ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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二つの死闘

第百九十五話 闘技場の死戦③ 

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 話はまたもや闘技場に戻る。レイラは決意と覚悟を持って、傷を負ったシェリーにとどめを刺そうと集まっていた敵たちを追い払うよう、AKMを撃ち続ける。

「うおおおおおぉ──っ!」

 レイラの激昂げっこうと共に放たれた弾は、相手の鎧や剣をはじき飛ばし、ひるませる。そのスキにメリッサはシェリーを肩で担ぎ、急いで安全な場所に移動することに成功した。そしてメリッサはレイラに指示する。

「よくやったレイラ、こっちに来て傷ついたシェリーを癒してくれ!」
「はい! わかりました。アデル! その間弾をばらまいて。何でもいい、とにかく敵に向けて撃って!」

「あっ⁉ あぁ⁉ 撃てばいいんだな、撃てばいいんだなっ! おらあああああぁ──つ!」

 怪訝けげんそうにしながらもアデルはフルオートで撃ちまくった。当然、相手は手を出すことができず距離を取って弾を避けつつ、陣形を立て直す。弾自体は当たらなかったが、十分に弾幕として効果があり、彼の弾倉マガジンが空になると、訓練通り慣れた手つきで弾倉を補充し撃ち続けた。

 彼が時間をかせいでいる間、レイラはシェリーの太ももの傷を治癒ちゆ能力で治している。

「すまねえ! レイラ、ドジっちまった」
「大丈夫です、これが私の仕事ですから!」

 そのレイラの表情を見て、シェリーは満足げに言った。

「ずいぶん引きまった顔つきになったじゃねえか、へっ、出会ったときのおびえた子犬みたいな表情は消えちまったな」
「私がやらないと、みんなに迷惑がかかりますから!」

「良い答えだ、私も安心して後ろを任せられるさ」

 シェリーはそう言ってレイラの手を取り立ち上がって握手する。それを信じられないといった表情で、ブライアンは見つめていた。あのレイラさんが。僕と一緒で逃げ回って、自分すら守れなくて、恐怖で震えてたあのレイラさんが……?

 ブライアンの中で少しずつ何かの変化が起きようとしていた。だが、戦況はそれを待ってくれない。相手も黙ってみているわけではなかった。ターバンを巻いて後ろで控えていた男が、皆に指示を送る。

「傷ついたケニーは援護にまわれ! グローズがいつも通り相手の攻撃を集めている間、ヴァルキュリアは後方に突破しろ。リーズは、その中を突っ走ってうるさく弾をばらまく男を始末しろ! エリックは、木の根の能力を使って相手を攪乱かくらんしろ!」

「了解!」

 敵はその指示通り、大盾とハンマーを持った鎧戦士グローズが中央から襲い掛かり、ヴァルキュリアがスペースを作るため突進した。突破と同時に、エリックは木の根をいまわし、メリッサたちに襲い掛かる!

 相手が立て直したのを見るや否や、間髪かんぱつを入れずメリッサは明快めいかいな指示を送る。

「シェリー傷はもう大丈夫だろ、いつも通り前衛を頼む! ミーナ、ダイアナ、アデルはフォーメーションを直した通り距離を保って、敵に対応しろ。レイラ、ユリア、それと私は例の作戦を始める!」

「あいよっ!」
「了解!」

 襲い掛かるグローズのハンマーを見事にかわし、固い鎧に対し斬りつけるシェリー! 剣自体ははじかれたが、紅い残像の能力で鎧を壊していく。そうしてできたその鎧の隙間に、レイラは狙いを定める!

「当たれ!」
「ぐっ!」

 彼女の銃弾はグローズの体を深々と弾を埋め込むが、鍛え抜かれたその鋼鉄の体はそれぐらいでは揺るがない。二人がグローズに対応している間、横をヴァルキュリアが2体ずつ両サイドからメリッサたちの陣形を走り抜けようとする。

 だがそこはバックラインにいたダイアナ、ミーナが銃弾をもって歓迎した! 

「ちぃ!」

 ヴァルキュリアたちは銃撃になすすべなく散乱し、続いてアデルの追撃の銃弾がお見舞いされ、動きが止まった瞬間、サイドに開いていたメリッサ、ユリアが狙い定めてヴァルキュリアを撃っていく!

「ぐうっ!?」

 弾は敵のヴァルキュリアたちの体に深く刺さり傷ついていく。それを見て慌てて、女騎士リーズはエインヘリャルの攻撃の中心であるレイラに襲い掛かる! しかし、メリッサにとってそれは想定済みだった、彼女はレイラに駆け寄りこう指示する。

「レイラ、私とポジションチェンジだ! そして横からリーズとやらを始末しろ!」
「はい!」

 これがメリッサの策だった。アメリーがこの場にいない以上、有効な作戦変更をできないとみて、陣形をコンパクトにし、メリッサやユリアがトップ下のレイラとポジションチェンジをし、レイラをフリーにする。

 そして、二人のヴァルキュリアが相手を食い止めている間、レイラには攻撃に集中させ、敵に有効な銃撃を与える。またその他の仲間はほかの敵を足止めする。これで、敵をじりじりと追い詰めながら、十分にチームの強度が上げられて、相手の猛攻に耐えられるだろう。

 また、相手が攻撃に戸惑とまどっている間、傷ついた仲間をレイラが治癒ちゆのために全体をまわって、回復することで持久戦に持ち込める。

 対し相手は変わりゆくフォーメーションに対応できず、加えて回復役がいないためどんどん傷ついて、じり貧になっていく。レイラという攻撃にも回復にも活躍できるエインヘリャルを上手く使ったメリッサの作戦だった。

 その証拠にレイラに横からリーズへ攻撃されると、戸惑った様子で剣で剣を受けたメリッサに思うように決定的な攻撃ができず、かえってレイラの銃撃にやられるかというところまで追いつめられる。リーズは「ちぃ!」と言ってその場から退却するよりほかはなかった。

 オーチカ共同組は自分たちの攻撃がうまくいってないと見て、慎重にならざるを得なかった。まさにメリッサの術中にはまり、有効な手立てを打てず、数ではまさりながらも、傷ついていく敵。それをそばで見ていたブライアンは信じられないといった表情で眺めていた。

 ──僕は何をやっているんだ。大切な仲間を裏切って、自分の命を守ろうとしているはずだ。でも、その間に仲間は必死に戦って、お互いに必死に守っている。僕は何がしたいんだ? 自分は何がしたかったのか……わからない……。

 ブライアンはためらいを隠せない。余裕ができたのか、レイラは彼に対し叱咤しったをかける。

「ブライアンさん! 貴方は何がしたいんです! 目の前の恐怖から逃げたいのはわかります。でも、逃げてばかりじゃあ、結局何も変わらないんですよ! 私はずっと自分から逃げ続けてきました、でもそれじゃあ、自分すら救えません。

 佑月さんの言葉を貴方にも送ります、『誰かに頼っていてばかりじゃあ、自分の運命は変えられない、ずっと誰かの奴隷だ』

 そうです、貴方が本当に自分の運命を切り開き生きたいのなら、自分で戦ってください。そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ、貴方だって運命の奴隷ですよ!」

 ──奴隷……? 僕が……?

「レイラ、放っておけ、そんな奴! 今のうちに敵を仕留めるぞ! メリッサ、いいな!」

 シェリーは戦況を見て、こちらから攻撃に移るべきと見た。メリッサは少し考え、このまま相手が混乱しているうちに、数を減らしておくのも手だなと思った瞬間。行動を起こしたのはオーチカ共同組だった。

「おい! みんな能力を使おう。こいつらはめていい相手じゃない、全力で戦うぞ!」
「そうだな、レドール!」

 ターバンを巻いたレドールに皆がうなずき、オーチカ共同組はついに、あと三回戦ある未来の対戦相手に知られないために隠していた能力を発動する!

 エリックの能力、木の根を這わす力で今度はメリッサたちを囲むように、どんどん根を伸ばしていく。次に今度は木の根は地上に姿を現し、木の幹や草葉に変化していく。

「はぁっ!」

 続いて傷ついた女騎士のケニーは掛け声とともに、現れた木に対し炎を放つ! 闘技場全体に木を燃やしてさらに火が舞い上がる。さらにはもう一人の白騎士、リーズが剣をかざし、竜巻を引き起こす。

「おおぉっ──!」

 炎は激しく燃え上がり舞って、メリッサたちは炎と煙に囲まれ、視界を失い、敵すら見えなく、烈風で体を支えるのも困難。その上、火のついた木の根が襲ってくる! 指揮官であるメリッサはすぐさま指示を送った。

「身の安全を確保しながら、エインヘリャルは仲間を撃たないよう弾幕を張れ、急げ! 敵の攻撃が来るぞ!」

「仲間を撃たないようにって、こんなに煙が多いんじゃあ、まともに見えねえよ!」

 アデルの泣き言に、メリッサは怒号どごうした。

「やるんだよ! やらなければやられる! それが戦争だ!」

 視界がふさがる中メリッサの声を聴いて、ブライアンの心が蠢動しゅんどうする。やらなければやられる、なのに今も僕はこうやって何もせずに仲間たちを見殺しにするのか……? 僕はどうすれば……?

「くらえっ!」

 ターバンを巻いたレドールは手のひらから無数のへびを出して、煙をかいくぐり、身動きの取れないメリッサたちを襲う! 

「くっ!」
「きゃあ⁉」
「えっ⁉」
「何です⁉」

 ユリアとダイアナ、ミーナと戸惑いのレイラの声が聞こえる。アデルはさっさと試合の舞台の端に逃げた。流石のメリッサとシェリーは蛇を斬っていったが、ほかの皆はそうはいかない。

 サポートに行こうにも襲い掛かる火のついた木の根、枝をかいくぐり、荒ぶる竜巻の中、まともに動くことができず、視界がふさがった状態では味方がどこにいるかすらわからない。

 メリッサは焦っていた。覚悟はしていたが、全体攻撃をされると連携が取れない場合、この策は崩れてしまう。予定と違って今は一つのピースが欠けている、……そうブライアンというピースが。

 煙の中、けたたましく鳴る銃声と、炎と風の音。そして女たちの叫び声。見えない狂気の世界で、ブライアンは手ぶらの状態で、ぽっかりと空いた心に少しずつだが火をともし始める。

 今、僕が戦わなければ、みんなが死んでしまう。僕だけがのうのうと生きて、その後どうするつもりだ? 死んでいった仲間たちを心の中で思い浮かべながら、後悔する日々はもうごめんだろ?

 ならどうする。僕には力がない。いや、でも力がなくても能力があるはずだ。そう、氷の壁を作る能力が。この能力を使えば少なくとも舞い上がる炎を食い止めることができるはず。でもそれが僕にできるのか?

 命をけて戦うことが僕にできるのか……?

 違う! やらなきゃダメなんだ。命を投げ捨てる覚悟で戦わなければ、僕たちに未来はない、今、危機にさらされているのは赤の他人じゃない。同じ食事をして、同じ生活をして、未来を語り合った仲間じゃないか。

 僕が立たなくて、たたかわなくて、どうするんだ。それじゃあ僕たちに未来はないんだ! 走れ、僕の体。魂を燃やすんだ! 僕はブライアンだけど、ブライアンなんだ。みんなの守りの壁なんだ、みんなは僕が守る!!

「うおおおおっ──っ!!」

 臆病な自分を弾き飛ばすように闘技場にブライアンの声が充満する。そして風圧の中メリッサたちの横を駆け抜け、ブライアンはチームの前に立ち、手を地面に当てて、これまでとは違い、試合会場を包み込むように巨大な氷の壁を作り出す!

「ブライアン!」

 チームみんなの視線が一人の男の元に集まる。氷で会場の気温が冷やされ、視界が徐々に晴れていく、ぼんやりと表れた人影、そこには決意を固めた戦士が存在した。

「みなさん! 炎は僕が何とかします! その間、敵を攻撃してください!」

 その言葉にこたえるように、メリッサや皆は笑みを浮かべた。
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