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奇襲
第百七十五話 脅迫、そして……
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僕はもう覚悟を決めている。メリッサのために死ぬこととナオコのために死ぬことを。そのためにどこまで地に堕ちようと、この手を血に染めようとかまわない。例え目の前にいる神の祝福を待つ恋人たちでさえも、僕は逃げるつもりはない。今、自らが地獄に落ちる銃弾をこの手にしている。
「愛のために死ねる?」
マティスは驚いたように眺めていた、僕の手にもつMP7A1を、その前で震えている愛しい婚約者を。そうだ……それでいい。僕は彼に対し強烈かつ心を裂くように激しく、また一方で静かに諭すように言い放つ。
「いいかい、この世界、愛するとか愛とかを言葉で延々と語るものがいる。でも僕はそれを信じない、自分の気持ちを示すには行動だ、行動で示せばいい。どれだけ自分たちの愛が深いかをそれで証明すればいい、それが罪の告白であるかのように。
罪人には罰が必要だ、この世界のなかで君の恋人だけを愛する、ひょっとしてそれは罪じゃないのかい?
あらゆるものを犠牲にしてきて、それでも彼女一人のために戦うと誓ったんだ、それ相応の報いが必要だろ、もしかして君はこれまで正義とか信じて、自分の敵を殺してきたのかい? そいつらにも家族や仲間がいるだろうに。それでも愛は正義だと信じて戦ってきたのかい。なら、それは間違いだ……!」
「やめろおっ!」
「──駄目、コイツの言うことを聞いちゃだめよ、マティス!」
僕の言葉をリンディスはさえぎった。僕はわざと、彼を揺さぶるためにここは黙る。リンディスはマティスに涙を流しながら訴えかけた。
「マティス、聞いて、貴方言ったよね? 僕は自分のために戦ったんじゃない、仲間と君のために戦ったんだって」
「ああ、そうだけど」
マティスを惑わされないようリンディスは必死で目を覚ますように語り続けた。
「だったら、パッシーダや仲間たちの仇を取って、マティス! 貴方は夜襲されたとき言ったでしょ、こんな非道を許すことはできないって、こいつらのやってることはもう狂気だって。だったら、たとえ私を見捨ててでもこの男を殺して! こいつがパッシーダを殺したの!
貴方の親友だったでしょ、パッシーダは! 今、目の前にその仇がいるのよ、憎いはずだよね、殺したいはずだよね、なら私の事は気にしないで。貴方は強い人よ、わかってよ──!」
「でも……そのためにリンディス、君が殺されるかもしれないなんて、僕は」
「マティス!」
残念ながら、涙ながらに女が男に情で訴えかけるのは逆効果だ、リンディス。メリッサがもし君の場合、そんなことはしない、足手まといにならないようさっさと自殺する。
それができるとわかっているから、彼女を僕は危険にさらせない、これが僕らの戦い方だ。信頼関係に基づいた共犯なんだ、君との違いはそこなんだよ、そこが付け込む隙になる。
ようやく僕は口を開きはじめて、彼により効果的に、心理を誘導していく。
「そうだな、それはそうだな。それは仕方ない。何故なら君たちは覚悟をしてないからそうなるんだ。愛のために死ねるか、君たちには矛盾して聴こえるだろう、でもそれは真実だ。そりゃあ君だって反論があるだろう。
婚約者の自分が死ぬと彼女が泣く、僕にはできないと。でもね、それはこうなる前に覚悟を決めておかなきゃならなかった。そのためにリンディスの後ろを君は絶対に開けるべきではなかった、そうだろマティス?」
「こいつの言うこと聞いちゃ駄目、全部でたらめよ、コイツの言ってることは。コイツの武器じゃ私を一発で殺せる威力なんてない。だから、何発か食らう覚悟で私は──」
「それは君の計算違いだ、リンディス」
だが、僕は彼女の神にすがるような希望を打ち消していく。
「リンディスこの武器を、見たことがあるかい、君の館で?」
「知らないわそんなこと、どうでもいいもの」
「見る気もないか、なら答えを教えよう、残念ながら君の推測は間違いだ。僕の腕なら、こんな至近距離で頭を外すなんてことはしないし、例え、そこに置いてあるAKMでも、一撃で仕留められる。
しかもね、これは僕の能力で出したMP7A1なんだ、そこの長いAKMとはわけが違う、そこのAKMはアデルという僕の仲間がその能力で作った奴で、彼は量産できる分一つ一つ弾の威力が僕の武器より低いように感じる。
館で見せたもっと長い銃のL118A1はより射撃に適していて、もっと威力が高いし、遠くから一発で殺せる高威力が見込める、君も知ってるはずだリンディス、初め館を襲撃したとき一発の銃声しか聞こえずにエインヘリャルが仕留められたと。わかるかい、これが僕の能力だ」
「ほんとうなのか、リンディス!」
マティスは慌てて問いただすが、彼女はただ泣きながらに首を横に振る、悟ってしまったんだリンディスは。もう自分は助からないと夢も希望もないことを。そして、ただ「……もう、どうでもいいわ、そんなこと」と呟くだけだった。だがあえて彼女はこう反論した。
「でも、そんなの自分の能力の威力なんて正確に確かめようがないじゃない、試し切りでもしない限り」
必死の抵抗だったがこれも僕は無慈悲に否定する。
「──残念ながら、僕はすでに試し撃ちしている、試し切りじゃないさ。ちょっとした、いたずら好きのキャラディスという男がいてね、余りにも悪行がひどいエインヘリャルだからね、実験したんだ。彼の体で僕の能力がエインヘリャルにどこまで通じるかを。
だから、僕は正確に能力の威力を把握している、君たちの淡い期待を裏切ってすまないね」
「試し撃ち、実験……!」
自分のこぼした言葉でどれだけ衝撃を受けたかを表すマティス、そして僕が歩んできた修羅の道を彼は理解してしまった。同時に、僕の言っていることは真実だと、逃げ場はないと悟った。それはリンディスも同じようだった。そして最後に僕は彼らにとどめを刺すかのように、したたかにはっぱをかけた。
「言っておくが僕だったら死ぬよ、本当の自分の愛する人が助かるなら、僕は死ぬ。例えじゃない本気だ。それが僕の生きる道であり、死ぬ道もそうだ。君はどうだい、マティス君?」
「もうやめて、たくさんよ! ねえ私を早く殺しなさい、アンタの言う通り、私が彼のために死んで上げる! 望み通りでしょ、楽しいでしょ、笑えるでしょ? さあ、私を殺しなさい!」
泣きながら叫ぶリンディスだった。マティスはそれを見て愕然としていた。二人の様子を見て僕はマティスをにらんだ。
「これが愛のために死ぬ女の顔だ、わかったな? マティス。だったら、僕がそれを証明してやるよ」
「待て! 待ってくれ!」
マティスが叫び始めたので、僕は冷静に奴の視線を逃さない。マティスが観念し始めて僕に落ち着いた声で掛け合った。
「少し彼女と話をさせてくれ」
「断る」
「ほんの一瞬だ!」
「嫌だ」
これで、もうダメだってわかっただろ? さあお前ならどうする、マティス。
──十分に理解したかのような彼は、落ち着いた笑顔を浮かべる。静かに槍の柄を両手で持ち、帆先を自分の胸に指し示す。そしてリンディスに柔らかく、最後の言葉を投げかけた。
「……なあリンディス、覚えているかい、君が僕と結婚しようと言った時。君はね、この街に来てすぐ、まっすぐに大きな教会があると目の前に見える建物を指し示した後、僕の手を取ってその前まで一緒に走ったんだ。そしてクレオール教会の前に立って、何て言ったか覚えてる?
君はね、ねえ、“私幸せになりたいんだー”ってね。かなり照れてて、なんだか妙に可愛かったよ。そのときあっとわかったんだ、ここが僕の本当の戦場だって、男の見せ場だって、でもこうなるとは思ってなかったよ」
「マティス!」
リンディスは愛する彼を見つめながら口を抑えている、止まらない涙、落ちていく雫、それが彼らの長い二人の道であるかのように。マティスはリンディスに微笑みながら語り続けた。
「でもねリンディス。僕は言えなかったなあ、大きな教会と幸せそうに恥じらう君を見て、なんか勇気が出なかった。でね、そこで君は僕の態度にあきれはてて不貞腐れながら言ってしまったんだ、“ねえここで結婚式あげない……? ”ってね。──ああっ! ムードぶち壊しだ、正直笑っちゃうくらいだって、それで少し頭を抱えちゃった。
君はせっかちだから。でもね、同時に、僕はあの時に勇気出せなかったのを今でも後悔している。はっきりできない自分の情けなさに、弱い自分に。そこは女に言わせちゃあだめだよなあ、愛する女性にさ。あの、あの時のツケが、今日になって回ってきたんだろうなって、そんな気がしてきたよ」
「や、やめて! マティス、目の前で好きな人が死ぬのなんてみたくない、それも私のために死ぬなんて、嫌よ、そんなのっ!」
「愛してるよリンディス……!」
「マティスっ──!」
ふと、彼女の言葉を聞いて何を思ったのか彼が胸へと持っていく槍の穂先が、一瞬止まった。それを見た僕はすぐさまに、「僕ならできると言ったはずだ……」と、告げたとき、マティスは一直線に胸へ、自分の心臓に槍を突き刺し、その果てに彼は自害した。
おびただしく流れるマティスの血、それは鮮やかな綺麗な赤、彼の生きてきた人生を指し示すかのように。リンディスは慌てて彼の亡骸へと這いつくばって手を伸べる。それが、自分たちの愛であったかを示すかのように、徐々にと。
「マティス! お願い立ち上がってよ、なんかの冗談でしょ? ねえ、貴方の笑えない冗談はもうたくさん、私の降参、はい終わり。そうでしょ? ねえ、そうだと言ってよ! マティスぅっ──!」
──君の愛は証明されたよマティス、君の行為は敬意に値する。だが……! 僕は静かに愛を失った女に背中に銃口を向ける。そして──
「マティス、マティス、マティス! まてぃ……すっ……!」
……これがラグナロクだ、戦争だ。
僕は無言で彼女の心臓を後ろから弾で撃ち抜いた。残念ながら彼らの救いの手と手は交わせなかった。最初に言ったはずだ、“僕の勝ちだ”と。君はあの時警戒すべきなんだよ、愛する女性がいるならな、そうだろ? マティス。
「──佑月」
「──佑月さん」
仲間のみんなが衝撃を受けた目で惨状を眺めた。僕は黙ってこつこつとAKMのもとに歩み、銃を背負う。そして用が済んだのでみんなに告げる。
「終わりだ、行こう」
僕たちが静かに試合会場を後にしようとすると今まで騒然と息を呑んでいた観客が狂ったように叫び始めた。
「おいおい、もっと血を見せろ──!」
「こんなんじゃあ、つまんねえぞ、コラあっ──」
「金返せ──‼」
観客席から物が投げられていく、飛び交うブーイング。そうだそれでい、僕みたいな悪党にふさわしい幕の締め方だ……。
「愛のために死ねる?」
マティスは驚いたように眺めていた、僕の手にもつMP7A1を、その前で震えている愛しい婚約者を。そうだ……それでいい。僕は彼に対し強烈かつ心を裂くように激しく、また一方で静かに諭すように言い放つ。
「いいかい、この世界、愛するとか愛とかを言葉で延々と語るものがいる。でも僕はそれを信じない、自分の気持ちを示すには行動だ、行動で示せばいい。どれだけ自分たちの愛が深いかをそれで証明すればいい、それが罪の告白であるかのように。
罪人には罰が必要だ、この世界のなかで君の恋人だけを愛する、ひょっとしてそれは罪じゃないのかい?
あらゆるものを犠牲にしてきて、それでも彼女一人のために戦うと誓ったんだ、それ相応の報いが必要だろ、もしかして君はこれまで正義とか信じて、自分の敵を殺してきたのかい? そいつらにも家族や仲間がいるだろうに。それでも愛は正義だと信じて戦ってきたのかい。なら、それは間違いだ……!」
「やめろおっ!」
「──駄目、コイツの言うことを聞いちゃだめよ、マティス!」
僕の言葉をリンディスはさえぎった。僕はわざと、彼を揺さぶるためにここは黙る。リンディスはマティスに涙を流しながら訴えかけた。
「マティス、聞いて、貴方言ったよね? 僕は自分のために戦ったんじゃない、仲間と君のために戦ったんだって」
「ああ、そうだけど」
マティスを惑わされないようリンディスは必死で目を覚ますように語り続けた。
「だったら、パッシーダや仲間たちの仇を取って、マティス! 貴方は夜襲されたとき言ったでしょ、こんな非道を許すことはできないって、こいつらのやってることはもう狂気だって。だったら、たとえ私を見捨ててでもこの男を殺して! こいつがパッシーダを殺したの!
貴方の親友だったでしょ、パッシーダは! 今、目の前にその仇がいるのよ、憎いはずだよね、殺したいはずだよね、なら私の事は気にしないで。貴方は強い人よ、わかってよ──!」
「でも……そのためにリンディス、君が殺されるかもしれないなんて、僕は」
「マティス!」
残念ながら、涙ながらに女が男に情で訴えかけるのは逆効果だ、リンディス。メリッサがもし君の場合、そんなことはしない、足手まといにならないようさっさと自殺する。
それができるとわかっているから、彼女を僕は危険にさらせない、これが僕らの戦い方だ。信頼関係に基づいた共犯なんだ、君との違いはそこなんだよ、そこが付け込む隙になる。
ようやく僕は口を開きはじめて、彼により効果的に、心理を誘導していく。
「そうだな、それはそうだな。それは仕方ない。何故なら君たちは覚悟をしてないからそうなるんだ。愛のために死ねるか、君たちには矛盾して聴こえるだろう、でもそれは真実だ。そりゃあ君だって反論があるだろう。
婚約者の自分が死ぬと彼女が泣く、僕にはできないと。でもね、それはこうなる前に覚悟を決めておかなきゃならなかった。そのためにリンディスの後ろを君は絶対に開けるべきではなかった、そうだろマティス?」
「こいつの言うこと聞いちゃ駄目、全部でたらめよ、コイツの言ってることは。コイツの武器じゃ私を一発で殺せる威力なんてない。だから、何発か食らう覚悟で私は──」
「それは君の計算違いだ、リンディス」
だが、僕は彼女の神にすがるような希望を打ち消していく。
「リンディスこの武器を、見たことがあるかい、君の館で?」
「知らないわそんなこと、どうでもいいもの」
「見る気もないか、なら答えを教えよう、残念ながら君の推測は間違いだ。僕の腕なら、こんな至近距離で頭を外すなんてことはしないし、例え、そこに置いてあるAKMでも、一撃で仕留められる。
しかもね、これは僕の能力で出したMP7A1なんだ、そこの長いAKMとはわけが違う、そこのAKMはアデルという僕の仲間がその能力で作った奴で、彼は量産できる分一つ一つ弾の威力が僕の武器より低いように感じる。
館で見せたもっと長い銃のL118A1はより射撃に適していて、もっと威力が高いし、遠くから一発で殺せる高威力が見込める、君も知ってるはずだリンディス、初め館を襲撃したとき一発の銃声しか聞こえずにエインヘリャルが仕留められたと。わかるかい、これが僕の能力だ」
「ほんとうなのか、リンディス!」
マティスは慌てて問いただすが、彼女はただ泣きながらに首を横に振る、悟ってしまったんだリンディスは。もう自分は助からないと夢も希望もないことを。そして、ただ「……もう、どうでもいいわ、そんなこと」と呟くだけだった。だがあえて彼女はこう反論した。
「でも、そんなの自分の能力の威力なんて正確に確かめようがないじゃない、試し切りでもしない限り」
必死の抵抗だったがこれも僕は無慈悲に否定する。
「──残念ながら、僕はすでに試し撃ちしている、試し切りじゃないさ。ちょっとした、いたずら好きのキャラディスという男がいてね、余りにも悪行がひどいエインヘリャルだからね、実験したんだ。彼の体で僕の能力がエインヘリャルにどこまで通じるかを。
だから、僕は正確に能力の威力を把握している、君たちの淡い期待を裏切ってすまないね」
「試し撃ち、実験……!」
自分のこぼした言葉でどれだけ衝撃を受けたかを表すマティス、そして僕が歩んできた修羅の道を彼は理解してしまった。同時に、僕の言っていることは真実だと、逃げ場はないと悟った。それはリンディスも同じようだった。そして最後に僕は彼らにとどめを刺すかのように、したたかにはっぱをかけた。
「言っておくが僕だったら死ぬよ、本当の自分の愛する人が助かるなら、僕は死ぬ。例えじゃない本気だ。それが僕の生きる道であり、死ぬ道もそうだ。君はどうだい、マティス君?」
「もうやめて、たくさんよ! ねえ私を早く殺しなさい、アンタの言う通り、私が彼のために死んで上げる! 望み通りでしょ、楽しいでしょ、笑えるでしょ? さあ、私を殺しなさい!」
泣きながら叫ぶリンディスだった。マティスはそれを見て愕然としていた。二人の様子を見て僕はマティスをにらんだ。
「これが愛のために死ぬ女の顔だ、わかったな? マティス。だったら、僕がそれを証明してやるよ」
「待て! 待ってくれ!」
マティスが叫び始めたので、僕は冷静に奴の視線を逃さない。マティスが観念し始めて僕に落ち着いた声で掛け合った。
「少し彼女と話をさせてくれ」
「断る」
「ほんの一瞬だ!」
「嫌だ」
これで、もうダメだってわかっただろ? さあお前ならどうする、マティス。
──十分に理解したかのような彼は、落ち着いた笑顔を浮かべる。静かに槍の柄を両手で持ち、帆先を自分の胸に指し示す。そしてリンディスに柔らかく、最後の言葉を投げかけた。
「……なあリンディス、覚えているかい、君が僕と結婚しようと言った時。君はね、この街に来てすぐ、まっすぐに大きな教会があると目の前に見える建物を指し示した後、僕の手を取ってその前まで一緒に走ったんだ。そしてクレオール教会の前に立って、何て言ったか覚えてる?
君はね、ねえ、“私幸せになりたいんだー”ってね。かなり照れてて、なんだか妙に可愛かったよ。そのときあっとわかったんだ、ここが僕の本当の戦場だって、男の見せ場だって、でもこうなるとは思ってなかったよ」
「マティス!」
リンディスは愛する彼を見つめながら口を抑えている、止まらない涙、落ちていく雫、それが彼らの長い二人の道であるかのように。マティスはリンディスに微笑みながら語り続けた。
「でもねリンディス。僕は言えなかったなあ、大きな教会と幸せそうに恥じらう君を見て、なんか勇気が出なかった。でね、そこで君は僕の態度にあきれはてて不貞腐れながら言ってしまったんだ、“ねえここで結婚式あげない……? ”ってね。──ああっ! ムードぶち壊しだ、正直笑っちゃうくらいだって、それで少し頭を抱えちゃった。
君はせっかちだから。でもね、同時に、僕はあの時に勇気出せなかったのを今でも後悔している。はっきりできない自分の情けなさに、弱い自分に。そこは女に言わせちゃあだめだよなあ、愛する女性にさ。あの、あの時のツケが、今日になって回ってきたんだろうなって、そんな気がしてきたよ」
「や、やめて! マティス、目の前で好きな人が死ぬのなんてみたくない、それも私のために死ぬなんて、嫌よ、そんなのっ!」
「愛してるよリンディス……!」
「マティスっ──!」
ふと、彼女の言葉を聞いて何を思ったのか彼が胸へと持っていく槍の穂先が、一瞬止まった。それを見た僕はすぐさまに、「僕ならできると言ったはずだ……」と、告げたとき、マティスは一直線に胸へ、自分の心臓に槍を突き刺し、その果てに彼は自害した。
おびただしく流れるマティスの血、それは鮮やかな綺麗な赤、彼の生きてきた人生を指し示すかのように。リンディスは慌てて彼の亡骸へと這いつくばって手を伸べる。それが、自分たちの愛であったかを示すかのように、徐々にと。
「マティス! お願い立ち上がってよ、なんかの冗談でしょ? ねえ、貴方の笑えない冗談はもうたくさん、私の降参、はい終わり。そうでしょ? ねえ、そうだと言ってよ! マティスぅっ──!」
──君の愛は証明されたよマティス、君の行為は敬意に値する。だが……! 僕は静かに愛を失った女に背中に銃口を向ける。そして──
「マティス、マティス、マティス! まてぃ……すっ……!」
……これがラグナロクだ、戦争だ。
僕は無言で彼女の心臓を後ろから弾で撃ち抜いた。残念ながら彼らの救いの手と手は交わせなかった。最初に言ったはずだ、“僕の勝ちだ”と。君はあの時警戒すべきなんだよ、愛する女性がいるならな、そうだろ? マティス。
「──佑月」
「──佑月さん」
仲間のみんなが衝撃を受けた目で惨状を眺めた。僕は黙ってこつこつとAKMのもとに歩み、銃を背負う。そして用が済んだのでみんなに告げる。
「終わりだ、行こう」
僕たちが静かに試合会場を後にしようとすると今まで騒然と息を呑んでいた観客が狂ったように叫び始めた。
「おいおい、もっと血を見せろ──!」
「こんなんじゃあ、つまんねえぞ、コラあっ──」
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