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徒然なるままに
藤本 貴之 教授 ありがとう!!
しおりを挟むいゃ~ 。こんなご意見を待ってたんです。
あいみょん「マリーゴールド」が「メダロット2」のパクリでない理由
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
***
シンガーソングライター・あいみょんの曲「マリーゴールド」が任天堂ゲームボーイ用ソフト「メダロット2」のBGMに似ている、パクリである、と話題になっている。
パクリに絡んだ騒動は少なくない。何かあればすぐに「似ている、パクリである」という指摘が起きる。もちろん、明らかに盗作・盗用と思われるものや、違法ではなくても同義的・倫理的にアウトなものもある。
一方で、「こじつけ」や言いがかり、「どこからそんな素材を見つけてきたの?」と感心させられてしまうようなマニアックな情報源を持ちだして似ている箇所を抽出し、「ほら、似ている。パクリだ!」と騒ぎ立てるようなネット自警団たちの「地道な活動」も多い。
いうまでもなく、音楽に限らず、デザインでもアイデアでも、ネット検索を駆使すれば、偶然の一致を見つけ出すことなど容易だ。何がパクリで、何がパクリではないのか? この線引きが非常に微妙である場合も多い。著作権法で考えるべきか、倫理的・同義的な観点から考えるべきか。あるいはコンテンツのあり方から考えるべきか等々、パクリの扱いは極めて複雑だ。
違法でもないのに糾弾される場合もあれば、明らかに盗用や過度の参考(あるいは不正なインスパイア?)であって面白がられるだけで、何ら問題にならないことがある。
筆者の新刊『パクリの技法』(https://amzn.to/2TwuIFv )でパクリに関する色々な事例を紹介しているので、詳細はぜひご一読いただきたいが、パクリ研究を専門とする筆者が感じる限り、「楽曲と作者の状況から考えて『マリーゴールド』が『メダロット2』のパクリとは思えない」というのが率直な感想だ。逆に、これが「いわゆるパクリ」であるとすれば、世の中の音楽はパクリだらけになってしまう。
実際にYoutubeにアップロードされている比較動画を聞いてみても「似ていない」。強いて言うなら、テンポ感と抑揚にどことなく共通点はあるのかもしれないが、これは80年代後半から90年代のJ-POPに見られる「よくあるテンポ感と抑揚」であり、程度の差こそあれ、似ている楽曲は無数にある。では、楽典レベルで見てみればどうか・・・と思う人もいるかもしれないが、音階も音色も違う。そもそも20年前のゲームである「メダロット2」のBGMは音数が少ない上に音が悪いので、比較自体が難しい。
ネットニュースの中には「音楽業界関係者」と称する人のコメントとして「メダロット2のBGMにあいみょんの歌詞を当てれば曲が完成するレベル」とまで書いてあるものもあったので、個人的に重ねてみたが、そのままではまったく合わなかった。
もちろん、比較動画を作る際に、意図的に「テンポを合わせる」といった加工を施せば、当然重なりあうだろう。しかし、リズムとテンポが一致していれば、たいがいの曲は重なり合って当然だ。DJがテンポとリズムを合わすことで、異なる曲を1つの音楽としてつないだり、違和感なく重ねることと同じだ。
そしてまず何より理解しておきたいのが、「メダロット2」が1999年に発売された任天堂ゲームボーイ用のソフトである、ということだ。
今から20年も前のゲームボーイのソフトである。4.2cm×4.6cmという、マッチ箱程度の小さなディスプレイに、粗末なスピーカーらしき音出し用の穴がついていた、というスペックだ。画面も音も、そのクオリティは現在のゲームからは程遠い。荒いドットのキャラクターと「ピコピコ音」を楽しむといったツールだった。
1995年生まれのあいみょんは、「メダロット2」の発売当時は4歳。もちろん、「メダロット2」は一部の人気ゲームシリーズとは異なり、その後も長く広く遊ばれた・・・というわけではない。販売本数は「メダロット2 カブトバージョン/クワガタバージョン」が1999年で40万2000本(34位)。ゲームソフトとしては後世には残りづらい、実に微妙なランキングだ。
「メダロット2」が、仮に3年ぐらい一般的に流通し、それなりの規模で継続的に楽しまれたとしても、あいみょんはまだ7歳。2000年代以降にもなれば、時代的には徐々にゲームボーイが社会的使命を終えつつあった時期とも重なるので、彼女が現役で愛用していたとはなかなか考えづらい。
そういう意味では、時代的に見てもあいみょんが「メダロット2」に接点を持つチャンスはほとんどない、と考えた方が自然だ。仮に「マリーゴールド」が「メダロット2」からインスパイアを受けたものであったとしても、「親がマニアでだった」というような特殊な事情や、本人が重度のアンティーク・ゲーム機のコレクターである、といった条件が必要だろう。
必要な条件はそれだけではない。20年前のゲームボーイソフトを愛好しているだけでなく、ゲームボーイの小さなスピーカーから出てくる「ピコピコ音」を聞き取り、そこから音源をパクって自分の音楽に生かす・・・といった相当テクニカルなことをしなければ、「パクリ」には至れない。
もちろん、その可能性は0ではないのかもしれないが、常識的に考えて、その可能性は「限りなく0に近い」ように思う。
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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