ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
119 / 211
宿命と対決

第百十九話 アウティスへの回廊

しおりを挟む
「はあぁ───!!!」

 エイミアが兵士の中に突撃していく。長剣を巧みに剣でさばき、また重い剣を振り、次々と兵士をなぎ倒していった。

 これはチャンスだ。門の兵士たちがエイミアに気をとられているうちに館に侵入しよう。……たぶんエイミアなら大丈夫だろう、しぶといし。むしろ兵士のほうが心配だ。

「佑月! お姉さんが前線を張ってるうちに援護をって、どこ行くの!」
「後は任せた!」
「任せたって、ちょっと! 私の扱いひどくない!? ばかああ──!」

 館の庭のよこを突っ切り、裏口から入っていく。

「うぁあ! 何だ!?」

 そこには召使いだろうたちがせっせと料理の支度をしていた。敵愾心てきがいしんはなさそうだ。だから、彼らを無視して館に侵入する。人が集まってきたのだろうバタバタと音がする。

 僕は部屋の中に入り誰もいないことを確認すると、鞄の中からロープを出し、家具とずっしりとした椅子の足にそれを結び、扉の前に仕掛け、少し扉を開ける。

「誰かいるのか!?」

 部屋の中に飛び込んできた兵士がロープに引っかかってこけた! ──鎧を着けた兵士は重さで転びやすいものだ。すかさず、首を守っているチェインメイルの上からショートソードを刺す。

 ウガッと血を吐きながら喉から血がこぼれ出した。その兵士の手にはクロスボウが握られていた。よし、これは使える……!

「どうした!?」

 次に別の兵士が部屋に入ってきた。迷わず兵士の心臓を捕らえる僕のクロスボウの矢だった。

 この威力にはこの時代の鎧も形無しだろう。兵士が生きていないことを確認すると、廊下に飛び出る。

 急ぎながら冷静に息を潜めて歩を進めた。四人の兵士がこちらに向かってくる。剣を抜いているのが二人、残りはクロスボウ。僕は荷物から二つトラバサミを出し廊下の角に仕掛けた。

 僕は奴らがこちらに曲がってくるのを待つ。剣を持つ二人の兵士が姿を現した時、トラバサミが足の甲を鎧の上から肉を食いちぎった! 
 
「うをっ!?」

 つまずく二人の兵士、肉体が前のめりになった瞬間、僕は見逃さなかった。クロスボウの矢がそいつらの胸を貫いた。急いでクロスボウのつるを巻き取る。もう一人の剣を持ってトラバサミに絡め取られている兵士の胸を貫いていく!

 どうやら残りの二人は慌てて弦を巻き取っているようだ、急いで近づく。

 対応の早さに驚いたのか、こちらの位置を確認していなかったのか、クロスボウに矢を設置しないまま、うろたえている。一人の喉にショートソードを突き刺し、もう一人はクロスボウのストックの部分で頭を殴り続けた。

 頭から血を流し気絶したのを確認すると、クロスボウに矢を設置して胸を貫いた。ふん、なーにちょうどいい矢の補充も出来た。……ここまでは順調だな。

 館に裏から侵入されることを想定していなかったのか、それとも僕が暗殺者として覚醒しているのか、バラバラに遭遇する兵士たちをどんどんトラップとクロスボウで始末していく。

 一階をしらみつぶしに探したが、メリッサはどこにもいないようだ。階段を上り、二階に上がっていく。

 前を見ると 窓の外を見ていた二人の兵士を見つける。一人はさっさとクロスボウの矢で背中を貫き通しとどめを矢を放つ、もう一人の兵士にはショートソードを喉に当てるとさっさと武器を落とした。

「た……助けてくれ」

 僕はこの世界の言葉はわからないが表情でトーンでニュアンスは大体わかる。どうやら、抵抗する気がないのだろう、僕は少しずつ喉に突き刺していく。

「やめろ! やめてくれ! アンタ、銀髪の女が狙いなんだろう案内する。案内するから」

 何やら指をさしている。案内役を買ってくれるらしい、いいだろう、そういうわかりやすいのは好きだ。

 巨大な空間の中に大きな扉があり、その前に二人の兵士がいる。距離は20メートルはあった。とりあえず邪魔な案内役の兵士を蹴り倒す。

「うぉ!!」
「なんだ! どうしたんだ!」

 いきなり空間に男が倒れ込んだのを見て、動揺する扉の前の兵士たち。僕は冷静に扉の前の一人の兵士をクロスボウの矢で胸を貫く。僕が弦を巻いている間、扉の前の兵士はうろたえて扉を叩いていた。

「アウティス様! 開けてください! 敵です! 敵です!」

 その兵士の手には短い槍しか持っていなかった。矢に抵抗する武器がない。どんどんと叩いているが、扉が開く様子はない。あっさりと扉の前の二人目の兵士の背を矢が貫いた。

「アウティス様……たすけ……て」

 ゆっくりと兵士は崩れ落ちていく。

「ひぃいいいい!!」

 案内役の兵士が狂ったようにその場から離れる。矢で後ろを貫いてやろうかと思ったが、まあいい僕にはそんな趣味はない。僕の趣味はメリッサだ。何かオルガンのような音楽が聞こえる。まだ息があった兵士にとどめを刺して、扉を開いた。

 そこには広い空間があり中央には巨大な十字架が刺さってあった、ここは館の中の礼拝堂だろう。やはりパイプオルガンの音だったのか。目をそばだてて見ると奥の方でアウティスがそれを弾いていた。

「佑月!!」

 中央の十字架にメリッサが真っ白のドレスを着て張り付けにされていた。取りあえず無事のようでよかったと胸をなでおろし、また声をかけた。

「メリッサ!!」

 僕は叫んだ。途端にパイプオルガンの音が止み、こちらへ向くアウティスだった。

「ようこそ佑月……待っていたぞ」

 アウティスが立ち上がった、僕はそれをにらみつける。

「……メリッサを返してもらう……!」
「好きにするといい、だがそれは私に勝った後にすることだな」

 コツコツと足音を立ててゆっくりと中央に立つアウティスだった。

「佑月! コイツは危険だ! 逃げろ!!」

 叫ぶメリッサに対してアウティスはにやりと笑う。そしてゆっくりと口を開いた。

「さあ、聖戦の再開だ……!」

 奴のプレッシャーに負けじと僕は鋭くにらみ返す。さあここからが本当の戦いの始まりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...