ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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スナイパー同士の戦い

第六十二話 スナイパー同士の戦い③

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 うっすらと見える黒い影、所々見える色の違い、わずかな呼吸による振動、間違いない奴はそこにいる──!

 僕は銃を構えた。ほぼ点に見える相手に銃を向ける。だめだ! この距離では当たらない、スコープが使えない僕は、直視で命中させなければならない。

 もしここで撃つとどうなるか、外せば奴はスコープをのぞき、僕に銃を向ける。どっちが有利か、答えは明確だ。結果僕はバラバラの肉片へと変えられるだろう。

 軍の特殊部隊の狙撃の訓練で、射撃において何が重要視されるかを僕は知っている。1発目の射撃は当たろうと当たるまいとあまり評価されない。問題は2発目だ、1発撃つと敵に察知される。

 スナイパーはどこから撃ってきたのか相手に特定されてはならない、相手に居場所を知られると反撃で殺される可能性が高い。だから、相手にばれないような有利なポジションをとり、居場所が特定できない場所に潜まなければならない。安全な位置で2発目を撃つことが重要だ。

 それが出来る敵に対して今の僕はどうか、周りを観察する。草むらと木々に囲まれていた、しかし相手から見れば丸見えだ。ここで撃つと間違いなく反撃で殺される。

 あせるな、もっと近づいて有利なポイントを探そう。僕は匍匐前進ほふくぜんしんを続けて、奴の居所の明確な位置を探りながら近づく。

 おそらく奴もこっちを観察している。わずかに動いているのが解る、草陰に隠れてほとんど黒い点だが、微妙な動きを僕は見逃さない。600メートルぐらい目どころに近づいたとき、黒い点が少し大きくなって途端に僕は怖くなる。

 あっちから見たらばれるのではないのか、どす黒いプレッシャーが重くのしかかった、見つかれば死、そう、死を招く大蛇が心臓に絡みつき締め上げていた。

 呼吸が苦しくなる、高熱が頭を鈍らす。僕は震えていた、恐怖で体が固まった、うつ伏せで震えている自分に気づいた。ふと、いままで見た肉片となった動物をイメージしてしまった。……僕もああなるのか?

 ──途端息が荒くなる、ここから先は、変な動きをすれば一瞬で相手に居場所が察知される。動き続ければ相手に察知されやすくなる。

 だから少しずつ進む。メリッサ頼む僕を守ってくれ。メリッサ……。

 500メートルまで近づいたとき、相手の銃身バレルが見えた、あれはバレットM82系統だな 銃口制退器マズルブレーキの形からするとバレットM107か、たしか12,3キロはあるはずだ、銃口を他の方向に向けるのに一苦労するだろう。

 僕は反撃の危険性を考えて回り込むことにした、相手の銃口から150度の方向のポジションを取りつつ、L118A1を伏せ撃ちで構える。黒い点に照準を合わせた。

 僕は光学機器は創れない。作ってもスコープはただのプラスチック、ならもっと近づくか? いや、これ以上近づくとさすがにばれるだろう、引き金を引こうとすると、頭によぎる死の恐怖、僕は心の中でメリッサの名をつぶやいた、頼む……当たってくれ……!

 引きが絞り、鼓膜が破れんばかりの銃声が鳴り響き山が動いた! 黒い影はこちらへと銃口を構え直そうとする。しまった! 外した、僕は中腰で急いでその場から離れた。

 轟音が鳴り響き、反撃がやってきた、あまりのことに汗が噴き出てくる、大丈夫まだ僕は生きている、真後ろの木に大きな穴が開き、崩れるように倒れてきた。

 とっさに坂になっているところを転がってその場から離れた。そしてまた轟音、上の方から木が落っこちてきた、くそっ! なんで外した! なんで!

 坂を転がった先に大きな崖が突き出ており、僕はその場にこの身を隠し、銃のボルトハンドルを引き排莢はいきょうをおこない弾を装填する。じっくり相手を観察した、だが、すでに奴はさっきの場所にはいなかった。

 あと弾は8発。なんだよっ! なんで当たらないんだ!
 
 そう思ったがよくよく考えれば、白い死神と言われたシモ・ヘイヘでも目視で確実に当てるには300メートルまで近づいていた。500メートルで確実に当てられるかというと疑問が出てくる、伝説のスナイパーも万能じゃない、人間なのだ。

 そもそもスナイパーライフルは映画やアニメや小説のように確実に当たる銃ではない、実際には長距離射撃は、風の向きを考えなければならない。また大地は平面じゃないので位置調整が必要だ。熟練の感と経験で2,3発撃って当たればいいほうだ。

 警察が人質救出の際、確実に犯人に当てるために50メートルから100メートルまで近づいて狙撃する。それほど狙撃は難しい。

 現に、僕は相手のスナイプをくぐり抜けているんだ。そんな簡単なものじゃない、僕はこんな死のゲームを何度も挑まないといけないのか。折れた足が痛み、きしみ出す、高熱で苦しい、もう疲れた。

 正直げんなりしていた、スナイプできると思うとわくわくするものだが、外すとショックが大きい、自分の頬を叩く。目を覚ませ、メリッサが近づいている可能性があるんだ、早く終わらせないと。

 あたりを見渡して敵の様子をつぶさに調べた。敵があまり遠くに行かれては困る、相手はスコープ持ちだ、急いで近づかないと、このままだと一方的だ。

 僕はポイントを探し敵がいそうな場所を探した、そこから計算してどこで有利なポジションを取れるか探す。しらみつぶしだ、勇気を振り絞りながら匍匐前進で僕の勝利のポイントはないものかと必死だった。

 ふと10メートルほどの崖を見つけた、あそこから眺めれば山全体を見渡せるはずだ。見つからないよう気をつけて、木の葉をひっつけて木に隠れながら崖を登っていく。

 ここは眺めがいい、絶好のポイントだ。周りを見渡すが高所は見つからないし、狙撃の心配はない、ポイントは決まった。後は敵がどこにいるかだ、ただ森をくまなく探す。

 いた――!

 少し高い丘にポジショニングして下を警戒していた、僕は敵から高さ60度、敵の斜め後ろに位置する、距離は600メートル。今度こそ当たってくれよ。ゆっくり呼吸を整え、L118A1を伏せ撃ちで構えた、照準に黒い影を合わせる、あたりはもう夕暮れ、目視である以上、暗闇となるとやっかいだ、今日まともに戦闘できるのは今しかない……!

 メリッサ愛してるよ……、願をかけ、神経を指先に込めて、引き金を少しずつ絞っていく。

 僕がトリガーを引き終わった瞬間、黒い影が少し跳ね飛ぶ! よし、当たった! 喜びでガッツポーズしたかったが、相手がどうなったのか確認しないと、冷静に冷静に。

 ……あいつまだ、生きている……!

  黒い影がごそごそ動き出し僕から距離をとろうとしていた。ここで逃がすわけにはいかない! 急いで排莢はいきょうをし、弾を装填する、後7発、急いで引き金をしぼった。

 だが、黒い影はまだ動いてる、外した! もう1発!

 当たらない、何故だ全然当たらない、黒い影はどんどん逃げていく。当たれ!

 ……嘘だろ全然当たらない、やめてくれよ、ここまで来て仕留められないなんて。ここまで来るのにどれだけ苦労したか、黒い影がどんどんと消え失せていく、物陰に入ったな、最悪だ。

 この山の中追いかけっこするのか、勘弁してくれ……。もうぶっ倒れそうだった、思わず引き金を引きそうだった、そのとき――!

 敵からの反撃の銃声のろしが上がった、なっ! 撃ち返してきやがった! 角度的に僕には当たらないはず、そうだ、確かに僕には当たらなかった、だが、対物狙撃銃アンチマテリアルライフルは僕の足場をふっとばした。僕は岩ごと雪崩のように崖から落ちていく。

 ここまで来て、くそおお――――――――!

 およそ10メートルの崖をいきおいよく落下し、地面に叩きつけられた、もう人生真っ暗だよ……、どうかメリッサ、こんな時ぐらい助けてくれ。僕は女神に心のなかで文句をたれながら、次はどうするかを考え巡らせていた。
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