月の女神

鏡子 (きょうこ)

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第二章 フェルメール作品「眠る女」は、本当に眠っているか?※他の小説と重複

揺るがない曖昧な意識のなかで

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ダンナの病状は、処方された解熱剤を飲み、ホテルにて休息 をとることで、次の日には体調も全快で旅行日程をこなせるくらいに元気になった。 

今、私は振り返って、こう痛感している。

私は 、メトロポリタンミュージアムで、フェルメールの『眠る女』ただ一作品を観なければならなかった。 


外の作品に心に奪われる前に観るのをやめなければならなかった。

『眠る女』を心に留まらせる為に…


ガイドさんに次々と案内されて 
『眠る女』に辿り着いた時に
私の、神様に導かれた魂の役目が終わる。 

何故メトロポリタンミュージアムに行かなければいけなかったのか? 
本当の意味があり、 いつかは想い出さなければならない 真実がある。 

揺るがない曖昧な意識のなかで
気付きを得るには 
フェルメールという画家の作品が 
私の中で 
《数多い有名な芸術家の有名な作品の一つ》
であってはならなかった。 
私にとって 
《オンリーワン》の印象を残さなければならなかった。 
その為に…ダンナが熱を出す…ということが仕組まれたのかもしれない。 

その頃の私は
まだ何も気付いてはいなかった。 
まだ何も想い出してはいなかった。 

フェルメールと自分との関連性など、意識せず
最も、心を奪われた
画家として 
君臨していただけ。 
憧れの画家として 
存在していただけ。 

300年の時空を超えて、私が背負っていた《痛み》を、私は 
まだ知ることはなかった。

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