LARGO:ReBOOT~追放先の異常事態が、世界の根幹を揺るがす~

ターキン

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―第1章:リベルタス騒乱―

第1話:さらば王都! 有能冒険者、リベルタスに堕つ

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「判決、神聖冒涜の罪により──」

 木槌の音が、俺の胸に杭を打ち込むように響いた。

「被告人ラルゴ・アシュクラフトの金級冒険者資格を剥奪し、リベルタス南部への追放刑に処す」

 木槌の音が止んだ瞬間、世界が音を失った。
 何を言っても無駄だと、あの目が告げていた。
 
 判決はあまりにも唐突だった。
 木槌の音が消えるより早く、衛兵が俺の両腕を掴んだ。
 抗弁の暇もなく、縄で縛られ──気づけば、揺れる荷馬車の上だった。
 そうして三日後、俺はノトスにいた。
 
 そして......何度思い返しても、覚えのない犯行。
 王都ギルドの受付嬢兼修道女のセレスちゃん。
 修道院出身の彼女は、“清廉の象徴”として皆に崇められていた。
 ギルド内でも一際人気のあった彼女に気がなかったと言えば噓になるが、部屋に監禁するなんてのは以ての外だ。
 それが何故、俺の部屋に裸で転がり込んでいる?
 酒のせい? そんなもの、俺は飲まないし飲めねぇ。
 酔わずとも、狙った獲物くらい普通に口説いて連れ込むさ......俺がそんな下手を打つかよ。

 ……それに、法廷で俺を見るセレスの目。
 祈るでも、怯えるでもない──まるで、何かを期待するような人間の目だった。
 
 まったく......何から何まで疑わしいことばかりじゃねぇかよ。

 思えば、拾われてから金級の冒険者になるまでの道のりはあっという間だった。
 王都でスカウトした3人のイロモノ達と共に冒険者パーティ「ラスター」を立ち上げ、その後は破竹の勢いで昇級。
 母の仇に辿り着くのも時間の問題だと思えたところでこの仕打ち。
 本当に神がいるというのなら、この仕打ちはあんまりすぎる。
 あいつらも今頃は、リーダーを失って路頭に迷っているだろう。
 だがな、資格が剥奪されただけというならば取り返せばいいだけの話でもある。

 「神だろうが運命だろうが信じねぇ。
 ――あいつを殺すまでは、死なねぇ。」
 
 そうして飛ばされてきたのが王都南部「リベルタス」、別名、「解放の地」。
 その最南端に位置する潮騒の街「ノトス」だ。
 潮風に混じって、干物と汗の匂いがした。街の空気に、働く人間の湿り気がある。
 坂を下るたびに潮の香りが強くなり、靴底から砂のざらつきが伝わる。
 遠くでカモメが鳴き、海風が服の埃を剥がしていった。

 そんな事を考えながら、辿り着いたノトスのギルド。
 町全体を見下ろせる崖上に居を構えるこの2階建てのレンガ造りが、俺の新しい活動拠点となる。
 そうして俺は、意気揚々と両開きの門を開いた。

 腐りかけの木と潮の混ざり方が、まるで街ごと傷んでいるようだ。
 壁には、所々に剥がれた依頼書の跡が残っている。
 天井の梁からは古びたランタンがぶら下がり、室内をぼんやりと照らしていた。
 
 「ぅわ……」

 ギルドの空気が、一瞬で凍った。
 木の床が軋む音だけが、やけに大きく響く。
 一瞬の沈黙ののち──

 『──神聖冒涜者だ。』
 
 声の主を探すまでもなかった。
 目が──全てを語っていた。
 嫌悪、嘲笑、そして……好奇心。
 
 
 「言い訳より実力で黙らせた方が早い──昔からそうだった」

 俺は意気揚々とギルドの受付へと歩を進める。

「ようこそノトスギルドへ」

 そう事務的な挨拶をしてきたのは、一人の受付嬢だった。
 紫のツインテールに、黒縁の眼鏡。
 一見お堅そうだが、腕の筋肉の付き方が妙に実戦的だった。
 ……へぇ、ただの受付嬢じゃなさそうだな

「……あなた、本当に罪人ですか? 本物ならもっと卑屈な目をしてますけど」
「お、ここに来て意外な反応......脈ありか?」
「はぁ、残念。ただの目つきのいやらしい冒険者と訂正しておきましょう」

 そう言ってレイジーはやれやれと首を振った。
  
「失礼、熟練冒険者の悪い癖でな。ま......”観察癖”ってところか」
「はぁ、物は言いようですね。 それで、ここに来たということは冒険者としての登録でお間違いないでしょうか」
「......ああ」
「では書類にサインを」
 

 そう言いながら受付嬢は、慣れた手つきで引き出しから一枚の紙を出すと、俺の目の前に広げて見せた。
 
 思い返すだけでも腹が立つ。再びゼロから功績の稼ぎ直しだ。
 再び金級に返り咲くにはどれ程の時間がかかるだろうか......なんて、当初の俺はそんな簡単に物を考えていた。
 書類に羽ペンを走らせ、名前を記入する。
 そして印鑑代わりに、自身の魔力を込めた拳を紙の空いた部分に押し当てた。
 すると、じわりとギルドの紋章である大鷹が紙に浮かび上がり、晴れて冒険者としての登録は完了となる。 

 「はい、では鉄級冒険者ラルゴ・アシュクラフトさん。よろしくお願いします」

 それだけ言ってさも忙しそうにその場を後にしようとする受付嬢。

「おいおい、登録だけしに来たわけじゃねぇって。それにアンタ、名前くらい教えてくれたっていいんじゃねぇのか?これから何度も顔を合わせる仲だろう?」

 受付嬢はしばし逡巡した後、大きくため息をついた。
 そして観念したかのように、ゆっくりと口を開く。

「レイジー。 レイジー・ムルシェ、以後お見知りおきを」
「レイジーか。よろしくな! それで依頼の件だが」
「残念ですが......」

 そう言ってレイジーは呆れたように首を振る。

「ラルゴさんに割り振れる依頼はもう残っていません。なにせこの規模のギルドですので」

 彼女の視線が、ほんの一瞬だけこちらを測るように細められた。

「なん......だと......」

 依頼が残ってねぇ? 冗談だろ、どこの田舎ギルドだよ。
 上級冒険者として優先的に依頼を回してもらっていたあの頃に胡坐をかいて、まさか初心を疎かにするとは......

「ということですので、今日はもうお引き取りください」

 (ま、氷の受付嬢ってところか。ふん、面白い)
 
 すでに窓からは夕陽がさしている、周囲の冒険者からは汚物を見る視線の嵐。
 これ以上ここにいても、俺にとって何の得にもなりはしないだろう。
 
 明日、朝一番で仕切りなおそう。
 幸い、なけなしの路銀と装備だけは奪われずに済むことができた。
 例え一人でも、ここいらの銀級共より多くの依頼をこなしてやる。
 そうして帰り際、ふと目をやったギルドの掲示板に張られた、一枚の紙が目に入った。
 
『当ギルド所属・銀級パーティ行方不明。  
 捜索者求ム。  
 報酬:50万ガルド』

 掲示板の紙を見つめながら、俺は呟く。
 
ママ──俺はまだ、終わっちゃいねぇ。全部、ここから取り返してやる。」



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