ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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奇襲

第百六十三話 予想外の強敵

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 僕とクラリーナは談笑しながら、近道を通ってコロッセウムについた。会場が盛り上がっているのか、外でも観客の歓声が聞こえてくる。民衆の不満解消に良いイベントで、意外と政治的にかなり有用な娯楽だと感じた。

 教会団の教義は知らないが、終末が近づいている世界で、不安で治安が悪化するのは当然だろう、世俗の貴族など好き勝手しているように感じたし、反乱が起こってもおかしくない社会状況だ。

 こういうイベントで民衆のストレス解消するのは賢い手段と僕は思った。

 会場の中に入るとメリッサや仲間たちが次の試合である僕たちの対戦相手を決める戦いを見に来ていた。そして、僕の姿を確認するや否やメリッサは僕に詰め寄った。

「どこ行ってたんだ! お前武器も持たずに、危険だろう、ここは敵地だぞ、何考えている!」
「その……ね、いろいろ考えをまとめたくて外で思考を巡らせていたんだ、幸い無事だからいいじゃないか」

「何のんきなことを、これは戦争と言ったはずだ、いつだれに攻撃されるかわからないのは当然だろう。ホント、お前は隙あらばフラフラ街を歩いて、何度も迷子になっていたじゃないか。お前は夢遊病か何かか⁉ ちょっとは大人になれ」

 やっぱり叱られてしまった、もう慣れたけど。幼な妻に説教される不思議な快感が僕に良い刺激になって心を豊かにさせてくれる。僕の横にいたクラリーナをふと見たメリッサは、驚いた様子で少し小さな声で僕に状況の説明を求めた。

「お前どういうつもりだ、敵のエインヘリャルと一緒にいるなんて、いったい何があったんだ、本当何を考えているんだ、お前は」

 メリッサらしくなく同じ語彙ごいで繰り返し聞いているあたり、彼女は結構動揺しているのだろう。まあ、隠すこともないし正直に話そうとすると、クラリーナがメリッサに歩み寄って握手を求めて手を出してきた。

「ご存知と思いますが、クラリーナです。ご主人を少しばかりお借りしておりました。何分、この時期、この聖都でも治安維持に難儀なんぎすることも多く、殿方が側にいると女である私は心強く思い、佑月さんは私のナイトとしてとても素晴らしく私を守っていただきました。

 ──神の名のもとあなた方ご夫婦に感謝いたします」
 
「う⁉ あ、ああ、メリッサだ、よろしく頼む」
 
 彼女とただの教会団の使者として接していなかったメリッサは、クラリーナの饒舌じょうぜつさと、気品ある物腰に驚いた様子だった。二人は握手を結んだ時、僕は少し安心した。彼女はエイミアやララァと違って、変にメリッサとの仲をかき回す様子はない。

 メリッサは戸惑ったのか僕にさらに状況の詳細の説明を求めた。

「ホントどうしたんだ、特に彼女。別段何か企んでいる様子はないが、教会団の聖騎士だろ、何があった?」

「本当に何もないから説明しても理解してくれるかわからないけど、僕がぶらぶら歩いているところで偶然出会って、気さくにまた、親しくしてくれて、街を案内してくれた。なんか街の人の信頼も厚そうだし、僕が感じた限り、かなり誠実な女性だと感じたよ」

「本当か? まあ、嘘を言っても仕方ないだろうが、私の知る限り、クラリーナは教会団の古参で、組織で下からの人気が高くて、下級教徒などは聖教徒騎士団の団長に推すくらいだからな。また、女性ということもあり、男女問わず、彼女を目当てに教会団に入信する者もいるらしい。

 あと、見た目も、私は女だが、正直嫉妬するくらい、美しいからな。それは人気出るだろう。生まれも育ちも上級貴族のお嬢様ということで、人当たりよく気品があって、上の人間は教会団の広告塔として上手く使っているらしいが。

 だが、その彼女がお前に興味を持つとは思えない、本当に何もなかったのか?」

「僕もなぜこんなに親しくしてくれるかよくわからない、そこまで言うなら今度ちょっと探りを入れてみるよ、でも、彼女は信頼できる女性というのがきょう一日での感想だ」

「おいおい、お前……、まさか浮気じゃないだろうな」
「ち、違う! 断じてそんなことはない、大体、彼女と釣り合わないし、ただ単に彼女に純粋に興味あるだけだ」
「本当かー?」

「あのー」

 僕たちがこそこそ言い合っている様子を見てクラリーナは笑顔でこちらに歩み寄ってくる。

「何か誤解が生じているご様子ですが、私は誠実にあなた方夫婦と信頼関係を結びたいだけです。ご主人は紳士で、立派な殿方です。ええ、それは、鉢に植えられた華ではなく野に咲く華のように、誇り高く、気高く美しい。ご夫人も同様だと信じています。今日からあなた方二人に幸あらんことを常に神に祈ることにいたしましょう。

 ……では、メリッサご夫人、ご主人をお返しいたしますね」

 そう言って、美しく微笑んだものだから、珍しく、メリッサが女性相手に、白銀の肌をピンク色に染めてしまった。かっこいい女性だな、本当。メリッサも彼女のメリッサの顔を立てた言い方に、変に動揺してか、「ま、まあそう言うことなら……」と言ってそれ以上、追求しなかった。

 大体二人が落ち着くと、僕たちチームとクラリーナは試合開始を待った、と言ってもほんの二十分ぐらいだったが。そして、角笛が吹かれて太鼓が鳴り響いて試合会場に注目する。

「あれが、次の対戦相手たちのようね」

 エイミアは高みの見物と言った感じで腕を組んで見つめている。クラリーナは気を利かしたのか、二チームを紹介しだす。

「上級席サイドのチームが、鉄弓団です。彼らはあなた方みたいに遠距離で戦うのが主体だと聞いています。貴方たちのテストマッチとしていいチームですね、向こう側、会場の入り口側が青軍猛虎隊です。

 我々教会団と何度も戦っていて、こちらにも結構被害が出たほど、歴戦のつわもの、能力の詳細は次の試合を左右するため、公平性をもって情報提供を避けますが、素晴らしい試合になることは確信しています」

「教会団と敵対するエインヘリャルでも平気で招いているのか?」

 メリッサの質問にクラリーナはまたきょとんとしていた。

「あなた方だって、教会団と敵対しているじゃないですか、お忘れになられたんです?」
「確かに」

 僕は相槌あいづちを打った。つまり教会団にとって、効率よく、民衆の支持を得る、ミニラグナロク大会を用意したという認識のようだ。

 鉄弓団のフォーメーションは中央に近接装備を固めたエインヘリャルを集めて左右に同じ大弓を構えていた。僕らと同じように武器を作れるエインヘリャルがいるのだな。試合場を弓矢の波状攻撃で左右から遠距離攻撃。

 そして、自然相手チームは左右は攻撃を避けるため、中央突破を図るだろう、そこを真っ向勝負といった構図か。実に理論的な戦術だ。

 対し青軍猛虎隊はフォーメーションを整える素振りすら見せない。おそらく能力を生かしたゲリラ戦を得意としたチームなのだろう。さて成り行きを見守ってみるか。

 大量の矢が猛虎隊に降り注いだ、恐らくリーダーであろう青のスタイリッシュな服を着た金髪の美青年が指示すると、茶髪の女性が空に手をかざし会場半分くらいの何か電流が流れたような雷光を放つ膜を張る。

 それに矢が近づくと燃え尽きるかはじけ飛んだ。つまり、雷のバリア使いかあの女性は。これは面倒だな。遠距離攻撃が無効化される、まずい相手だ。さらにまずいのが、黒髪の男が地に手を付けると、木の根が試合場で走って伸びていき、鉄弓団全員の体に絡みついた。

 拘束能力者か、これは……。僕は顔に出さないようにしていたが、明らかに僕らチームと相性の悪い奴らだ、猛虎隊は。銃対策が容易にできる。

 さらに髪をターバンでまいて、肌が日で焦げた男が両手で何か緑色の球体を出すと、そこから緑色のスライムのようなものが鉄弓団に降り注いだ。それに触れた部分は体が腐ってしまっていた。強力な遠距離攻撃も可能ということか……! しかも試合場全体に。

 その中を例の金髪の美青年と、黒髪の長髪の女性が相手チームに走り込む。女性が手から光を放ち、近接のエインヘリャルを吹っ飛ばすと、そこへ突撃した鋭い槍を構えた金髪の美青年が見えないほど素早い突きでどんどん鉄弓団のエインヘリャルのとどめを刺していった。

 僕とメリッサの顔は真っ青だった。こちらの能力を完封できる相手だ。猛虎隊の勝利に会場が盛り上がった。ほんの数分で決まってしまったんだ。強い……強すぎるぞ、このチームは。とてもじゃないが、僕たちのチームがかなう相手ではない。

 まずい……、これはまずい、最終戦で練度が上がっているならまだしも、先の試合で僕たちは醜態をさらしたのだ。周りを見ると状況を理解できているメンバーは言葉を失っていた。

 怒りのあまり、エイミアはクラリーナに詰め寄った。

「アンタ! 対戦相手を私たちの不利になるように仕組んだんじゃないでしょうね!」
「何をおっしゃるんですか、全部抽選ですよ、初回は平等の対戦になるように。神のめぐりあわせでしょう、これはかなりあなた方の不利ですね。何か対策を練らないと」

 僕の顔は歪んでいただろう、邪悪なたくらみが浮かんでしまったからだ。……手段を選んでいる状況じゃない……! まともに戦えば必ず負ける、勝っても少なくても大半のメンバーは死ぬ。

 僕は呼吸を整え、クラリーナに静かに言った。

「素晴らしい試合だった。いい試合だね、僕は良いものが見れて感謝したいくらいだよ、相手チームにこの気持ちを伝えたいんだけど会えるかい?」

 メリッサは仰天していた。僕が何を考えているかわからないのだろう。対してクラリーナは嬉々としていた。

「ええもちろんです。これから5日後、命のやり取りをする相手、後腐れがないよう、挨拶するのは騎士道精神に満ちた行為です。今から私が案内しましょう」

「ああ頼むよ、君と知り合いになれてよかったよ、行こう」
「私もついていく」

 とメリッサも僕の後ろについた。もしかしたらのためだろう、武器を創れるように。クラリーナは僕たちのチームの不穏な雰囲気を気にすることなく、観客席を後にしようとしたので、それに僕たちは続く。

 ──神がいるなら僕は反逆者だ、徹底的な、ね。
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