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1話 本日、ボク、何もしてません
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何もしない時間 売ります
用事がなければ通らないような入り組んだ路地の先にあったテナントには
そう張り紙がされているコルクボードが釣り下がっているだけだった
書かれている意味がよくわからずにハテ?と小首をかしげる
その質素な看板になぜか目を奪われていると
キィと小さな音がして扉が開く
「なにか御用ですか?」
しまった話しかけられてしまった
ドアを開けて出てきたのは、無地のTシャツにジーパンといったラフな格好をした男だった
用事があるわけではないのだが、話しかけられると弱ってしまう
僕はとても押しによわいのだ、昔からそのことは自覚している
「あ」とか「う」とか言葉にならない声を漏らしていると出てきた店員は
じっと僕のほうを見つめた後
御用がないようならばそれでは、と扉を閉めようとする
ちょっとまってくれ、こういう時はふつうもう少し会話をしたり勧誘をするものではないのか?
予想とは違った男の行動にとっさに口を開いてしまう
何故か、本当に何故か。
「何もしない時間、売ってください」
もし今の行動がこの一言を言わせるための
計算づくの行動だったとしたらこの男なかなかの商売上手だなと思いつつ
何もしない時間なんてものは売れるものなのか?と考えていた
男は特に驚くでも喜ぶでもなく淡々と表情を変えることなく言葉を吐く
「それではどうぞ中に」
今更だがこのお店、怪しいお店ではなかろうな。
いや怪しいことには十分に怪しいのだが、如何わしいとか危ないお店ではないこと祈りながら僕はお店の中へ入っていった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夏の終わりの頃だった。まだ蒸し暑い日が多い中、数日に一度訪れる寒い日や
一足早く一部だけ赤くなってきている山の姿にもうすぐ秋かと感じ始めるころ
この物語の主人公になるであろう男の心は冬を迎えていた
男の名前はまぁこの場合あまり大切な事ではない
大切なのはこの男、つまりは自分の事なのだが
僕の勤めていた会社が倒産し、頼りの親はセミリタイアで海外暮らし
他に頼れる親族も特になし、しばらくは貯金を切り崩して生きていくにしても
このご時世では僕の貯金は次の仕事を見つけるまで持つのか心もとない額である
そもそも今の会社に入るのだって100に届かないぐらいの会社を受けてようやく決まったのである
特に専門技術を持たない、コミニケーション能力も心もとない
なぜ学生時代にもっと勉強や友人との青春に力を入れていなかったのかと頭を抱える
そもそも、僕が入れるような会社だった時点で少し身の振り方を考えておくべきだったのかもしれないが
少し前にも述べたとおりの理由から僕に他に選択肢があったとも思えなかった
仕事はなくとも腹は減るもので、仕方なしに買出しに行く途中
普段は通らない脇道が目に入った、住宅街のなかにひっそりとまぎれた小さな教会の横の車が一台通れるかという道
今まで通ったことはなかったが、向かっているスーパーの方へと延びている
なんとなく僕はそちらにむかって進んでみることにした、いつもと違うことがしてみたかったのかもしれないし、もしくは小学生時代を思い出したかったのかもしれない
いずれにせよ小さな小さな現実逃避がしたかった
今の自分には不本意ながら時間があるのだ
もし迷ったとしても道を引き返せばいいし
いつか知っている道に出れると信じてそのまま進み続けてもいい
僕は選択する時間はあるのだから
いつもならば先ほどの道から10分も起たずにつくはずのスーパーへの道のりを30分かけて歩いてもいまだにスーパーは見えず、戻りの道もわからなくなってきたころ
流石にほんの少しだけ後悔し始めたころに
冒頭に話はもどる
薄汚れたコルクボードそして同じく薄汚れた張り紙
「何もしない時間 売ります?」
用事がなければ通らないような入り組んだ路地の先にあったテナントには
そう張り紙がされているコルクボードが釣り下がっているだけだった
書かれている意味がよくわからずにハテ?と小首をかしげる
その質素な看板になぜか目を奪われていると
キィと小さな音がして扉が開く
「なにか御用ですか?」
しまった話しかけられてしまった
ドアを開けて出てきたのは、無地のTシャツにジーパンといったラフな格好をした男だった
用事があるわけではないのだが、話しかけられると弱ってしまう
僕はとても押しによわいのだ、昔からそのことは自覚している
「あ」とか「う」とか言葉にならない声を漏らしていると出てきた店員は
じっと僕のほうを見つめた後
御用がないようならばそれでは、と扉を閉めようとする
ちょっとまってくれ、こういう時はふつうもう少し会話をしたり勧誘をするものではないのか?
予想とは違った男の行動にとっさに口を開いてしまう
何故か、本当に何故か。
「何もしない時間、売ってください」
もし今の行動がこの一言を言わせるための
計算づくの行動だったとしたらこの男なかなかの商売上手だなと思いつつ
何もしない時間なんてものは売れるものなのか?と考えていた
男は特に驚くでも喜ぶでもなく淡々と表情を変えることなく言葉を吐く
「それではどうぞ中に」
今更だがこのお店、怪しいお店ではなかろうな。
いや怪しいことには十分に怪しいのだが、如何わしいとか危ないお店ではないこと祈りながら僕はお店の中へ入っていった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夏の終わりの頃だった。まだ蒸し暑い日が多い中、数日に一度訪れる寒い日や
一足早く一部だけ赤くなってきている山の姿にもうすぐ秋かと感じ始めるころ
この物語の主人公になるであろう男の心は冬を迎えていた
男の名前はまぁこの場合あまり大切な事ではない
大切なのはこの男、つまりは自分の事なのだが
僕の勤めていた会社が倒産し、頼りの親はセミリタイアで海外暮らし
他に頼れる親族も特になし、しばらくは貯金を切り崩して生きていくにしても
このご時世では僕の貯金は次の仕事を見つけるまで持つのか心もとない額である
そもそも今の会社に入るのだって100に届かないぐらいの会社を受けてようやく決まったのである
特に専門技術を持たない、コミニケーション能力も心もとない
なぜ学生時代にもっと勉強や友人との青春に力を入れていなかったのかと頭を抱える
そもそも、僕が入れるような会社だった時点で少し身の振り方を考えておくべきだったのかもしれないが
少し前にも述べたとおりの理由から僕に他に選択肢があったとも思えなかった
仕事はなくとも腹は減るもので、仕方なしに買出しに行く途中
普段は通らない脇道が目に入った、住宅街のなかにひっそりとまぎれた小さな教会の横の車が一台通れるかという道
今まで通ったことはなかったが、向かっているスーパーの方へと延びている
なんとなく僕はそちらにむかって進んでみることにした、いつもと違うことがしてみたかったのかもしれないし、もしくは小学生時代を思い出したかったのかもしれない
いずれにせよ小さな小さな現実逃避がしたかった
今の自分には不本意ながら時間があるのだ
もし迷ったとしても道を引き返せばいいし
いつか知っている道に出れると信じてそのまま進み続けてもいい
僕は選択する時間はあるのだから
いつもならば先ほどの道から10分も起たずにつくはずのスーパーへの道のりを30分かけて歩いてもいまだにスーパーは見えず、戻りの道もわからなくなってきたころ
流石にほんの少しだけ後悔し始めたころに
冒頭に話はもどる
薄汚れたコルクボードそして同じく薄汚れた張り紙
「何もしない時間 売ります?」
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