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奇襲
第百六十八話 奇襲②
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僕とエイミアは、館内に敵が潜んでないか警戒しながら、途中あった扉はエイミアに壊させて、中を確かめ制圧しつつ、どんどん進んでいく。追撃も大事だが、逆に敵に伏せられて奇襲されて命を落とす可能性がある、不正規戦とはそういうことだ。
丁寧に制圧地を増やしていき、どんどん相手を追い詰めながらも僕は頭の中の不安が気になって仕方がなかった。ふと、エイミアに尋ねてみる。
「なあ、エイミア。マティス、わかるかい、敵のリーダー格の金髪の青い服を着た男だ、あいつのことどう思う?」
「ああハンサムだったね、まあ、あれほど顔が整っていると、個性がなくて色気がないから私の好みじゃないわ、だから、貴方の方が私は好みね」
そりゃ僕はイケメンじゃないよ、女性というのはすぐ顔の話をする。
「そうじゃない、相手の能力についてだ、そいつ、マティスは闘技場で槍を使っていたが、あっさりと敵を倒したから奴の能力を見逃していた。だけど何か不自然な点はなかったかい?」
「何よ、何でそんなに気にするわけ? 今、館に居ないのが気になるの?」
「館に居ない?」
そうか、ヴァルキュリアはエインヘリャルの気配を感じ取れるのだった。だがしかし、ザメハのように気配を消せる能力者もいた、だからといって警戒を緩めることはできない。
「そうか館に居ないか、その理由は考えてもわからないから仕方ない。だが、彼らと話したとき、クラリーナは今の敵と何度も対戦したというんだ、君、クラリーナの能力のことは知らないかい、教会団に居たのだから」
「同じ教会団と言っても大規模な組織だからね、アウティスが異端審問官でその界隈しか直接会うことはあまりなかったわ、二、三度、顔を合わせたぐらいかしら、でも彼女の噂は嫌でも耳に入ったわ」
「噂?」
「ええ、とても誠実で美しい女性が第一の噂、信徒の人気が聖帝やマレサに続いて高いというのが第二、三つめは……」
「三つめは?」
「教会団随一の能力者」
「何だって?」
「──ちょっと、いきなりまじな顔をして私の顔を見つめないでよ、ドキッとするじゃない……。ええ、彼女は教会団のエインヘリャルのうちでも選りすぐりで、その中でもトップクラスの能力者よ、あの見た目だから信じられないかもしれないけど。
アウティスも言っていたわ、“彼女が男ならきっと教会団を牛耳られる程の能力を持っている、だが、私が教会団で真の意味で随一であるのは彼女が女だからだ” ……ってね、古い組織だからまあ、男女差別があるのでしょうね。
まあ、でもアウティスが認めるほどの力を彼女が持っているのは確かみたい」
……しまった!
「なんてことだ! くそ、困ったことになった……」
「な、何よ……」
「いいかい、今の敵はそのクラリーナがあいつらを逃すほどの実力を持っていたということだ、あっさりと今攻略しているが、それはリーダーのマティスがいないからじゃないのか。奴がクラリーナに対抗できる能力者だとすれば……」
「……! ちょっと待って、マティスの試合を思い出してみるわ……。──っ! 変ね」
「変?」
「ええ変だったわ、彼が攻撃する際、始まりと結果があまりにも速かった気がする、私の目でも追いきれないほど……」
「……やはりか!」
神階第一階層のエイミアが言うのだから、目で追いきれないというのは特殊な能力を持っているということだ、本当に警戒すべきはこのチーム全体ではなかった、マティス個人だったんだ──!
そうこうやり取りをしている間に、リンディスに追いついた。肩を撃たれたパッシーダが血を流しながらつらそうにしていたから、ケガで逃げるのがはかどらなかったのだろう。スナイパーライフルの弾をまともに受けたんだ、当然骨は粉々に砕けているに違いない。
「リンディス、奴らが来たぞ!」
そのパッシーダがよろめきながら立ち上がる、治癒能力者がいないとやはりこうなるな、ケガした時の巻き返しが利かない、幸いレイラに能力を使わす機会がまだなかっただけで、彼女は重要な戦力として見ておくべきだ。
僕は有無を言わさず、すぐさま彼らの胴体を狙ってAKMで弾をばらまく、けたたましく廊下に充満する銃声、だが、リンディスが雷光のバリアを張って妨害する。予想通りだ。
「エイミア、敵をけん制しつつ、相手に近づき、足を止めてくれ、なんでもいい地面を壊しても、天井を壊しても」
「オッケー!」
エイミアは機嫌がいいのか、喜んで相手に突撃していく、相手が実力者とだけあって、戦士の血がうずくのだろう、実に素直で心強い。僕はそれをまた相手の視界を遮るように雷を起こさせて、パッシーダの狙いを狂わせていく、だから敵に反撃もあまり効果がない。実に順調だ。
「はあっ!」
エイミアが壁を蹴って三角飛びで言われたとおりに廊下の天井を素手で壊す、敵はバリアでコンクリートの破片を飛ばすが、かえって視界が塞がり、相手からこちらが見えない、今だ……!
僕は距離を縮め破片の中動きづらく戸惑っている彼らの横をすり抜け、リンディスがこちら側になる裏向きに振り向く前に銃を放つ! よし──!
「ぐはっ‼」
「パッシーダ⁉」
僕は手っ取り早くリンディスを狙ったが、それをパッシーダがかばった。狙いはよく、彼の胸を弾が貫いたようだが、とどめとはいかなかったようだ。僕はすぐさま相手の様子をうかがい銃を構えた。
「どうして! パッシーダ! 私をかばわなくていいのに! 今こうなってるのも私のせい、貴方が傷つく必要なんてない!」
「気にするな、リンディス……、お前はマティスと結婚するんだろ……? あんなに嬉しそうにしてたじゃないか、俺はお前を彼のもとに連れていく義務がある……」
「パッシーダ!」
「マティスに会ったら、伝えてくれ、俺はリンディスを届けたと、そして、お前たちの結婚式に参加できなくてすまないと……!」
「いやよ! いや、ねえ、キディ! 何とかならないの⁉」
彼女は近くにいたヴァルキュリアだろう女性に尋ねた。
「この傷の深さではもう……だが、私たちが代わりに盾になる……!」
「キディ⁉」
「行くぞ! みんな私について来い!」
するとキディと言われたヴァルキュリアがこちらに近づき、残り二人のヴァルキュリアが歩調を合わせて一気に突撃してくる!
僕は万が一の危険を避けるため彼女らに銃弾を撃ち込むが、流石はヴァルキュリアだろう、弾を受けようとリンディスとパッシーダの肉の壁となって、二人ごと五人は僕の横を走って通り過ぎていった。パッシーダにリンディスが肩を貸してだ。
「ちょっと、佑月! 相手に逃げられるでしょ!」
「残念だが弾切れだ……」
慌てて弾幕を張ったため、久しぶりに弾切れなんて失態を起こす。L118A1には弾が残っているが、もしマティスが帰ってきた場合、メインウェポンの弾を温存していないと困る可能性がある。
僕はAKM のマガジンを取り出し、リロードした後、彼らをすぐさま追った。
「いた、あいつら!」
エイミアがいち早く気配を察知できるのは流石ヴァルキュリアだ、おかげで早めに戦闘態勢に入ることができた。敵を察知するや否や、AKMをぶっ放す。そのおかげで銃弾は敵のヴァルキュリアたちごとリンディスまでくらっていた。
「──っ! みんな止まったらダメ、出口までもうすぐよ!」
「待て、リンディス、敵の気配がする!」
ヴァルキュリアが制止をするがすでに遅かったようだ、もともとの計画通り、待ち伏せていたシェリーが出口から急に現れ剣で切りつけた! ──リンディスをかばったパッシーダを。
「ぐはあっ!」
「パッシーダ!」
パッシーダはまともに食らい絶命する寸前、シェリーに向かってスライムを出して対抗するが、シェリーは難なくよける。
「ぐおおおお!」
そして彼は血だらけで出口に向かって突進していった。もちろんリンディスやヴァルキュリアを連れて。
「待て!」
待ち伏せていた、メリッサが斬りつけるが、無論エインヘリャルを直接攻撃してはいけないため、足止めであったのだが、一人のヴァルキュリア、キディが、彼女らをかばい、リンディスたちはほうほうの体で、バリアを張りながら、逃げ延びる。
だが、どうやらキディはパッシーダのヴァルキュリアだったみたいだ。二人ともに光となって消えてしまった。
「くそ、逃がすな!」
「待てシェリー!」
「何だと佑月!」
シェリーを僕が制止すると、メリッサが僕に問い詰めた。バリアを張られた以上、遠距離の銃弾ははじかれるだろう、近接戦の専門家であるシェリーに追わせるのが、この状況ではベターだ。
「マティスがいない……!」
「だからなんだ!」
僕の言葉が理解できないためか、感情的になってメリッサは怒った。僕は冷静にほんの少し間をおいて静かに告げる。
「……詳しい説明なら後でする、だが今は僕を信じてくれ」
「どういうことだ……」
不思議がるメリッサやシェリーなど一同。そんな中、ユリアがこっちに追いつてきて僕たちに声を投げかける。
「佑月さん! マティスはこの館に居ません、どこにも!」
「ということだ」
「だからどういうことだ⁉」
僕のセリフにオウム返しで尋ねたメリッサは流石にキレかけているのだろう、僕は彼女の納得のいくよう、端的に言う。
「マティスがいない以上、これからの戦い、彼女、リンディスが生きていることが重要になる可能性がある」
「何言ってるんです、佑月さん、一人でも減らしたほうが良いじゃないですか!」
側にいたブライアンが当然の質問を僕に投げつける。メリッサは勘が鋭いのだろう少しうつむいて黙った。
「メリッサ、君はみんなに言ったよな、戦術とは1%でも勝率を上げるためにあると」
「……ああそうだ」
「ならこれもそうだ、1%でも不安要素があるなら、その1%を勝利へと上げるのが僕らの戦術だ、みんなここは我慢してくれ」
「おいおい、言い合ってる場合か、本当に逃げちまうぞ、あいつ!」
どんどん遠ざかっていくリンディスに焦れてシェリーが言ったが、メリッサは深く考え込み、こう言った。
「……何か作戦があるのだな、ならいい、お前に任す」
「メリッサ!」
「メリッサさん!」
シェリーとブライアンは驚くが、彼らの意をくむことなく、エイミアがみんなに言った。
「はいはい、不満があるみたいだけど、メリッサちゃんもこう言ってるんだから、とりあえずこの場はおさえましょう、何か作戦みたいだから」
皆の信頼感の厚いエイミアとメリッサに言われてしまえば、二人は納得するしかない、他のヴァルキュリアも一緒みたいだった。メリッサは状況をまとめるためこういった。
「教会団がこちらに感づいて襲ってこられるとまずい、残りの奴らと合流してさっさと撤収するぞ!」
その言葉に皆が従ってくれた。メリッサが詳細を問わずに信じてくれるので非常に助かった。僕が頭に浮かんでいる作戦を聞くと、きっと皆が反対するであろう。……だが、どんな手を使ってでも勝つと決めたんだ、手段を選ぶつもりはない……!
丁寧に制圧地を増やしていき、どんどん相手を追い詰めながらも僕は頭の中の不安が気になって仕方がなかった。ふと、エイミアに尋ねてみる。
「なあ、エイミア。マティス、わかるかい、敵のリーダー格の金髪の青い服を着た男だ、あいつのことどう思う?」
「ああハンサムだったね、まあ、あれほど顔が整っていると、個性がなくて色気がないから私の好みじゃないわ、だから、貴方の方が私は好みね」
そりゃ僕はイケメンじゃないよ、女性というのはすぐ顔の話をする。
「そうじゃない、相手の能力についてだ、そいつ、マティスは闘技場で槍を使っていたが、あっさりと敵を倒したから奴の能力を見逃していた。だけど何か不自然な点はなかったかい?」
「何よ、何でそんなに気にするわけ? 今、館に居ないのが気になるの?」
「館に居ない?」
そうか、ヴァルキュリアはエインヘリャルの気配を感じ取れるのだった。だがしかし、ザメハのように気配を消せる能力者もいた、だからといって警戒を緩めることはできない。
「そうか館に居ないか、その理由は考えてもわからないから仕方ない。だが、彼らと話したとき、クラリーナは今の敵と何度も対戦したというんだ、君、クラリーナの能力のことは知らないかい、教会団に居たのだから」
「同じ教会団と言っても大規模な組織だからね、アウティスが異端審問官でその界隈しか直接会うことはあまりなかったわ、二、三度、顔を合わせたぐらいかしら、でも彼女の噂は嫌でも耳に入ったわ」
「噂?」
「ええ、とても誠実で美しい女性が第一の噂、信徒の人気が聖帝やマレサに続いて高いというのが第二、三つめは……」
「三つめは?」
「教会団随一の能力者」
「何だって?」
「──ちょっと、いきなりまじな顔をして私の顔を見つめないでよ、ドキッとするじゃない……。ええ、彼女は教会団のエインヘリャルのうちでも選りすぐりで、その中でもトップクラスの能力者よ、あの見た目だから信じられないかもしれないけど。
アウティスも言っていたわ、“彼女が男ならきっと教会団を牛耳られる程の能力を持っている、だが、私が教会団で真の意味で随一であるのは彼女が女だからだ” ……ってね、古い組織だからまあ、男女差別があるのでしょうね。
まあ、でもアウティスが認めるほどの力を彼女が持っているのは確かみたい」
……しまった!
「なんてことだ! くそ、困ったことになった……」
「な、何よ……」
「いいかい、今の敵はそのクラリーナがあいつらを逃すほどの実力を持っていたということだ、あっさりと今攻略しているが、それはリーダーのマティスがいないからじゃないのか。奴がクラリーナに対抗できる能力者だとすれば……」
「……! ちょっと待って、マティスの試合を思い出してみるわ……。──っ! 変ね」
「変?」
「ええ変だったわ、彼が攻撃する際、始まりと結果があまりにも速かった気がする、私の目でも追いきれないほど……」
「……やはりか!」
神階第一階層のエイミアが言うのだから、目で追いきれないというのは特殊な能力を持っているということだ、本当に警戒すべきはこのチーム全体ではなかった、マティス個人だったんだ──!
そうこうやり取りをしている間に、リンディスに追いついた。肩を撃たれたパッシーダが血を流しながらつらそうにしていたから、ケガで逃げるのがはかどらなかったのだろう。スナイパーライフルの弾をまともに受けたんだ、当然骨は粉々に砕けているに違いない。
「リンディス、奴らが来たぞ!」
そのパッシーダがよろめきながら立ち上がる、治癒能力者がいないとやはりこうなるな、ケガした時の巻き返しが利かない、幸いレイラに能力を使わす機会がまだなかっただけで、彼女は重要な戦力として見ておくべきだ。
僕は有無を言わさず、すぐさま彼らの胴体を狙ってAKMで弾をばらまく、けたたましく廊下に充満する銃声、だが、リンディスが雷光のバリアを張って妨害する。予想通りだ。
「エイミア、敵をけん制しつつ、相手に近づき、足を止めてくれ、なんでもいい地面を壊しても、天井を壊しても」
「オッケー!」
エイミアは機嫌がいいのか、喜んで相手に突撃していく、相手が実力者とだけあって、戦士の血がうずくのだろう、実に素直で心強い。僕はそれをまた相手の視界を遮るように雷を起こさせて、パッシーダの狙いを狂わせていく、だから敵に反撃もあまり効果がない。実に順調だ。
「はあっ!」
エイミアが壁を蹴って三角飛びで言われたとおりに廊下の天井を素手で壊す、敵はバリアでコンクリートの破片を飛ばすが、かえって視界が塞がり、相手からこちらが見えない、今だ……!
僕は距離を縮め破片の中動きづらく戸惑っている彼らの横をすり抜け、リンディスがこちら側になる裏向きに振り向く前に銃を放つ! よし──!
「ぐはっ‼」
「パッシーダ⁉」
僕は手っ取り早くリンディスを狙ったが、それをパッシーダがかばった。狙いはよく、彼の胸を弾が貫いたようだが、とどめとはいかなかったようだ。僕はすぐさま相手の様子をうかがい銃を構えた。
「どうして! パッシーダ! 私をかばわなくていいのに! 今こうなってるのも私のせい、貴方が傷つく必要なんてない!」
「気にするな、リンディス……、お前はマティスと結婚するんだろ……? あんなに嬉しそうにしてたじゃないか、俺はお前を彼のもとに連れていく義務がある……」
「パッシーダ!」
「マティスに会ったら、伝えてくれ、俺はリンディスを届けたと、そして、お前たちの結婚式に参加できなくてすまないと……!」
「いやよ! いや、ねえ、キディ! 何とかならないの⁉」
彼女は近くにいたヴァルキュリアだろう女性に尋ねた。
「この傷の深さではもう……だが、私たちが代わりに盾になる……!」
「キディ⁉」
「行くぞ! みんな私について来い!」
するとキディと言われたヴァルキュリアがこちらに近づき、残り二人のヴァルキュリアが歩調を合わせて一気に突撃してくる!
僕は万が一の危険を避けるため彼女らに銃弾を撃ち込むが、流石はヴァルキュリアだろう、弾を受けようとリンディスとパッシーダの肉の壁となって、二人ごと五人は僕の横を走って通り過ぎていった。パッシーダにリンディスが肩を貸してだ。
「ちょっと、佑月! 相手に逃げられるでしょ!」
「残念だが弾切れだ……」
慌てて弾幕を張ったため、久しぶりに弾切れなんて失態を起こす。L118A1には弾が残っているが、もしマティスが帰ってきた場合、メインウェポンの弾を温存していないと困る可能性がある。
僕はAKM のマガジンを取り出し、リロードした後、彼らをすぐさま追った。
「いた、あいつら!」
エイミアがいち早く気配を察知できるのは流石ヴァルキュリアだ、おかげで早めに戦闘態勢に入ることができた。敵を察知するや否や、AKMをぶっ放す。そのおかげで銃弾は敵のヴァルキュリアたちごとリンディスまでくらっていた。
「──っ! みんな止まったらダメ、出口までもうすぐよ!」
「待て、リンディス、敵の気配がする!」
ヴァルキュリアが制止をするがすでに遅かったようだ、もともとの計画通り、待ち伏せていたシェリーが出口から急に現れ剣で切りつけた! ──リンディスをかばったパッシーダを。
「ぐはあっ!」
「パッシーダ!」
パッシーダはまともに食らい絶命する寸前、シェリーに向かってスライムを出して対抗するが、シェリーは難なくよける。
「ぐおおおお!」
そして彼は血だらけで出口に向かって突進していった。もちろんリンディスやヴァルキュリアを連れて。
「待て!」
待ち伏せていた、メリッサが斬りつけるが、無論エインヘリャルを直接攻撃してはいけないため、足止めであったのだが、一人のヴァルキュリア、キディが、彼女らをかばい、リンディスたちはほうほうの体で、バリアを張りながら、逃げ延びる。
だが、どうやらキディはパッシーダのヴァルキュリアだったみたいだ。二人ともに光となって消えてしまった。
「くそ、逃がすな!」
「待てシェリー!」
「何だと佑月!」
シェリーを僕が制止すると、メリッサが僕に問い詰めた。バリアを張られた以上、遠距離の銃弾ははじかれるだろう、近接戦の専門家であるシェリーに追わせるのが、この状況ではベターだ。
「マティスがいない……!」
「だからなんだ!」
僕の言葉が理解できないためか、感情的になってメリッサは怒った。僕は冷静にほんの少し間をおいて静かに告げる。
「……詳しい説明なら後でする、だが今は僕を信じてくれ」
「どういうことだ……」
不思議がるメリッサやシェリーなど一同。そんな中、ユリアがこっちに追いつてきて僕たちに声を投げかける。
「佑月さん! マティスはこの館に居ません、どこにも!」
「ということだ」
「だからどういうことだ⁉」
僕のセリフにオウム返しで尋ねたメリッサは流石にキレかけているのだろう、僕は彼女の納得のいくよう、端的に言う。
「マティスがいない以上、これからの戦い、彼女、リンディスが生きていることが重要になる可能性がある」
「何言ってるんです、佑月さん、一人でも減らしたほうが良いじゃないですか!」
側にいたブライアンが当然の質問を僕に投げつける。メリッサは勘が鋭いのだろう少しうつむいて黙った。
「メリッサ、君はみんなに言ったよな、戦術とは1%でも勝率を上げるためにあると」
「……ああそうだ」
「ならこれもそうだ、1%でも不安要素があるなら、その1%を勝利へと上げるのが僕らの戦術だ、みんなここは我慢してくれ」
「おいおい、言い合ってる場合か、本当に逃げちまうぞ、あいつ!」
どんどん遠ざかっていくリンディスに焦れてシェリーが言ったが、メリッサは深く考え込み、こう言った。
「……何か作戦があるのだな、ならいい、お前に任す」
「メリッサ!」
「メリッサさん!」
シェリーとブライアンは驚くが、彼らの意をくむことなく、エイミアがみんなに言った。
「はいはい、不満があるみたいだけど、メリッサちゃんもこう言ってるんだから、とりあえずこの場はおさえましょう、何か作戦みたいだから」
皆の信頼感の厚いエイミアとメリッサに言われてしまえば、二人は納得するしかない、他のヴァルキュリアも一緒みたいだった。メリッサは状況をまとめるためこういった。
「教会団がこちらに感づいて襲ってこられるとまずい、残りの奴らと合流してさっさと撤収するぞ!」
その言葉に皆が従ってくれた。メリッサが詳細を問わずに信じてくれるので非常に助かった。僕が頭に浮かんでいる作戦を聞くと、きっと皆が反対するであろう。……だが、どんな手を使ってでも勝つと決めたんだ、手段を選ぶつもりはない……!
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