ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
78 / 211
ママ

第七十八話 守るべきもの②

しおりを挟む
「ヴィオネス様! 武器をお換えください。地上戦では不利です!」
「そうか、あれがあったな」

 ──なにぃ!? 僕は必死に怒りを抑えつつ、なるべく事態を冷静に観察していた。奴が手をかかげるとどんどんヴィオネス達の地面が盛り上がっていく。

 何事かと銃を構えた。奴にはしかるべき罰を加える。子どもをいたぶった罪、僕のメリッサを傷つけ罪。その身であがなってもらう。

 ──だが、突如、バチリと電気が弾ける音を上げ雷光が迫ってくる。僕は電流を受けないように、道の端に身を張りつけた。

 雷光は家の残骸に当たり、大きな弾ける音をさせ、赤くほのおが燃え上がる。

 乗り物にのったヴィオネスは、空気抵抗と風を受けながら揺れて空へ舞い上がっていく。その乗り物は、直径10メートルほどの楕円形の地盤に、丸い亀の甲羅こうらのようなものが底についており、前方には尖った角が四個ついている。

 その真ん中には、丸い円形状にえぐり取られていた。

 四つの角が光り輝きバチバチと音を立て、円形の中心部へと一つの雷光となって集まる。そこから赤い線が出ると、レーザーポイントとなり稲妻が走っていく。

 僕は雷の横を走り抜けて、天空にいるヴィオネスへと銃を構える。──くっ! 丸い底部に隠れて奴が見えない。試しに底部の甲羅に銃を放つがびくともしなかった。

「どうだ驚いたか。この武器はアルキメデキスと俺が名付けた。天空に羽ばたくその姿、透明の光の羽根、愚かな地面をうアリどもを焼き尽くす雷光。まさに俺にふさわしい無敵の武器だ!」

「流石ヴィオネス様! カッコいいです!」

 説明をどうもありがとう。お前を殺すには、天空にいるバカに弾が届く位置まで移動しなければならないわけか。よくわかったよ……!

 しかし、困ったことに性能は非常に高い。角が輝きいかずちの光が走ってくる、しまった、こっちに来る! ……そう思ったが明後日の方向に、雷光が投げ打たれた。──もしかして、あんなに空高く上がったら真下が影になって、地上がまともに見えないんじゃないのか……。

 ……どうやら、危険性が低いことを確認すると、僕は急いでメリッサへと駆け寄った。

「メリッサ、大丈夫か!」
「このくらいたいしたことない、うっ!」

 彼女は気高い返事をしたのだが、腹や胸からおびただしい血が出ていた。

「メリッサ……この娘といっしょに下がっていてくれ、僕があいつをなんとかする」
「おじさん……」

 少女は心配そうに、目をうるませ僕のほうを見つめていた。僕は幼い女の子の頭に手を当てる。そして──

「……大丈夫だ、僕には守るべきものがあるからね」

 と言いながら僕は微笑んだ。僕の決意を聞くと、まるでろうそくの炎が揺らめくように、メリッサは立ち上がった。

「わかった、後は任せるぞ、佑月。いくぞ、お前」
「わかった、ママ~!」

 メリッサは女の子の肩に手を当て、フラフラとしながら女の子と避難した。

 大丈夫君が受けた痛みは千倍にして返す。よし、では、仕事をさっさと終わらせるか。僕はアルキメデキスに向かって銃を撃ち、飛行体と家々の影から外へ出て相手に姿が見えるようにした。

「ん! 奴め、あんなところにいたのか。ほら、俺の力を見よ!」

 雷光が僕に向かって駆けていく。観察してみたが、中央のくぼんだ部分から出る赤い線が、誘導していて雷を放っていた。当然発射した時、誘導した場所と走って移動した場所とは距離があるのだ。

 直線に走っていれば何もしなくても、レーザーポイントから逃れられて、雷光は外れる。下は地面だ、電流は拡散され、破壊する威力を持っている最初の一撃をかわせばなんてことはない。

 僕は急いで街の中央の教会へと向かう。教会は大きく、高さ8メートルもある。アルキメデキスの巨体はこちらへ近づいてきた。

「ほら! ほら! 逃げろ! ははは、これは愉快だ」
「ヴィオネス様! 敵が教会の裏へと逃げてしまいます」

「何? 全速力で追っかけるぞ。ゆくぞアルキメデキス!」

 ヴィオネスは下を見つめていたため、正面に教会の鐘楼搭しょうろうとうが迫っていることに気づいていない。……ばかなやつ。

「ヴィオネス様! 前を見てください前を」
「うあああぁぁ────!!」

 教会の鐘塔しょうとうへと派手に突っ込むアルキメデキス。大きく傾き、ずるずるとヴィオネスが落ちそうになった。

「くそっ! 早くアルキメデキスの体勢を元に戻せ!」
「ヴィオネス様! 巨体であるため、急に元に戻そうとすると反動が! きゃああ――!」

 例えば半分に切ったスイカを大きく傾かせると、反対側へと大きく傾く。その反動で同じことを繰り返す。そうやって徐々に重心が安定する角度に落ち着くものだ。

 ヴィオネスが落ちてきたところを狙撃するつもりだったが、奴は運が良い。なんとかへばりついて、こちらへと姿を現さなかった。

 武器を変える必要があるな……。

 ため息をついて、バカがバカやっている間、メリッサを探した。

「メリッサ! 大丈夫か」
「──大丈夫だ。時間稼いでくれたおかげで大分回復したぞ」

 脇道に倒れ込んで休んでいるメリッサを見つけ出し、僕が駆け寄る。女の子も一緒だ。

 辺りで雷光が弾け飛ぶ轟音が鳴り響く。メリッサは怪訝けげんそうに僕を見つめ状況がわからないようだった。

「あのエインヘリャルはどうした。まだ倒してないのか?」
「ああ、おつむのほうは残念だが、能力は一級品だ。だから、ちょっと武器が交換したくてきたんだ」

 遠くから巨大な岩が地面にたたきつけられたような大きな音が聴こえてきた。

「きゃあ!」

 おそらく町民の女の子が悲鳴を上げた、きっと雷が落ちた音だろう。メリッサは不思議そうな顔をして、

「お前がいないのに何であいつは攻撃してるんだ?」
「たぶん、敵を見失ったので、似ている服を着た一般人を攻撃しているのだろう。高い上空から見えにくいからな。影になって」

「なんてはた迷惑な奴だ。最低だな」

 メリッサがふうっとため息をつきながら、右手を頭に当てる。

「メリッサ。武器を交換したい、いいか」
「無論問題ない」

「――メリッサ・ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」
「――イメージしろ。お前は何を思い描く――」

 ──二人の契約のやり取りの後、僕の手にはL118A1がある。スナイパーライフルの遠距離射撃なら上空にいようと角度的に届き易々とあいつを仕留められる威力がある。

「後は僕に任せて、メリッサはここで休んでいてくれ」

「頑張るんだぞ!」
「がんばって、おじさん~!」

「任せてくれ!」

 僕には新しい家族ができた。そして、温かい声援に送られて、力強く駆け出し、戦場へと向かうのは非常に心地よかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...