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宿命と対決
第百十六話 坂道の第一歩②
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「それで、何を話せば良いんだい、女王様」
「貴方のことが知りたいわ」
なんだか変な話だ、エイミアはアウティスのヴァルキュリアだし、しかも僕に勝っている。今更、負け犬の僕に何の興味があると言うんだ。
「僕はアウティスに負けたんだ、しかもメリッサを人質に取られている。そんな僕に興味なんて、何を?」
「例えば、今の心境ね。大事なパートナーを人質に取られてどういう気分?」
「実に不快だね。メリッサとそばにいたい時期だし、ナオコも今の環境に慣れてきた頃だ。そういう時期にメリッサと離されて困る」
「困る。ふふ、変わった感想ね。普通は不安とか心配をするものじゃないかしら」
「あのガチガチの狂信者のアウティスのことだ、必要の無い拷問や人質を傷つけるようなことはしないだろう。そもそも、あいつは僕にしか興味ないはずだ。メリッサはそのための撒きエサ、もう一度サシで勝負したいんじゃないかな。
あのプライドの高そうなやつだ、追い込まれたのが癪に触ったのだろう。いいだろうそれならやってやろうじゃないか」
「あらら、男の子同士っていいね。ほんのわずか、戦っただけで相手のことわかっちゃうんだ」
エイミアは、金髪の髪の毛をいじりながら優しく微笑む。彼女の醸し出す優越感に僕はなんだか居心地が悪かった。
「別に、率直にそう思っただけで、奴のこと何て理解したつもりはない」
「照れないの。そうね、貴方の言うとおりアウティスは決してメリッサを害したりしない。それは保証する」
「それは良かった。僕も安心して眠れるよ」
「そう、貴方の言うとおり興味あるのは貴方のことだけ、彼は貴方がうらやましいのね」
僕のことが、何故? エイミアは夜空を遠い目で見上げていた。 星々が集まり雲を描いている。赤く黄色い星々の色が混ざり合って夜空の祭りを描いていく。彼方にはあまりに遠くて僕たちには届かないだろう。
月に照らされてエイミアの唇が潤ったオレンジ色に輝く。
「アウティスはきっと貴方に恋をしたのね……」
「やめてくれ、僕にそのケはない」
「ふふふ、そうなんだ。でもそれがアウティスなの。自分に届かないものが貴方にはある、それがとてもうらやましく、憧れている」
「別に僕には何もない。ただ生きているだけだ」
「そこが彼には理解出来ないの。何故こんなにも立ち上がって強敵を倒していったのだろうか。あいつは何も持ち合わせていない、何も思想も信条もない男がこの生存戦争を生き抜いて来られたのかって」
「それは僕にはメリッサがいたからだ」
「……そう、でも彼は、自分の考えにとらわれているのね。貴方のことを熱心に調べていた、強さには理由があるはずだ、きっとこの男の中に信じて疑わないものがある。
何か秘密があるのではないかって、自分の世界しかなくて他者がいる世界を想像出来ない。世界にはたった一つの真実があって、それが正しいから人は神から与えられた身分があるって」
真実? 僕は苦笑する。
「真実なんて存在しない。ただ事実があるだけさ。人にはそれぞれの世界があって、それぞれの考え方で成り立っている。何が正しいとか間違っているとか、所詮人間が考えたちっぽけなもの差しだ。
ただ起こった事実があるだけ。結局神を信じても、人間が考えた想像上の神にしかならない、実際会ったことがないのだから。世界に正しい真実なんてありやしない。その存在を一方的に思い込むことは人間という生命への冒涜だ。僕はメリッサという他者がいたからこそ今の自分が存在出来た。
戦う理由なんて大きくても小さくても、自分が本当に信じる意思がそこにあれば、結果が大なり小なりついてくる、そう思うけどね」
「貴方、自由なのね」
「そうだ、曲が流れれば歌えばいいし踊ればいい」
「その言葉が理解出来れば彼は救われるでしょうね」
あいつは救いを求めているのか。結局、神の存在を自分勝手に押し付けているだけで、真実の神というやつの存在を認められないのじゃないのか。世界をありのままを受け入れられない、本当の意味での神を信じていないような奴がたとえ何百回祈っても誰も救われない。
自分が変わらなければ世界は動かないんだ。自分なんて誰も助けてくれないぞ。
「彼……アウティスは優秀すぎたのね。中世のこの世界に貴族で生まれて、何のためらいもなく分厚い数々の聖典を暗記出来て、神学校にもトップの成績で出た。大学へも裕福だから行けたし、もちろん成績もトップ。そして教会に入ってメキメキと出世が出来た」
なんだそれは僕とは正反対だな。僕なんかとは違う世界の人間だ。
「きっと自分は神に選ばれた存在だと信じて疑わなかったでしょうね。あるとき教会団がエインヘリャルの手駒が少ないから殉教して神のために尽くせとお触れが出た時、彼は一番先に手を上げた。
──自分は選ばれた存在だから神に選ばれる、エインヘリャルになれると思ってね」
「狂っている」
「そうそれは狂気だった。自分が死んでもエインヘリャルになれると、信じて喜んで毒の杯を飲んだ。そういう男なのよ」
乾いた笑いしか出てこない。なんだそれは、挫折を知らない人間は頭がおかしいな。生きていれば何でも出来るのに、死んでしまえば何も出来ないじゃないか。
「私がアウティスを見つけた時、きっとこの男は生存戦争を生き残っていけると感じた。こいつが、新世界でどう生きていくのか興味があった。だからヴァルハラからすくい上げた、だけど……」
さぞ痛快だったろうな。自分が死んだあとヴァルキュリアに選ばれるなんてすごい確率だ。宝くじの一等に当たるよりも難しいだろう。死ぬというリスクを冒してまでギャンブルに勝ったら、自分は神に選ばれた存在と確信したはずだ。
それは男として理解出来る感情だ。
「まあ、彼は、ほんと優秀だったわ。複製という万能の能力をもって、次々と強敵を撃破していった。私が、彼が歪んでいたことに気づいたのはその頃。
この男は自分の信じていることだったら、何でも自分の中で正当化出来てしまう。何のためらいがない。これはとても危険な男だって。
後悔したわ、選んだことを。せっかく与えた能力でこんな使い方をされたら、私はまるで陵辱された気分だった」
なるほど、エイミアが何故協力的なのか理解出来た気がする。数ある人々から自分が選んだ人物が、正義面した大量殺人者なんてやりきれないだろう。ヴァルキュリアにも心がある、彼女の哀しみに深く僕は同情した。
「そんなときに出会ってしまったのよ、彼女、……日向直子に――」
「貴方のことが知りたいわ」
なんだか変な話だ、エイミアはアウティスのヴァルキュリアだし、しかも僕に勝っている。今更、負け犬の僕に何の興味があると言うんだ。
「僕はアウティスに負けたんだ、しかもメリッサを人質に取られている。そんな僕に興味なんて、何を?」
「例えば、今の心境ね。大事なパートナーを人質に取られてどういう気分?」
「実に不快だね。メリッサとそばにいたい時期だし、ナオコも今の環境に慣れてきた頃だ。そういう時期にメリッサと離されて困る」
「困る。ふふ、変わった感想ね。普通は不安とか心配をするものじゃないかしら」
「あのガチガチの狂信者のアウティスのことだ、必要の無い拷問や人質を傷つけるようなことはしないだろう。そもそも、あいつは僕にしか興味ないはずだ。メリッサはそのための撒きエサ、もう一度サシで勝負したいんじゃないかな。
あのプライドの高そうなやつだ、追い込まれたのが癪に触ったのだろう。いいだろうそれならやってやろうじゃないか」
「あらら、男の子同士っていいね。ほんのわずか、戦っただけで相手のことわかっちゃうんだ」
エイミアは、金髪の髪の毛をいじりながら優しく微笑む。彼女の醸し出す優越感に僕はなんだか居心地が悪かった。
「別に、率直にそう思っただけで、奴のこと何て理解したつもりはない」
「照れないの。そうね、貴方の言うとおりアウティスは決してメリッサを害したりしない。それは保証する」
「それは良かった。僕も安心して眠れるよ」
「そう、貴方の言うとおり興味あるのは貴方のことだけ、彼は貴方がうらやましいのね」
僕のことが、何故? エイミアは夜空を遠い目で見上げていた。 星々が集まり雲を描いている。赤く黄色い星々の色が混ざり合って夜空の祭りを描いていく。彼方にはあまりに遠くて僕たちには届かないだろう。
月に照らされてエイミアの唇が潤ったオレンジ色に輝く。
「アウティスはきっと貴方に恋をしたのね……」
「やめてくれ、僕にそのケはない」
「ふふふ、そうなんだ。でもそれがアウティスなの。自分に届かないものが貴方にはある、それがとてもうらやましく、憧れている」
「別に僕には何もない。ただ生きているだけだ」
「そこが彼には理解出来ないの。何故こんなにも立ち上がって強敵を倒していったのだろうか。あいつは何も持ち合わせていない、何も思想も信条もない男がこの生存戦争を生き抜いて来られたのかって」
「それは僕にはメリッサがいたからだ」
「……そう、でも彼は、自分の考えにとらわれているのね。貴方のことを熱心に調べていた、強さには理由があるはずだ、きっとこの男の中に信じて疑わないものがある。
何か秘密があるのではないかって、自分の世界しかなくて他者がいる世界を想像出来ない。世界にはたった一つの真実があって、それが正しいから人は神から与えられた身分があるって」
真実? 僕は苦笑する。
「真実なんて存在しない。ただ事実があるだけさ。人にはそれぞれの世界があって、それぞれの考え方で成り立っている。何が正しいとか間違っているとか、所詮人間が考えたちっぽけなもの差しだ。
ただ起こった事実があるだけ。結局神を信じても、人間が考えた想像上の神にしかならない、実際会ったことがないのだから。世界に正しい真実なんてありやしない。その存在を一方的に思い込むことは人間という生命への冒涜だ。僕はメリッサという他者がいたからこそ今の自分が存在出来た。
戦う理由なんて大きくても小さくても、自分が本当に信じる意思がそこにあれば、結果が大なり小なりついてくる、そう思うけどね」
「貴方、自由なのね」
「そうだ、曲が流れれば歌えばいいし踊ればいい」
「その言葉が理解出来れば彼は救われるでしょうね」
あいつは救いを求めているのか。結局、神の存在を自分勝手に押し付けているだけで、真実の神というやつの存在を認められないのじゃないのか。世界をありのままを受け入れられない、本当の意味での神を信じていないような奴がたとえ何百回祈っても誰も救われない。
自分が変わらなければ世界は動かないんだ。自分なんて誰も助けてくれないぞ。
「彼……アウティスは優秀すぎたのね。中世のこの世界に貴族で生まれて、何のためらいもなく分厚い数々の聖典を暗記出来て、神学校にもトップの成績で出た。大学へも裕福だから行けたし、もちろん成績もトップ。そして教会に入ってメキメキと出世が出来た」
なんだそれは僕とは正反対だな。僕なんかとは違う世界の人間だ。
「きっと自分は神に選ばれた存在だと信じて疑わなかったでしょうね。あるとき教会団がエインヘリャルの手駒が少ないから殉教して神のために尽くせとお触れが出た時、彼は一番先に手を上げた。
──自分は選ばれた存在だから神に選ばれる、エインヘリャルになれると思ってね」
「狂っている」
「そうそれは狂気だった。自分が死んでもエインヘリャルになれると、信じて喜んで毒の杯を飲んだ。そういう男なのよ」
乾いた笑いしか出てこない。なんだそれは、挫折を知らない人間は頭がおかしいな。生きていれば何でも出来るのに、死んでしまえば何も出来ないじゃないか。
「私がアウティスを見つけた時、きっとこの男は生存戦争を生き残っていけると感じた。こいつが、新世界でどう生きていくのか興味があった。だからヴァルハラからすくい上げた、だけど……」
さぞ痛快だったろうな。自分が死んだあとヴァルキュリアに選ばれるなんてすごい確率だ。宝くじの一等に当たるよりも難しいだろう。死ぬというリスクを冒してまでギャンブルに勝ったら、自分は神に選ばれた存在と確信したはずだ。
それは男として理解出来る感情だ。
「まあ、彼は、ほんと優秀だったわ。複製という万能の能力をもって、次々と強敵を撃破していった。私が、彼が歪んでいたことに気づいたのはその頃。
この男は自分の信じていることだったら、何でも自分の中で正当化出来てしまう。何のためらいがない。これはとても危険な男だって。
後悔したわ、選んだことを。せっかく与えた能力でこんな使い方をされたら、私はまるで陵辱された気分だった」
なるほど、エイミアが何故協力的なのか理解出来た気がする。数ある人々から自分が選んだ人物が、正義面した大量殺人者なんてやりきれないだろう。ヴァルキュリアにも心がある、彼女の哀しみに深く僕は同情した。
「そんなときに出会ってしまったのよ、彼女、……日向直子に――」
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