ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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奇襲

第百六十七話 奇襲

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「キャー‼」
「何だ今の音は!?」
「どうした、何があった⁉」

 館の中から大きな動揺の声が聴こえてくる、いきなり銃声を聴いて相手は混乱しているようだ。僕はさっき殺した男が光に包まれ消えていくのを見て、まずは一人仕留めたことにとりあえず安堵あんどし、また、気を引き締めて挑むように、心は冷静を保った。

「いやあああああ──⁉」
「どうしたのイリヤ⁉ 光が……! まさか……敵⁉」
「みんな落ち着け! 敵が来るぞ!」

 どうやら中で死んだ男のパートナーのヴァルキュリアが消えたのだろう、当然攻撃されたことに気づく。ここまではプラン通り、さて相手はどう出るか……? 

 僕は木に登ったところから正面口の扉を暗がりのなか見つめた。慌てて敵があぶり出されれば好都合、そこを仕留めていけばいい。だが、館内は逆に静まり返った。木の下に居たレイラが不思議そうに僕に尋ねる。

「佑月さん、どうしたんでしょう、相手は……?」
「どうやら敵は、それほど馬鹿ではないらしいわね」

 その隣にいたエイミアが僕の代わりに答えて、僕も静かに「ああ……」とだけ返事をした。そして動きがないのを見ると、ユリアに斥候役として扉に近づくよう命じた。

 メリッサと一緒の時も斥候役を頼むことがあったが、そこら辺のエインヘリャルよりヴァルキュリアの方が身体能力が高い、エイミアに頼まなかったのは、もしもの時の切り札のために、温存するためだ。

 ユリアは扉に近づき銃を構えながら辺りを警戒するが、何も起こらない、ユリアは大きく両手を上げて交差した、僕はユリアは目がいいと思って、扉と僕の目を何度も指さす、中の様子を見ろとの指示だ。

 それが通じたのか扉の中に隙間を開けてユリアはのぞいた、だが何も起こらない、ということは待ち構えているのか、教会団と何回も戦ったと言っていただけあって、相手もやはりやる。僕は全員扉の左右に配置につき、ユリアとエイミアと扉を蹴らせて強引に開けさせた。

 そして、すぐさま彼女らは相手の視界から隠れ、敵の動向を待っていると、いきなり中からまぶしいほどの光が放たれ、扉が吹っ飛んだ。やはり、待ち構えていたか。

「レイラ、アデル、銃弾をばらまけ、けっして体を相手に見せるな、攻撃される恐れがある!」

「はい!」
「わかった!」

 そして内部に向かって彼らは制圧射撃を行い、銃を放つと、内部からスライムのような、あの肉体を腐らせる奴が飛んできた! 

「下がれ!」

 二人は叫び声をわずかにあげながら、扉があった空間の両端に身を隠す。幸い二人は無傷だ。僕はわずかにちらりと中を見て様子を確認すると、銃弾で荒れた玄関だったが、人影はない、なるほど相手も同じか。なら……!

「エイミア、頼みがある」
「良いけど高くつくわよ」

 僕の伝えたい内容はわかっているようだ、内部に単騎でおとりとして突入しろということだ。

「スライムのようなものを食らっても無効化できるか?」
「当然」

「なら中に入ってくれ、僕たちが援護する、そして相手が顔を出した場合、僕が仕留める」

 相手に聞こえないよう小さい声で言ったが、彼女はどうやら乗る気だったみたいだ。

「私、貴方が食べてたストロベリーパフェが食べたいのよね……」
「……3杯までだぞ」

「──了解!」

 そう言った途端エイミアは中に突入し、レイラとアデルに弾幕を張らせる、相手が驚いて物陰から飛び出したところを僕が狙撃していく、L118A1で3発撃ったが全弾命中。

 ヴァルキュリア一人の胸あたりと、黒髪の光を放つ女の腹と、ターバンを巻いたパッシーダの肩を撃ち抜いた。

 パッシーダは血を流しつつも、エイミアにスライムを飛ばしていくが、難なく彼女はかわしていく。そしてパッシーダはこう言った。

「リンディス、援護を! バリアを張ってくれ!」
「はい!」

 相手は集合し、雷のバリアを張る、僕たちは彼らに銃弾をばらまくが、弾がどんどん吹っ飛んでいく、ちっ! 面倒な。僕はレイラに指示を与える。

「これから僕が突入する、AKMでかく乱しながら場を荒らす、レイラは援護射撃をしつつ、あぶりだされた、敵を仕留めてくれ、エインヘリャルを特にだ!」

「わ、私が⁉」
「そうだ、信じてるぞ、僕の命を預ける!」

「ま、待ってください! そんな!」

 彼女の制止を振り切り僕は中に突入する──!

 敵はバリアで銃弾をはじけることを確認し、遠慮なく姿を現しながらパッシーダがスライムを飛ばし、黒い長髪の女が光でどんどん物体を吹き飛ばしていく、僕は慣れた戦場の空気感を感じながら、相手の視界から逃れやすいようにそのまままっすぐではなく斜めに動きかつ最短距離ですばやく物陰に隠れていく。

 反対方向の物陰で相手の様子をうかがっているエイミアに声をかけた。

「連携して動く、僕たちがクロス状に交差して、側面に相手に回り込みつつ距離を縮めるぞ」
「オッケー!」


 そして僕たちはすぐさま物陰から姿を現し、放物線を地面に描くように、ふくらんだルートをたどりながら、玄関ホールを走って相手に近づく。

 もちろん身体能力はエイミアの方がダントツに高いため、彼女の方が速く、相手の波状攻撃が飛んできたが、僕は相手の動きをさえぎるように、視界にAKMで銃弾をばらまきわざと雷を起こさせた。

 雷光がいちいち邪魔になって、相手の正確な攻撃を封じた。そして僕たちと距離がどんどん近くなってくると見るや、リンディスが状況を見て指示をした。

「みんな、バリアの外から攻撃されるとまずい! 相手は遠距離主体だから、足並みをそろえて距離を取って、私のバリア範囲から外に出ないで!」

 なるほど、歴戦のつわものの戦術だ、すぐさま未知の僕たちの連携攻撃を見抜き、冷静に、かつ効果的に対処する。

 しかし、彼女の誤算だったのがすでに手負いの者がいるということだ、距離を保つため離れようと試みるが、黒髪の女はすでに腹にスナイパーライフルの高威力の銃弾を受けているため、一人遅れてしまう。

 無論僕はそれを見逃さない、走り込みながら重そうな体をした女性を、足に向かって弾をばらまき、見事何発か命中させた。

「ああっ──!⁉」

 うめき声を上げながらすっころんだ彼女に僕は狙撃しようとする銃を構えるが、それを邪魔しようとパッシーダがスライムを僕に向かって飛ばしてくる。絶好のチャンスだったが、回避運動に僕は移り、そこを最後のあがきか黒髪の女性は光りを飛ばす!

 動きを封じられた僕は流石に不利となって、物陰に隠れようとした瞬間、黒髪の女性が血を吐いて倒れ込み、胸から広がる血の海を地面に描きそして絶命した。

 僕は何事かと思って後ろを振り向くと、レイラが立ちすくんでいた。

「わ、私……、佑月さんを助けよう……と、で……でも、殺すつもりは……!」

 初めて人を殺してしまい、動揺しているのだろう、戦闘中、入り口で棒立ちしていた。

「──ユリア! レイラをかばえ!」

 僕の掛け声に流石はヴァルキュリアだった、すぐさまレイラの足にタックルをして、二人ごと地面へ倒れ込む。その上を腐食のスライムが飛んでいった。ユリアが助けなければレイラはまともに食らって死んでいただろう。

 しかし、二人のエインヘリャルを失ってしまって、敵も動揺したのか成す術もなくリンディスたちは後退していき、まずいとみたのかこう言った。

「パッシーダ! 圧倒的不利だわ、ここはひとまず退却しましょう!」

 冷静な判断だ、エイミアが逃すまいと壁を殴りつけコンクリートの破片を彼らにばらまいて、動きを封じようとするが、リンディスたちはバリアを一度張って、破片をはじいて、すぐさま後退する。

 彼女らはなかなかの実力を持っていたがこういう不正規戦では僕らの方が圧倒的有利だった、あっさりと情勢は決した。あとは裏口で待っているメリッサたちが上手くやれば殲滅せんめつできる。

 だが、僕は何か一抹いちまつの不安を感じていた、……あまりにも手ごたえがなさすぎる。彼らならもっとやれると思った、ポテンシャルはあるはずなのに、わりとあっさりとした感覚、これはなんだ……?

 僕は短時間で状況を整理する、そしてあることに気づく、……まてよ一人足りなくないか……? 館の中に突入したとき女性が6人、男性が1人……。──しまった! いない! マティスがいないんだ!

 この戦闘中にリーダー格である彼が現れないのはおかしい。何か嫌な予感がする……! 

「ユリア! レイラとアデルを連れて金髪の青い服を着たエインヘリャルを捜せ! 対処は状況見て行動しろ! 僕とエイミアは追撃する」

「わ、わかりました、行こうレイラ……」
「わ、私は……」

 レイラがまだ混乱したままだが、それに構っている暇はない、早く敵を捕まえて、マティスの居所を吐かせないと、何か、何かまずい気がする──!
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