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奇襲
第百七十六話 激情
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そうだ、僕は結局のところ地獄へと進んでいくんだ、メリッサを守るため、ナオコを守るために、多くの犠牲を出してきた。僕に真の幸福など、授けられる資格があるのだろうか、わからない、非道を成した先に明るい未来などあり得るのだろうか、僕の心がどうしても信じ切れなかった。
ただ歩むしかない、この修羅の道を……。
試合会場の僕たちの控室へと続く廊下で、クラリーナが待っていた。顔は真っ赤になって、こちらを睨みつけている、そうだ、それでいい。僕に相応しい、報いを彼女が授けてくれるだろうから、むしろ、ありがたかった。
「佑月さん!」
彼女はまっすぐに僕の前に走ってきて僕の頬を平手でぶった。当然だ、彼女はそうするべきなのだ。そして怒りの声を彼女は素直にぶつけてくれた。
「ひどいです! 何であんなことをするんですか、人質を取ったうえ、それに続いて人質も殺す? あまりにも悪魔の所業じゃないですか、貴方がそんなことをする必要はあったのですか!」
「必要……? あったさ、十分に」
「なら教えてください! 私が間違っていたなら謝ります、貴方の言葉で貴方の本当の気持ちを聞かせてください」
「もし、あのままマティスを放っておいたらシェリーが危険だったよ」
「え……?」
「マティスは直情的な男だ、あの能力を使えばシンプルに裏に回ることもできたはずだが、彼は気づかなかっただけだ。その次に、後ろから空間移動をし、背中から槍を突き刺す、彼にはそれができた。
僕はそれを予想していたから後ろに回った瞬間、自分の場合反応できるが、シェリーはそんなに器用じゃない。
事前に話しておいても、戦闘で感情の高ぶる彼女の気性からすると、そこまで頭の切り替えができたかは疑問だ、また僕の援護も間に合わないだろう」
シェリーは「なっ……」と呟いた後押し黙った。僕と彼女の性質は違う、僕は冷徹なスナイパーで彼女は戦士だ、知っていてもそう簡単に切り替えられるものではない、人間の性分だから。
騎士じみたクラリーナはそれを告げられると理解してしまった、彼女であってもそんな裏手をかかれると流石に対応するのは難しいだろう。だがまだ彼女は僕に対して言い足りなかったようだ。
「で、でも、貴方一人で戦えばよかったじゃないですか! わざわざ二人にしないで、貴方一人ならマティスだって勝てると私、断言できます、貴方一人なら!」
だがそれすら僕は否定した。
「残念ながら、彼はその提案を受けなかっただろう。彼からすれば、リンディスとの二人の連携に自信を持っていた、彼にとってそれが弱点になるとは気が付かなかった。だからあらかじめ僕は二人と提案した、彼にとってそれが自然であるからだ、僕の策略に気づかせてはならない」
「しかし!」
「あと二人でもマティスが非情に徹することができれば僕たちは死んでいた、彼の能力は非常に優れている。もし僕に彼の能力があれば、クラリーナ、君でも倒せると、ここで宣言しておこう」
それに対して大きく首を振り続けるクラリーナだった。
「もしなんて聞きたくありません、貴方なら勝てます! 正々堂々と戦って見せてもきっと勝てます、私ずっと期待していたんですよ、貴方が輝かしく、みんなの祝福を受けて私と決勝の場に立ってくれる姿を、みんなも期待していたでしょう、なのに──」
「もういいだろ!」
そこにメリッサが割って入ってきた。彼女にしては珍しく顔を赤くして、怒っている。そして今度は落ちついて諭すようにクラリーナに言った。
「試合の後だ、これ以上コイツを責めるのはやめてくれ、わかるだろ……」
そしてメリッサは僕の背中に手を置いて、出るように促した、僕はそのままクラリーナの前から立ち去ろうとして、チームの皆も疲れた表情で続いた。おいていかれたクラリーナの声が後ろから聞こえて来る。
「──私、今日の事がまだ信じられません! おかしいですよ、こんなの。私、貴方の事、軽蔑します!──」
ああそうだ、僕にふさわしい言葉だよ、それは。みんなが控室に向かって急ぎ足になっている中僕の前でレイラが立ち止まりそして振り返った。
「あの人はひどいです! 全然私たちの事をわかってません! 私たちの事も、佑月さんの事も!」
「レイラ……」
僕はレイラがうつむきながら怒っているのを始めてみて、そして驚いた。顔を上げたレイラは涙を目にためながら訴えかける。
「あの人は強いからそんなことが言えるんです! 周りの人がみんな強いからそんなことが言えるんです! 私たちが弱いから、佑月さんがあえて、みんなが嫌うような手を使ってでも、私たち弱い仲間を守ってくれたのに。
現に私は死にかけました。そんな状態なのに、あんな綺麗ごとで勝負なんかできません、佑月さんは私たちを守るためにあえてやった、そうですよね?」
彼女の悲痛ともいえる叫びに僕はただ「ああ、そうだ……」と答えた。レイラは手を握りしめ震わせながら言葉をつづけた。
「ならあの人の言うことは間違っています! 戦う以上、それは許されるべきじゃないですか! 私たちだって命があるんですから!」
それについては僕は静かに首を振った。レイラは驚いた様子で「え……?」と言葉を漏らした。
クラリーナの言うことが本来ならまともなのだ、戦いには矜持がある、騎士として生きてきた彼女からすれば僕の行為が許せないのは当然だ。彼女の言うことの方が正しい、だが、僕は狂気の道であっても、守るもののためにそれを選んだんだ、そのための罰を受けたのだ。別にこれは自然の事だ。
動揺するレイラに、メリッサは慌てて割って入ってきた。
「こいつは疲れているんだ、そっとしてやってくれないか?」
レイラははっと気づいた様子で「はい……」と答えた。僕はメリッサに連れられてこの場を後にして行く。僕が間違っているんだそれは確かだ、でも……。僕は胸に罪悪感と体の疲労感を覚えながら第2回戦を終えたのだった。
──────────────────────────────
場面は試合を眺めていた聖帝たちに移る。聖帝は先ほどの試合を何か考え込むように見ていた。だがアウティスだけが非情に興奮して嬉しそうに笑っていたのだ。そして叫ぶように言い放つ。
「素晴らしい、流石佑月だ! 奴は私に考え付かない方法で、人間の醜さと美しさを命のやり取りで表現した。まさに芸術的な悪であった。これこそ私が求めていた、戦いのあるべき姿、人間の真の姿だ!」
「私はそうは思いません」
その言葉を横で不機嫌そうに見ていたマレサが否定した。
「人質を取って殺すなど、確かにラグナロクではそれが通常ではあるでしょう。しかしこれは試合であり、観客が見ているのです。観客たちを見てごらんなさい。あの騒めきよう、今しがた何を見たのか、理解できなかったと不安がっており、またどこかでこのような刺激的な結末を望んでいるように思えます。
これでは民衆感情に悪影響を及ぼすでしょう。民衆に見せるべきものではありません」
はっきりと言い放つマレサにアウティスはそれに対し皮肉そうな言葉を投げかける。
「何をマレサ様とあろうお方がおっしゃいます、あなた方がこれまで歩んだ道それは、佑月のような血みどろの道の末でしょう、そうして教会団を作り上げたのではありませんか、まさか今頃になって民衆に悪影響など、マレサ様らしい発言とは思いませぬな」
悪辣な言い方にマレサは不機嫌になりながらも一方で、心の中で納得のいく部分があった。だからこそアウティスの言葉は余計に腹立たしく感じたのだ。それを横で見ていたララァが明るくフォローを始める。
「まあ、よろしいではありませんか、佑月さんの試合は確かに戦争のあるべき姿でありながらも、それを民衆に見せるのは少し酷なものです。戦いを知らない民衆たちに悪影響というマレサ様のご意見も私は理解できます」
マレサはララァの言葉に頷き、そして聖女らしくアウティスに告げた。
「とにかく貴方が報告したこの大会での奇襲および人質を取ることを禁止致します。いいですねアウティス」
聖女の宣告にアウティスはただ従うしかなかった。
「ははっ、聖女マレサ様のお心のままに……」
──こうして波乱の佑月の闘技大会第二回戦が終わったのだった。
ただ歩むしかない、この修羅の道を……。
試合会場の僕たちの控室へと続く廊下で、クラリーナが待っていた。顔は真っ赤になって、こちらを睨みつけている、そうだ、それでいい。僕に相応しい、報いを彼女が授けてくれるだろうから、むしろ、ありがたかった。
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「え……?」
「マティスは直情的な男だ、あの能力を使えばシンプルに裏に回ることもできたはずだが、彼は気づかなかっただけだ。その次に、後ろから空間移動をし、背中から槍を突き刺す、彼にはそれができた。
僕はそれを予想していたから後ろに回った瞬間、自分の場合反応できるが、シェリーはそんなに器用じゃない。
事前に話しておいても、戦闘で感情の高ぶる彼女の気性からすると、そこまで頭の切り替えができたかは疑問だ、また僕の援護も間に合わないだろう」
シェリーは「なっ……」と呟いた後押し黙った。僕と彼女の性質は違う、僕は冷徹なスナイパーで彼女は戦士だ、知っていてもそう簡単に切り替えられるものではない、人間の性分だから。
騎士じみたクラリーナはそれを告げられると理解してしまった、彼女であってもそんな裏手をかかれると流石に対応するのは難しいだろう。だがまだ彼女は僕に対して言い足りなかったようだ。
「で、でも、貴方一人で戦えばよかったじゃないですか! わざわざ二人にしないで、貴方一人ならマティスだって勝てると私、断言できます、貴方一人なら!」
だがそれすら僕は否定した。
「残念ながら、彼はその提案を受けなかっただろう。彼からすれば、リンディスとの二人の連携に自信を持っていた、彼にとってそれが弱点になるとは気が付かなかった。だからあらかじめ僕は二人と提案した、彼にとってそれが自然であるからだ、僕の策略に気づかせてはならない」
「しかし!」
「あと二人でもマティスが非情に徹することができれば僕たちは死んでいた、彼の能力は非常に優れている。もし僕に彼の能力があれば、クラリーナ、君でも倒せると、ここで宣言しておこう」
それに対して大きく首を振り続けるクラリーナだった。
「もしなんて聞きたくありません、貴方なら勝てます! 正々堂々と戦って見せてもきっと勝てます、私ずっと期待していたんですよ、貴方が輝かしく、みんなの祝福を受けて私と決勝の場に立ってくれる姿を、みんなも期待していたでしょう、なのに──」
「もういいだろ!」
そこにメリッサが割って入ってきた。彼女にしては珍しく顔を赤くして、怒っている。そして今度は落ちついて諭すようにクラリーナに言った。
「試合の後だ、これ以上コイツを責めるのはやめてくれ、わかるだろ……」
そしてメリッサは僕の背中に手を置いて、出るように促した、僕はそのままクラリーナの前から立ち去ろうとして、チームの皆も疲れた表情で続いた。おいていかれたクラリーナの声が後ろから聞こえて来る。
「──私、今日の事がまだ信じられません! おかしいですよ、こんなの。私、貴方の事、軽蔑します!──」
ああそうだ、僕にふさわしい言葉だよ、それは。みんなが控室に向かって急ぎ足になっている中僕の前でレイラが立ち止まりそして振り返った。
「あの人はひどいです! 全然私たちの事をわかってません! 私たちの事も、佑月さんの事も!」
「レイラ……」
僕はレイラがうつむきながら怒っているのを始めてみて、そして驚いた。顔を上げたレイラは涙を目にためながら訴えかける。
「あの人は強いからそんなことが言えるんです! 周りの人がみんな強いからそんなことが言えるんです! 私たちが弱いから、佑月さんがあえて、みんなが嫌うような手を使ってでも、私たち弱い仲間を守ってくれたのに。
現に私は死にかけました。そんな状態なのに、あんな綺麗ごとで勝負なんかできません、佑月さんは私たちを守るためにあえてやった、そうですよね?」
彼女の悲痛ともいえる叫びに僕はただ「ああ、そうだ……」と答えた。レイラは手を握りしめ震わせながら言葉をつづけた。
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それについては僕は静かに首を振った。レイラは驚いた様子で「え……?」と言葉を漏らした。
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動揺するレイラに、メリッサは慌てて割って入ってきた。
「こいつは疲れているんだ、そっとしてやってくれないか?」
レイラははっと気づいた様子で「はい……」と答えた。僕はメリッサに連れられてこの場を後にして行く。僕が間違っているんだそれは確かだ、でも……。僕は胸に罪悪感と体の疲労感を覚えながら第2回戦を終えたのだった。
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マレサはララァの言葉に頷き、そして聖女らしくアウティスに告げた。
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