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宿命と対決
第百十五話 坂道の第一歩
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「アウティスの……ヴァルキュリア……⁉」
僕の表情が強張ってくる。ということは明確な敵か……!
「そんなに怖い顔しないの、せっかちはダメ」
エイミアの口調に眉をしかめた僕だった。
「いまさら、負け犬の僕に何のようだ。笑いに来たのか、メリッサを人質にして何がしたい?」
「もう、急ぐとお姉さん楽しくなーい。いい? いい男は女を焦らすの。焦らして焦らして、この男じゃないと満足出来ないと思わせるもの、わかる?」
僕より年上には見えないけど、ヴァルキュリアは神だから年なんて関係ないか。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
「あーらら、そこがダメ。先を知ったら面白くないじゃない、結果の見えるやりとりなんて大人が楽しむものじゃないの」
やりにくい女性だな。僕の周りにいなかったタイプだ、扱いが難しい。
「……わかったどうすればいい?」
「私に付いてきて、きっと貴方も満足するわ」
「そうさせてもらうとありがたいね──」
「パパ……」
心配そうな目で見つめるナオコに僕はそっと頭を撫でた。
「この娘を連れていっていいか?」
「あら、可愛いね、いくつ?」
ナオコは首を振る。
「そうだよね、レディーに年を聞くなんて失礼だね。ごめんね」
そう言ってエイミアはナオコの頭をなでた。
友好的に接してきているのにナオコはなぜか彼女をしかめっ面で見ていた、警戒しているのかな。とにかくメリッサの安否を確認しないと。
エイミアと僕たちは門を出る。黒服の兵士が付いてこようとしたのに、それを手の合図で必要ないと示すエイミア。……ほんと何が目的だ、僕は焦らされている。相手のペースに乗せられては駄目だ、常に冷静ではないと。
僕たちは道を歩いた、長い坂道。途中から森に入っていく。アウティスのヴァルキュリアならケリモ車でも使えばいいのに、徒歩で進んでゆく、無言で過ぎる時間、あっという間に日が落ちかけている。
「あらら」
エイミアは困った様子でこちらを見た。何かあったのか?
「どうしたんだ?」
「私、この世界に来てからずっとほかの誰かに日常の些事は任せていたのよね。食事とかどうしよう困っちゃった」
「……じゃあ、鳥か、ウサギでも狩ってこようか?」
「いいね、いやあ、助かるわ。いい男がついていると女は楽でいいね」
そう言って彼女はウインクする、なんか人懐っこいヴァルキュリアだな。アウティスのパートナーとは思えない。
「……それならナオコの面倒をみてくれないか?」
メリッサを人質にしている以上、もう人質は必要は無い。ヴァルキュリアだからエインヘリャルのナオコに危害を加えることが出来ないはずだ、なら任せて安全だろう。
「O.K. 私、子ども好きなのよね。子ども産んだことないけど、子守くらい出来るから、だいじょーぶ、だいじょーぶ。いってらっはいね」
「わかった、なら任せる……」
不安を抱えながらも僕は狩りに出かけた。
狩りといっても銃弾を消費するわけにはいかない、いつメリッサと会えて武器が交換出来るかわからない。冷静に、丁寧に一つずつ処理していく。僕は荷物に入っているトラバサミや仕掛け弓でウサギや鳥たちを罠にはめて狩っていく。もう、慣れたもんだ。
「イノシシは角んこ、もじもじウサギ~あつまって~いっしょに回り回ってウサギは逃げちゃった~イノシシはクルクルお星さま~」
エイミアとナオコがいる場所に戻ると二人とも何か変な歌を歌いながら手をつないでいた。もうすっかり日が落ちたというのに火もおこしていない。……はあ、バッグの中から火打ち石を出す。メリッサはヴァルキュリアの中でも優秀だな、まあ、僕の妻だし。
メリッサに習ったとおりの手さばきで肉を解体した、内臓を取り出し首を落とし逆さにして血を抜く。そして、じっくりと焼くと夜は更けていき、ナオコとエイミアは手をつないで寝ていた。
何だこのヴァルキュリアは、世話のかかる……。ため息をついて僕は二人を起こした。
「あら、寝ちゃった?」
「そうだね」
「ねえ、パパ、おなか空いた」
「食事出来ているよ」
ナオコにウサギのようなものだった肉を串刺しにして焼いたものを手渡す。
「はふ、あつい! ふう、ふう、むむ、……お肉固い」
「ああ、ゴメンね。やっぱママのようにはいかないね」
「ママの料理美味しかった……ママ……」
不思議そうな顔をしてエイミアはこちらの顔を見ていた。
「ヴァルキュリアのことママって呼んでるの?」
「子どもには母親が必要だ」
「あらら、それは悪いことをしちゃったね」
「あれだけのことをして悪いこともないだろ」
「……はあ、アウティスは本気であれを正義だと思っているのよ」
「その口ぶりだと君の意見は違うようだ」
そう僕が言うと、エイミアは顔をそむけた。
「──アウティスは純粋でプライドが高い男なのよ」
「純粋さは無邪気に他人を傷つける。汚れていた方がましだ」
「そうね、そうかもね。あっ私もお肉いただくわね」
火に手を差し伸べようとしたので僕はその手を止めて、肉の串を手渡す。
「ありがとう、優しいのね」
「優しさだって人を傷つける。ついさっき僕が経験したことだ」
「でも純粋さも優しさもない男なんて魅力があるのかしら?」
「あるかもしれないし、無いかもしれないね。男に詳しい口ぶりだね」
「まあ、ある程度は。恋は女性のたしなみね」
「教養がおありのようで」
そして話が詰まる。それ以上会話を続けるわけでもなく、食事を続けた。食べ終わって食事の片づけをしていると、ナオコは眠りについていた。気づくとエイミアがいない。
何を考えているかわからない女は、見ていないところで何をするかわからない。ナオコの寝顔を確認して、エイミアを探してみることにした。
エイミアは岩の上にのって夜空の星を見ていた。彼女の後ろには大きな月が輝いている。満月を背景に、月影に濡れた金髪の長い髪を煌めかせ、黄金色に輝かせて風で吹かれている。少し見とれていると、こちらに気づいたようで彼女は優しく微笑んだ。
「ねえ、私とお話ししない?」
「……いいよ」
僕は静かにエイミアの隣に座った。
僕の表情が強張ってくる。ということは明確な敵か……!
「そんなに怖い顔しないの、せっかちはダメ」
エイミアの口調に眉をしかめた僕だった。
「いまさら、負け犬の僕に何のようだ。笑いに来たのか、メリッサを人質にして何がしたい?」
「もう、急ぐとお姉さん楽しくなーい。いい? いい男は女を焦らすの。焦らして焦らして、この男じゃないと満足出来ないと思わせるもの、わかる?」
僕より年上には見えないけど、ヴァルキュリアは神だから年なんて関係ないか。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
「あーらら、そこがダメ。先を知ったら面白くないじゃない、結果の見えるやりとりなんて大人が楽しむものじゃないの」
やりにくい女性だな。僕の周りにいなかったタイプだ、扱いが難しい。
「……わかったどうすればいい?」
「私に付いてきて、きっと貴方も満足するわ」
「そうさせてもらうとありがたいね──」
「パパ……」
心配そうな目で見つめるナオコに僕はそっと頭を撫でた。
「この娘を連れていっていいか?」
「あら、可愛いね、いくつ?」
ナオコは首を振る。
「そうだよね、レディーに年を聞くなんて失礼だね。ごめんね」
そう言ってエイミアはナオコの頭をなでた。
友好的に接してきているのにナオコはなぜか彼女をしかめっ面で見ていた、警戒しているのかな。とにかくメリッサの安否を確認しないと。
エイミアと僕たちは門を出る。黒服の兵士が付いてこようとしたのに、それを手の合図で必要ないと示すエイミア。……ほんと何が目的だ、僕は焦らされている。相手のペースに乗せられては駄目だ、常に冷静ではないと。
僕たちは道を歩いた、長い坂道。途中から森に入っていく。アウティスのヴァルキュリアならケリモ車でも使えばいいのに、徒歩で進んでゆく、無言で過ぎる時間、あっという間に日が落ちかけている。
「あらら」
エイミアは困った様子でこちらを見た。何かあったのか?
「どうしたんだ?」
「私、この世界に来てからずっとほかの誰かに日常の些事は任せていたのよね。食事とかどうしよう困っちゃった」
「……じゃあ、鳥か、ウサギでも狩ってこようか?」
「いいね、いやあ、助かるわ。いい男がついていると女は楽でいいね」
そう言って彼女はウインクする、なんか人懐っこいヴァルキュリアだな。アウティスのパートナーとは思えない。
「……それならナオコの面倒をみてくれないか?」
メリッサを人質にしている以上、もう人質は必要は無い。ヴァルキュリアだからエインヘリャルのナオコに危害を加えることが出来ないはずだ、なら任せて安全だろう。
「O.K. 私、子ども好きなのよね。子ども産んだことないけど、子守くらい出来るから、だいじょーぶ、だいじょーぶ。いってらっはいね」
「わかった、なら任せる……」
不安を抱えながらも僕は狩りに出かけた。
狩りといっても銃弾を消費するわけにはいかない、いつメリッサと会えて武器が交換出来るかわからない。冷静に、丁寧に一つずつ処理していく。僕は荷物に入っているトラバサミや仕掛け弓でウサギや鳥たちを罠にはめて狩っていく。もう、慣れたもんだ。
「イノシシは角んこ、もじもじウサギ~あつまって~いっしょに回り回ってウサギは逃げちゃった~イノシシはクルクルお星さま~」
エイミアとナオコがいる場所に戻ると二人とも何か変な歌を歌いながら手をつないでいた。もうすっかり日が落ちたというのに火もおこしていない。……はあ、バッグの中から火打ち石を出す。メリッサはヴァルキュリアの中でも優秀だな、まあ、僕の妻だし。
メリッサに習ったとおりの手さばきで肉を解体した、内臓を取り出し首を落とし逆さにして血を抜く。そして、じっくりと焼くと夜は更けていき、ナオコとエイミアは手をつないで寝ていた。
何だこのヴァルキュリアは、世話のかかる……。ため息をついて僕は二人を起こした。
「あら、寝ちゃった?」
「そうだね」
「ねえ、パパ、おなか空いた」
「食事出来ているよ」
ナオコにウサギのようなものだった肉を串刺しにして焼いたものを手渡す。
「はふ、あつい! ふう、ふう、むむ、……お肉固い」
「ああ、ゴメンね。やっぱママのようにはいかないね」
「ママの料理美味しかった……ママ……」
不思議そうな顔をしてエイミアはこちらの顔を見ていた。
「ヴァルキュリアのことママって呼んでるの?」
「子どもには母親が必要だ」
「あらら、それは悪いことをしちゃったね」
「あれだけのことをして悪いこともないだろ」
「……はあ、アウティスは本気であれを正義だと思っているのよ」
「その口ぶりだと君の意見は違うようだ」
そう僕が言うと、エイミアは顔をそむけた。
「──アウティスは純粋でプライドが高い男なのよ」
「純粋さは無邪気に他人を傷つける。汚れていた方がましだ」
「そうね、そうかもね。あっ私もお肉いただくわね」
火に手を差し伸べようとしたので僕はその手を止めて、肉の串を手渡す。
「ありがとう、優しいのね」
「優しさだって人を傷つける。ついさっき僕が経験したことだ」
「でも純粋さも優しさもない男なんて魅力があるのかしら?」
「あるかもしれないし、無いかもしれないね。男に詳しい口ぶりだね」
「まあ、ある程度は。恋は女性のたしなみね」
「教養がおありのようで」
そして話が詰まる。それ以上会話を続けるわけでもなく、食事を続けた。食べ終わって食事の片づけをしていると、ナオコは眠りについていた。気づくとエイミアがいない。
何を考えているかわからない女は、見ていないところで何をするかわからない。ナオコの寝顔を確認して、エイミアを探してみることにした。
エイミアは岩の上にのって夜空の星を見ていた。彼女の後ろには大きな月が輝いている。満月を背景に、月影に濡れた金髪の長い髪を煌めかせ、黄金色に輝かせて風で吹かれている。少し見とれていると、こちらに気づいたようで彼女は優しく微笑んだ。
「ねえ、私とお話ししない?」
「……いいよ」
僕は静かにエイミアの隣に座った。
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