暗い顔をミリアはした。

「どうしたんだい、花嫁がそんな顔していると相手の男が不安になってしまうよ」

「うん……、このまま上手くやっていけるんだろうかって怖くて……。彼のことは愛している。それは間違いない。でも本当に私は愛されているのかなって」

 急に真っ暗な表情になった。深く沈んだ顔でこちらを上目遣いで見つめている。

「男にとって結婚は誓いの証だ。愛する人と一緒に暮らし、相手を思い合い、嫌な部分も好きな部分も分かち合って家庭を作る決意をしたんだ。大丈夫、ミリア、君は幸せになれるさ」

 確証なんてどこにもない、ただ僕の願望だった。こういう素敵な女性が異世界という文化の壁を越えて幸せになれる、そういう未来がきて欲しい、彼女みたいな素敵な女性が、ミリアが幸せになって欲しい。

 そうなってくれることで僕もメリッサを幸せにする自信がつく。メリッサとともに暮らし苦労を分かち合い、子どもを産んでもらって温かい家庭を築く。そんな普通の幸せを僕は望んでいる。

 僕はそのために生きている。だからつらい戦いだって乗り越えられる、そう信じたかった。

 深くミリアは考え込むと空を見上げながら、

「ありがとう、おかげで気持ちが晴れたわ、貴方素敵な人ね。メンフェスの次にだけど。絶対幸せになる。幸せになるんだから!」

 と言い、その彼女の決意した笑顔に僕も救われた気がした。

 僕もメリッサを幸せにする、そんな気持ちが心の底からわいてくる。

「ねえ? 貴方好きな人はいるの?」

 急な質問に僕は戸惑うが、メリッサに悪いからここは自信を持っていわないと。

「……ああ、いるよ。メリッサっていうんだ。僕は彼女を愛している。幸せにしたいと思っているよ」

 少し照れながらも僕ははっきりと言った。

「へえ~今度は貴方の恋人の話を聞かせてね」
「ああ、えっと、そう言えば君はいつ結婚するんだい?」

「一週間後! ねえ結婚式に貴方も来てよ貴族しか来ないんだから、私寂しくて。大歓迎よ! 貴方とメリッサさんで、おねがい!」

「もちろん、行かせてもらうよ」
「やった、嬉しい!」

 彼女は笑顔で何やら歌を口ずさむ、だが空はもう夕暮れ。彼女とは別れ、メリッサと宿に泊まった。メリッサは調べことで疲れた様子なので僕はキスだけ楽しんで一緒に眠ってしまった。この娘と結婚して子どもを作って幸せな家庭を築けたらどんなに幸せだろうか。 

 ──僕は強い決意をして眠りに入ったのだった。
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