ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
141 / 211
ウェディングロード

第百四十一話 頂上での戦い②

しおりを挟む
 風が冷たく流れていく、雲の上の戦い、赤い剣士は白い息を吐き、金色の民族文様のネックレスが橙色だいだいいろの光を跳ね返した瞬間、空気を切り裂き軽々と剣を振り下ろす!

 僕はそれに先んじて、セミオートで弾幕を張った。あらかじめ察していたシェリーは剣を振り下ろすことで弾を跳ね返した。まずは一手、銃口を見て弾の予測をしていると感じた僕は、銃口をシェリーの足下へ向ける。

 やはり、右足を外に出し右回りに近づいてきた、僕はそれに合わせて彼女の胸部に銃を放つ! 静かに鳴り響いた銃声、シェリーの胸をわずかにそれて、服を切り裂き皮一枚分貫いたのみだった。

 僕の右肩が切られたことで銃の精度が落ちているようだ、赤い剣が僕の腕を宙に放たんと振り下ろされる!

 だが、赤い剣が伸び地を切り裂いただけだ。すでに僕はもう彼女の剣筋に慣れていた、そこから予測をして、あらかじめ体を動かすことを決めていたため、際どい攻撃にも関わらず、紙一重でかわした。

 シェリーは目を見開いている。こう思ったはずだ、――完全にとらえたはずなのに――と。

 僕は静かにシェリーのこめかみに銃口を当てる。これでこの戦いの形勢は決まった。彼女はビクリとし固まった。

 そして、僕が無表情でそれをただ見つめていると、シェリーは怒った様子で「馬鹿にしているのか!?」と僕の腕を剣で振り払おうとする、だが僕は悠々と眺めながら腕を上げるだけで良い。負けじとシェリーは剣を振り回すが僕は全て紙一重でかわしていく。

 どうもシェリーは動揺を隠せない様子だ。自分より強い相手と戦った経験がないのだろう、いったん距離をとりこちらの様子をうかがっていた。

 僕の余裕の態度に彼女の気がそがれ、興奮が冷めたのか、急に痛みがむしばんだのだろうか、撃ち抜かれた太ももをかばっている。戦士の気性なのか顔には出さない、だがシェリーは追い詰められていることをきっと感じているのだ。様子がおかしい。

 僕は、痛めた右足をさする。痛むぐらいで走れるな、よし! こちらから攻めよう。

 セミオートのまま相手の胸部分に弾を集めて放った。彼女は銃口から察知し、かがむことで避けた……つもりだったのはずと思っていたと見えるが、僕はそれを読んでいた、低い体勢であるシェリーの左肩を撃ち抜く! 

 モロに食らったため銃弾は彼女の体奥深くまでおそらく貫いた。苦しそうに声を上げてうずくまる。僕はそれを冷たい目で見つめながら、彼女へと走り込み頭に銃を当てた。

 彼女は震えていた。武者震いか、恐怖かわからない。得体の知れない何かに心がむしばまれているのではないか、顔が引きつっている。

 だが趨勢すうせいが決まったところで負けを認めるような人間なら戦士ではない、彼女の左手はもう力が入らないのか、右手の片手一本で僕の腕を薙ごうと剣を振るった。

 片手であっても鋭い剣先。だが僕はそれをただ腕を上げることでかわす。シェリーの咆吼ほうこう、僕を切り裂くため何度も振るおうと片手一本で剣を扱うのだけれども、全てそれを紙一重でかわす。

 これほどの屈辱と恐怖はないはずだ。強気だった人間が崩壊していくその様をゆっくりと眺めていた。

 汗まみれで息も切れ切れのシェリーは、剣を投げ出し、大の字で地に横たわった。

「殺せ……」

 実力差が出てしまった。そうなれば彼女もいさぎよい。僕は顔元に銃口を向ける。ネックレスを握って目をつぶって最後の時を待つ。

 ……何も言わずただ、静かに僕はシェリーに向けて銃を放った。

 ──ドォン!!

 シェリーは目を閉じたまま静かに、眠っているようだった。オレンジ色の太陽が輝きはなっている。それに照らされて彼女の黒い肌も色味を帯びていき、不思議な光景に目を奪われる。生と死の狭間の姿を僕は見た。

 シェリーはハッと目を開く、彼女は自分が生きていたことに驚いたようだった。彼女は顔の右横を見る、弾痕だんこんが地面に焦げ付いていた。

「何故? 何故……殺さなかった……?」

 シェリーの問いに僕は、

「僕のパーティはね、前線の人間がいないんだ。勇気があって強い人間を僕は探していたんだ」

 僕のその言葉に彼女はぷっと息を漏らし笑い始める。メリッサが口をはさむかと思ったが、そんな無粋な真似はしないようだ、戦士の矜持きょうじだな、たぶん後で文句を言うだろう彼女なら。

「こんな口説かれ方はじめてだよ、私が欲しいって言うのかい。こいつは傑作けっさくだ……ははは」

 ひとしきり笑った後、彼女はすっと涙を流す。恐怖から解放されたからではないと思う、戦いに負けたあの苦い感じを噛みしめてしまったのだろう。一筋の涙が光に当たりきらめき輝く。

「いいよ、あたしは負けたんだ。あんたの好きにすれば良い。ただし……条件がある」
「なんだい?」

「……二食は食わせてくれないと嫌だね。あたしは空腹が嫌いなんだ」
「うちは三食だ、それに、うちの飯は美味いぞ」
「そうかい、そうかい、はは、いいね、楽しみにしている」

 そう言って僕とシェリーは握手を交わす。白い雲の海に包まれながら、緑の大地が萌え誇る中、オレンジ色の太陽に照らされて、僕たちは光り輝いていた。そう、山の頂上でシェリー。僕は彼女と出会った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...