ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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ママ

第七十七話 守るべきもの

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 そうだ、あの女の子が危ない! 思わず僕は駆け出した。足を大きく踏み出し、膝を高く上げる。SG552を両手で持ちながら、肩で息をした。──頼む、間に合ってくれ!

「メリッサ、君の方が足が速い。先回りを頼むぞ」
「わかった! 後は任せたぞ」

 僕が静かにうなずくと、メリッサは銀色の髪をたなびかせ、風となってその場から立ち去った。僕は敵を警戒しながら、急いで宿へと向かう。逐次ちくじ、道を曲がる時、銃を構え確認していき、あるいは道からの視界に隠れながら、丁寧に道を制圧していく。

 突然のことだった、銃声が鳴り響いたのだ、まさか、僕は不安になりながらなるべく慎重に行動する、……落ち着いて慌てずに急ぐんだ、銃声が鳴ったところへ向かう。

 なんであんな素直な良い子が、犠牲にならないといけないんだ。それが運命というなら僕は世界と戦い続ける。これが神の意志なら、神をも殺す。……そう言いつつもあの娘の安全を神に祈る僕は哀れで愚かな子羊だろう。

 また銃声が鳴った、状況はどうなっているんだ⁉ 早く、早く。音の出どころは宿から少し離れた大通りに出たところだ。

 その時だ、声が鳴り響いた。

「ママー! おじさんー!」
「ははは、エインヘリャルめ、その正体を現してみろ!」

 雪崩のごとく乱射するヴィオネスと、黒髪のあの女の子が小さい手足を動かしながら頭に手を当て、転びつつも、立ち上がり、弾から逃れているのを僕は見た。

「ちょこまかと、まあいい。これはこれで楽しい、いいぞ、逃げろ逃げろ!」

 ヴィオネスは調子に乗ってSG552をフルオートで、女の子に向かって、弾をばらまいていく。

 ──ふざけるな! 相手は無抵抗の幼い子ども相手だぞ。コイツ……必ず殺す。

 奴は僕の左手側の奥におり、そのずっと奥に女の子が逃げ回っている。僕は照準をのぞき奴の右肩をバースト射撃で撃った。
 
 残響音が鳴り響いて、状況確認をしたところ、200メートルほどあったが全弾命中。ヴィオネスはSG552を手から落とす。

「なんだ! 後ろから卑怯だぞ」
「二人同時に相手するのは危険です、ここは一人を足止めして各個撃破していきましょう」

 僕の出現に計画を練り直すため、ヴィオネスとルリアが話し合っている。

「なら弱いほうを先に倒そう、子どもを狙うぞ」

 このクソガキが、ふざけるな。戦うならこっちを狙え、戦さの美徳はないのか、ならこっちも遠慮はいらない。

 奴の後ろをとり、迷いなく背中を撃ち抜いていく。

「グハアッ!?」

 しぶとい奴だ、すぐさま奴は傷を回復し剣を製造する。こちらを向き、近くにある家を切り裂いていき、崩れたコンクリートの残骸に苦心する。くっ、道を塞がれた、高く盛り上がった屋根の残骸に乗り上げた、しかし長い投げ槍が飛んでくる。

 僕は槍をかわし、倒れ込みながら道を進んでいく。

 奴の工作のせいで距離が空いてしまった、居場所がつかめない、索敵をしたが大通りにはいない、どこだ? 探ったところ右手の道から銃声がする。

 ――あっちか!

「ほら! また逃げるのか、ははは――!」
「ママー! おじさんー! 助けて、誰か助けて!」

 遠慮なく弾をばらまいていた、奴は今日初めて銃を持ったから仕方ないが、的外れなところに撃ってくれていた、今それが幸いして少女の命を守っている。

 性懲りもなくSG552をクソみたいな使い方して! 同じくSG552を構える僕、しかし、ルリアの方が早かった。

「ヴィオネス様! 敵の攻撃が来ます」
「よしわかった!」

 僕はかまわず撃つ、ルリアがかばったため、ヴィオネスにはかすめただけだった。

 奴は銃を消し、剣を製造し、家を切り裂いていく。ドドッと大きな音をして崩れ落ちてくる家々。巻き込まれないように距離をとる。

 だが、困ったことになった。現在脇道におり、道が狭いため崩れ落ちた家の残骸が、僕の身長より高く盛り上がってしまい、上りにくくなってしまった。

 SG552を背中に背負い両手で崖を登るように、上へと目指した。頂点に立った時、視界が開けていた。──これなら自由に狩れる。

 すばやく銃を構えた、バカな奴、ヴィオネスの頭の部分が丸出しだ。距離は150メートル、十分当たる。欲を出しヘッドショットを狙った、ルリアがそれに反応し、ヴィオネスを突き飛ばした。

 男は何が起こったのかを理解できなかったためか、やかましく喚いていたが、こちらにとっては厄介であった。

 しかし、今度はヴィオネスが逃げる番だ、殺気を察したのか、全速力で奴は逃げ出す。鋭く奴の行先に銃弾を撃ちこんでいった、足が止まったところ、今度こそヘッドショットを狙う。

「ヴィオネス様! 槍で敵の足下を崩してください!」
「言われなくても」

 切迫した状況で動揺したのか、僕のバースト射撃は僅かに外れ、ヴィオネスの肩を貫いただけだった。投げ槍が足下に投げ込まれ、崩れ落ちた家が槍の威力で弾け飛び足下が崩れる。
 
 くそっ! 僕はバランスを崩し家の残骸から転げ落ちた。このままだとSG552に蜂の巣にされる。僕は伏せ撃ちで、ヴィオネスの足を狙った。

 手ごたえがあった、どうやら放たれた弾丸はヴィオネスの右足を貫き、カンという硬質音を立てて、周辺の家の壁に埋まった。

「ガァァァ!」

 これで終わりだ、頭に狙いを定め引き金を絞ろうとした。奴は何を血迷ったか、女の子のほうに銃を乱発する。じっとこちらを見ていた女の子は、奴の行動を理解できず、地面に撃ち込まれている弾を眺めている。

 ――危ない!

 その時だった。

 弾が放たれ、赤い血が飛び散っていく、まるで彼岸花のように紅く広がって咲いた。

 ……メリッサの体を貫いて。

「ママ!」
「メリッサ!」

 メリッサは女の子をかばうように両手を広げて、身をていしてかばっていた。幸い弾は、貫通しても女の子に当たることはなかった。

 傷口が深いのか、 メリッサが膝から崩れて落ちていく。

「大丈夫! ママ!」

 女の子はメリッサに抱きつき、自分の手には赤い血がついていて顔を歪める。止めどなく流れる液体、地は赤く染まる。

 今にも泣きだしそうな女の子の頭に手を当てたメリッサは、やさしく微笑みながらさとす。

「大丈夫だ……。母親は……強いからな……!」

 思わず僕は叫んだ。
「ヴィオネス! 貴様ああぁ――――――!!」
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