17 / 24
十七
しおりを挟む
フンペの銛漁は、オペが開祖だ。
その島国、特にその北東部の沿岸の村々において、それまで誰が、フンペをこの手で獲ってやろう、と夢想した者があっただろうか。
自然条件も、確かに恵まれてはいた。
オペが拠点とする小湾の沖合は、フンペの通り道だ。
そのため、もとより「寄り鯨」も多かったのだ。
海の魚を獲るだけなら、他にも好条件の漁場はたくさんあった。
特にオペの漁場の北には、「噴火湾」があった。
ヌーシィ(ニシン)の好漁場だ。
一方、オペの集落付近は、ヌーシィのような海の回遊魚が獲れないため、どちらかというと川漁が盛んだったのだ。
そのかわり、フンペの通り道に近かった。
それを発見したのが、少年時代のオペだ。
小湾を遊び場としていたオペ。
その上に立つ、ホオノキにオペは登って遠くの海を眺めたものだ。
丸木舟に関して言うと、その時代、すでに丸木舟による広範囲な移動を人々は行っていたということが、出土品などから分かっている。
フンペの通り道、丸木舟、銛。
神がオペに告げたに違いなかった。
夢の中で。
フンペ漁に、試練があるとすれば、待たなければならないことだろう。
まず、フンペの出現を待つのだ。
通り道といっても、年中通るわけではない。
しかも、通り道は一本だけではない。
それは決まりがあるようでない、不確かなものだった。
そして、一番銛を打ったあと、フンペが海に潜り、なかなか上がって来ない、のを待つのだ。
ヤキフンペ(マッコウクジラ)などは、二度と浮かび上がらないことなどザラなのだ。
フンペの銛漁は、忍耐の漁なのだ。
オペの技法の継承者イソンは、ただ待つだけのフンペ漁に、記録という理知を加えた。
しかし、それは記憶の助けになるだけで、明確な解決策には、程遠かった。
男たちに道具の使い方を説明するうちに、出現の場所は実にまちまちだということをイソンは改めて知ることとなった。
傾向があるとすれば、右の岬の方から現れることが少し多い、というくらいだった。
あとはその時次第。
それは、予め舟を出して、その地点付近で待ち伏せる、という方法が取れないということを意味する。
イソンは、二艘丸木舟を出すことができれば、それも可能だと思っていた。
だから、仲間を欲したのだ。
ある意味、それはイソンの結論だった。
一艘より二艘。
逆にそれは、オペが当初一人でフンペの銛漁に挑んだことが、極めて神業的である、ということを物語っている。
人智を超えていたのだ。
イソンが男たちと考えだした漁法はこうだ。
物見の木からフンペを発見したら、追いかけられる距離かどうかを判断して、舟を出す。
基本的には、フンペを挟みこむように舟の方向を決める。
しかし、それはあくまでも基本。
あとは、状況を判断して対応するしかないのだ。
物見の木には、イソンが立つ。
男たちは、湾で銛の訓練をしたり、貝を獲ったり。
ひたすら待つ日が続いた。
もちろん、フンペが全く現れないわけではなかった。
ただ、イソンが、出漁するまでもない、と判断しただけだった。
しかし、その日はついに来た。
その朝は、素晴らしい海だっだ。
雨雲の切れ間から上がってきた太陽が、雲を赤く照らしていた。
海が、夜の重さをまだ宿しており、黒い油のように濃密な状態で横たわっていた。
イソンは祈るように、海の命が目覚めるのを待っていた。
ほとんど無風。
イソンは、まずは湾に降りて行って、麻衣を脱ぐと海に飛び込んだ。
体が海と馴染むまでひとしきり泳ぐ。
海水は、だいぶ温かくなった。
イソンは、確かめるように、最後に深く潜ってから水面に顔を出した。
「つぅふぁっ」
岸に上がって、手で体の水を切り、麻衣を着ると、イソンは湾を駆け上がり、一気に物見の木に登った。
朝陽が完全に水平線から顔を出した。
イソンは南の海上に目を送って行き、そこから北へと目線を移していく。
真東のそれほど遠くない沖に、鳥山が一つあった。
悪くない兆候だと、イソンは思った。
男たちがやってきた。
イソンは彼らに、舟の準備をするように指示して、自分は物見台での監視を続けた。
潮はやや速め。
山からの風が少し。
雲は少ない。
一時ほど経った。
フンペを発見した。
二、三頭の群れか。
南東方向。
少し距離がある。
進路は、北北西方向と思われる。
岸に近づく気配は無かった。
泳ぐ速さから推察するに、シノコルフンペ(イワシクジラ)だろう。
シノコルは速い。
追いかけても無駄だろう。
イソンは目を離し、他のフンペを探し始めた。
こういう日は、続けてフンペが現れる可能性が高かった。
それから、四半時も経っていなかっただろう。
別のフンペを発見した。
真東。
しかし、進路に対して左右への動きが少ない。
あるいは岸側に近づいているのか。
単独に見える。
ヤキ(マッコウクジラ)のオスか。
それなら、ほぼ漁は成功しない。
オペが避けてきたように、ヤキは難しい。
銛を放っても、潜られたら、再び浮かび上がるのを目にすることすら難しいのだ。
それに、相当長い時間、潜水する。
一時以上など普通だった。
それでも、瞬間的にイソンは舟を出すことを決めた。
勘か、虫の知らせか。
それとも、フンペからの声か。
「ほう」
湾内に声が届くように、イソンが声を上げ、物見の木から降り始めた。
イソンが湾に到着したころには、準備万端だった。
イソンは、手で合図して、イヨと一緒に舟に乗り込み、急いで舟を出した。
イソンは前側に乗り、進路を指示する。
もう一艘は、タシが前に乗り、ポンが後ろだ。
まずは、真東に進路を取り、全力で舟を漕いだ。
タシの舟は遅れを取りながらも、必至でイソンの舟を追いかける。
イソンは舟を漕ぎながら、二艘で挑めば、ヤキでも仕留めることができるだろうか、と作戦を思い巡らしていた。
銛は、全部で四本使える。
最初に、二本連続で放つことは可能だろうか。
銛縄が繋がれているのは一番銛のみ。
長さ十間。
その端には、竹四本の筏型の浮きが繋がれている。
この浮きが、今日のヤキに通用するかどうかは未知数だ。
まったく歯がたたないかもしれない。
それもヤキの大きさに寄る。
イソンは、そんなことを考えながら、櫂を漕ぐ。
そろそろ、フンペを見つけた付近まで漕いできたと、イソンは判断した。
漕ぎ手を停める。
「ホウ、ホ」
イヨも倣った。
間のなくタシの舟がイソンの舟の横までやってきて、停まった。
息を潜める。
すぐに、斜め左前方、二十間ほどを泳ぐ二頭を発見した。
イソンは、タシに真っ直ぐ追いかけるように手で合図した。
自分は左から回り込むとも。
タシの舟を先に行かせてから、イソンは左に旋回して、全力で舟を漕いだ。
イヨも必死だ。
イソンはフンペとの間合いを気にしながら、舟の方向を合わせて漕ぐ。
「ツッホホホウ」
フンペが吐く噴気音が近づいた。
イソンは噴気を見た。
ヤキだ。
間違いなかった。
斜め前方に吹き出す噴気。
ヤキフンペの特徴だ。
タシの舟の位置をイソンは確かめた。
遅れは取っていない。
イソンは、漕ぐ速さを更に上げた。
気がつけば、二頭は並行に泳いでいて、その間は五間ほどに広がった。
必然的に、イソンは舟に近い方を狙うようだ。
言わずとも、タシにはそれは伝わっていた。
最早、イソンの舟はヤキを追い越して、三間ほど先を行っている。
イソンは急に櫂を右に上げた。
ヤキの進路にさらに接近するという合図だ。
イソンは、一番銛を取って、船首に立った。
イソンの舟に気づいたヤキは、進路を少し右寄りに変えた。
タシが銛を持ち船首に立っているのが、イソンの視界に入った。
イソンは、瞬時に判断した。
銛を下ろして、タシに手で合図を送る。
お前が打て。
「タシ、タシ」
銛をフンペに打つのは初めてのタシだ。
しかも、相手は体長が五間もあろうかというヤキだ。
しかし、タシは迷わなかった。
タシは、舟に斜め前方に跳ねた。
そして、体が落下すると当時に銛を打ち込んだ。
しかし、少し間合いは遠かった。
銛は、ヤキの腹側をかすって、海水を切っただけだった。
タシは、銛を離し、それから離れるように泳いだ。
そうするようにイソンから何度も教わっていた。
銛を放ったら、それから離れろ、と。
銛縄に絡まって、フンペもろとも海に引き込まれる。
そうして死んだ者があった。
だから、素早く離れる。
立泳ぎをしながら、タシは自分の銛が当たらなかったことを確認していた。
イソンは、既に準備ができていた。
タシの舟とは反対側から、ヤキの左側面から、銛を打ち込んだ。
頭から海に飛び込むように。
銛は、左背から腹の方向かってフンペに刺さった。
イソンの手に確かな手応えがあった。
ヤキから離れるように泳ぎ、すぐに舟に戻る。
縄が出て行く。
浮きが着水する音がした。
舟に戻ったイソンは、休む間もなく漕ぎ始め、浮きを追いかける。
ようやく舟に上がったタシもイソンの舟を追いかけて漕ぎ始めた。
程なくして、浮きは消えた。
ヤキが潜ったのだ。
イソンは一旦漕ぐのを止めた。
他の三人もそれに倣った。
潮は北東に流れている。
海中は分からないが、海面はそうだ。
銛を放った時は、ヤキはほぼ真東に向いていたはずだ。
潮に乗って逃げるに違いない。イソンはそう判断したのだ。
イソンも、潮流に任せて舟を進める。
タシも後に続いた。
四半時ほど漕いだだろうか。
イソンは櫂を止めた。
これ以上は無駄だと判断した。
ヤキは完全に消えてしまった。
その島国、特にその北東部の沿岸の村々において、それまで誰が、フンペをこの手で獲ってやろう、と夢想した者があっただろうか。
自然条件も、確かに恵まれてはいた。
オペが拠点とする小湾の沖合は、フンペの通り道だ。
そのため、もとより「寄り鯨」も多かったのだ。
海の魚を獲るだけなら、他にも好条件の漁場はたくさんあった。
特にオペの漁場の北には、「噴火湾」があった。
ヌーシィ(ニシン)の好漁場だ。
一方、オペの集落付近は、ヌーシィのような海の回遊魚が獲れないため、どちらかというと川漁が盛んだったのだ。
そのかわり、フンペの通り道に近かった。
それを発見したのが、少年時代のオペだ。
小湾を遊び場としていたオペ。
その上に立つ、ホオノキにオペは登って遠くの海を眺めたものだ。
丸木舟に関して言うと、その時代、すでに丸木舟による広範囲な移動を人々は行っていたということが、出土品などから分かっている。
フンペの通り道、丸木舟、銛。
神がオペに告げたに違いなかった。
夢の中で。
フンペ漁に、試練があるとすれば、待たなければならないことだろう。
まず、フンペの出現を待つのだ。
通り道といっても、年中通るわけではない。
しかも、通り道は一本だけではない。
それは決まりがあるようでない、不確かなものだった。
そして、一番銛を打ったあと、フンペが海に潜り、なかなか上がって来ない、のを待つのだ。
ヤキフンペ(マッコウクジラ)などは、二度と浮かび上がらないことなどザラなのだ。
フンペの銛漁は、忍耐の漁なのだ。
オペの技法の継承者イソンは、ただ待つだけのフンペ漁に、記録という理知を加えた。
しかし、それは記憶の助けになるだけで、明確な解決策には、程遠かった。
男たちに道具の使い方を説明するうちに、出現の場所は実にまちまちだということをイソンは改めて知ることとなった。
傾向があるとすれば、右の岬の方から現れることが少し多い、というくらいだった。
あとはその時次第。
それは、予め舟を出して、その地点付近で待ち伏せる、という方法が取れないということを意味する。
イソンは、二艘丸木舟を出すことができれば、それも可能だと思っていた。
だから、仲間を欲したのだ。
ある意味、それはイソンの結論だった。
一艘より二艘。
逆にそれは、オペが当初一人でフンペの銛漁に挑んだことが、極めて神業的である、ということを物語っている。
人智を超えていたのだ。
イソンが男たちと考えだした漁法はこうだ。
物見の木からフンペを発見したら、追いかけられる距離かどうかを判断して、舟を出す。
基本的には、フンペを挟みこむように舟の方向を決める。
しかし、それはあくまでも基本。
あとは、状況を判断して対応するしかないのだ。
物見の木には、イソンが立つ。
男たちは、湾で銛の訓練をしたり、貝を獲ったり。
ひたすら待つ日が続いた。
もちろん、フンペが全く現れないわけではなかった。
ただ、イソンが、出漁するまでもない、と判断しただけだった。
しかし、その日はついに来た。
その朝は、素晴らしい海だっだ。
雨雲の切れ間から上がってきた太陽が、雲を赤く照らしていた。
海が、夜の重さをまだ宿しており、黒い油のように濃密な状態で横たわっていた。
イソンは祈るように、海の命が目覚めるのを待っていた。
ほとんど無風。
イソンは、まずは湾に降りて行って、麻衣を脱ぐと海に飛び込んだ。
体が海と馴染むまでひとしきり泳ぐ。
海水は、だいぶ温かくなった。
イソンは、確かめるように、最後に深く潜ってから水面に顔を出した。
「つぅふぁっ」
岸に上がって、手で体の水を切り、麻衣を着ると、イソンは湾を駆け上がり、一気に物見の木に登った。
朝陽が完全に水平線から顔を出した。
イソンは南の海上に目を送って行き、そこから北へと目線を移していく。
真東のそれほど遠くない沖に、鳥山が一つあった。
悪くない兆候だと、イソンは思った。
男たちがやってきた。
イソンは彼らに、舟の準備をするように指示して、自分は物見台での監視を続けた。
潮はやや速め。
山からの風が少し。
雲は少ない。
一時ほど経った。
フンペを発見した。
二、三頭の群れか。
南東方向。
少し距離がある。
進路は、北北西方向と思われる。
岸に近づく気配は無かった。
泳ぐ速さから推察するに、シノコルフンペ(イワシクジラ)だろう。
シノコルは速い。
追いかけても無駄だろう。
イソンは目を離し、他のフンペを探し始めた。
こういう日は、続けてフンペが現れる可能性が高かった。
それから、四半時も経っていなかっただろう。
別のフンペを発見した。
真東。
しかし、進路に対して左右への動きが少ない。
あるいは岸側に近づいているのか。
単独に見える。
ヤキ(マッコウクジラ)のオスか。
それなら、ほぼ漁は成功しない。
オペが避けてきたように、ヤキは難しい。
銛を放っても、潜られたら、再び浮かび上がるのを目にすることすら難しいのだ。
それに、相当長い時間、潜水する。
一時以上など普通だった。
それでも、瞬間的にイソンは舟を出すことを決めた。
勘か、虫の知らせか。
それとも、フンペからの声か。
「ほう」
湾内に声が届くように、イソンが声を上げ、物見の木から降り始めた。
イソンが湾に到着したころには、準備万端だった。
イソンは、手で合図して、イヨと一緒に舟に乗り込み、急いで舟を出した。
イソンは前側に乗り、進路を指示する。
もう一艘は、タシが前に乗り、ポンが後ろだ。
まずは、真東に進路を取り、全力で舟を漕いだ。
タシの舟は遅れを取りながらも、必至でイソンの舟を追いかける。
イソンは舟を漕ぎながら、二艘で挑めば、ヤキでも仕留めることができるだろうか、と作戦を思い巡らしていた。
銛は、全部で四本使える。
最初に、二本連続で放つことは可能だろうか。
銛縄が繋がれているのは一番銛のみ。
長さ十間。
その端には、竹四本の筏型の浮きが繋がれている。
この浮きが、今日のヤキに通用するかどうかは未知数だ。
まったく歯がたたないかもしれない。
それもヤキの大きさに寄る。
イソンは、そんなことを考えながら、櫂を漕ぐ。
そろそろ、フンペを見つけた付近まで漕いできたと、イソンは判断した。
漕ぎ手を停める。
「ホウ、ホ」
イヨも倣った。
間のなくタシの舟がイソンの舟の横までやってきて、停まった。
息を潜める。
すぐに、斜め左前方、二十間ほどを泳ぐ二頭を発見した。
イソンは、タシに真っ直ぐ追いかけるように手で合図した。
自分は左から回り込むとも。
タシの舟を先に行かせてから、イソンは左に旋回して、全力で舟を漕いだ。
イヨも必死だ。
イソンはフンペとの間合いを気にしながら、舟の方向を合わせて漕ぐ。
「ツッホホホウ」
フンペが吐く噴気音が近づいた。
イソンは噴気を見た。
ヤキだ。
間違いなかった。
斜め前方に吹き出す噴気。
ヤキフンペの特徴だ。
タシの舟の位置をイソンは確かめた。
遅れは取っていない。
イソンは、漕ぐ速さを更に上げた。
気がつけば、二頭は並行に泳いでいて、その間は五間ほどに広がった。
必然的に、イソンは舟に近い方を狙うようだ。
言わずとも、タシにはそれは伝わっていた。
最早、イソンの舟はヤキを追い越して、三間ほど先を行っている。
イソンは急に櫂を右に上げた。
ヤキの進路にさらに接近するという合図だ。
イソンは、一番銛を取って、船首に立った。
イソンの舟に気づいたヤキは、進路を少し右寄りに変えた。
タシが銛を持ち船首に立っているのが、イソンの視界に入った。
イソンは、瞬時に判断した。
銛を下ろして、タシに手で合図を送る。
お前が打て。
「タシ、タシ」
銛をフンペに打つのは初めてのタシだ。
しかも、相手は体長が五間もあろうかというヤキだ。
しかし、タシは迷わなかった。
タシは、舟に斜め前方に跳ねた。
そして、体が落下すると当時に銛を打ち込んだ。
しかし、少し間合いは遠かった。
銛は、ヤキの腹側をかすって、海水を切っただけだった。
タシは、銛を離し、それから離れるように泳いだ。
そうするようにイソンから何度も教わっていた。
銛を放ったら、それから離れろ、と。
銛縄に絡まって、フンペもろとも海に引き込まれる。
そうして死んだ者があった。
だから、素早く離れる。
立泳ぎをしながら、タシは自分の銛が当たらなかったことを確認していた。
イソンは、既に準備ができていた。
タシの舟とは反対側から、ヤキの左側面から、銛を打ち込んだ。
頭から海に飛び込むように。
銛は、左背から腹の方向かってフンペに刺さった。
イソンの手に確かな手応えがあった。
ヤキから離れるように泳ぎ、すぐに舟に戻る。
縄が出て行く。
浮きが着水する音がした。
舟に戻ったイソンは、休む間もなく漕ぎ始め、浮きを追いかける。
ようやく舟に上がったタシもイソンの舟を追いかけて漕ぎ始めた。
程なくして、浮きは消えた。
ヤキが潜ったのだ。
イソンは一旦漕ぐのを止めた。
他の三人もそれに倣った。
潮は北東に流れている。
海中は分からないが、海面はそうだ。
銛を放った時は、ヤキはほぼ真東に向いていたはずだ。
潮に乗って逃げるに違いない。イソンはそう判断したのだ。
イソンも、潮流に任せて舟を進める。
タシも後に続いた。
四半時ほど漕いだだろうか。
イソンは櫂を止めた。
これ以上は無駄だと判断した。
ヤキは完全に消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる