ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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奇襲

第百六十四話 接触

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 クラリーナに案内され、青軍猛虎隊が試合会場から外に出る廊下の途中で、僕とメリッサは彼らに出くわした。

 そのリーダー格の金髪の美青年がクラリーナを見ながら不思議がって彼女に尋ねた。

「貴女は確か……クラリーナさんですね。何度か前に戦って煮え湯を飲まされましたが、どうかなさいましたか?」

「いえいえ、今回私はこの大会の管理責任者の一人として、紹介をさせていただきに来ました。私の担当であるメリッサとその仲間たちのチームのリーダーの佑月さんが、あなた方の試合を見てたいへん感銘を受けたそうです」

 それを聞いて不安がって、電気のバリアを張った茶髪の女性が美青年の胸に顔を埋めながら、クラリーナをにらみつつ言った。

「気を付けてマティス。クラリーナは私たちの仲間をさんざん殺した教会団の手先よ、きっと何かたくらみがあるのよ、きっと……」
「いや、リンディスそれはないだろう。クラリーナさんは正々堂々と僕たちと戦い、そして、その被害が僕たちに出ただけだ、彼女自身は信頼できると思う」

「でも……!」

 とのリンディスは納得いかない様子だ。続いてターバンの男がクラリーナをにらみながら言った。

「クラリーナ! お前のせいで仲間が32人も殺された、そのような戯言信じられるか!」

 彼女とどうやら因縁があるみたいだな猛虎隊と。クラリーナの実力はよくわからないが、このチームを散々苦しめたんだ、相当な実力者なのだろう。マティスはターバンの男に対して首を振る。

「パッシーダ、彼女はそんな女性じゃない、仲間を失った苦しみ哀しみ憎しみが僕にもある。でも、彼女は彼女なりの正義があって僕たちと戦っただけだ。的外れな誹謗中傷はよくない」
「しかし……!」

 マティスはどうやらクラリーナと同類で、僕みたいな色々戦略を巡らせて戦うタイプじゃなく正統派で、正義感が強いように見える。聞くからに好青年の答えだ。クラリーナはにこやかに微笑みながら言った。

「あなた方のご心痛お察しいたします、しかしながら、敵として戦うことがあっても、私は誠実に生き、これまで神を信じて戦ってきました。戦いに誤りがあったとは考えていませんが、どうかこの場は私を信じて、お怒りを鎮めていただけないでしょうか?」

 クラリーナの丁寧な物腰や口調に、猛虎隊も少しばかり安堵したのだろう、すっかり警戒心を解いて、マティスは僕たちの方を見た。

「で、彼が、えっと、佑月さんでしたっけ?」
「ああ、僕が佑月だ、マティス君よろしく頼む」

 そう言って、僕は彼に握手のため腕を伸ばした。横目でメリッサを見ると、表情には出さないがすぐさま戦闘態勢に入れるよう、姿勢を整えていた。

「よろしくお願いします、佑月さん。あなた方の前回の試合は拝見させていただきました。実に考えられた戦い方をするみたいですね。私たちとは反対ですが、敬意を表します」

「いや、僕たちはまだまだだ、君たちは本当に素晴らしい戦い方をする。自分たちの能力を最大限に生かし、まるでスキがない。正直、今、肝を冷やしているよ」

「いえ、まだまだですよ。私はもっと彼らの力を上手く扱えるよう難儀なんぎしております。なあ、リンディス?」

 そう言って茶髪の美しいロングヘア―の彼女に話を振る。どうやらマティオは彼女とかなり親密らしい。僕はリンディスに手を差し出す、彼女は戸惑った様子だが、僕はなるべく自然に笑みを浮かべていたためか少し頬が緩んでいた。

「佑月だ、よろしく頼む。リンディスさん」
「ええ、リンディスです。よろしくお願いします」

「察するに君が戦術を?」
「私は、ただ、皆が戦いやすいようにしただけです。戦術などそんな大層な……」

「いや、実に美しい試合だった。君の能力は素晴らしい。君たちはきっと優勝候補だろう、この大会の」
「そんな、私たちは何度も教会団との戦いにやぶれ、メンバーもかなり変わってしまいましたが、その経験をもとに戦っているだけです」

 彼女は照れながら、クラリーナをちらりと見た。やはりクラリーナは警戒されているようだ。

「君のような女性がチームを支えてくれるとすごく助かると思うよ、ええと、マティス君はどう思うかい?」

「その通りだと思います。私は彼女に何度も救われてきました、彼女がいなければ私なんかとっくに死んでますよ」

「そんな、マティス……私をからかわないで……!」
「だってそうだろ、僕たちの仲じゃないか、リンディス。正直な気持ちで言ってるんだ、今まで支えてくれてありがとう、君ほど愛おしい人はいないよ」

 彼らの仲睦まじい言葉に僕はわずかにほくそ笑んだ。

「君たちは、失礼だが、付き合っているのかい、いや下種な勘繰りだね、余計なことを口走ってしまった」

 マティスはそれに対し胸を張って答えた。

「ええ、そうです、婚約者なんですよ。この大会が終われば僕たち結婚するんです!」
「それは、素晴らしいじゃないか! 君たちを応援したくなったよ、このマハロブは相当美しいからね、いい結婚式があげられると思うよ」

 僕の褒め殺しに段々リンディスは笑顔になり、すっかり警戒心を解いてしまっていた。

「実は、私、この街で結婚式を挙げたいと思っています。みんなに祝福されて、私たちが結ばれるのは素敵なことです。優勝して彼のプロポーズを受けて、館の近くの聖クレオール教会がいいかなって思ってます」

「へえ、そんなところがあるんだ。僕もこの世界で結婚式を挙げたけど、田舎の町で上げたからね、あそこはあそこでいいところなんだがね」

 僕が結婚式を挙げたと聞いてすっかりリンディスは安心した表情で笑っていた。

「中央通りをまっすぐ行ったところに大きな教会があるんです。私、生前、田舎に住んでいたからこの街みたいな都会に憧れているんですよ。幸い館から近いところには、ほかに大きい建物がないし、情緒があって素晴らしい立地条件に私たち今、住まわせてもらっています」

「そうかとてもよかったね、君たち二人に幸あらんことを。君たちと出会えて、正々堂々、僕たちは心置きなく戦えるよ、マティスくん、いい試合をしよう」

「ええ、もちろんです、佑月さん!」

 そう言って僕と再びマティスと握手を交わす。用が済んで振り返るとクラリーナが感動した様子で微笑んでいた。メリッサは状況を飲み込めないのか、戸惑っていた。

「メリッサ、クラリーナ、みんなが待っている、帰ろう」
「え、ああ、そうか、わかった」

「では皆さんのところにご案内しますね、素晴らしい試合になりそうで、私としてはとても嬉しいです」

 そう言ってクラリーナの背中を追って僕たちは歩いてついていった。……ああ、いい試合ができそうだ、それは僕たちにとってね……。
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