ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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二つの死闘

第百八十三話 対立

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 次の対戦相手が決まった、オーチカ共同組きょうどうそだ。だが僕は虚脱感に見舞われていた。ほかのみんなも同じだろう、シェリーやユリアですら戸惑いを隠せなかった。原因は僕はわかっている、次の相手が “強いのかどうかわからない” からだ。

 相手は能力すらまともに使わず、易々と勝ってしまったのだ。事前のクラリーナの予測通り、勢力は拮抗しているという評価は当然だろう。相手は実力を隠して勝ってしまえるのだから評価がその程度なのは妥当だ。

 これは僕にとって非常に困った、青軍猛虎隊のように明らかに強ければ対策を練られる。強い部分がわかれば、弱点を突くことができる。強いかどうかわからないのに対策を練ってくれと言われても僕はどうしたものかと頭を抱える。

 余りにも不気味な存在、観客には伝わらないのだろう、あっさりとした感覚で次の試合を待ちわびていたようだ。当事者の僕にはどうしたらいいものかわからない。はっきり言って今回の視察で収穫はゼロだ。だんだん苛立いらだちを隠せなくなってきた。

 僕はアメリーの弟子である当のメリッサに彼女の評価を聞いてみた。

「メリッサ、アメリーという女はどういうやつだい?」

「冷酷かつ残忍。勝利のためには手段を選ばない。ここだけ聞けば彼女を落としているように聞こえるだろうが、戦闘指揮官として非常に優秀ということなんだ。彼女の考えた作戦は、常に勝利を第一として考える。それがどういう意味かお前には伝わるだろ?」

 僕がメリッサから受けた教訓はすべて、生きるために何としても勝て、それ以外を考えるなということだ。アメリーの弟子としてメリッサは優秀であっただろう。徹底してそれを僕に教え込んだ。その教えによって僕は勝利して、ここまで生きてきたんだ。

 だんだん心が冷えてきた。それを察したのか、メリッサが物憂ものうげに僕に尋ねた。

「気づいたようだな、今回の視察は失敗だ、相手の手の内が読めなかった、戦術なら相手に合わせて変えてくるだろうし、アメリーはそれを当然やるだろう。ある意味マティスなんかよりよっぽど脅威だ、何せ、なにをやってくるのか予想がつかない」

「どうすればいいと思う?」
「難しいな、隙を見せるような相手ではない、今回はわざと私たちに手の内を見せずに試合に勝利して見せた。正直相手がどんな能力を持っているのか判明しなかった。こちらは手詰まりになってくる」

「仕掛けるかい?」
「まあ、まて、それは相手も同じなんだ、実は。お前も知らないだろうけど」
「どういうことだい?」

 メリッサはわずかに微笑んだまま何も言わなかった、何か疲れた感じで僕たちは闘技場から館に帰ろうとしたその時だった。低い女性の声で話しかけられたのは。

「久しぶりだな、メリッサ。お前と次に対戦するとはな、ヴァルキュリア大戦のときは思ってもみなかったぞ」
「アメリー教官……」

 今しがた試合が終わったオーチカたちが後ろにいた。アメリーは高慢そうに、メリッサに冷たい言い方で、話しかけてくる。どうやら親しいというわけではなさそうだ。

「どうだ、私の戦い方は、随分ずいぶんとお前たちには教科書となっただろ、戦術とは相手の強さを消すことにある。そうすれば次の相手も混乱を招くことができる。次回の試合を考えて、有利に運ぶことができる、そうだろ?」

「まったくその通りだ、アメリー教官。貴女の教えは正しい、現在非常に痛感している」
「ふふ、そうだろう、お前も私の教えに忠実のようだな──」

 アメリーがそう言った瞬間メリッサに詰め寄り、間近で顔を合わせ威圧してきた。

「貴様、何故エイミアをもっとうまく使わない、お前なら知っているはずだ、この女が、どれだけの強さを持っているか、それとも何か、まだ、使う必要がないという判断か」
「私はこの大会を優勝で終える気だ、教官。もちろん次が貴女であっても、私は勝つ気でいる」

「お前が私に勝つ……!」

 そういった瞬間この黒いヴァルキュリアは高笑いを始めた。

「正気か貴様、お前ごとき下等ヴァルキュリアにこの黒炎のヴァルキュリアが敗れるとでも。気狂いにもほどがあるぞ、貴様、ははは……!」

 そう言ってオーチカたち皆は笑い始めた。その中エイミアがアメリーとメリッサの中に割って入り、アメリーを右手で突き飛ばす。

「アンタなんかに言われる筋合いはないわ、アメリーとやら。アンタにはね、恨みがあるんだけどね。ヴァルキュリア大戦のとき、やってくれた、汚い作戦の数々。私、おぼえているわよ、ええ、体のずいまでね」

「エイミア・ヴァルキュリア……!」

「アンタなんかにメリッサを侮辱される筋合いは、私、ないんだけど、それとも何、たかだか神階第四階層のアンタが、神階第一階層の私に勝とうとでもいうの? アメリー・ヴァルキュリア」

「私は先の大戦のときに確実な勝利のために貪欲どんよくに戦ったまでだ。それを貴女といえども、コケにされる言われはない」

「ならこっちだって、侮辱されるつもりはないって言ってるでしょ、それとも何? 今ここで決着つけましょうか? 手っ取り早くね」

「うるさい! やろうって言うならこっちだってやってやる」

 そう言って、緑色の髪の女騎士が中に入ってきてエイミアに食って掛かる、それに対し僕とシェリーはエイミアとメリッサの横を固めた。相手もすぐさまこちらに集まって、お互いに突き飛ばし、小突きあっている。

「面白いじゃない、やってやりましょうか」
「はあ? お前らなんかになめられる立場じゃないんだけど」
「殺すぞてめえら」
「そっちの言葉そのまま返す」

 そう言ったやり取りで一触即発の中、クラリーナが割って入ってきた。

「お辞めなさい! 街中の戦闘は禁止です、ここは教会団の私が仲裁ちゅうさいに入ります」
「ほう、街中で戦闘を禁止とは初耳だな、奇襲を禁止とは聞いたが」

 アメリーがクラリーナに嫌味を言い始めた。それに負けじとクラリーナは冷徹かつ威圧をかけながら告げる。

「貴女こそ何を言っているのです、この大会は、街中で民間人の被害を減らすために開いたんですよ。それを大会のために街中で戦闘を行うなど、本末転倒です。

 決着をつけたいなら、試合でケリをつけなさい、街中の戦闘は我々教会団は認めません、もしそのつもりなら、こちらにも考えがあります」

「ふっ、はは、教会団が街中の戦闘を禁じるとはな、ははは。まあいい、言い分はもっともだ、メリッサ覚えておけ、貴様をここまで鍛えたのは私だ、お前の勝ち目など万に一つもない。わかったな」

 アメリーは高圧的に言い放ち、メリッサにナオコがすり寄り、おびえた感じて、母の手を握る。

「ママ……」

「ん? ママだと、ははは、メリッサ貴様、今更母親の真似事か、お前にそんな資格などないだろう。随分ずいぶんと堕落したものだ。いまさら愛などくだらぬことに、うつつを抜かすとはな。その油断が死につながることをここで宣告しておこう」

 そう言いたいことを言って、この場から去ろうとしたアメリー達だったが、ぼそりとアメリーにメリッサがつぶやく。

「教官、貴女も甘くなったものだ、昔の貴女なら今ここでクラリーナごと殺すことを選んだはずだ……」

 アメリーはふと立ち止まる、そしてただぼそりと、「お前もな……」と言った。二人の関係はよくわからないが、かなり相手がやり手だということと、メリッサが一目置いていているが、それでもなお、僕たちが勝つと信じていることだった。

 そして相手が立ち去る前なのを確認して、エイミアが大声で聞こえるように叫ぶ。

「ああ、むかつく! 高慢ちきクソ女、あいつ絶対男にもてないわよ、まじで嫌われる女そのものだわ。あれじゃあ、嫁の貰い手がないわね、あいつ人間になっても絶対ぼっちだわ。性格がクソすぎる。女から見てもクソだし、マジでキレるわああ!」

「ちょっ、ちょっと、エイミアさん、相手に聞こえますよっ」

 慌ててレイラがエイミアをなだめるが、彼女は地面を足で蹴りながら、悪口を言いまくる。

「大体何、あの黒い鎧、中二病でしょ、角あんなにとがらせて。あれかっこいいと思っているのかしら、意味もなく二刀流とか、中学生でしょあいつ、顔もおばはんだし。肌はボロボロ、唇だってカサついてしわがいってるじゃない、だいぶ老けて見える。あーあ、女はああなったら終わりだわ」

「いやいや、エイミアさん、しー! しー!」

 今度はユリアがなだめる。そのあともエイミアが罵詈雑言を放っているのでみんながそっちに注目している間にクラリーナに僕は小さく「あ、背中にごみついているよ」と言う。

 クラリーナは「えっ!?」と言って、手を背中に向けてもぞもぞしているうちに、僕は彼女の背中の鎧の隙間に手紙の返事をこっそりと入れておく。この前のお返しだ。そのあと、「僕がとったよ」と言って、自然に事を運んだ。

 みんなが落ち着いた後これまた自然にララァが、「あっ、わたし用事があるんです、それではー」と言って逃げようとしていたので、クラリーナは逃さないよう追いかける。

「待ちなさい! 貴女に言いたいことは山ほどあります! 今度ばかりは絶対に逃がしませんよ」

「お姉さま、そんな、大声なんてはしたない、レディたるもの……」

 と、二人は追いかけっこをしながら去って行った。なんだかなあ、どういう関係なんだろ、あの二人も。僕たちは今後の戦闘について話し合おうとして館へと足を向けていく。
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