ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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宿命と対決

第百十七話 坂道の第一歩③

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「たしか日向ひゅうがさんと三度戦って、アウティスが言うには引き分けたって」

 日向さんの話となって僕は興味深く尋ねた。エイミアは足を組み片膝を抱える。

「正確には三回とも負けね。だいたい最後は、あれなんなのかしら? ドオンとなる奴に撃ち抜かれて、アウティスが引いて帰ったの」

 M107に撃ち抜かれたか。日向さんがどうやってアウティスを打ち破ったのだろうか、これからの戦いのために詳しく聞きたいな。

「……でも、詳しくは教えないけどね」

 あっさりと釘を刺された。まあ、アウティスのヴァルキュリアだから不利になる情報は教えなくて当然だろう。

日向直子ひゅうがなおこは強かった。何度やられても立ち上がってアウティスに猛然と立ち向かっていった。アウティスは常々疑問に思っていた、何故、彼女はこんなにも強さが備わっているのか、そこにある信条は、思想は何かって」

 日向さんと再会した時間は短くて、彼女の心の奥底はわからない。だから、すごく興味がそそる話だ。

「彼女は答えた、私は自分を幸せにするために戦うって」
「……日向さんらしい言葉だ」

 僕の言葉にエイミアは優しく微笑み出す。

「貴方は日向直子を理解出来るのね。でもアウティスは違った。自分の幸せなんて考えたことがなかった。個人の幸せなんてちっぽけなものだと信じていたのに、そんなもののために戦う彼女に負けるなんて納得出来なかった。

 心をズタズタにされたの、初めての挫折だった。その後、彼は執拗しつように日向直子を調べ、彼女のことばかり考えていた。彼にとって初めて認識できた他者が日向直子だった。彼は最後まで気づかなかったでしょうね、それが初恋だったなんて」
 
 アウティスが日向さんに初恋? 僕は苦笑してしまった。初恋の相手が同じ男が戦うのか。……妙な組み合わせだ。

「それが貴方に日向直子が倒されたと聞いた時、今まで受けたことのない衝撃を受けたみたいで、一週間部屋に閉じこもって食事も喉を通さなかった。彼はこう言ってたわ、自分の理解出来ないことが起きている。

 そして彼は心の行き場を失った。その頃からね、貴方のほうに執拗しつように興味を向け出したの、きっとコイツには神に選ばれた力を持っている、何か秘密があるって」
 
「正直な感想として、それは代替だいたい行為だな。初恋の相手への感情を僕に向けて、変な風に混同している。普通恋をしている相手が殺されたら、殺した奴を憎むはずだ」

「そうね……それが出来たら彼は救われるんでしょうけど。成すこと全てあまりにもためらいがなさすぎたから、自分の感情が理解出来ないでしょうね……」

 寂しそうに夜空を見つめている。一番遠い星を見つけたのだろうか。

「ねえ、貴方は彼……アウティスのことどう思う?」

 エイミアは、まっすぐこちらを見て、僕の心の中を探ろうとしている。

 ……そんなの決まっている。

「──はっきり言って気持ち悪い」
「ぷ、ふふふ、あはは!」

 エイミアは大声を上げ、腹を抱えて笑う。ツボに入ったようで白い手足をジタバタさせている。

 僕は、ちょっと眉をしかめた。エイミアは僕の肩を叩きながら、

「ごめん、ごめん。その言葉をアウティスに言った時、はは、どういう顔をするか想像出来て、くっ、面白くて」
「……僕は被害者だ」

「そうねゴメンナサイ。話を変えましょう。……ねえ、メリッサとどこまでいってるの?」

 そこにボールが飛んでくるか。ボールコントロールが難しい。

「普通かな」
「あらら、乳繰り合う中なのね。まあ、ヴァルキュリアだからセックス出来ないよね」
 
 そういう直接的な表現は勘弁していただきたい。

「で、抜いてもらっているの?」
「……正直、何を言っているか意味がわかりません」

「相手はお姉さんだから大丈夫よ。青少年はみていないから」
「エインヘリャルは性欲がなかったはずだ」

「性欲が無くても好きな人に抜いてもらいたいでしょ、男なら」

 やめてくれ、美人な女性と下ネタなんて話したくない、この年で。

「──経験がおありですか?」

 わざと攻める。ひどいセクハラだ、これで食い下がることはないだろう。

「ん? 10本ぐらいならね」

 つわものだった。困ったぞ、こんな女性と接したことがない。どうしようか……。

「……素晴らしい戦績のようで何よりだね。さーて僕はそろそろ寝ようかな──」

「──貴方……もしかしてその年で童貞なの?」

 ゲホッ、急に咳き込む僕。美人な女性に、まじまじとみられながらその言葉を受けると、こんなに胸がズキズキと痛むのか。……最悪だ、死にたい。死ねないのだけれど。

「ああ、そっかそっか、じゃあ仕方ないよね。わかった、それならお姉さんがレクチャーしてあげようか?」
「やめていただきたい。僕には愛する妻がいるんだ」

「あらら、今はそばにいないじゃない。私も抜くぐらいならしてもいいわよ。貴方もたまってるんでしょ。大事な戦闘前だし気分収めないと、変な感じになるんでしょ、男の人って」

「……知識が豊富なんだね」
「まあ、人並みに」

 エイミアが近づいてくる。服の上から乳房が当たってくるのがわかる。やばい、目が本気だ。ちょっとまってくれ。待った、待った! メリッサの顔が少し頭の中でちらついた。

「──あっ、ちょっと、どこいくの!」

 僕は全力で走った。するとすごい勢いで笑いながらエイミアが走ってくる、──この人、楽しんでいるな。……勘弁してくれよ。

「待ってよー、お姉さんと遊びましょうよー!」

 そういうわけで彼女はしつこくせまってきて、結局、夜中じゅう追いかけっこするハメになった。
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