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スナイパー同士の戦い
第六十八話 不器用な愛
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「佑月! 心配したぞ──!? ……エインヘリャル……!」
訝しそうに立ち止まり、メリッサが日向さんに対して身構えた。しかし、日向さんは何事もないかように、迷い込んだ子羊にやさしく接した。
「ちょっとそんなに警戒しないでよ。貴女、池田くんのヴァルキュリアでしょ。スコープで小さく見えてたから、そうだよね。大丈夫、私、味方だから、ね──」
日向さんが笑いながら、立ち上がり敵意がないことを示した。
「どういうことだ……?」
メリッサは僕に説明を求めてくる。だが僕は何も答えることが出来なかった。重く閉ざした僕の唇。代わりに日向さんが彼女の問いに答える。
「私ね、池田君と同級生だったの! いろいろとつるんでてね。すっごい仲良かったんだよ、それでね、今、一緒に戦おうってお互いに誓い合ってたの」
「そうなのか佑月……? それに、日向……直子……?」
僕はこくりとうなずいた。それだけしか僕はできなかった。
「そうか、ヴァルキュリアって人の記憶を読み取ることができるんだよね、へえ~彼のこと佑月って呼んでるんだ。私も昔みたいに佑月くんって呼んでいい?」
「……いいよ」
僕は口数が少なくなっていく。どうしようもない状況に僕はただうなずくことしかできない。
「佑月くんってかっこよくなったよね。昔はすごく内気な感じだけど、今じゃ自信を持ってて大人の男って感じ。そりゃ女ならときめくでしょ! なんてね」
日向さんは明るく笑いながら頬を染め、熱っぽい目でこちらをちらりと見た。胸が苦しい、こんなにも僕は追い詰められるほどの罪を犯したのか。あまりにも残酷な時。僕は無言で成り行きを見守る。
「どういう意味だ……?」
事態が把握できないのか、はたまた事態が呑み込めるゆえなのかメリッサは戸惑った様子だ。
「もう、そんな顔しないの。私こう見えて友好的なんだから、お友達になろうよ、貴女……名前はって聞いちゃいけないんだっけ。確かヴァルキュリアは自分のパートナー以外に呼ばれるのを嫌うって聞いてたし。ああ、なんて呼べばいいんだろう、困るなー」
「いい……私はメリッサだ」
「私は日向直子! 現在彼氏募集中です! 募集要項は30代で、かっこよくて、私のクラスメートで、私と気の合う人。そして優しい人。あと、包容力はたぶんあると思う」
日向さんはこちらに向かって片目をつぶり敬礼をし、桃色の頬で柔らかく笑っている。逃げ出す勇気もなく、言い出す勇気もなく、強くなれる優しさもない。そう、僕はあの時と同じ、そのままだった。
「……何の話をしてるんだ」
メリッサが困っている、というよりもこちらにどういうことだと問い詰める言い方だ。
「メリッサちゃん、だめだよ、私と彼との微妙な距離感を感じなきゃ、女の子でしょ?」
「それは、……私は女だが、日向直子お前は女なのか?」
「……ええ、見てわからないの?」
「わかっているから聞いてるんだ」
「……? どういう意味?」
「こちらが聞きたいんだ、お前は日向直子だろ佑月の大切な……」
「佑月くん、大切に思っててくれてたんだ、よかったー、彼なんかつれないところがあるんだよね、そう思わない?」
「私は特段そうは思わないが」
「……? あなた佑月くんのヴァルキュリアだよね」
「そうだ」
二人の話の食い違い具合にしだいに場の空気が悪くなる。僕の鼓動が早くなる、時がこのまま止まってしまって、いっそ何もかもなかったことになれば……、そんな逃げ腰にさえなってしまった。
「──なんか無愛想だね、女の子は愛嬌がよくないと」
「……別になりたくてなったわけではない」
「女の子なんだから、女の子しようよ、佑月くんもそう思うでしょ?」
僕は何も言えず、言葉に詰まり、返答に迷った。
「──私は、佑月にそのままで良いと言われたぞ」
「あら、射程範囲外なのかな」
「どういう意味だ……?」
「佑月くんってね、意外と女の子に弱いの、女子力アピールしたらすぐ照れちゃって、可愛いんだよね」
「……ほう……!」
「……ねえ、きみ、もう一度聞いていい? きみ、佑月くんのヴァルキュリアだよね?」
「そういうお前は佑月の何なんだ?」
「……カノジョ……かな?」
日向さんは顔を真っ赤にして、困った感じでこちらを見つめている。中学生の美少女の姿で言われると、僕は怖くなった。そう……終わりだ、彼女との思い出の時間も、これまでの時間もすべて……。
「……ゆ……づき。これはどういうことだ……?」
メリッサはこちらを見つめていた。まっすぐに。
僕は次の言葉が出なかった。そんな残酷なことを言える男だったらいいのにと思った。でも僕は無理だった、何も言えない。そんな弱虫なんだ。僕は、強くない……!
「佑月くん……?」
「佑月……?」
緊張感が走る。これが運命というのか、何故こうなったのか、誰かがこうしたのか、考える時間が欲しかった、だが、女性たちは時間を求めてはいなかった。僕は思い出に浸ることも許されないというのか。
しばし沈黙の時間が流れていく、空気が大分だんだんよどんでいくのがわかった、僕は神を恨み、憎み、運命を呪った。僕から終わりを告げないといけないのか……。それが僕の罪なのか、罰なのか……? 一人の女性を愛したことへの……。
わかったよ、神様、僕は貴方を許さない……! 地獄に堕ちても、この今、抱く感情はそのまま墓場まで持っていく、そう、僕の過去への死と共に。だから、僕は沈黙を破り、残酷な宣告をした──。
「日向さん、僕は……メリッサとつきあってるんだ……!」
訝しそうに立ち止まり、メリッサが日向さんに対して身構えた。しかし、日向さんは何事もないかように、迷い込んだ子羊にやさしく接した。
「ちょっとそんなに警戒しないでよ。貴女、池田くんのヴァルキュリアでしょ。スコープで小さく見えてたから、そうだよね。大丈夫、私、味方だから、ね──」
日向さんが笑いながら、立ち上がり敵意がないことを示した。
「どういうことだ……?」
メリッサは僕に説明を求めてくる。だが僕は何も答えることが出来なかった。重く閉ざした僕の唇。代わりに日向さんが彼女の問いに答える。
「私ね、池田君と同級生だったの! いろいろとつるんでてね。すっごい仲良かったんだよ、それでね、今、一緒に戦おうってお互いに誓い合ってたの」
「そうなのか佑月……? それに、日向……直子……?」
僕はこくりとうなずいた。それだけしか僕はできなかった。
「そうか、ヴァルキュリアって人の記憶を読み取ることができるんだよね、へえ~彼のこと佑月って呼んでるんだ。私も昔みたいに佑月くんって呼んでいい?」
「……いいよ」
僕は口数が少なくなっていく。どうしようもない状況に僕はただうなずくことしかできない。
「佑月くんってかっこよくなったよね。昔はすごく内気な感じだけど、今じゃ自信を持ってて大人の男って感じ。そりゃ女ならときめくでしょ! なんてね」
日向さんは明るく笑いながら頬を染め、熱っぽい目でこちらをちらりと見た。胸が苦しい、こんなにも僕は追い詰められるほどの罪を犯したのか。あまりにも残酷な時。僕は無言で成り行きを見守る。
「どういう意味だ……?」
事態が把握できないのか、はたまた事態が呑み込めるゆえなのかメリッサは戸惑った様子だ。
「もう、そんな顔しないの。私こう見えて友好的なんだから、お友達になろうよ、貴女……名前はって聞いちゃいけないんだっけ。確かヴァルキュリアは自分のパートナー以外に呼ばれるのを嫌うって聞いてたし。ああ、なんて呼べばいいんだろう、困るなー」
「いい……私はメリッサだ」
「私は日向直子! 現在彼氏募集中です! 募集要項は30代で、かっこよくて、私のクラスメートで、私と気の合う人。そして優しい人。あと、包容力はたぶんあると思う」
日向さんはこちらに向かって片目をつぶり敬礼をし、桃色の頬で柔らかく笑っている。逃げ出す勇気もなく、言い出す勇気もなく、強くなれる優しさもない。そう、僕はあの時と同じ、そのままだった。
「……何の話をしてるんだ」
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「メリッサちゃん、だめだよ、私と彼との微妙な距離感を感じなきゃ、女の子でしょ?」
「それは、……私は女だが、日向直子お前は女なのか?」
「……ええ、見てわからないの?」
「わかっているから聞いてるんだ」
「……? どういう意味?」
「こちらが聞きたいんだ、お前は日向直子だろ佑月の大切な……」
「佑月くん、大切に思っててくれてたんだ、よかったー、彼なんかつれないところがあるんだよね、そう思わない?」
「私は特段そうは思わないが」
「……? あなた佑月くんのヴァルキュリアだよね」
「そうだ」
二人の話の食い違い具合にしだいに場の空気が悪くなる。僕の鼓動が早くなる、時がこのまま止まってしまって、いっそ何もかもなかったことになれば……、そんな逃げ腰にさえなってしまった。
「──なんか無愛想だね、女の子は愛嬌がよくないと」
「……別になりたくてなったわけではない」
「女の子なんだから、女の子しようよ、佑月くんもそう思うでしょ?」
僕は何も言えず、言葉に詰まり、返答に迷った。
「──私は、佑月にそのままで良いと言われたぞ」
「あら、射程範囲外なのかな」
「どういう意味だ……?」
「佑月くんってね、意外と女の子に弱いの、女子力アピールしたらすぐ照れちゃって、可愛いんだよね」
「……ほう……!」
「……ねえ、きみ、もう一度聞いていい? きみ、佑月くんのヴァルキュリアだよね?」
「そういうお前は佑月の何なんだ?」
「……カノジョ……かな?」
日向さんは顔を真っ赤にして、困った感じでこちらを見つめている。中学生の美少女の姿で言われると、僕は怖くなった。そう……終わりだ、彼女との思い出の時間も、これまでの時間もすべて……。
「……ゆ……づき。これはどういうことだ……?」
メリッサはこちらを見つめていた。まっすぐに。
僕は次の言葉が出なかった。そんな残酷なことを言える男だったらいいのにと思った。でも僕は無理だった、何も言えない。そんな弱虫なんだ。僕は、強くない……!
「佑月くん……?」
「佑月……?」
緊張感が走る。これが運命というのか、何故こうなったのか、誰かがこうしたのか、考える時間が欲しかった、だが、女性たちは時間を求めてはいなかった。僕は思い出に浸ることも許されないというのか。
しばし沈黙の時間が流れていく、空気が大分だんだんよどんでいくのがわかった、僕は神を恨み、憎み、運命を呪った。僕から終わりを告げないといけないのか……。それが僕の罪なのか、罰なのか……? 一人の女性を愛したことへの……。
わかったよ、神様、僕は貴方を許さない……! 地獄に堕ちても、この今、抱く感情はそのまま墓場まで持っていく、そう、僕の過去への死と共に。だから、僕は沈黙を破り、残酷な宣告をした──。
「日向さん、僕は……メリッサとつきあってるんだ……!」
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