ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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二つの死闘

第百九十四話 トリックスター③ 

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 僕はエイミアの真の力の開放に見とれてしまっていた。黄金に輝く彼女の姿、圧倒的なカリスマ性、そこに街で笑っていそうな遊び好きな女性はいなく、まことの王の気品、高邁こうまいさがあった。

 ──暁のヴァルキュリアとは良くいったものだ。

 エイミアの力強いまなざしに気おされて、アメリーは立ちすくみ、茫然自失ぼうぜんじしつとなった。しかし彼女は誇りの元、自らを奮い立たせる。

「私が震えてるだと……! 私は多くの高位ヴァルキリアを始末してきたはずだ。決して相手が弱かったわけではない、私より上の敵に対し勝利を重ねてきたはず。その私が恐怖でおびえてるだと……! 

 断じてない、私は黒炎のヴァルキュリア、誇り高き戦士だ。決してひかぬ! そのまま黄金の光となって消えろ、エイミア・ヴァルキュリア──!」

 アメリーは凄まじい風圧の中、台風の目に飛び掛かっていくようにエイミアに切りかかった。黒炎のヴァルキュリアにふさわしい燃える炎のような剣戟けんげきの数々、それは油断したり工夫のないような凡夫ぼんぷの連撃では決してなかった。

 しかし、エイミアはまるで格が違うと余裕をもって、わざとだろう、切っ先が当たるすれすれで、足さばきだけで距離をとり、また、するどくアメリーが踏み込んでも、エイミアは巧みに上半身だけを動かし、燃え盛るような剣先を空ぶらせる。

 わずか一分ほどだろう、鋭い剣技がいとも簡単に破られたのを見て、アメリーは信じられないといった表情を浮かべた瞬間、エイミアはアメリーの首をつかみ、遠い部屋の壁へと投げつける!

「があっ⁉」

 うめくアメリーにすぐさまエイミアは黄金のオーラをまとった長剣を振り、切り裂く風のように敵にたたきつける! 

 恐ろしく鋭いオーラはアメリーの固く強さを表現した鎧を壊していき、見るからにボロボロになっていく。

「ぐう!」

 だが、アメリーも一角の戦士、これしきの事で決してあきらめはしない、剣を落とすことなくエイミアに立ち向かっていく! エイミアはそれを冷ややかな瞳を向けて「はっ!」と掛け声をかけると、自身の体を黄金の風に変えて、姿が消えてしまう。

 何だこの能力は、常々思っていたが、ヴァルキュリア自身に特殊能力を持っているのは彼女以外で見たことがない。これが神階第一階層の力なのか……!

 アメリーが敵を見失って、周りを見渡すが、エイミアの姿はない。彼女が立ち止まった刹那せつなにエイミアはアメリーの後ろに姿を現した!

「──ここだ、アメリー……!」

 エイミアが言うや否や長剣でアメリーの背中を斬りつける! 傷が深いのか、わずかに反応をし、続いて振り返ろうとして、そのまま痛みで転ぶが、必死にアメリーは立ち上がり傷つきながらも剣をふるう。

 だが、エイミアはそれを右手で受け止めて剣を握りつぶす! 鉄が砕ける強烈な音が部屋中に鳴り響き、アメリーは、「私の剣が素手で折られただと!」と叫ぶ。

 彼女の衝撃を身にしみ込ませるように、エイミアは自由にした右手をアメリーの腹に叩き込み、内臓が痛めつけられ骨が折れたのだろう、彼女は血を吐いた。

「ぐはっ⁉」

 そのいたたまれない姿相手でも容赦なく、上段蹴りをエイミアは敵に叩き込もうとする、寸前でアメリーは自ら飛んで強力な一撃をずらそうとするがかすっただけで、彼女は脳震盪のうしんとうになったのだろう、体がふらつき、続けて、エイミアは中段回し蹴りを草をぎ払うがごとく放つ!

 アメリーは声を出す暇もなかったのか、そのまま遠く横方向にふっとばされて、壁にたたきつけられた、しかもまた容赦なく剣の黄金のオーラを飛ばしていきアメリーはどんどん鎧をはぎとられていき、ついに傷ついた白い素肌をさらす羽目になった。

 これが、暁のヴァルキュリア、エイミア・ヴァルキュリアなのか! 圧倒的な力で敵を寄せ付けることなく、王者の強さと冷酷さを持ち合わせた、黄金の闘士。なんて強さなんだ……!

「こんなはずでは……! エイミア・ヴァルキュリア、貴様はいったい……?」

 あまりの力の差に残った剣で地面を差し、肩で息をするアメリー、理解できない状況に彼女はいる。それをあざ笑うがごとく、エイミアは言い放つ。

「一応言っとくけど、メリッサはこんな状況でも立ち上がって、私に立ち向かってきたわ、アメリー、あんたはどうする?」

「私は誇り高きヴァルキュリアの戦士、並み居たヴァルキュリア大戦を勝利へと導いた、黒炎のヴァルキュリアだぞ! いいかげん、めるのも大概にしろ、エイミア!」

 アメリーは剣を振りかぶり、全身の力をもってエイミアに切りかかる。だが、彼女は易々やすやすと長剣で受け止める。ほくそ笑みながら、エイミアは余裕を持って言った。

「……気持ちは、まあ、認めてあげるわ。でも──」

 そして一呼吸置いた後、残酷な事実をエイミアは告げた。

「あんた、神界大戦のときなら、真っ先に死んでたわ……」
「何っ⁉」

 アメリーが衝撃を受けている間にエイミアは裏拳を彼女の顔に叩き込む! アメリーは大きく吹っ飛び、地にたたきつけられ、地面が割れてへこみ砕ける。

 ──何だと⁉

「ぐあっ!」

 アメリーは体を戦慄わななかせ、震えあがって、今度は完全に茫然自失ぼうぜんじしつとなっていた。立ち上がるのすら難しそうだ、あっちはもう、決まりだろう。

 しかし、問題はそこではない、アメリーが叩きのめされているのをあんぐりと呆けているのか、エイミアが猛攻撃を叩き込んでいる一瞬の間、この部屋にいるエインヘリャルは攻撃がやんでいた。

 その隙に僕は部屋を観察している。さっきエイミアがアメリーを地面に叩きつけたとき、コンクリートが割れたことが僕にはっとひらめきを与えた。

 ──そういえば壁には銃痕じゅうこんがついてない。

 僕はAKMから銃弾を放ち、敵から放たれる武器を落としてきた。だが、その後、銃弾は通常の場合、その運動エネルギーままに壁に深くめり込みコンクリートを割るはず。

 僕が周りを見渡すが壁には傷跡などなくまっさらなままだ、それに対しさっきエイミアは衝撃で地面を叩き割った。なら……!

 僕はつぶさに地面を見つめ、この違和感の解決を試みる。そして……あったのだ。違和感の謎を解くカギが、部屋の地面にしみがあったのだ。

 コンクリートで出来た部屋は室内の温度の変化で、空気中の水分が冷やされて水滴となり、また温度が変わり温められて水蒸気と化し、残った水分は壁や地面の隅にこびりつく。

 それを基にしみとなって変色してしまう。しかしこの部屋の隅のしみは目に見えるきれいな壁の途中で途切れている。ということは……!

 僕はアメリーに言い放った。

「謎は解けたよ、アメリー。見えないエインヘリャル、壁から湧き出る武器の数々、この部屋の違和感。それは一つの真実に基づいている。これでGAMEOVERだ、アメリー──」

 彼女は顔面蒼白となってしまい、この戦いの終結を意味していた。
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