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日記は残っていた。
隆史の母親を踏み止まらせた夜、啓一は一睡もせずに、押し入れの奥に眠った当時の荷物をひっくり返していたのだ。
あの「約束」はいつだったか。
啓一はそう思いながら、ページをめくっていった。
すぐに、そのページに行き着いた。
日付欄には、七月二十六日とあった。
何年のことか、啓一にはすぐに思い出せなかった。
調べると、一九九二年だと分かった。
偶然なのか、次の七月二十六日が、二十年目の七月二十六日だということになる。
そして、七月六日が明けようとしていた。
啓一は日記を読み進めた。
一九九二年七月二十六日の夜は、隆史と啓一と洋子の三人がヴァンクーバーのグラウス山のレストランで別れの宴をした。
隆史が、帰る間際に、十年後の再会の話をし、二人ともそれを強引に約束させられた、という記述があった。
啓一は、その約束を忘れていた。
実際のところ、隆史と洋子が再会したかどうか、啓一には分からなかった。
それでも、これで、隆史がヴァンクーバーに向かったことが、確実になったような気がした。
啓一はインターネットで、ヴァンクーバーにある日本料理店の情報を探した。
隆史と啓一がヴァンクーバーに滞在していた二〇年前に働いていた日本料理店だ。
幸いにして、同じ名前の日本料理店が見つかった。
オーナーが代わっている可能性も多いにあり得たが、連絡をすればはっきりする。
明け方、店の閉店近くの時間帯を見計らって、啓一は国際電話をかけた。
あらかじめ要件を伝えるための英語のメモを用意して臨んだが、すぐに、その必要がないことが分かった。
「あ、日本からですか」「私も日本人ですから日本語でいいですよ」
幸いオーナーは変わっていなかった。
その日、オーナーの樋口が、店に出てくるかどうかは分からない、と言う。
啓一が、オーナーの電話番号を訊ねると、それは決まりでできないが、かわりに店側でオーナーに連絡を取ってみるので三〇分後に掛け直して欲しい、とのことだった。
啓一は、改めて、フルネームを名乗ると、二〇年前に隆史と世話になった啓一だ、というメッセージを伝え電話を切った。
再び啓一が掛けた電話に出たのは、樋口本人だった。
懐かしさに、いろいろ話したいことはあったが、啓一は挨拶もそこそこに本題に入った。
「隆史が、三週間くらい前から行方不明なんです」「ロスに渡ったことは警察の調べで分かったので、もしかしたら樋口さんのところに顔を出してるんじゃないかと思ったんですけど、行ってませんか」
「ゆくえ、ふめい」
樋口は、笑いをこらえるように、そう聞き返した。そして、続けた。
「あいつのことだから、また、あちこちフラフラしてるだけだろ、どうせ」
「まあ、そうだと想うんですが、今回いろいろ彼にとってショッキングなことが続いたもんで」
樋口は、啓一の深刻さに多少押されたのか、声を正して言った。
「まあ、今のところは、俺には連絡はないし、ここに来てもないよ」
「そうですか」
もし、隆史がヴァンクーバーに行くとすれば、樋口の店に顔を出す可能性が高かった。
そして、今回、隆史は遅かれ早かれヴァンクーバーに行くはずだった。
「樋口さん、お願いがあるんですけど」
啓一は、そう前置きをすると、隆史から連絡があった場合に、電話が欲しいことと、近々、自分もヴァンクーバーに行くから、何かと協力をお願いするだろうことを伝えた。
「そんなことぐらいで、わざわざお前がここまで来るか」「子どもじゃねえんだから」
樋口は、笑いながら言った。
「まあ、僕も久々にヴァンクーバーに行きたいと思ってるし、ちょうどいいタイミングかと思って」
啓一は言い訳めいたことを言い、面倒を詫び、受話器を置いた。
よく考えないで、ヴァンクーバー行きが決まってしまった。
啓一はベッドに入ったが、それからの段取りを考えているうちに完全に朝になってしまった。
思い立って、啓一は隆史の母親に電話を掛けた。
隆史の母親を踏み止まらせた夜、啓一は一睡もせずに、押し入れの奥に眠った当時の荷物をひっくり返していたのだ。
あの「約束」はいつだったか。
啓一はそう思いながら、ページをめくっていった。
すぐに、そのページに行き着いた。
日付欄には、七月二十六日とあった。
何年のことか、啓一にはすぐに思い出せなかった。
調べると、一九九二年だと分かった。
偶然なのか、次の七月二十六日が、二十年目の七月二十六日だということになる。
そして、七月六日が明けようとしていた。
啓一は日記を読み進めた。
一九九二年七月二十六日の夜は、隆史と啓一と洋子の三人がヴァンクーバーのグラウス山のレストランで別れの宴をした。
隆史が、帰る間際に、十年後の再会の話をし、二人ともそれを強引に約束させられた、という記述があった。
啓一は、その約束を忘れていた。
実際のところ、隆史と洋子が再会したかどうか、啓一には分からなかった。
それでも、これで、隆史がヴァンクーバーに向かったことが、確実になったような気がした。
啓一はインターネットで、ヴァンクーバーにある日本料理店の情報を探した。
隆史と啓一がヴァンクーバーに滞在していた二〇年前に働いていた日本料理店だ。
幸いにして、同じ名前の日本料理店が見つかった。
オーナーが代わっている可能性も多いにあり得たが、連絡をすればはっきりする。
明け方、店の閉店近くの時間帯を見計らって、啓一は国際電話をかけた。
あらかじめ要件を伝えるための英語のメモを用意して臨んだが、すぐに、その必要がないことが分かった。
「あ、日本からですか」「私も日本人ですから日本語でいいですよ」
幸いオーナーは変わっていなかった。
その日、オーナーの樋口が、店に出てくるかどうかは分からない、と言う。
啓一が、オーナーの電話番号を訊ねると、それは決まりでできないが、かわりに店側でオーナーに連絡を取ってみるので三〇分後に掛け直して欲しい、とのことだった。
啓一は、改めて、フルネームを名乗ると、二〇年前に隆史と世話になった啓一だ、というメッセージを伝え電話を切った。
再び啓一が掛けた電話に出たのは、樋口本人だった。
懐かしさに、いろいろ話したいことはあったが、啓一は挨拶もそこそこに本題に入った。
「隆史が、三週間くらい前から行方不明なんです」「ロスに渡ったことは警察の調べで分かったので、もしかしたら樋口さんのところに顔を出してるんじゃないかと思ったんですけど、行ってませんか」
「ゆくえ、ふめい」
樋口は、笑いをこらえるように、そう聞き返した。そして、続けた。
「あいつのことだから、また、あちこちフラフラしてるだけだろ、どうせ」
「まあ、そうだと想うんですが、今回いろいろ彼にとってショッキングなことが続いたもんで」
樋口は、啓一の深刻さに多少押されたのか、声を正して言った。
「まあ、今のところは、俺には連絡はないし、ここに来てもないよ」
「そうですか」
もし、隆史がヴァンクーバーに行くとすれば、樋口の店に顔を出す可能性が高かった。
そして、今回、隆史は遅かれ早かれヴァンクーバーに行くはずだった。
「樋口さん、お願いがあるんですけど」
啓一は、そう前置きをすると、隆史から連絡があった場合に、電話が欲しいことと、近々、自分もヴァンクーバーに行くから、何かと協力をお願いするだろうことを伝えた。
「そんなことぐらいで、わざわざお前がここまで来るか」「子どもじゃねえんだから」
樋口は、笑いながら言った。
「まあ、僕も久々にヴァンクーバーに行きたいと思ってるし、ちょうどいいタイミングかと思って」
啓一は言い訳めいたことを言い、面倒を詫び、受話器を置いた。
よく考えないで、ヴァンクーバー行きが決まってしまった。
啓一はベッドに入ったが、それからの段取りを考えているうちに完全に朝になってしまった。
思い立って、啓一は隆史の母親に電話を掛けた。
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